企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第56回
シニアの知恵をテレワークで活用する ──プロ人材の活用と生涯現役を支えるインフラ
株式会社aubeBiz 酒井晶子
第50回では、シニア人材の活躍について全体像をお伝えしました。
今回は視点をもう少し絞り込み、「プロフェッショナル人材・エグゼクティブ人材」という存在について考えてみたいと思います。
役職定年を迎えた方、あるいはセカンドキャリアとして転職や複業という選択肢を意識し始めた方。
そうしたタイミングで、「これまでの経験や知識を、もっと社会のために活かしたい」と願う、経験豊富なプロフェッショナルが増えているように感じています。
大手企業などで長年培ってきた判断力や課題解決の実践力、そして築いてきた人脈を、次の場所でどう活かしていくか。
私たちaubeBizが10年以上、テレワークや外部人材の活用を経営の現場で実践してきた中で感じているのは、テレワークとAIという現代の環境こそが、その力を解き放つ理想的なインフラになりつつあるということです。
「プロフェッショナル人材」という新しい働き方
定年後の再雇用や、社内での継続雇用という形は、これまでも多くの企業で取り組まれてきました。
今回考えてみたいのは、それとは少し違う「外部プロ人材」という関わり方です。
長年、経営企画や営業、技術、財務といった専門分野の第一線で活躍してきたエグゼクティブ人材が、一つの組織に固定されることなく、複数の企業の経営課題に週数時間単位で関わっていく。
そうした働き方が、少しずつ広がりを見せているように感じています。
第53回で複業人材の活用についてお伝えしましたが、経験を重ねてきたプロフェッショナル人材の強みは、その中でも「判断力の深さ」と「人脈の厚み」にあります。
日々のオペレーションに追われがちな組織に対して、外部の客観的な視点から「真の課題がどこにあるか」を見抜き、解決の道筋を示す。
第50回で触れた「AIには代替できない判断力・決断力・人脈」というテーマを具体的に捉え直したとき、この独自の価値は、変化の激しい現代において組織に大きな変革をもたらす力を秘めているのではないかと感じています。
どんな人が向いているのか?
大手企業で培った経験や実績は、確かに大きな財産です。
けれど、「自分のやり方が絶対的に正しい」という前提を持ったまま上から指導しようとするスタンスでは、中小企業や地域企業との関係構築はうまくいきません。
経営者が求めているのは、指示出しをするアドバイザーではなく、共に汗をかいてくれる仲間だからです。
向いているのは、自身の知見や実践力、人脈を携えつつも、若い世代や新しいツールに対してオープンでいられる方だと感じています。
「自分が教える立場だ」と身構えるのではなく、「一緒に新しい価値を作ろう」という姿勢で関われること。「そんな素晴らしい人が本当にいるのか」と思われるかもしれません。
ですが、長年のキャリアの中で自分の限界や他者への感謝を知っているからこそ、そうした謙虚さと探求心を持ち続けているプロフェッショナルに、私たちは数多くお会いしてきました。
そうした層は、実は思っている以上にたくさんいらっしゃるのではないかと感じています。
AIがITスキルの壁を越える
プロフェッショナル人材の中には、これまでデジタルツールに距離を置いてきた方も少なくありませんでした。
複雑な操作や画面への戸惑いが、その理由の一つだったのではないかと想像します。
しかし、AIの急速な進化は、その前提を根底から変えつつあります。
特別なプログラミング言語を覚える必要はありません。
日常の言葉で指示するだけで、AIは情報収集やデータ整理、下書きの作成を一瞬でこなしてくれます。
つまりAIは、ITスキルの壁を取り払い、人間の思考力や判断力を最大化するためのパートナーになり得るのです。
AIが情報収集や整理などの下ごしらえを担い、プロフェッショナルが判断や決断、人間関係の構築を担う。
そうした役割分担が、現場では具体的な形を取り始めています。
長年の経験から来る「この情報のどこが重要か」「この状況でどの選択肢を取るべきか」という判断は、AIが大量の情報を提示してくれるからこそ、かえって価値を増しているように感じています。
「問いの質」が成果を決めるAIの時代に、何を問うべきかを知っているのは、まさに現場で数々の苦労を重ねてきたプロフェッショナル人材なのではないでしょうか。
テレワークが「生涯現役」を可能にする
体力の衰えや長時間の通勤といった負担が、これまで多くの優れた人材を第一線から退かせてきた、という現実があります。
テレワークというインフラは、そうした物理的な制約を外してくれます。
自宅という安心できる環境から、週に数時間だけ特定のプロジェクトに関わる。
こうした柔軟な関わり方が可能になることで、「完全な引退」か「フルタイム労働」かという二者択一ではなく、「形を変えて長く情熱を注ぎ続ける」という新たな選択肢が生まれてきます。
第48回で「場所の解放」についてお伝えし、第51回では「戻ってきていい」という設計についてお話ししました。
「無理して続けなくていい」「形を変えて関わり続けられる」という設計は、経験豊富なプロフェッショナル人材にとっても全く同じように機能するものだと考えています。
また、こうした関わり方を安心して続けていただくためには、コミュニケーション設計も欠かせません。
第52回でお伝えした「デジタル・オアシス」のように、日常のちょっとした雑談や感謝が交わされる孤立させない仕組みづくりが、ここでも土台になっていくのではないかと感じています。
すべての世代が「長く関わり続けられる場所」へ
「生涯現役」という言葉があります。
それは単に「何歳になっても働き続ける」ということではなく、人生のどのステージにいても「自分の培ってきた力が、誰かの役に立っている」という手応えを持ち続けることなのではないでしょうか。
経験豊富なプロフェッショナルが活き活きと力を発揮できる組織は、そこで働く若い世代にとっても、将来にわたって安心感を持てる「長く関わり続けられる場所」になっていくのだと信じています。
あなたの周りや、あなたご自身の心の中にも、「まだまだ自分の力を社会に使いたい」と感じているプロフェッショナルがきっといらっしゃるのではないでしょうか。
次回は地方発・世界へ──デジタルを使えば、マーケットに「境界線」はない
テレワークとデジタルツールが当たり前になった今、マーケットの境界線は急速に薄れています。
地方にいながら都市部の、そして海外の仕事に関わる。
その可能性と、実現するための発想の転換についてお届けします。
プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
【著書】
『地域循環が生まれ、関係人口が育まれる ローカル・テレワーク®︎』
「働きたいのに、働けない」という原体験から生まれた本書は、移住・観光に依存しない新しい地域との関わり方を提唱。テレワークを活用して人と仕事をつなぎ直す「ローカル・テレワーク」を、15年以上の実践と下関市でのモデル構築をもとに体系化。自治体・企業・地域リーダーに向けた、再現性ある地域づくりの実務書です。Amazonランキング10部門で1位を獲得。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第56回 シニアの知恵をテレワークで活用する ──プロ人材の活用と生涯現役を支えるインフラ
- 第55回 ワーケーションを福利厚生で終わらせない──合宿型ワークが生むイノベーション
- 第54回 観光以上、移住未満の「関係人口」が運ぶ、経営のヒント
- 第53回 「複業」が地域企業を強くする──外部人材をチームに招き入れる極意
- 第52回 孤独を防ぐデジタル・オアシス──リモート環境での「帰属意識」の作り方
- 第51回 「更年期・介護・病気」を隠さなくていい組織──ライフイベントを味方につける
- 第50回 AI活用とリスキリングでシニア人材が活躍できる組織へ──働き続けられる環境をつくる
- 第49回 ウェルビーイングを数字にする──「かも」が生産性を高めるエビデンス
- 第48回 人的資本経営の第一歩は「働く場所の解放」から始まる ──テレワークを福利厚生で終わらせない
- 第47回 経営者の右腕としてのAIとリモートチーム──「任せられる体制」は設計から始まる
- 第46回 AIに代替されない「安心提供力」の磨き方──オンライン時代の人間力
- 第45回 思考の余白をどう使うか ── AIによって生まれた時間を「関係性」に投資する
- 第44回 AI時代のマネジメント ──「管理」を捨て、「信頼」を設計する
- 第43回 マニュアル化はAI活用の鍵──仕組み化がAI活用の最短ルートである理由
- 第42回 「AI×テレワーク」で変わる、これからのBPO──スピードと「想い」の両立
- 第41回 生成AIは「作業」を奪い、「創造」を解き放つ──AI時代の共創パートナーシップ
- 第40回 未来を変える働き方──テレワークが導く「次の社会像」 ~自分らしく豊かに生きるための、新しい「組織」と「個人」のあり方~
- 第39回 持続可能な地域経済圏──テレワークでつくる共創エコシステム ~「外注」から「共創」へ。地域を動かす新しい経済の循環~
- 第38回 企業×地域×学校──共創型キャリア教育モデル ~地元の若者たちに「世界と繋がる選択肢」を届ける~
- 第37回 二拠点生活(デュアルライフ)とテレワーク──移住・関係人口の新しい形
- 第36回 BCPとBPO──災害に強い企業の新常識
- 第35回 働き方とウェルビーイング──幸せが生産性を高める理由
- 第34回 人材流動化の時代に「選ばれている会社」は何をしているのか? 〜給与でも制度でもない、“最後に見られているもの”〜
- 第33回 地域リーダーが拓く未来──ローカル・テレワーク・パートナーの力 〜企業と地域をつなぐ「新しいハブ人材」という選択肢〜
- 第32回 生成AIとBPOの未来──AI時代の“人と組織”の役割とは? 〜AIが当たり前になる時代に、企業やビジネスパーソンは何を強みにするのか〜
- 第31回 “全国採用”の時代──人材不足を突破する採用戦略 〜「求職者が来ない」から「選ばれる会社」へ、発想を切り替える〜
- 第30回 中小企業のDXとテレワーク──小さな一歩からの業務改革 〜属人化をほどき、手の届く範囲から未来志向の仕組みづくりへ〜
- 第29回 観光とワーケーション──“訪れる人”を“関わり続ける人”へ 〜テレワークだからできる、新しい関係人口づくり〜
- 第28回 BPOアワードから見えた未来──“外注”ではなく“共創”が、人材不足を超えていく~受賞社の取り組みが示す、これからのBPO活用の正解~
- 第27回 ダイバーシティとテレワーク──多様性が生むイノベーション 〜“働きづらさ”を“戦力化”へ変える、新時代の仕事づくり〜
- 第26回 自治体の挑戦──テレワーク推進政策の最前線 〜「施策」を現場で回す“仕組み”の作り方〜
- 第25回 教育とテレワーク──地域で育てる次世代キャリア 〜「地元で働きたい」を仕組みにする、教育×テレワーク〜
- 第24回 農業×テレワーク──デジタルで広がる“第六次産業化”の可能性 〜“つくる”と“伝える”をつなぐ、新しい地域のかたち〜
- 第23回 地方と企業をつなぐ“BPOモデル”の進化 ──自走型チームが地域経済を動かす 〜“任せる”から“共に創る”へ。地域BPOが生み出す新しい共創のかたち〜
- 第22回 「地方創生テレワーク」の進化形──自治体×企業×住民で生み出す『ローカル・テレワーク』 〜地域の人・企業・文化が輝く、循環型の“しごと生成エコシステム”〜
- 第21回 自治体・企業・住民でつくる 地方創生テレワーク推進モデル 〜“点”で終わらせない、持続可能な三者連携とは?〜
- 第20回 「“よくわからない”を乗り越える──テレワーク導入Q&A」 〜不安を解消し、最初の一歩を踏み出すために〜
- 第19回 「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」 〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
- 第18回 「“自走できる人材”を育てるマインドと環境づくり」 〜指示待ち型から“目的を理解し、動ける人材”へ〜
- 第17回 「“信頼される会社”の条件──テレワーク時代の組織文化とリーダーシップ」 〜制度や仕組みを超えて“信頼”を築く組織の土台とは〜
- 第16回 生成AIとテレワーク ──中小企業が直面する“AI格差”を乗り越えるには?
- 第15回 「地域×テレワーク」──地方創生ローカル・テレワーク 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
- 第14回 「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜
- 第13回 「“副業・複業人材”を活かす!兼業社会における新しい雇用戦略」 ── 多様なキャリアが交わる“パラレルワーカー”活用の可能性
- 第12回 「“スキマ時間”を活かす働き方──ワークシェアリングという選択肢」
- 第11回 「成功するテレワーク採用」 〜離れていても成果を出す組織づくりのヒント〜
- 第10回 「“全国から採用する時代”へ!採用戦略の発想を切り替えるヒント」 〜テレワークが生み出す“新しい雇用のかたち”〜
- 第9回 「BPOとBCP」―― 有事の際の事業継続に備える新常識
- 第8回 ーDX化の第一歩となる業務改革ー「属人化を防ぐ仕事の仕組み化」
- 第7回 完全テレワークでも離職率5%未満を実現するチームづくりの秘訣 〜組織の土台を支える“仕組み”と“信頼文化”のつくり方〜
- 第6回 成長戦略としてのBPO活用法 〜“外注”にとどまらない、企業の柔軟性と競争力を高める選択肢〜
- 第5回 「テレワークは難しい?」──よくある誤解と“うまくいかない理由”を解きほぐす
- 第4回 地域で働く、地域を支える──「ローカル・テレワーク」という新しい仕組み
- 第3回 地方に眠るチカラを活かす!「地方創生テレワーク」の可能性
- 第2回 眠れる働くチカラ 「働きたいけれど働けない」潜在労働力を社会へ
- 第1回 これからの時代に選ばれる働き方とは? ― 少子高齢化・人材不足を乗り越える組織づくりのヒント
