第58回
中部電力浜岡原発のデータ不正問題から企業が学ぶべき課題
株式会社TMR 執筆
1. 不正発覚の経緯
2. 中部電力の原発事業の背景
3. 中部電力の風土とこれまでの不祥事
4. 不正防止対策
中部電力の浜岡原発3・4号機の再稼働審査において、極めて深刻は不正が発覚しました。原子力規制委員会は、最も重要とされる地震の揺れを想定する「基準地震動(想定される最大の揺れ)」の算出に際し、本来は複数のモデルから適切なものを選ぶべきところを、「揺れが小さくなる(都合の良い)データ」を意図的に抽出していたと指摘。客観性が担保されず、「捏造(ねつぞう)や改ざんにあたる」と極めて厳しく批判し、「安全審査の根幹を揺るがす深刻な不正行為」として審査を停止しました。
今回は、この不正問題から発生原因や不正防止対策について考えてみたいと思います。

1. 不正発覚の経緯
2023年に一度は了承を得ていた安全審査の大前提となる基準地震動でしたが、2025年2月に外部通報があり、状況が一変しました。確認を行った結果、12月に中部電力が不正の事実を報告し、2026年1月に第三者委員会を設け、安全審査の停止が表明されました。
今後、原子力規制委員会による立ち入り検査等が行われ、より詳細に調査が行われることが決定しており、合わせて、他の電力会社に対する注意喚起も行われています。
2. 中部電力の原発事業の背景
なぜ、このような不正が起きたのでしょうか。そこには浜岡原発が置かれた特殊な背景が考えられます。
原発のある静岡県御前崎市は、東海地震の予想震源地域となっており、そもそも地震対策に対して非常に厳しい目が向けられています。そのため、耐震性については他の原発より耐性の高い設備となっています。また、2011年以降、全基停止が続く中、火力発電への依存による燃料費増や、1・2号機の廃炉コストが収益を圧迫することが予想されています。
中部電力にとって再稼働は「悲願」ともいえる状況でした。
莫大な投資を行い、防波堤の嵩上げなど安全対策を強化してきた自負があった反面、審査の壁を越えるために「客観性」を損なうデータ操作に手を染めたことは、安全神話への逆行と言わざるを得ません。(「人命軽視」との認識は否めません)
本件は、単なる一企業の不正に留まらず、原子力事業における企業倫理と安全文化のあり方・重要性を改めて問い直す深刻な教訓を投げかけています。
3. 中部電力の風土とこれまでの不祥事
中部電力では、基準地震動の不正報告以外でも、これまでにいくつかの不祥事が発生しています。
原発安全対策工事における金銭・手続き上の不正
原発再稼働に向けた「新規制基準」への対応に伴う仕様変更などで工事契約の内容に変更があったが、追加予算は取締役の承認を得ることが難しいと判断し、社内の正式な手続きを行わず、原子力部門の判断で20件の発注を行い、取引先への未精算が数十億円に上っていた。
中部電力社員が不正に電気を使用
中部電力パワーグリッド社の社員が社内システムを操作し、自宅の電気契約の廃止と電気を止める施工実績を捏造し、未払いで電気を使用していたことが判明した。中部電力から中部電力パワーグリッドが分社化する以前の中部電力社員として在籍していた間に不正が行われ、分社化後もばれないように偽装工作を行っていた。
顧客情報の不正閲覧
中部電力パワーグリッドの社内システムに不備があり、子会社である中部電力ミライズから新電力顧客情報が閲覧可能な状態となっていた。中部電力ミライズがこのシステムを利用し、競合電力会社の情報などを閲覧していた事実が通報により判明した。
上記の不祥事の内容から中部電力の風土の特徴として、風通しの悪さや部門間での連携の薄さ、社内システムの管理体制の甘さなどに加え、個人の通報により発覚している経緯などから、組織的な風土として倫理観が薄れている状況などが垣間見えます。
このような風土や背景から、浜岡原発の不正報告につながったのではないかと考えられますが、これらの状況から以下の3点の問題点が考えられます。
誠実性の欠如
原発の再稼働のための都合の良いデータ作成、独断での追加契約、情報漏えいしているシステム不備に対して危機感の薄さなど、一般的な企業では考えにくい誠実性の欠ける行動が見受けられることから、長年の慣習として常態化していた疑いがあります。
組織的隠蔽体質
現場や内部で疑問の声が挙がっても、声が届かない閉鎖的な組織となっており、部門間の連携の薄さや都合の悪い報告を躊躇う風土が組織的な隠蔽に繋がっているのではないかと考えられます。
ガバナンス不全
監査や管理に対しての体制・認識の甘さや契約ルールより再稼働を優先する「コンプライアンス意識の欠如」やルール逸脱等による不祥事発生など「リスクコントロール不全」が顕著です。部門間や経営陣と社員間などの連携の悪さが、管理機能の形骸化を招いていると考えられます。
4. 不正防止対策
中部電力においては、今回の不正発覚により明らかになった事実から、企業内部に様々な課題を抱えているのではないかと推測されます。「再稼働こそが絶対」という過度なプレッシャーは、製造業等における「品質軽視」や「納期至上主義」により発生する不祥事と酷似しています。
これらを改善するための取り組みとしては、内部統制の再構築と風土改革が必要と考えられます。
内部統制の再構築
特にIT統制については、かなり杜撰な印象があり、データ改ざんや情報漏えい対策としての監査や監視の他、独立性を確保したチェック部門を設けての多重チェックなども検討できるかと思います。また、不正を物理的に「できない」仕組みづくりと、全社的なセキュリティ教育が急務です。
風土改革
「言える化」を軸とした上意下達ではない体制の推進、部門間で相互にコミュニケーションを取れる体制、経営陣と社員間の敷居を低くするなどのコミュニケーションを円滑にする環境作りの必要があると考えられます。また、通報者が不利益を被らない内・外部通報窓口の強化など、心理的安全性の確保が必要です。
現場に過度なプレッシャーがかかり、目標達成のためなら不正も厭わないという状況を改善するためには、負荷や状況に見合った計画を立てるよう経営陣が現場の実態を把握するプロセスが必要となります。
中部電力においては、今回の不正を受け、第三者委員会を設置して、原因究明と再発防止に臨みますが、長年培われた悪しき風土や慣習は、自浄作用だけでは拭い去れません。中部電力は電力というインフラ事業者であることも踏まえると、第三者委員会による究明に留まらず、抜き打ち調査などを含めた「継続的な監視体制」の推進が望ましいように思われます。
真の安全とは、強固な防波堤を築くこと以上に、誠実な組織文化を築くことの先にあるはずです。
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