企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第55回

ワーケーションを福利厚生で終わらせない──合宿型ワークが生むイノベーション

株式会社aubeBiz  酒井晶子

 

「ワーケーション」という言葉が広く社会に浸透して数年が経ちます。
コロナ禍をきっかけに、多様な働き方の一環として導入を試みた企業も少なくありません。
しかし経営者の方々と実務の現場でお話しをしていると、「一回やってみたけれど、社内イベントの延長で終わってしまった」「何が変わったのかよく分からなかった」という本音を伺うことも少なくないと感じています。
「リフレッシュになって楽しかった」という個人の思い出で終わってしまうものと、チームのあり方に本質的な変化をもたらすものの違いはどこにあるのでしょうか。
単なる「旅行+仕事」という枠組みを超え、場所を変えることが経営にどのようなインパクトをもたらすのか。
私たちaubeBizが10年以上、フルリモート組織を運営する中で実践してきた経験をもとに、経営者としての視点から考えてみたいと思います。 

「旅行+仕事」で終わらせない

ワーケーションが「福利厚生イベント」に留まってしまう最大の理由は、その目的が「リフレッシュ」に偏ってしまうからではないでしょうか。

・仕事を休まずに旅行ができた
・旅行先で気分を変えて仕事ができた
・仲間と一緒にワーケーションを行い交流ができた

など、非日常の体験は確かに新鮮で楽しいものですが、日常のオフィスやいつもの画面の前に戻った途端、元の空気感に引き戻されてしまいます。
これを組織の成長に繋がる「合宿型ワーク」として機能させるためには、場所の変化に加えて「そこから何を持ち帰るか」という事前の設計が必要です。
一方で、普段から画面越しにしか顔を合わせないフルリモートチームである私たちにとって、「ただ同じ空間に集まれるだけで嬉しい」というピュアな感情が出発点にあるのも正直なところです。
文字や画面の枠を超えて、同じ空間の空気を共有する。
それだけで、言葉にできない安心感や場の温まり方がまったく変わることを、私たちは身をもって実感してきました。
この「会えた喜び」という原体験を土台にしながら、いかに経営の次の一手へ繋げるかが鍵になります。

場所が変わると、人が変わる

なぜ、あえて拠点を離れて場所を変えることが、組織に変化をもたらすのでしょうか。
日常のオフィスや自宅という慣れ親しんだ環境では、人は無意識のうちに「いつもの役割」や「いつもの思考モード」の枠に収まってしまいがちです。
しかし、普段と違う景色や風の中に身を置くことで、思考を縛っていたフレームが自然と外れていくのを感じます。
「いつもなら言いにくい本音」や「ちょっと突飛なアイデア」が、ふっと口を突いて出てくるようになるのです。
また、慣れない土地で共に臨機応変に動くプロセスの中で、指示待ちではない能動的で自律的な動きがメンバーの間に生まれます。
さらに、訪れた地域に在住しているメンバーに案内してもらうことで、観光ガイドには載っていない「本物の地域の姿や課題」に触れることができます。
これは、前回のコラムでお伝えした、地域と深く繋がる「関係人口」の思想とも地続きの体験です。
日常から少し離れた環境だからこそ、第49回で触れた「〜かもしれない」という小さな仮説や、未来への兆しを生み出しやすい豊かな土壌が整うのではないかと思います。

合宿型ワークの「設計」──余白が価値を生む

では、具体的にどのような合宿を設計すればよいのでしょうか。
ここで重要になるのは、スケジュールをプログラムでびっしりと埋め尽くさないことです。
仕事、観光、そして何もしない遊びの時間をあえて混在させ、「余白」を意図的に残すことが実務的なポイントです。
ワークの時間には、日々の目の前の業務をこなすためではなく、例えば「テレワーク×地域活性で私たちに何ができるか」といった、可能性をどんどん広げる発散型のセッションを設けます。
ここでは役職に関係なく、参加者全員が主役であり対等です。
「地域の課題、日本の課題を、誰かが解決するのを待つのではなく、自分たちの手でどう変えられるか」という高い視座に、自然と全員が立つことができます。
普段のルーティンに追われているときにはどうしても後回しになってしまう「未来の種まき」を、この余白の時間で行うのです。

一緒に旅をすると、距離がグッと縮まる

この合宿型ワークがもたらす最も大きな副産物は、メンバー間の「関係性の深まり」にほかなりません。
机を並べて行うワークの時間よりも、実は「仕事の話をしていない時間」──
一緒に食事を選ぶとき、移動の車中で交わす他愛のない雑談、ふと見つめた景色の感想にこそ、信頼の種が詰まっています。
こうしたテキストベースのコミュニケーションでは絶対にすくい取れない細かなニュアンスが、関係性を一気に濃密にしていきます。
旅にトラブルはつきものです。
予定していたお店が閉まっていたり、天候が急変したりしたとき、それを「困ったね」と笑いながら一緒に乗り越えた体験こそが、チームの本当の結束を作ると感じています。
ここで培われた関係性は、日常の業務に戻ったときの驚くほどの「風通しの良さ」となって返ってきます。
これこそが、第52回でお伝えした、離れていても心が繋がる「帰属意識」の正体ではないでしょうか。

チームで「場所を変えて一緒に考える」経験

合宿型ワークは、単なる「非日常のイベント」ではありません。
日常の組織のあり方を、内側から変えていくための「未来への投資」であると信じています。
一度の合宿がチームの対話の質を変え、地域との新しい繋がりを生み、やがてメンバー一人ひとりの自律性と創造性を育てていく。
その積み重ねが、やがて経営の土台をじわじわと変えていくのではないかと感じています。


次回はシニアの知恵をテレワークで活用する──プロ人材の活用と生涯現役を支えるインフラ
豊富な経験と人脈を持つシニアのプロ人材が、テレワークとAIを活用することで、年齢や体力の制約を超えて活躍できる時代が来ています。
第50回でシニア活躍の全体像をお伝えしましたが、次回はより具体的に「プロ人材としてのシニアをどう活かすか」という実践的な話をお届けします。



 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。

【著書】

地域循環が生まれ、関係人口が育まれる ローカル・テレワーク®︎

「働きたいのに、働けない」という原体験から生まれた本書は、移住・観光に依存しない新しい地域との関わり方を提唱。テレワークを活用して人と仕事をつなぎ直す「ローカル・テレワーク」を、15年以上の実践と下関市でのモデル構築をもとに体系化。自治体・企業・地域リーダーに向けた、再現性ある地域づくりの実務書です。Amazonランキング10部門で1位を獲得。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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