第30回
「ホワイト」から「プラチナ」へ:働き方改革の未来像
一般社団法人パーソナル雇用普及協会 萩原 京二
現代の労働市場は、従業員が求める価値観の転換期にあります。特に「働きがい」と「働きやすさ」のバランスが重要な指標となっています。かつては、「モーレツ企業」が多くの労働者にとって理想的な働き場と見なされていました。これらの企業は、高い労働意欲と厳しい労働条件の下で、成果を出すことに重きを置いていました。一方で、「ホワイト企業」は、従業員のワーク・ライフ・バランスを重視し、働きやすい環境を提供することで知られていますが、しばしば成長機会が乏しいと批判されることもあります。
この二つの概念の中間に位置するのが、いわゆる「プラチナ企業」です。プラチナ企業は、働きがいと働きやすさのバランスを最適化し、従業員が自らのキャリアを積極的に形成できる環境を提供します。このような企業は、従業員の自立を促し、個々の能力とポテンシャルを最大限に引き出すことを目的としています。
成功事例として挙げられるのは、GoogleやSalesforceのような海外企業です。これらの企業は、従業員の自立を支援し、個々の能力開発に投資することで、業界内で高い評価を受けています。
Googleは、従業員に対して自由度の高い働き方を認め、創造性とイノベーションを促しています。また、Salesforceは、社員の幸福感を重視し、働きがいと働きやすさのバランスを取りながら、高い社員満足度と業績を実現しています。これらの企業は、従業員の成長を促すための継続的な教育プログラムや、能力に応じた役職や報酬システムを導入しており、透明性の高い意思決定プロセスを通じて、従業員が自らの力を発揮しやすい環境を提供しています。
京都大学の経営学教授、岡田晴美氏は「従業員の能力開発への投資は、組織全体の革新を促す」と述べ、このような企業文化が企業成長の鍵であると指摘しています。また、社外のフリーランスや副業従事者との柔軟な協働関係を築くことで、新たな価値を生み出している点も、プラチナ企業の特徴として挙げられます。
日本企業においても「プラチナ企業」の成功事例はあります。サイボウズは、柔軟な働き方を推進し、従業員一人ひとりの自立と成長を促進する企業文化で知られています。具体的には、フレックスタイム制度やリモートワークの積極的な導入、多様なキャリアパスを提供することで、従業員が個々のライフスタイルやキャリア目標に合わせて働ける環境を実現しています。また、従業員の意見を尊重し、組織全体での意思決定に参加できるプロセスを整えることで、従業員のエンゲージメントとモチベーションの向上を図っています。
さらに、サイボウズは従業員の多様性を重視し、性別や年齢、国籍に関わらず、個々の能力を最大限に活かせるよう努めています。このような取り組みは、従業員から高い評価を受けるだけでなく、企業の革新性と競争力の向上にも寄与しています。岡田晴美教授によれば、サイボウズの成功は「従業員の能力開発と自立を支援することで、組織全体の成長とイノベーションを促進する」という点にあります。
これらの事例からわかるように、プラチナ企業への進化は、働きがいと働きやすさを両立させることで、従業員と企業の両方に最大の成果をもたらします。従業員が自分の仕事に誇りを持ち、充実感を感じながらも、健康的なワーク・ライフ・バランスを維持できる環境の提供が、企業競争力の鍵を握っているのです。サイボウズのような日本企業の成功事例は、他の企業が目指すべきモデルを提供し、従業員のポテンシャルを最大限に引き出しつつ、企業文化を革新する道筋を示しています。
「プラチナ企業」になることが、直接的に業績アップに繋がるという研究結果もあります。従業員の働きがいと働きやすさを最適化することで、企業文化が強化され、その結果として生産性が向上し、業績アップに寄与するとされています。
具体的には、従業員の満足度が高い企業は、低い満足度の企業に比べて生産性が高く、長期的には株価にもポジティブな影響を与えるという研究結果が報告されています。たとえば、アメリカの研究においては、従業員満足度が高い企業の株価が、低い企業に比べて過去数年間でより高い成長を示したことが明らかにされています。これは、従業員のモチベーションの向上が直接的な生産性向上に繋がり、それが企業業績の向上という形で表れるためです。
また、日本でも、従業員のエンゲージメントが高い企業は、低い企業に比べて売上高成長率や利益率が高い傾向にあるとの報告があります。特にサービス業など人的資本が企業資産の大きな部分を占める業種において、この傾向は顕著です。
プラチナ企業への進化は、ただ働きやすさを追求するだけではなく、従業員一人ひとりが自らの仕事に誇りと充実感を持ちながら働くことができる環境を整えることで、最終的に企業の業績アップに繋がることが示されています。
プロフィール
一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二
1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。
Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会
- 第62回 女性活躍推進法の改正がもたらす未来と企業への影響
- 第61回 大企業でも導入が進む「パーソナル雇用制度」
- 第60回 最低賃金1500円時代における給与の決め方
- 第59回 顧客からの理不尽な要求にどう対応するか~カスタマーハラスメントの現状と対策(その3)
- 第58回 顧客からの理不尽な要求にどう対応するか~カスタマーハラスメントの現状と対策(その2)
- 第57回 顧客からの理不尽な要求にどう対応するか~カスタマーハラスメントの現状と対策
- 第56回 中小企業が注目すべきミドル世代の賃金上昇と転職動向~経験豊富な人材の採用でビジネス成長を加速
- 第55回 中小企業が賃金制度を考えるときに知っておきたい基本ポイント
- 第54回 2024年10月からの社会保険適用拡大、対応はお済みですか?
- 第53回 企業と競業避止契約の今後を考える
- 第52回 令和7年度 賃上げ支援助成金パッケージ:企業の成長と持続的な労働環境改善に向けて
- 第51回 解雇の金銭解決制度とその可能性 〜自民党総裁選における重要テーマ〜
- 第50回 令和7年度予算概算要求:中小企業経営者が注目すべき重要ポイントと支援策
- 第49回 給与のデジタル払いの導入とその背景
- 第48回 最低賃金改定にあたって注意すべきこと
- 第47回 最低賃金50円アップ時代に中小企業がやるべきこと
- 第46回 本当は怖い労働基準監督署の調査その4
- 第45回 本当は怖い労働基準監督署の調査(その3)
- 第44回 本当は怖い労働基準監督署の調査 その2
- 第43回 本当は怖い労働基準監督署の調査
- 第42回 初任給横並びをやめたパナソニックHD子会社の狙い
- 第41回 高齢化社会と労働力不足への対応:エイジフレンドリー補助金の活用
- 第40回 助成金を活用して人事評価制度を整備する方法
- 第39回 採用定着戦略サミット2024を終えて
- 第38回 2025年の年金制度改革が中小企業の経営に与える影響
- 第37回 クリエイティブな働き方の落とし穴:裁量労働制を徹底解説
- 第36回 昭和世代のオジサンとZ世代の若者
- 第35回 時代に合わせた雇用制度の見直し: 転勤と定年の新基準
- 第34回 合意なき配置転換は「違法」:最高裁が問い直す労働契約の本質
- 第33回 経営課題は「現在」「3 年後」「5 年後」のすべてで「人材の強化」が最多
- 第32回 退職代行サービスの増加と入社後すぐ辞める若手社員への対応
- 第31回 中小企業の新たな人材活用戦略:フリーランスの活用と法律対応
- 第30回 「ホワイト」から「プラチナ」へ:働き方改革の未来像
- 第29回 初任給高騰時代に企業が目指すべき人材投資戦略
- 第28回 心理的安全性の力:優秀な人材を定着させる中小企業の秘訣
- 第27回 賃上げラッシュに中小企業はどのように対応すべきか?
- 第26回 若者の間で「あえて非正規」が拡大。その解決策は?
- 第25回 「年収の壁」支援強化パッケージって何?
- 第24回 4月からの法改正によって労務管理はどう変わる?
- 第23回 4月からの法改正によって募集・採用はどう変わる?
- 第22回 人材の確保・定着に活用できる助成金その7
- 第21回 人材の確保・定着に活用できる助成金その6
- 第20回 人材の確保・定着に活用できる助成金その5
- 第19回 人材の確保・定着に活用できる助成金その4
- 第18回 人材の確保・定着に活用できる助成金その3
- 第17回 人材の確保・定着に活用できる助成金その2
- 第16回 人材の確保・定着に活用できる助成金その1
- 第15回 リモートワークと採用戦略の進化
- 第14回 「社員」の概念再考 - 人材シェアの新時代
- 第13回 企業と労働市場の変化の中で
- 第12回 その他大勢の「抽象企業」から脱却する方法
- 第11回 Z世代から選ばれる会社だけが生き残る
- 第10回 9割の中小企業が知らない「すごいハローワーク採用」のやり方(後編)
- 第9回 9割の中小企業が知らない「すごいハローワーク採用」のやり方(前編)
- 第8回 中小企業のための「集めない採用」~ まだ穴のあいたバケツに水を入れ続けますか?
- 第7回 そもそも「正社員」って何ですか? - 新たな雇用形態を模索する時代へ
- 第6回 成功事例から学ぶ!パーソナル雇用制度を導入した企業の変革と成果
- 第5回 大手企業でも「パーソナル雇用制度」導入の流れ?
- 第4回 中小企業の採用は「働きやすさ」で勝負する時代
- 第3回 プロ野球選手の年俸更改を参考にしたパーソナル雇用制度
- 第2回 パーソナル雇用制度とは? 未来を切り開く働き方の提案
- 第1回 「労働供給制約社会」がやってくる!