中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第148回

NECのAIだけの部署は他人事ではない ― 中小企業が5年以内に迫られる3つの決断

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原京二

 

はじめに――「AIだけの部署」が本当にできた


2026年、日本を代表する大手電機メーカーのNECが、驚くようなニュースを発表しました。人間が一人もいない、AI(人工知能)だけで構成された部署を社内に新設したというのです。その名も「コーポレートAI・ワークフォース部門」。人事部や法務部と同じ「正式な部署」として位置づけられ、17人(正確には17体と言うべきかもしれません)のAIが、部門長やマネージャーといった役職まで持って働いています。

「うちには関係ない話だ」。そう思われた方も多いでしょう。たしかにNECは大企業ですし、AIだけの部署など、まるでSF映画のような話に聞こえます。しかし、同じ時期にもうひとつ、見過ごせないニュースが報じられました。NTTデータ、日立製作所、富士通など、日本のITシステム大手11社のすべてが、2030年までにシステム開発の主要な作業を「人ではなくAIが担う」体制に切り替える、というのです。

この2つのニュースを並べて見えてくるのは、単なる「便利な新技術の登場」ではありません。「人を集めて、人の手と時間で仕事をこなし、その分の代金をいただく」という商売のかたちそのものが、終わりに向かい始めたということです。こうした商売のかたちを、少し硬い言葉で「労働集約型(ろうどうしゅうやくがた)ビジネス」と呼びます。人手をたくさんかけることで成り立つ商売、という意味です。

本コラムでは、この2つのニュースをできるだけかみくだいてご紹介したうえで、中小企業の経営者であるあなたが、これから5年のあいだに迫られるであろう「3つの決断」を提示します。結論を先に申し上げれば、その決断とは、①AIを「道具」ではなく「働き手」として見直す決断、②「作業の量」で稼ぐ商売から離れる決断、③「人にしかできない仕事」を定義し直し、人を育て直す決断、の3つです。順番に見ていきましょう。



決断1 AIを「便利な道具」ではなく「働き手」として見直す


■ NECで起きていることを、かみくだいて説明すると

まず、NECの「AIだけの部署」で何が行われているのかを、できるだけ平たくご説明します。この部署にいるのは「AIエージェント」と呼ばれるものです。エージェントとは「代理人」という意味で、人間がひとつひとつ指示をしなくても、与えられた仕事の目的に向かって、自分で段取りを考え、自分で作業を進めてくれるAIのことです。従来のAIが「質問すると答えてくれる相談相手」だったとすれば、AIエージェントは「仕事を任せると最後までやってくれる部下」に近い存在です。

NECの仕組みはこうです。たとえば営業部門や人事部門が「この業務を自動化したい」とAI部署に依頼します。するとAI部署は、その仕事の内容に合ったAIエージェントを新しく生み出して、業務を任せます。しかも部署の中には、部下役のAIの働きぶりを、品質やコストの面からチェックする「AIマネージャー」までいます。第1弾の仕事は、役員会議で使う全社の経営分析資料づくり。今後は顧客データの分析などにも仕事を広げていく計画です。

ここで注目すべきは、NECがAIを「ソフトウエア」や「システム」としてではなく、「組織の一員」として扱っている点です。役職を与え、成果を評価し、部署間で仕事を発注し合う。つまり人間の社員とほとんど同じ扱いです。これまで企業がAIを導入するときは、「各部署がそれぞれ便利なツールとして使う」のが普通でした。NECはそうではなく、AIたちを束ねる司令塔の部署をつくり、会社全体でAIという「働き手」を運用する道を選んだのです。


■ 「道具」と「働き手」では、経営の考え方がまるで違う

これがあなたの会社にとって何を意味するのか。ポイントは、AIを「道具」と見るか「働き手」と見るかで、経営判断の質がまったく変わってくる、ということです。

道具として見ている限り、AIへの投資は「パソコンを買い替える」のと同じ発想になります。便利になればいいな、程度の期待で、月々数千円の利用料を払い、社員が思い思いに使う。多くの中小企業のAI活用は、今この段階にあります。それ自体は悪いことではありません。しかし、働き手として見た瞬間、問いの立て方が変わります。「この仕事は、人を雇ってやらせるべきか、AIに任せるべきか」。これは道具選びではなく、人員配置と組織づくりの問題です。

たとえば、月末の請求書づくりに事務員さんが3日かけているとします。道具の発想なら「エクセルの関数を工夫して2日に短縮しよう」となります。働き手の発想なら「この仕事はまるごとAIに任せ、事務員さんには顧客への電話フォローという、人にしかできない仕事に移ってもらおう」となります。前者は数十パーセントの改善、後者は仕事の組み替えです。NECが示したのは、後者の発想を会社全体でやる、という姿です。

もうひとつ、経営者として見逃せないのはコストの問題です。人をひとり雇えば、給料のほかに社会保険料や教育の費用がかかり、年間で数百万円の固定費になります。しかも今は、募集をかけても人が来ない時代です。一方、AIという働き手は、月々数万円程度から使い始められ、深夜でも休日でも文句を言わずに働き、辞めることもありません。もちろん人間の代わりがすべて務まるわけではありませんが、「求人を出しても人が採れないから、この仕事は回らない」とあきらめていた業務が、AIなら回せるかもしれない。人手不足に悩む中小企業にとって、AIは「採用難の時代の、もうひとつの採用手段」と捉えることもできるのです。


■ ただし、「丸投げできる」わけではない

ここでフェアに申し上げておきたいのは、NECでさえ、AIに仕事を丸投げしてはいないという点です。NECは、AI同士の議論や意思決定の過程をすべて記録し、人間がいつでも確認できるようにしています。AI部署の成果やリスクは人間に報告され、最終的な監督責任は人間が負う。役割の異なる複数のAIが互いの仕事を段階ごとに検証することで、AIの誤った判断や暴走を防ぐ仕組みも組み込んでいます。

つまり、AIという働き手には「監督」が必要なのです。人間の新入社員に仕事を任せるとき、放置はせず、報告をさせ、要所で確認するのと同じです。中小企業がAIを働き手として迎えるときも、「誰が、どの仕事の結果を、どうやって確認するか」という監督の仕組みをセットで考える必要があります。また、NECはAI部署の新設にあたって人員削減を予定していないとも明言しています。AIの導入は、ただちに「人減らし」を意味するのではなく、人の仕事の中身を変えることなのだ、という点も押さえておきたいところです。



決断2 「作業の量」で稼ぐ商売から離れる


■ IT業界で起きていることは、あらゆる業界の「予告編」

2つめのニュースを見てみましょう。日本のITシステム大手11社が、2030年までに、システム開発の中心的な3つの作業――設計(システムの中身の詳しい図面を描く仕事)、プログラミング(コンピューターへの指示を書く仕事)、テスト(正しく動くか確かめる仕事)――を、AI主導に切り替えると表明しました。この3つの作業は、システム開発全体の作業時間のおよそ3割を占めます。AIを使えば、生産性は3割から5割も高まる見込みだといいます。

一見、IT業界の中だけの話に思えます。しかし、この話が重大なのは、日本のIT業界が「多重下請け」という構造で成り立ってきたからです。お客様から仕事を受けた大手企業が、作業の一部を中堅企業に委託し、その中堅企業がさらに小さな会社に再委託する。ピラミッドの下のほう、いわゆる「下流」で、プログラミングなどの手作業を担ってきたのが、多くの中堅・中小企業でした。その手作業が、これからAIに置き換わっていくのです。

すでに影響は数字に表れ始めています。ソフトウエア業界の倒産件数は2025年に234件と、2021年の2倍に増えました。調査会社の研究員は、AIが普及すれば受注できずに苦しむ会社がさらに増えるおそれがあると警告しています。シンクタンクの専門家も、2027年ごろから、下流の作業について外部への委託や新規採用を減らす動きが出てくるだろうと予測しています。アメリカではすでに、AIの普及を受けてテクノロジー企業で2025年に15万人を超える人員削減が行われました。


■ 「下請け・手作業・時間いくら」の仕事から先に消える

さて、ここからが本題です。この構図は、本当にIT業界だけのものでしょうか。私は違うと考えています。「元請けから作業を受け、人数と時間をかけてこなし、かけた手間の分だけ代金をいただく」――この商売のかたちは、製造業の下請け加工、物流の庫内作業、経理や給与計算などの事務代行、書類作成を代行する士業(社会保険労務士や行政書士など、国家資格をもとに専門業務を行う仕事)まで、日本中のあらゆる業界に存在します。

そして、AIが最初に置き換えるのは、まさにこの種の仕事です。理由は単純で、手順が決まっていて、繰り返しが多く、成果を量で測れる仕事ほど、AIは得意だからです。逆に、お客様の悩みを聞き出す、まだ形になっていない要望を整理する、現場に入り込んで定着させる、といった仕事は、AIにはまだ苦手です。実際、IT大手11社も、人間の役割を「要件定義(お客様が本当に必要としているものを整理する仕事)」や品質の最終確認、お客様への対応に集中させ、そこで付加価値を高める方針を打ち出しています。

つまり、消えるのは「業界」ではなく「仕事の位置」です。同じ業界の中でも、川の流れにたとえた「上流」(何をつくるか、どう解決するかを考える側)の仕事は残り、むしろ需要が高まる。一方で「下流」(決まったことを手を動かしてこなす側)の仕事から順に、AIに置き換わっていく。あなたの会社の売上は、上流と下流、どちらから生まれているでしょうか。これが2つめの決断の出発点です。


■ 今からできること――自社の仕事の「棚卸し」

具体的な第一歩は、自社の仕事の棚卸しです。難しい分析は要りません。自社の主な業務を紙に書き出し、それぞれに2つの質問をぶつけてみてください。「この仕事は、手順書さえあれば誰がやっても同じ結果になるか」「この仕事の代金は、かかった時間や量で決まっているか」。両方に「はい」がつく仕事は、5年以内にAIとの競争にさらされる可能性が高い仕事です。

業種ごとに当てはめてみましょう。事務代行なら、伝票の入力や給与計算は「はい・はい」の典型です。一方、経営者の相談に乗って制度づくりを手伝う仕事は違います。製造業なら、図面どおりの加工は前者に近づきつつありますが、「こんなものは作れないか」という無理難題に応える試作対応は後者です。広告や印刷なら、決まった体裁のチラシ制作は前者、お客様の売上の悩みから企画を立てる仕事は後者。どの業種にも、両方の仕事が混ざっているはずです。棚卸しの目的は、危ない仕事を見つけて悲観することではなく、自社の中にすでにある「上流の芽」を見つけることにあります。

ただし、慌てて事業を捨てる必要はありません。大切なのは順序です。まず、下流の仕事の中でAIに任せられるものを自社で率先してAI化し、原価を下げる。浮いた人の時間を、お客様との対話や提案といった上流の仕事に振り向ける。そして値付けを、少しずつ「時間いくら」から「解決した価値いくら」へ変えていく。下流の仕事は、なくなる前に「AIと一緒に安くこなす仕事」に変え、稼ぎの本体を上流へ移す。この二段構えが現実的です。

「値付けを変える」と言うと難しく聞こえますが、要するに売り物の説明を変えることです。たとえば経理代行の会社なら、「記帳作業を月〇〇円で請け負います」ではなく、「毎月の数字から資金繰りの注意点をご報告し、銀行対応までお手伝いします」という売り方に変える。作業そのものはAIで速くこなし、お客様に請求するのは「作業の時間」ではなく「経営に役立つ中身」の対価にする、ということです。実は、AI化を進めるIT大手がやろうとしているのも、まさにこの転換です。彼らは作業の人手を減らす一方で、お客様の課題整理や品質保証といった、頭を使う部分で稼ぐ体制に移ろうとしています。大手の動きは、中小企業にとって脅威であると同時に、「稼ぎ方の変え方」のお手本でもあるのです。



決断3 「人にしかできない仕事」を定義し直し、人を育て直す


■ 大手ですら悩んでいる「人の育て方」

3つめの決断は、人に関するものです。実は、AI化を進める大手企業自身が、ひとつの深刻な悩みを抱えています。それは「若手が育たなくなるのではないか」という悩みです。プログラミングのような基礎的な作業は、若手が経験を積み、腕を磨くための大切な修行の場でもありました。その場をAIに渡してしまえば、10年後に上流を担えるベテランが育ちません。だからこそ大手の野村総合研究所は、若手育成のために、あえて人手に頼る開発を一定量残すことも検討する、と明言しています。

これは中小企業にとって、より切実な問題です。大手のように「育成専用の仕事を残す」余裕は、多くの中小企業にはありません。それでも、何もしなければどうなるか。単純作業はAIがこなすので、新人に任せる仕事がない。仕事を任せられないから、人が育たない。人が育たないから、上流の仕事を受けられない。この悪循環に陥ります。


■ 「経験年数」ではなく「役割」で人を見る

では、どうすればよいのでしょうか。ヒントは、人の値打ちを測るものさしを変えることにあります。これまで多くの会社では、人の成長を「経験年数」で測ってきました。作業を長くやった人ほど熟練し、価値が上がるという考え方です。しかし、作業そのものをAIが担う時代には、このものさしが通用しなくなります。代わりに必要なのは、「その人はどんな役割を果たせるか」で人を見るものさしです。

たとえば、お客様の言葉にならない不満を聞き出せる。AIが出してきた答えのおかしな点に気づける。AIへの指示のしかたがうまく、少ない手数で良い結果を引き出せる。現場の人たちを巻き込んで、新しいやり方を定着させられる。こうした力は、作業の反復からは生まれません。お客様の前に立つ経験、AIを実際に使い倒す経験、小さくても「自分で決める」経験から育ちます。若手には作業の修行の代わりに、こうした経験を意図的に与える必要があるのです。

幸い、この点では中小企業に分があります。大企業の若手は分業の一部しか経験できませんが、中小企業の若手は、その気になれば入社1年目からお客様の前に立ち、見積もりから納品までの全体を見ることができます。たとえば「AIに下書きをさせた提案書を、若手が自分の言葉で直してお客様に説明する」「AIの答えを鵜呑みにせず、必ずひとつは疑問点を挙げてから使う」といった小さなルールを決めるだけでも、作業の修行に代わる訓練になります。AIに単純作業を任せられるからこそ、若手を早くからお客様と判断の場に立たせられる。これは、階層の分厚い大企業にはまねのしにくい、中小企業ならではの育て方です。


■ 今からできること――小さく始める「AIと人の役割分担表」

具体的には、まず自社の中で「AIと人の役割分担表」をつくることをお勧めします。左の列に主な業務を並べ、右に「AIに任せる」「人がやる」「人がAIを使ってやる」の3つの欄を設けて、一つひとつ仕分けしていく。完璧である必要はありません。大切なのは、経営者自身が「人にしかできない仕事はこれだ」と言葉にすることです。それが決まれば、採用で求める人物像も、教育の中身も、評価のものさしも、おのずと変わってきます。

もうひとつ、忘れてはならないのは社員への伝え方です。AIの話は、社員にとって「自分の仕事が奪われる話」に聞こえがちです。NECが人員削減をしないと明言したように、経営者は「AIは人を減らすためではなく、あなたたちにもっと価値の高い仕事をしてもらうために入れる」と、はっきり伝える必要があります。この一言があるかないかで、社内のAI活用の進み方は大きく変わります。



おわりに――5年後、あなたの会社は「何屋」か


ここまで、NECのAIだけの部署と、IT大手11社のAI化という2つのニュースから、中小企業が迫られる3つの決断を見てきました。AIを働き手として見直すこと。作業の量で稼ぐ商売から離れること。人にしかできない仕事を定義し直すこと。3つに共通するのは、「人手をかけること自体が価値だった時代の終わり」を直視する、という姿勢です。

もちろん、変化は一夜には起きません。AIには誤りもあれば、監督の手間もかかります。お客様の中には、これからも人の手仕事を求める方もいるでしょう。しかし、大手がこれだけ明確に舵を切った以上、その影響は取引の連鎖を通じて、数年のうちに必ず中小企業にも及びます。倒産件数の増加という形で、影響はすでに始まっています。

「様子を見てから動く」という選択肢も、もちろんあります。ただ、その場合のリスクははっきりしています。稼ぎ方の転換には、AIに慣れる時間、人を育て直す時間、お客様に新しい売り物を認めてもらう時間が必要で、どれも1年や2年はかかります。仕事が減り始めてから動いたのでは、転換の途中で資金と気力が尽きかねません。専門家が予測する「2027年ごろから下流の仕事が減り始める」という見立てが正しければ、余裕を持って動ける時間は、実はもうあまり残っていないのです。最後に、明日からできる3つのチェックを挙げて、本コラムを締めくくります。

チェック1 売上の中身を見る 自社の売上のうち、「人数×時間」つまり作業量で代金が決まっている割合が何割あるかを、ざっくりで良いので計算してみる。

チェック2 5年後の目でお客様を見る その作業の仕事を、5年後もお客様は「人間の手作業」に頼み続けるだろうか。お客様自身がAIで済ませてしまう可能性はないか、想像してみる。

チェック3 役割分担表を書き始める 主な業務を書き出し、「AIに任せる」「人がやる」「人がAIを使ってやる」に仕分けする。まず1枚、経営者自身の手で書いてみる。

AIが部署になり、AIが開発の担い手になる時代。5年後、あなたの会社は「何をする会社」として、お客様に選ばれているでしょうか。人手の量ではなく、知恵と価値で選ばれる会社への転換は、体力のあるうちにしか始められません。決断の時期は、思っているより早く来ています。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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