海外進出企業の国際税務入門
筆者:朝日税理士法人 山中 一郎
このコラムでは、日本の税制を中心に、国際税務のポイントを解説して行きます。
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第10回 国税庁の国際戦略トータルプランとそれに基づく税務調査とは?
昨年(平成29年)12月19日に、国税庁は、『「国際戦略トータルプラン」に基づく取組方針・具体的な取組状況」』を公表しました。同プランは、平成28年10月に公表されていたものです。今回のブログでは、トータルプランの概要とそれに基づく取組状況、つまり税務調査の状況のうち、海外に進出している中堅企業に関係するものをいくつか見て行きます。今回の発表から、国税当局が国際戦略トータルプランに基づき、国際課税に着実に取組み、積極的な税務調査の実施、税収の確保に努めている様子がうかがえます。今後は、海外の預金残高等の金融口座情報や、「国別報告事項等(CbCR)」など多国籍企業情報の外国との間の交換も行われ、それに基づき税務調査が行われるものと思われます。これから、海外事業を展開する企業は、移転価格文書化をはじめ、国際税務に係るコンプライアンス体制を整え、課税リスクを最小限に抑えることが望まれます。
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第9回 ローカルファイルなど移転価格文書化は親会社主導の時代へ
かつて、移転価格文書といえば、ローカルファイルを意味していました。そして、どちらかと言えば海外子会社の駐在員がその作成の重要性を認識し、日本の親会社の少ない関与で作成することが少なくありませんでした。ところが、平成28年度の日本の税制改正で、移転価格文書化を親会社が中心となって推進して行かざるをえない状況が生まれました。税法は各国独自のものであり、移転価格税制においても、日本と海外子会社の所在地国では大きな隔たりがあることが少なくありません。そのような中、今後、日本で求められる親会社主導によるグローバル移転価格対応を進めるにあたり、両国の法令に対応でき、企業グループとして移転価格リスクを軽減できるようなシステムを構築していくことが求められます。
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企業とその海外子会社等との取引価格である移転価格は、国税当局の税務調査の対象となります。この調査の期間は、1~2年の長期に及ぶのが通常です。これまでは、一般の法人税調査とは別に実施されてきましたが、国税通則法の改正で、原則として、一般の法人税調査において行われることになりました。もしも貴社の海外子会社との取引が50億円(無形資産は3億円)に達しているのであれば、移転価格文書の一つである「ローカルファイル」の作成にとりかかるべきです。移転価格調査をいつ受けても良いように、税務調査官に対して説得力のある移転価格文書を準備しておくことが必要です。
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移転価格税制に関する知識があったか、その重要性を認識し、十分な対策を行ったかどうかが、ビジネスの成否を決定づけます。本コラムでは、「どの企業グループが、いつまでに、どんな移転価格文書を作成すべきか」、「ローカルファイルが提出できない場合の”ペナルティ”」、「移転価格調査が入ってからでは遅すぎる」という順番で、ローカルファイルを完備し、移転価格調査に打ち勝つ移転価格調査対策についてご説明しております。
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外国税額控除制度とは、国際的な二重課税を排除する目的で、外国で納付した外国税額を国外所得に対し日本で納付すべき法人税額の範囲内で控除する仕組みを言います。外国税額控除の対象となるのは、原則として、所得を課税標準として課される外国法人税です。よって、関税や消費税は対象外です。各国の徴税上の制度を考慮して、源泉徴収税など、収入金額を課税標準とした税で対象とされるものもあります。また、納付後に任意に還付請求できる税などは外国法人税に含まれません。さらに外国法人税でも、高率な部分の金額などは、控除対象からはずされます。租税条約でみなし外国税額控除制度が適用される場合は、「みなし外国税額」も控除対象に含められます。控除対象となる外国法人税は、そのまま全額が日本の法人税から控除できるわけではなく、次のような限度額が設けられています。外国税額控除の適用にあたっては、検討事項も多く、確定申告書への記載、納税証明の添付などが必要です。制度を十分に理解し、コンプライアンスを遵守することが求められます。
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外国子会社合算税制(以下、タックスヘイブン対策税制)とは、日本での課税を回避するために、タックスヘイブン(税金回避地)と呼ばれる法人税率の低い国にシフトした所得を、日本の株主の所得と合算して日本で課税するという制度です。改正法は外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用が開始されます。平成29年度税制改正法では、以前と比べ、ペーパーカンパニーであるか否かの判定、経済活動基準の判定などがあり、同税制適用の有無の検討過程が複雑です。加えて、税務調査で要請があれば、ペーパーカンパニー等に該当しないことや、経済活動基準を満たすことを証明する書類の提出が必要となり、期限までに提出しない場合は、ペーパーカンパニー等に該当するもの、または、経済活動基準を満たしていないものと推定されます。よって、適用判定を早目に行い、適用がある場合には、早急に文書化を行うことが必要と考えます。
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第4回 海外進出ー恒久的施設(PE)なければ課税なしのはずが?
恒久的施設(以下、PE)とは、「支店や事務所、工場など、事業を行う一定の場所であって、企業がその事業の全部または一部を行っている場所」を指します。企業が海外でビジネスを行うにあたっては、「PEなければ課税なし」という国際課税(法人税)の大原則があります。これは、企業が進出先国で得た事業所得は、現地にPEがなければ、現地の税務当局によって課税されないという原則です。反対に、PEを有している場合には、現地国で課税され申告納税が必要となります。つまり、恒久的施設があるか否かは、進出先国で税務当局の課税権が及ぶか否かを決定する重要なポイントです。新興国や開発途上国の税務調査においては、PEの実態とかけ離れた拡大解釈をし、追徴課税が行われるケースが散見されます。これに対応するためには、PEに関する情報収集や親会社と現地子会社間の取引内容の文書化等が必要です。
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タックスプランニングとは、無駄な税金を支払わないよう、税法の規定に従った税金の削減計画を立案、実施、モニタリングすることを言います。グローバルタックスプランニングの論点は、海外の進出拠点を支店もしくは子会社のどちらにするか、ビジネスの機能をどこの国に持たせるのか、タックスヘイブン対策税制への対応、移転価格税制への対応などです。タックスプランニングを行うにあたっては、前提として、国際税務の知識があることが必要です。
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企業がクロスボーダーで取引を行う場合には、所得が発生する国と所得を受取る国の各税法だけでなく、日本と相手国との租税条約を検討する必要があります。租税条約とは、「国と国との間で結ばれる租税に関する合意」を言います。租税条約の役割は、①二重課税の排除、②脱税や租税回避の防止、及び、③税務当局間の国際協力を行って、国際的な経済活動を促進することにあります。租税条約を適用する際には、日本では、租税条約を国内税法に優先させることが憲法で規定されています。仮に、国内税法に課税の規定がない場合には、租税条約に規定があっても課税関係は発生しません。つまり、租税条約は相手国での税負担を軽くすることはあっても、重くすることはないのです。
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ここ数年、「うちもいよいよ海外に子会社を作って現地生産・販売をしようと思っています。そこで現地子会社の課税だけでなく、親会社や、親子間の国際税務を検討するように言われました。具体的にはどうすればよいでしょうか?」という類の質問をよく受けます。
プロフィール
朝日税理士法人
公認会計士・税理士 山中 一郎
朝日新和会計社(現あずさ監査法人)退職後、現在は朝日税理士法人代表社員および朝日ビジネスソリューション株式会社代表取締役。
国際税務業務、海外進出支援業務の他、株式上場支援業務、組織再編、ベンチャー支援等 の税務・コンサルティングサービスを行っている。
主な著書: 「図解&ケース ASEAN諸国との国際税務」(共著/中央経済社)、「図解 移転価格税制のしくみ 日本の実務と主要9か国の概要」(共著/中央経済社)、「なるほど図解M&Aのしくみ」(共著/中央経済社)、「事業計画策定マニュアル」(共著/PHP) など多数
Webサイト:朝日税理士法人