第9回
昭和人間vs AI人間?
イノベーションズアイ編集局 広報アドバイザー 長野 香

今年8月から従来の健康保険証が完全に使えなくなる、という報道を見た。すでに昨年12月1日に従来の健康保険証の有効期限は終了していたのだが、「うっかり」などの特例対応が続いており、その対応がいよいよ終わるということだ。
私自身はマイナ保険証に移行しているものの、このような報道に接すると、なんとなく胸がザワザワする。なぜかというと、つい数ヶ月前に、かかりつけの歯科医院や区役所でマイナ保険証が使えないという経験をしたからだ。
マイナ保険証導入以来、大学病院などの大きな病院や比較的新しいクリニック、薬局などでは、LINEとの連携や独自のアプリなどにより、何から何までスマホで手続きができ、新しいサービスが日々進化していることを実感する。
ところが、先述の区役所は、とある手続きで健康保険情報を提示する必要がありマイナンバーカードを出したところ「この窓口には、まだ読み取り機が備わっていない」と言われたのだった。スマホでマイナ保険証を提示しようとしたところ、電波が弱くてなかなか接続できず、区役所の担当者は平謝りだった。今年5月のことだ。
マイナ保険証の本格利用は2021年10月とある(デジタル庁HP)から、約5年経過してもこの状況ということになる。
夢のキャッシュレス社会?
マイナ保険証だけでなく、キャッシュレス決済も店舗や事業者によって導入度が異なるため、馴染みのない場所や店舗に行く時は現金もクレジットカードも欠かせない。
交通系ICが利用できない電車やバスはまだまだ多く、旅行の際はある程度の現金を持たないと不安だ。これでは外国人旅行者も不便だろうと、余計なことまで心配になる。
「現金のみ」「キャッシュレスのみ」「◯円未満は現金のみ」など、支払い手段も多岐で戸惑うが、飲食店の場合は、オーダーの時から緊張を強いられる。紙などのメニューを見て食べたいもの、飲みたいものを選び、店員さんにオーダーする、という店舗がどんどん減っているからだ。
スマホでのオーダーには慣れてきたが、入り口の機器でオーダーと支払いを済ませてから着席するシステムの飲食店に初めて入った時は、かなり動揺した。しかも、現金専用とキャッシュレス専用の2種類の機器が置かれているではないか。まずはキャッシュレス専用機器の前に立ち、恐る恐る画面を操作し、なんとか最低限のオーダーと支払いを済ませることができた。やれやれと胸を撫で下ろしてふと振り返ると、諦めた様子で店を後にするシニア二人連れの後ろ姿が目に入った。
外食や買い物、通院などの日常生活の中に多種多様なシステムが混在し、便利になった部分もあるが、一部で機会損失になっていないかと、これまた余計な心配をする。
「AI人間だったよ!」
さて、昭和世代の中でも突出してデジタルツールに弱い我が夫が、先日、某都市銀行の窓口相談の予約を取ろうと最寄りの支店に電話したところ「コールセンターに電話するかネットで予約を取ってほしい」と言われ「数年前は電話で予約が取れたのに・・」と意気消沈。仕方なくネットで予約し、窓口に出かけたのだが、帰宅して「担当者はAIみたいだったよ」と漏らした。
つまり、こう言うことだ。
まず、定期的に送付されてくる書類について、わかりやすく説明してほしいと依頼したところ「毎回、ご確認して頂いているのですね」で終わりそうになった。「見てはいるが、専門用語が多くてよく理解できない」という趣旨が伝わらなかったらしい。
それでもなんとか知りたいことを聞き出し、次の手続きに進もうとしたところ、全てその銀行のアプリで対処できることだったため、担当者の説明に従ってアプリを導入し、必要な操作をして完了。「ご説明は以上となりますが、他にご不明なことはございますか」となった。
そこで、夫は「同じことを、窓口でもできますよね?」と尋ねたのだった。この質問に、担当者は目が点になったそうだ。スマホのアプリでできることをわざわざ窓口で行いたい人がいるのか?と思ったのだろう。
幸い、傍で見守っていたベテランらしき担当者が黙ったまま、「はい、できます」という意味を込めて何度も頷いたため、夫は安心して「わかりました」と言ったところ、先の担当者が再度「ご説明は以上となりますが、他にご不明なことはございますか」と、以前と全く同じ調子で言ったそうだ。
夫曰く「対応してくれた担当者は自分の何倍も頭脳明晰なことは間違いないだろうが、人と話している気がしなかった」。老眼や手指の乾燥などでスマホを操作することが苦手なことや、間違いが許されない送金は対人窓口でゆっくり指差し確認しながら行いたい高齢者の気持ちは想像がつかないのかもしれない。
AIにできる仕事はAIに任せようという傾向は加速し、実際、「仕事がなくなりそう」と心配する人の声も耳に入る。
科学の進歩を前向きに捉えたいと思いつつもデジタル社会のストレスに悩まされる昭和人間は、いつも心の奥底で「人に対応してほしい」と願っているのだが、「AIのような人間なら、優しく対応してくれるAIの方がラクかもしれない」と思う日は、そう遠くないかもしれない。
プロフィール

イノベーションズアイ編集局
広報アドバイザー
長野 香
静岡県沼津市出身。1986年3月立教大学卒業。
立教大学文学部ドイツ文学科資料室、国際センター等を経て2007年6月から立教大学広報課勤務。2013年6月から立教大学広報課長兼立教学院広報室長、2018年6月から立教大学総長室次長を務め、2024年3月退職。
一般社団法人 私立大学連盟での活動のほか、国立・私立大学等で広報業務に関する講演や寄稿、広報業務アドバイス等多数。
2024年5月よりイノベーションズアイ編集局広報アドバイザー。