現場の変化につながる、組織改革・人材育成

第1回

エース社員に新人を任せたのに育たないのはなぜか?OJTが機能しない3つの要因と見直すべき3つの観点

アーティエンス株式会社  執筆

 

9月に入り、「新人がなかなか育たない」「トレーナーに任せているのに、独り立ちが進まない」そう感じている経営者・人事の方は少なくないはずです。

育ち方に差が見えてくるこの時期、現場からは二つの方向の声が聞こえてきます。

トレーナーを任せたエース社員からは、「言われたことしかやってくれない」「教えているつもりなのに、なぜか伝わらない」。
新人からは、「先輩が忙しそうで報連相しにくい」「教えてもらったはずなのに、いざやると分からなくなる」。

この状態を一言でいえば、OJTが機能していない、ということです。多くの組織では原因を個人のスキル不足と解釈しがちですが、多くの場合、問題はその前段階、OJTの任せ方の設計にあります。

本コラムでは、OJTが機能しなくなる3つの要因を整理したうえで、それぞれの要因に対応する形で、経営者・人事の方が今から見直せる3つの観点と具体策をお伝えします。

※本コラムでは、教える側を「トレーナー」、教わる側を「新人」(中途入社を含む)と呼びます。

1.エース社員に任せても新人が育たない3つの要因

エース社員に任せても新人が育たないと言われる要因は、次の3つです。

OJTが機能しなくなる要因① OJTの仕組みが整っていない

一つ目は、OJTの仕組みが整っていないことです。

「とりあえず、今日はこれをやっておいて」という場当たり的な指導が続くと、新人はOJTの目的を見いだせず、「自分は放置されている」と感じるようになります。また、育成のコンセプトや、OJT終了後にどのような姿を目指すのかが定まっていなければ、トレーナーの側も何をどこまで教えればよいのか分からないまま、仕事を渡し続けることになります。

こうした状態が続くと、新人の早期離職やパフォーマンスの低下にもつながります。

特にエース社員がトレーナーになる場合、本人が業務を難なく回せてしまうため、周囲も「あの人なら仕組みがなくても大丈夫だろう」と、仕組み整備を後回しにしがちです。任せる相手の力量が高いほど、仕組みの不備はかえって見えにくくなります。

OJTが機能しなくなる要因② 時代や環境の変化に合っていない

二つ目は、時代や環境の変化に合っていないことです。

「背中を見て学べ」という教え方が通用したのは、教える内容をマニュアル化でき、正解を持っていた時代です。「まずやって見せて、その通りにやらせて、できたかどうかをチェックする」という教え方は、今も基礎を覚える段階では有効です。

しかし、いまは上司や先輩でさえ正解を持っていない仕事が増えています。そうした仕事に昔ながらの教え方だけで対応しようとすると、教える側も教わる側も行き詰まります。

中にはテレワークで働く新人に対しても、姿を見せられないまま「背中を見て学べ」の発想で接してしまっているケースもあります。

エース社員は、自分自身が「見て学ぶ」環境で成果を出してきた成功体験を持っていることが多く、「自分もそうやって育った」という感覚から、無意識のうちに同じ教え方を再現しやすい傾向があります。

OJTが機能しなくなる要因③ トレーナーの育成スキルが足りない

三つ目は、トレーナーの育成スキルが足りないことです。

3つの要因の中でも、エース社員に新人を任せたときに、最も表面化しやすいのがこれです。

会社や業務の知識は勤続年数とともに身につきますが、人を育てるスキルは自然には身につきません。仕事ができることと、仕事を教えられることは別のものです。

仕事ができる人ほど、判断や動作の多くが無意識化・感覚化されており、「なぜそうするのか」を言語化する経験を積んでいないことが少なくありません。本人にとっては当たり前すぎて、どこから説明すればいいのか分からず、結果として「習うより慣れろ」という指導に頼ってしまうのです。

近年は指導する内容自体が複雑になっているため、育成計画の立て方やティーチング、フィードバック、コーチングといったスキルを、意識して身につける必要が出てきています。

さらにパーソル総合研究所の「OJTに関する定量調査」(2025年1月発表・OJT経験のある正規雇用で働く人4,000人が対象)によると、教える側の68.0%が「ハラスメントを気を付けなければいけなくなった」と答えており、何をどう教えればよいのか、教え方そのものに迷いを抱えているトレーナーが多いことがうかがえます。

こうしたスキルを学ぶ機会がないまま、経験と勘だけでトレーナー役を任されている職場は少なくありません。

これらは3つとも、トレーナー個人の力量ではなく、組織のOJT設計に課題があることがわかります。

次の章では、この3つの要因に対応する形で、経営者・人事が見直すべき観点を具体的に見ていきます。

なお、そもそも育成に向いていない人がトレーナーに選ばれてしまっているケースもあります。人選の段階から見直したい方は、OJTに向いていない人の5つの特徴と組織が取るべきサポート策7選も参考にしてみてください。

2.OJTが機能するために経営者・人事が見直したい3つの観点

OJTが機能するために経営者・人事が見直したい3つの観点は次の3つです。

観点1:OJTの仕組みを6項目で点検する

まず、OJTを一人に任せっきりにしない仕組みがあるかを、次の6項目で点検してみてください。「できている」「形だけある」「無い」の3段階で見ると、実態がつかめます。

● 育成のコンセプト(どんな人材に育ってほしいか)は明確になっているか
例えば「自ら考えて行動できる人材へ」のように、育成の軸となる考え方が言葉になっており、OJTだけでなくOff-JTの企画にも一貫して反映されているかを確認しましょう

● OJT終了後の目指す姿・目標は明確になっているか
「何を、どの程度身につけ、どのような状態になっているか」が具体的に言葉になっているかを確認しましょう。ここが曖昧だと、終了後に正しく振り返ることもできません

● 研修など他の育成と連動し、目標から逆算した育成スケジュールがあるか
Off-JTの内容と一貫性を持たせているか、トラブル対応の余裕を持たせているか、スケジュールの大枠を人事側が用意し現場任せにしていないかがポイントです。

● 基本的な指導ガイドやマニュアルが用意されているか
教える内容がトレーナー個人の頭の中だけにあるのではなく、文書化されて誰が教えても大きくブレない状態になっているかを確認しましょう。

● トレーナーに対して定期的なフィードバックやサポート体制があるか
上司や人事が、トレーナーの育成状況を定期的に確認し、フィードバックする場があるかを確認しましょう。

● トレーナー以外の周囲の協力体制はできているか
トレーナー以外にも新人が相談できる人がいるか、チーム全体で育成を支える雰囲気があるかがポイントです

「形だけある」と「無い」とチェックした項目は、トレーナー個人の頑張りで埋めてもらっている場所です。足りないところをできるところから改善していきましょう。

なお、育成の「目的」「タイミング」「内容」「方法」を1枚で整理するため、アーティエンスでは「現場育成サポートシート」を作成しています。Excel形式ですぐに書き込んで使えるフォーマットです。点検結果をもとに、自組織の育成計画を整理する際にお役立てください。

[現場育成サポートシートのダウンロードはこちらから]

観点2:トレーナーへのサポート体制を強化する

OJTの仕組みが整っても、トレーナー自身へのサポートが伴わなければ、育成は個人の頑張りに依存したままになります。強化すべきポイントは3つです。

一つ目は、育成に対する想い・当事者意識の醸成です。
やらされ感を抱いたままトレーナー役を担うと、その空気は新人にも伝わり、トレーナー自身も「OJTは意味がない」と感じやすくなります。研修などの場で、「自分はどのような想いで育成に取り組むのか」「会社の育成方針を踏まえ、自分なりにどう育てたいのか」を言葉にする機会を用意すると、当事者意識が育ちやすくなります。

二つ目は、育成知識・スキルの向上です。
会社や業務の知識は勤続年数とともに身につきますが、育成計画の立て方、ティーチング、フィードバック、コーチングといった育成スキルは、意識して習得する必要があります。特に、どこまで踏み込んで指摘してよいか迷いやすいフィードバックについては、伝え方の型や具体的な言い回しを研修で扱っておくと、トレーナーが自己判断だけに頼らずに済みます。

エース社員がトレーナーになる場合は、自分では意識せずにできてしまっていることを、いったん立ち止まって言葉にする「暗黙知の言語化」の練習が特に効果的です。「なぜそう判断したのか」「どこを見て気づいたのか」を自分自身に問い直す経験を積むことで、感覚的な指導から抜け出しやすくなります。

トレーナーに任命した時点で、こうしたスキルを学ぶ機会を設けるようにしましょう。

三つ目は、定期的なフォロー・サポートです。
研修を一度受けただけでは、現場で日々生じる悩みは解消されません。トレーナー同士の勉強会、現場管理職との定期的な1on1、人事担当者との定期面談など、悩みを溜め込ませない仕組みを用意してください。特にトレーナー同士の勉強会は、愚痴の発散だけで終わらないよう、人事や第三者が進行役に入ると効果的です。
あわせて、育成をトレーナー一人の役割で終わらせず、チーム全体で担うという意識を持つことも大切です。新人がトレーナー以外の周囲のメンバーにも気軽に報連相できる状態をつくっておけば、トレーナーが席を外していたり手が離せなかったりする時でも、新人が一人で抱え込まずに済みます。

観点3:新人へのサポート体制を強化する

トレーナーへのサポートと合わせて、新人側のサポート体制も欠かせません。ポイントは3つです。

一つ目は、定期的なサーベイ実施とフォローです。
短いサイクルで回答できるサーベイを使うと、普段の様子が見えにくい状況でも新人の状態を把握しやすくなり、さらにフリーコメントの欄を設けておくことでトレーナーには直接言いにくいことも拾いやすくなります。

二つ目は、トレーナーとの合同研修です。
配属から2〜3か月ほど経ったタイミングで、新人とトレーナーが一緒に振り返る場を設けると、互いに成長を実感でき、「OJTには意味がある」という実感につながります。かみ合っていないと感じる理由の一つは、互いに成長を実感できていないことだからです。

この場では、トレーナーが期待を伝えるだけでなく、新人自身にも「次に何をできるようになりたいか」を自分の言葉で語ってもらう時間を設けてください。言われたことだけをこなす受け身の姿勢は、目標を自分で言語化する機会がないまま指示を受け続けることでも強まります。

実際、こうした場に参加したトレーナーからは、「自分と新入社員では見ている世界が異なっていることに気付いた。もっと日々の業務ですり合わせたり、フォローしていく重要性を感じた」「トレーナー1人だけではなく、チーム全体でのサポートもより強化していきたい」といった声が聞かれています。

三つ目は、仲間同士が気軽に相談し合える場の構築です。
アーティエンスで行っている新入社員向けフォロー研修では、「同期と話せて、現場で同じことで悩んでいることが分かって、安心した」「同期の取り組みを聞いて、自分も取り入れてみようと思った」といったコメントが、受講生からよく出ています。同時期に入社し、同じ経験をしている立場だからこそ分かり合える悩みや不安があり、それらを互いに話すだけでも悩みが解消されたり、安心できることもあるのでしょう。
そのためにも、新人の同期同士の交流会やチャットグループなどを用意しておくと、トレーナーには話しにくい悩みも、同じ立場の仲間になら話せることがあります。

3.まとめ|エースだから安心、ではなく仕組みで支える

本コラムでお伝えした内容を振り返ります。

● OJTが機能しなくなる要因は「仕組みの不備」「時代との不一致」「トレーナーの育成スキル不足」の3つに整理できる

● どれもトレーナー個人の力量の問題ではなく、組織側で整えるべき「任せ方の設計」の問題である

● 見直すべき観点は3つ。①OJTの仕組みを6項目で点検する、②想い・スキル・フォローの3つでトレーナーを支える、③サーベイ・合同研修・相談の場で新人を支える

この3点を押さえて動き始めれば、「エースに任せたのに、なぜ育たないのか」という漠然とした違和感が、「どこから手をつければいいか」という具体的な行動に変わっていきます。

9月は、新人もトレーナーも一度立ち止まれる時期です。来期の予算や計画を決める時期が近いなら、いま点検しておくことで、手当てが必要な部分をそこに載せられます。そこから、一人に任せる育成から、チームで育てる形に戻していただければと思います。


「任せ方」から見直す育成支援は、アーティエンスにご相談ください

「観点は分かったが、自社の場合はどこから手をつければいいか分からない」
「トレーナーへのフォロー体制を一緒に設計してほしい」
そんな方は、ぜひ一度アーティエンスにご相談ください

私たちアーティエンスは、研修サービスと組織開発コンサルティングを通して、一人に育成を背負わせない「チームで育てる」仕組みづくりを支援しています。対話を通じて各社の状況に合った育成の形を一緒に考え、学びの定着と行動変容が継続する仕組みまで一気通貫でサポート致します。



出典

● パーソル総合研究所「OJTに関する定量調査


執筆者

近藤 ゆみ(コンドウ ユミ)

アーティエンス(株) 研修事業部門責任者。自身も講師・コンサルタントとして従事。前職の大手人材紹介会社では、転職希望者のキャリアカウンセリングから転職サポートまでを一貫して担当。 専門分野は、新入社員・若手社員、採用・育成

X:@kondo_atc

 

プロフィール

アーティエンス株式会社

アーティエンス株式会社は、2010年9月の設立から16年にわたり、新入社員から管理職・経営者まで各階層を対象とした研修・組織開発コンサルティングを提供しています。導入企業数は600社以上にのぼり、大手企業から成長期のベンチャー企業・中小企業までサービスを提供してきた実績があります。同社の特徴は、研修を「実施して終わり」にしない伴走型のスタイルにあります。企画段階からお客様と共に考え抜き、当事者意識・主体性・自律の醸成やリーダーシップ開発といった各社固有の課題に合わせて内容を設計します。さらに研修と現場を繋げるサポートもしており、学びの定着と行動変容が継続する仕組みまで一気通貫でサポートしている点も特徴です。

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Webサイト:アーティエンス株式会社

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