中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第34回

合意なき配置転換は「違法」:最高裁が問い直す労働契約の本質

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

働き方が多様化する現代において、職場のルールや契約の透明性はますます重要になっています。特に、労働者が自分の仕事内容や職種について納得して働くことは、公正な労働環境を守る基盤となります。この点において、最近の最高裁判所の判決は、労働者の権利を守るための大きな一歩となりました。

事件は、滋賀県のある福祉施設で起こりました。ここで福祉用具の改造技師として18年間働いていた男性が、管理職の同意なく総務課への配置転換を命じられました。技師としての専門性を活かせない総務職への移動は、彼にとって大きな問題でした。この配置転換が労働者の合意なしに行われたため、男性はこれを不当として訴訟を起こしました。

最高裁判所は、このケースにおいて、労働者の同意なしに職種を変更することは違法であるという画期的な判決を下しました。この判決は、労働者と雇用者の間の契約が、双方の合意に基づいて遵守されなければならないことを明確に示しました。具体的には、労働契約法に基づき、職種や勤務地などの重要な条件は、変更する場合も労働者の同意が必要であるとされています。

この判決の背景には、労働契約法の精神があります。この法律は2008年に施行され、労働者と雇用者が対等な立場で契約を結ぶことを強調しています。法律の目的は、労働者が不利な立場に置かれることなく、安定した労働環境で働けるようにすることです。そして、この法律は、職場内でのトラブルを未然に防ぎ、労働紛争を減少させることを狙っています。

しかし、実際には労働紛争は依然として多く発生しており、労働者と雇用者の間の意思疎通が十分でない場合が少なくありません。最高裁のこの判決は、職種を明確に定め、変更する場合は労働者の明確な同意を必要とすることで、労働者を一方的な不利益から守るための法的な歯止めをかけたのです。

この判決により、企業は人事管理において、職種の変更や配置転換を行う際にはより慎重になる必要があると感じています。特に「ジョブ型雇用」が広がる中で、各職務の内容を明確にし、それに基づいて適切な人材を配置することが求められます。また、本年4月より労働条件の明示義務が厳格化されたこともあり、企業は労働条件の変更内容やその範囲について労働者に対してきちんと説明をし、理解と合意を得るプロセスを確実に踏む必要があります。

今回の最高裁判決が示すのは、単に法的な規定を越えた、より広い社会的意義です。雇用の安定性と労働者の満足度は、企業の生産性と直結しています。従業員が自らの役割と職務内容について明確な理解と合意のもとに働くことが、企業全体のモチベーションと効率向上に寄与するからです。今回の最高裁の判決により、労働者の権利が適切に尊重されることで、これらのポジティブな効果が期待されます。

さらに、この判決は、労使関係の在り方にも影響を与えるでしょう。企業は、労働契約や配置転換の際に、単に法律を遵守するだけでなく、労働者のキャリアパスや専門性を考慮した人事管理を心掛ける必要があります。これは、職場の信頼関係を築き、長期的な人材育成にもつながります。実際、労働者が自己の職業に対する自信と満足感を持てる環境は、職場離れを防ぎ、より長期的な雇用関係を促進する要因となります。

この判決の影響は、大企業だけでなく、中小企業にも及びます。中小企業では、特に人材が限られているため、一人ひとりの労働者の能力を最大限に活用し、適切な職務に就けるよう配慮することが重要です。企業が労働者の同意を得るプロセスを確立することで、トラブルを未然に防ぎ、労働者との間で健全な協力関係を築くことができるのです。

厚生労働省によると、労働紛争は依然として高い水準で推移しており、これは労使間の意思疎通が不足していることが一因と考えられます。したがって、この判決を契機に、企業は労働者との対話を一層深め、相互の理解を基にした労働環境の整備に努めるべきです。このような取り組みが、将来的にはより少ないトラブルと、より高い職場満足度をもたらすことに繋がります。

労働契約の透明性を高めることは、労働市場全体の健全性を保つ上で不可欠です。労使が共に尊重し合う文化が根付くことで、より公平で活力ある労働環境が実現するでしょう。この最高裁判所の判決は、日本の労働市場における新たなマイルストーンとして、その歩みを加速させることになるかもしれません。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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