第64回
M&Aに潜む落とし穴 キーマン離脱がシナジーを崩すとき、企業はどう備えるべきか?
株式会社TMR 執筆
1. M&Aで退職が発生する要因
2. 人材流出がもたらす影響範囲
3. 人材流出を防ぐための対策
近年、成長戦略の一環としてM&Aを活用する企業が増えています。事業拡大や新規市場への参入、人材獲得など、多くのメリットが期待される一方で、見落とされがちな重大リスクが存在します。
それが、「キーマンをはじめとする人材流出」です。
特に中小企業においては、一人ひとりの社員が持つノウハウや顧客との関係性が企業価値そのものになっているケースも少なくありません。そのため、M&A後にキーマンが離脱すると期待したシナジー効果が実現できないばかりか、事業運営そのものに支障をきたす可能性があります。
今回は、M&Aで人材流出が起こる要因とその影響、そして有効な対策について解説します。

1. M&Aで退職が発生する要因
M&A後に退職が発生する背景には、待遇面だけでなく、将来への不安や企業文化の違いなど、さまざまな要因があります。
主な要因としては、以下が挙げられます。
・ 給与や役職など待遇の変化
・ キャリアパスや将来性への不安
・ 上司や同僚との人間関係の変化
・ 業務内容や権限の変更
・ 企業理念や社風の違い
買収側としては待遇改善を行ったつもりでも、「今後どう評価されるのか」「自分の居場所はあるのか」といった心理的不安が解消されなければ、離職につながる可能性があります。詳細な財務や法務に関するデューデリジェンス(企業価値やリスクなどの分析、評価 以下DD)は実施されても、社員の本音や組織内の人間関係まで把握することは容易ではありません。そのため、人材リスクはM&Aにおいて見過ごされやすい課題といえます。
2. 人材流出がもたらす影響範囲
例えば、営業責任者の退職による顧客流出、技術者の退職によるノウハウ消失、現場リーダーの退職を起点とした連鎖離職など、キーマンの離脱はM&A後に期待されたシナジー効果を大きく損なう要因となります。場合によっては、買収時に想定した企業価値そのものが失われるケースもあります。
人材の持つノウハウや人間関係は企業運営に欠かせない経営資源です。特にキーマンの流出はシナジー効果の低下だけでなく、事業運営そのものに損失をもたらし、M&Aの成否にも大きく関わります。
キーマンは誰なのか?その影響範囲は?
キーマンとは、必ずしも役職の高い人物とは限りません。
・ 長年取引先との関係を築いている営業担当者
・ 特定技術を熟知している技術者
・ 社内で大きな信頼を集める管理職
・ 実質的に意思決定へ影響力を持つ人物
このように、組織図や職務分掌(役職や担当業務ごとの役割、責任、権限を整理する仕組み)などでは見えない重要人物が存在します。また、一人の離職をきっかけに周囲の社員が連鎖的に退職するケースもあります。
そのため、M&Aを検討する段階で、「誰が組織の中核を担っているのか」、「その人が離脱した場合に何が起こるのか」を把握することが大切です。
キーマン離脱が招くリスク
キーマンが離脱すると、
・ 顧客との取引縮小
・ 技術やノウハウの喪失
・ 社内モチベーションの低下
・ 意思決定機能の停滞
・ 追加採用や教育コストの発生
など、多方面に影響が及ぶ危険性があります。場合によっては、M&Aによって期待されたシナジー効果が失われ、投資回収計画そのものが崩れてしまうこともあります。
そのため、キーマン条項(ロックアップ)と呼ばれる1年~3年程度の期間、引継ぎのために在籍を確約してもらう契約などを交渉する可能性もあり、年齢や環境的に継続してもらえるかといった観点も含め、キーマンについてはできる限り詳細を把握しておく方がよいと言えます。
3. 人材流出を防ぐための対策
M&Aに伴うキーマン流出は非常に影響力がある問題ですが、表面上で把握できる「営業成績トップ社員」など以外は、DDだけですべて把握することは困難であり、事前に調査しておかなければ、離脱して初めて判明するという事態に陥りかねません。
人材の流出に対しては、流出防止対策の他、流出が発生しても対応できるようにする対策や再発防止対策も検討する必要があります。
人材流出防止対策
M&Aに伴うキーマン流出は非常に影響力がある問題ですが、表面上で把握できる「営業成績トップ社員」など以外は、DDだけですべて把握することは困難であり、事前に調査しておかなければ、離脱して初めて判明するという事態に陥りかねません。
人材の流出に対しては、流出防止対策の他、流出が発生しても対応できるようにする対策や再発防止対策も検討する必要があります。
・ 待遇 役職、給与、勤務地、勤務時間、担当エリアなど、M&A後にどう変わるのかが明確にわかるように提示する
・ 事前調査でキーマンを早期に特定しておくと共に、対策も予め検討しておく
・ 評価制度、キャリアパスなど、将来性について明確にし、詳細に説明する機会を設ける
・ 社内の人間関係が円滑に行える組織と円滑なコミュニケーションが行える環境や働きやすい環境の構築に取り組む
・ 心理的なサポートを行う体制や相談窓口の設置などを行う
・ 企業理念や企業文化に矛盾が無いように統合する
人材流出に対応するための対策
・ 技術やノウハウの属人化からの脱却と共有化
・ 意思決定や行動指針の標準化、密室での決定や合意の防止
・ 取引先とのコミュニケーションの共有化や複数の担当者の配置
・ 人材育成の強化
再発防止策
・ 退職理由の分析とフィードバックによる見直し
・ 残留社員へのフォロー対策
・ 引継ぎ体制の整備
・ 採用計画、育成計画の見直し
M&Aにおける人材の流出を低減させるためには、キーマンとなる人材を特定し、その影響範囲を把握したうえで、適切な対策を行うことが最も効果的だと思われます。また、平時から組織体制や制度を整理し、業務の属人化を防ぐことで、人材流出防止対策だけでなく企業価値の向上につながります。
M&Aでは、DDにより価値を査定し判断されることが一般的ですが、キーマン流出の可能性については、詳しい実態調査やヒアリングを行うことで企業実態の詳細を把握するしかありません。調査を怠り人材が流出した場合には、統合後の企業がシナジー効果を発揮できないだけに留まらず、大きな損害に繋がる可能性すらあります。
M&Aの成否を左右するのは、企業を支える『人』の理解と備えにあると言っても過言ではありません。
株式会社TMRでは、43年にわたり培ってきた実績とノウハウをもとに、企業のリスクマネジメント体制の構築支援を行っております。事業承継やM&Aに関する総合調査をはじめ、組織実態調査、内部通報制度の整備支援、採用時の適性調査、不正リスク対策など幅広い分野で実績を有しています。
また、組織体制の最適化支援や内部通報制度の整備、従業員研修による意識改革といった不祥事予防の取り組みに加え、不正疑義社員の行動検証や採用時の適性調査、個人信用調査などの分野でも豊富な実績を有しています。こうした多角的な支援を通じて蓄積してきた知見を活かし、M&Aに関する企業の総合力調査を数多く取り扱わせていただいております。
プロフィール

株式会社TMRはビジネスにおけるあらゆるリスク対応を支援し、企業価値の向上を全力でサポートします。
・信用を第一に「誠意」「正確」「迅速」をモットーにご納得いただくまで親身にご説明いたします。
・マスコミや弁護士事務所、警察関連組織などへの調査協力も行っており、法令遵守で調査情報の秘密厳守、社会正義に即した調査を行います。
・ISO27001認証を取得しており、調査後の調査資料の廃棄に至るまで厳格に管理しています。
取引先や社員、株主などを対象に「反社会的勢力」との関係をチェックします。情報収集と収集した情報の蓄積を行い、独自でデータベースを構築し、情報利用についても熟知しているため、安心してお任せいただけます。
■信用調査
企業の与信調査(不動産や資産など)から採用時の個人 調査、その他、長年のノウハウを活用したきめの細かい各種信用調査を行います。
与信調査・不動産・資産・債権保全・信用調査・採用 入居者審査・身元調査・市場調査・各種マーケティングリサーチ・テナント調査・身元調査・訴訟関連・債権関連など
ISMS認証のノウハウを活用した情報セキュリティ対策支援やネット風評対策、ハラスメント対策などの企業のリスク対策のほか、盗聴対策などの個人向けの対策を含め、あらゆるリスク対策について対応可能です。
企業リスク対策(情報セキュリティ、情報漏洩等)・ネット風評対策・ハラスメント対策・各種相談窓口開設(コールセンター、内部告発等)・その他 盗聴対策、各種セミナー開催など
Webサイト:株式会社TMR
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