中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第95回

人手不足を解決する新戦略「スポットワーク」 ―今すぐ始められる柔軟な人材活用術―

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

1. はじめに

今、日本の労働市場が大きく変わっています。少子高齢化が進み、働き手は減る一方で、人々の働き方に対する考え方も多様化しています。「決まった時間に決まった場所で長時間働く」という従来の働き方だけでは、もはや十分な人材を確保することが難しくなっているのが現実です。

特に中小企業の経営者の皆さんは、この人手不足を日々肌で感じているのではないでしょうか。正社員を雇いたくても応募者がいない、パートを募集しても集まらない、急に従業員が休んでも代わりの人がいない…そんな悩みを抱える企業は少なくありません。

そこで近年注目を集めているのが「スポットワーク」という新しい働き方です。スマートフォンのアプリを使って、必要な時に必要な分だけ働いてもらえるこの仕組みは、従来の雇用の常識を大きく変える可能性を秘めています。

本コラムでは、中小企業の経営者や人事担当者の方々に向けて、スポットワークとは何なのか、どんなメリットがあるのか、そして活用する際にどんな点に注意すべきなのかを、できるだけ分かりやすくお伝えします。新しい働き方を理解し、上手に活用することで、人材確保の課題を解決し、より柔軟で効率的な経営を実現していただければと思います。



2. スポットワークとは何か

<スポットワークの定義と特徴>

スポットワークとは、簡単に言えば「その日だけ、数時間だけ働く」という新しい雇用の形です。正式には「時間単位や半日単位などの短時間から、単発・短期で雇用契約を結び労働する働き方」と定義されています。

従来の正社員雇用やパートタイム雇用とは大きく異なる特徴があります。まず、雇用期間が非常に短いこと。数時間から1日程度の単発での契約が基本です。次に、デジタルプラットフォーム(スマホアプリなど)を通じて、働き手と企業が直接つながること。そして、働く人が自分の都合に合わせて、好きな時に好きな仕事を選べることです。

例えば、飲食店で急に従業員が休んでしまった時、従来であれば他の従業員に残業をお願いしたり、店長が代わりに入ったりするしかありませんでした。しかしスポットワークなら、アプリで「今日の夕方、ホールスタッフ1名募集」と投稿すれば、近所にいる働き手がすぐに応募してくれる可能性があります。


<日雇い労働者や日雇い派遣との違い>

「それって昔からある日雇い労働と同じじゃないの?」と思われる方もいるでしょう。確かに「その日限りで働く」という点では似ていますが、重要な違いがあります。

まず、従来の日雇い労働は、多くの場合、建設現場や工場などで朝早くから働き手が集まり、その場で仕事を決めるという形でした。一方、スポットワークはデジタルプラットフォームを通じて事前にマッチングが行われ、労働条件も明確に示されます。

また、日雇い派遣との違いも重要です。日雇い派遣は派遣会社が労働者を企業に派遣する形ですが、スポットワークは企業が直接労働者と契約を結びます。実は、日雇い派遣は原則として法律で禁止されているため、この違いは法的にも重要な意味を持ちます。


<デジタルプラットフォームの役割>

スポットワークの普及を支えているのは、「タイミー」「シェアフル」といったマッチングアプリです。これらのプラットフォームは、単なる求人サイトを超えた機能を提供しています。

企業側は、求人の掲載から応募者の管理、勤怠記録、給与の計算・振込まで、すべてをアプリ上で行うことができます。働く人も、仕事を探すところから応募、勤務時間の記録、給与の受け取りまで、スマホ一つで完結できます。

これまで人材を一人雇うために必要だった面接の設定、雇用契約書の作成、勤怠管理システムへの登録、給与計算といった作業の多くが自動化され、企業の負担は大幅に軽減されています。


<労働法的な位置づけ>

スポットワークが従来の雇用形態と大きく異なるとはいえ、労働者として働く以上、労働基準法などの法律が適用されます。厚生労働省は、スポットワークにおいて応募時点で労働契約が成立するという見解を示しており、企業には最低賃金の支払い、時間外労働に対する割増賃金の支払い、場合によっては休業手当の支払いなどの義務があります。

「短時間だから」「単発だから」といって法律の適用が緩くなるわけではありません。むしろ、新しい働き方だからこそ、法律をしっかり理解して適切に運用することが重要です。



3. 中小企業におけるスポットワークの活用メリット

<短時間・単発で必要なときに人手確保>

スポットワークの最大のメリットは、「必要な時に、必要な分だけ」人手を確保できることです。従来の雇用では、人手が足りない時期に合わせて人を雇うと、閑散期には人件費が重くのしかかりました。逆に、平常時に合わせて人数を調整すると、繁忙期には人手不足に陥ってしまいます。

例えば、小売店では夕方から夜にかけて客数が増える傾向があります。この時間帯だけスポットワーカーを活用すれば、一日中人件費をかけることなく、必要な時間帯だけサービスレベルを上げることができます。

また、従業員の急な欠勤や退職、季節的な繁忙期への対応など、予測が難しい人手不足にも柔軟に対応できます。正社員の採用には時間がかかりますが、スポットワークなら即日対応も可能です。


<採用コスト・研修コストの削減>

従来の採用活動では、求人広告の掲載費、面接の実施、雇用契約書の作成など、一人を雇うために多くの時間とコストがかかりました。面接には経営者や管理職の時間も必要で、特に中小企業では大きな負担となっていました。

スポットワークでは、多くの場合面接は不要です。プラットフォーム上で労働者の過去の評価や経験を確認し、募集条件に合致していれば即座に採用できます。また、短時間・単発の業務が中心となるため、複雑な研修も必要ありません。基本的な業務内容や安全に関する最低限の説明で済むことが多く、研修コストも大幅に削減できます。


<労務管理の効率化>

従来の雇用管理では、タイムカードの集計、給与計算、各種保険の手続きなど、多くの事務作業が発生していました。特に小規模な企業では、これらの作業が経営者や少数の事務スタッフに集中し、本来の業務を圧迫することも少なくありませんでした。

スポットワークのプラットフォームでは、勤怠記録から給与計算、振込手続きまでが自動化されています。労働者はアプリで出退勤を記録し、システムが自動的に労働時間を集計し、給与を計算します。企業は確認・承認するだけで、複雑な計算や手続きは不要です。

労災保険の手続きについても、多くのプラットフォームでサポート機能が提供されており、事故が発生した際の対応も従来より簡単になっています。


<多様な人材層活用による裾野拡大>

スポットワークには、従来の正社員雇用やパートタイム雇用では働くことが難しかった人たちが多く参加しています。例えば、子育て中の主婦で「子供が学校に行っている間だけ働きたい」という人、大学生で「授業のない時間を有効活用したい」という人、定年退職後のシニアで「週に数回、短時間だけ働きたい」という人などです。

これらの人材は、従来の雇用形態では活用が難しかった貴重な労働力です。特に昼間の時間帯や、平日の特定の時間帯など、従来は人手確保が困難だった時間帯の業務に最適です。

また、外国人留学生なども多く参加しており、国際的な視点や語学力を活かした業務を依頼することも可能です。人材の多様性は、企業にとって新たなアイデアやサービス改善のヒントをもたらすこともあります。


<生産性向上への寄与>

適切な人数配置により、従業員一人ひとりの負担を適正化できるのも大きなメリットです。人手不足の状況では、少数の従業員に過大な負担がかかり、疲労やストレスから生産性が低下したり、離職につながったりするリスクがあります。

スポットワークで必要な時に必要な人手を確保することで、既存の従業員は本来の業務に集中でき、結果として全体の生産性向上につながります。また、急な欠勤などで業務が滞ることを防げるため、顧客サービスの質を維持することもできます。



4. スポットワーク活用にあたっての具体的なステップ

<ステップ1:自社の業務ニーズを整理>

スポットワークを効果的に活用するためには、まず自社のどの業務をスポットワークで補うかを明確にする必要があります。

具体的には以下の点を検討してください:

・時間帯の分析

 いつの時間帯に人手が不足しやすいか、繁忙時間はいつかを把握します。飲食店なら昼食・夕食時、小売店なら夕方から夜間、オフィス系なら特定
 の曜日や月末など、業種によってパターンは異なります。

・業務内容の整理

 スポットワーカーに任せられる業務と、正規従業員でなければできない業務を区別します。接客、清掃、データ入力、梱包作業などは比較的任せや
すい業務です。

・必要スキルの明確化

その業務に特別な技能や経験が必要か、未経験者でも対応可能かを整理します。これにより、募集時の条件設定が明確になります。

・人数と頻度

一回あたり何人必要か、週に何回程度必要かを具体的に想定します。これがコスト計算の基礎になります。


<ステップ2:マッチングサービスの選定と求人掲載>

現在、日本では複数のスポットワークプラットフォームが運営されています。主要なものには「タイミー」「シェアフル」などがありますが、それぞれに特徴があります。

・選定のポイント

 - 対応エリア(自社の所在地で利用できるか)

 - 登録者数(より多くの候補者にアプローチできるか)

 - 業種の得意分野(飲食業に強い、オフィスワークに強いなど)

 - 手数料体系(時給に対する手数料率)

 - サポート体制(トラブル時の対応、使い方のサポートなど)

・求人掲載のコツ

 求人情報は正確で分かりやすく記載することが重要です。曖昧な表現は後々のトラブルの元になります。

 - 業務内容: 具体的に何をするのかを明記

 - 勤務地: 最寄り駅からの距離、目印となる建物など

 - 勤務時間: 開始・終了時刻を明確に

 - 時給: 最新の最低賃金以上であることを確認

 - 服装: 制服貸与の有無、私服の場合の注意点

 - 応募条件: 年齢制限、経験の要否など


<ステップ3:労働条件の明示と契約成立の理解>

スポットワークでは、応募時点で労働契約が成立するとされています。これは従来の採用プロセスとは大きく異なる点で、十分な理解が必要です。

・契約成立のタイミング

 労働者が応募し、企業が承認した時点で契約成立となります。面接を経てから決定するわけではないため、募集時の情報が契約内容となります。

・労働条件の明示義務

 労働基準法により、労働条件は事前に明示する義務があります。プラットフォーム上での情報提供がこれに該当するため、正確で詳細な情報を掲載 
 することが重要です。

・変更時の対応

 契約成立後に労働条件を変更する場合は、労働者の同意が必要です。一方的な変更はできません。


<ステップ4:勤怠管理・賃金支払い体制の構築>

・勤怠記録

 ほとんどのプラットフォームでは、アプリを使った出退勤記録機能があります。労働者はスマートフォンで出勤・退勤時刻を記録し、企業側は管理 
 画面で確認・承認します。

・労働時間の把握

 休憩時間の管理や、時間外労働が発生した場合の対応方法を事前に決めておきます。特に8時間を超える勤務や、深夜勤務の場合は割増賃金の支払い
 が必要です。

・給与支払い

 多くのプラットフォームでは即日払いや週払いなど、従来より早い支払いサイクルに対応しています。資金繰りに影響しないよう、支払いスケジュ
 ールを確認しておきましょう。


<ステップ5:労災保険・安全衛生管理の整備>

スポットワーカーも労働者である以上、労災保険の加入義務があります。また、職場での安全確保は企業の責任です。

・労災保険

 短時間・単発の労働者も対象となります。事故が発生した場合の報告体制や、プラットフォームのサポート機能を事前に確認しておきます。

・安全教育

 短時間勤務だからといって安全教育を省略できません。最低限の安全注意事項は必ず説明し、危険な作業がある場合は十分な指導を行います。

・ハラスメント防止

 既存の従業員に対するのと同様に、ハラスメント防止対策を講じる必要があります。短時間の勤務だからこそ、第一印象が重要になります。



5. スポットワーク活用時の留意点・リスク管理

<労務管理の基本ルールを守る>

スポットワークだからといって、労働基準法の適用が緩くなるわけではありません。基本的な労務管理ルールは通常の雇用と同様に適用されます。

・最低賃金の確保

 各都道府県の最低賃金以上の時給を設定する必要があります。最低賃金は年度ごとに改定されるため、定期的な確認が必要です。

・労働時間の正確な把握

 開始時刻と終了時刻を正確に記録し、実労働時間を把握します。「だいたい○時間」という曖昧な管理は法的リスクを伴います。

・割増賃金の支払い

 1日8時間、週40時間を超える労働や、深夜労働(午後10時から午前5時)に対しては割増賃金の支払いが必要です。

・休憩時間の確保

 労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与える必要があります。


<契約成立時期とキャンセル対応のルール設定>

スポットワークでは応募時点で契約が成立するため、その後のキャンセルについては慎重な対応が必要です。

・企業都合のキャンセル

 企業側の都合でキャンセルする場合、休業手当(平均賃金の6割以上)の支払いが必要になる場合があります。天災など不可抗力の場合を除き、基本
 的には約束通り勤務してもらうか、適切な補償を行う必要があります。

・労働者都合のキャンセル

 労働者側のキャンセルについても、一定のルールを設けることが重要です。ただし、過度に厳しいペナルティは法的に問題となる可能性がありま
 す。

・キャンセル期限の設定

  「勤務開始の何時間前までならキャンセル可能」といったルールを明確にし、募集時に明示しておくことが重要です。


<複数スポットワーク掛け持ちの労働時間通算リスク管理>

スポットワークを利用する人の中には、複数の企業で働いている人も少なくありません。この場合、労働時間の通算により、思わぬ割増賃金の支払い義務が発生する可能性があります。

・労働時間通算の原則

 複数の事業場で働く場合、労働時間は通算されます。他社での労働時間と合算して1日8時間、週40時間を超える部分は、時間的に後から契約した企
 業が割増賃金を支払う義務があります。

・申告の推奨

 労働者に対し、他社での労働状況について申告を推奨することが重要です。ただし、強制することはできません。

・リスクの軽減策

 勤務時間を短めに設定する、連続勤務を避けるなど、リスクを軽減する工夫を行います。


<ハラスメント防止と安全衛生対策>

短時間勤務だからといって、ハラスメント防止や安全配慮が不要になるわけではありません。

・ハラスメント防止

 既存の従業員に対し、スポットワーカーも同じ労働者であることを周知し、適切な接し方について指導します。特に、「短時間だから」「すぐ辞め
 るから」といった理由で雑な扱いをすることは避けなければなりません。

・安全衛生の確保

 業務に関する安全教育は必須です。特に、初めて来る職場では勝手が分からないため、通常以上に丁寧な説明が必要です。

・職場環境の整備

 更衣室やロッカーの提供、休憩場所の確保など、働きやすい環境を整備することで、トラブルの防止とサービスの質向上を図ります。


<労働条件通知義務・記録保存の徹底>

・労働条件の通知

 労働基準法により、労働条件の明示義務があります。プラットフォーム上での情報提供がこれに該当しますが、重要な変更があった場合は改めて通
 知が必要です。

・記録の保存

 労働時間、賃金の記録は3年間の保存義務があります。デジタルプラットフォームを利用していても、必要に応じて記録を取得・保存できる体制を整 
 えておきます。

・証拠の確保

 トラブルが発生した際の証拠として、やり取りの記録や労働条件の変更履歴などを適切に管理します。


<トラブル発生時の相談窓口・対応の用意>

・相談窓口の設置

 労働者からの問い合わせや相談に対応できる窓口を設置します。プラットフォーム経由での連絡だけでなく、直接の連絡手段も用意しておくことが
 望ましいです。

・迅速な対応

 短時間勤務のため、問題が発生してから解決までの時間的余裕が少ないことが多いです。迅速かつ誠実な対応ができる体制を整えます。

・記録の作成

 トラブルの内容と対応結果は記録に残し、今後の改善に活かします。同様のトラブルが再発しないよう、システムや手順の見直しも検討します。



6. ケーススタディ:スポットワーク導入成功事例/失敗事例

<成功事例:地元密着型カフェの場合>

東京都内で小さなカフェを経営するA社長は, 平日の昼間時間帯の人手不足に悩んでいました。正社員は朝と夕方の忙しい時間に配置したいが、昼間の比較的落ち着いた時間帯のために新たに人を雇うほどの余裕はありませんでした。

そこでスポットワークを導入し、平日11時~15時の時間帯に限定してスポットワーカーを募集しました。時給は地域相場より若干高めに設定し、「アットホームなカフェで接客業務」として募集をかけました。

結果として、近所在住の主婦の方や、午前中の授業が終わった大学生などが定期的に応募してくれるようになりました。同じ人が週に2~3回来てくれることも多く、業務に慣れてもらえるため教育コストも最小限で済みました。

・成功の要因

 - 業務内容を明確に限定(接客のみ、レジ操作は正社員が対応)

 - 地域相場を調査した適正な時給設定

 - 初回勤務時の丁寧なオリエンテーション

 - リピーターになってもらえるような良好な職場環境作り

 - 既存スタッフへの事前説明と協力要請

A社長は「最初は不安もありましたが、今では昼間の戦力として欠かせない存在です。正社員の負担も軽減され、サービス品質も向上しました」と語っています。


<失敗事例:小規模小売店の場合>

郊外で雑貨店を営むB店長は、週末の売上アップを目指してスポットワークを導入しました。しかし、準備不足により多くのトラブルが発生しました。

まず、労働契約の成立時期について理解が不十分で、「面接してから決める」つもりでいたところ、応募者からは「契約が成立したはず」と主張されました。結果として、面接で不採用とした応募者から休業手当の請求を受けることになりました。

また、勤務時間の管理も曖昧で、「だいたい8時間」という程度の認識でした。しかし実際には休憩時間を除いて8時間15分の勤務となり、15分分の時間外労働に対する割増賃金の支払いが必要となりました。さらに、安全教育を十分に行わなかったため、商品の移動中に軽い怪我が発生し、労災対応に追われることになりました。

最終的に、労働基準監督署から指導を受け、労務管理体制の見直しを余儀なくされました。

・失敗の原因

 - 契約成立時期に関する理解不足

 - 労働時間管理の甘さ

 - 安全教育の不備

 - 法令知識の不足

 - 事前準備の不十分さ

B店長は「手軽に人手を確保できると思って始めましたが、実際にはきちんとした準備と知識が必要でした。今は社会保険労務士の先生に相談しながら、適切な運用を心がけています」と反省を込めて語っています。


<両事例から学ぶべきポイント>

成功事例と失敗事例を比較すると、スポットワーク導入成功の鍵が見えてきます。

・事前準備の重要性

 成功事例では業務内容の明確化や時給設定の調査など、十分な準備を行っていました。一方、失敗事例では法的知識の不足や管理体制の不備が問題
 となりました。

・継続的な関係構築

 成功事例では同じスポットワーカーに繰り返し来てもらえる環境を作り、教育コストの削減と品質向上を実現しました。

・法令遵守の徹底

 失敗事例では基本的な労働法の理解不足が大きなトラブルにつながりました。新しい働き方だからこそ、基本的なルールの遵守が重要です。

・既存スタッフとの連携

 成功事例では既存スタッフへの説明と協力要請を行い、スムーズな受け入れ体制を作りました。



7. 今後の展望と経営者へのメッセージ

スポットワークは、まだ始まったばかりの新しい働き方です。しかし、その可能性は非常に大きく、今後さらに発展していくことが予想されます。

・技術の進歩

 AIやマッチング技術の向上により、より精度の高いマッチングが可能になるでしょう。企業のニーズと労働者のスキル・希望がより適切に組み合わ 
 され、双方の満足度向上が期待されます。

・法制度の整備

 現在も政府レベルでスポットワークに関する法制度の検討が進められています。より明確なルール作りにより、企業も労働者も安心して利用できる
 環境が整備されるでしょう。

・働き方の多様化

 コロナ禍を経て、働き方に対する価値観は大きく変化しました。「決まった時間に決まった場所で働く」ことだけが働き方ではないという認識が広
 がり、スポットワークの需要はさらに高まると予想されます。

・社会保障制度との連携

 将来的には、スポットワークに特化した社会保障制度の検討も進むかもしれません。短時間・単発労働者の権利保護と企業の負担軽減を両立する仕 
 組みが整備される可能性があります。

中小企業の経営者の皆さんには、この新しい潮流を単なる「人手不足の応急処置」として捉えるのではなく、「経営戦略の一部」として活用していただきたいと思います。

適切に活用すれば、スポットワークは単なるコスト削減手段を超えて、事業の柔軟性向上、サービス品質の安定化、既存従業員の働きやすさ向上など、多面的なメリットをもたらします。しかし、そのためには正確な知識と適切な準備が不可欠です。


<経営者として心がけるべきポイント>:

まず、最新の情報収集を怠らないことです。法制度は変化し続けており、プラットフォームの機能も日々改善されています。定期的に情報をアップデートし、より良い活用方法を模索し続けてください。

次に、労働者の視点を忘れないことです。スポットワークを選ぶ人たちにも、それぞれの事情や希望があります。単なる「安い労働力」として扱うのではなく、貴重なパートナーとして尊重し、良好な関係を築くことが長期的な成功につながります。

そして、リスク管理を徹底することです。新しい仕組みには新しいリスクが伴います。しかし、適切な準備と管理により、これらのリスクは十分にコントロール可能です。不安な点があれば、社会保険労務士などの専門家に相談することも重要です。



8. まとめ

スポットワークは、従来の雇用の枠組みを超えた革新的な働き方です。デジタル技術の活用により、「必要な時に、必要な分だけ」人材を確保できる仕組みは、人手不足に悩む中小企業にとって強力な解決手段となり得ます。


<スポットワークの主なメリット>

- 柔軟な人材確保による業務効率化

- 採用・研修コストの大幅削減

- デジタルプラットフォームによる労務管理の効率化

- 多様な人材層の活用による可能性の拡大

- 既存従業員の負担軽減と生産性向上

一方で、新しい働き方だからこそ注意すべき点も多くあります。


<重要な留意点>

- 労働基準法等の法令遵守の徹底

- 契約成立時期とキャンセル対応の明確化

- 労働時間管理と割増賃金の適切な対応

- ハラスメント防止と安全衛生対策

- 記録保存とトラブル対応体制の整備


成功の鍵は、十分な事前準備と継続的な改善にあります。業務内容の明確化、適正な労働条件の設定、法令知識の習得、そして労働者を大切にする姿勢が重要です。

スポットワークは「魔法の解決策」ではありません。しかし、適切に活用すれば、中小企業の経営に大きなメリットをもたらす有効な手段です。人材確保の課題を抱える経営者の皆さんには、まず小さな規模から始めて、徐々に運用を改善していくことをお勧めします。

変化する労働市場の中で、企業も働く人も互いに満足できる新しい働き方の実現に向けて、スポットワークという選択肢を前向きに検討していただければと思います。適切な知識と準備をもって臨めば、必ずや皆さんの企業経営にプラスの効果をもたらすはずです。

働き方が多様化する時代だからこそ、経営者も柔軟な発想と適応力が求められます。スポットワークを通じて、より強靭で柔軟な経営基盤を築いていただけることを期待しています。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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