第8回
昭和世代のテレビ買い替え奮闘記
イノベーションズアイ編集局 広報アドバイザー 長野 香

15年間使っていたテレビが、とうとう壊れた。2年ほど前から「そろそろでは、、」と思える兆しがあり買い替えを検討していたのだが、いよいよ決断の時が来た。
3種の神器
昭和世代にとってテレビは冷蔵庫、洗濯機と並ぶ3種の神器の一つ。子供のころ、テレビを所有している家庭はまだ少なく、真っ先にテレビ(カラーではなく白黒)を購入した近所のお宅に近隣の子どもたちが集まり「これがテレビか!」と興味津々、わいわい騒ぎながら新品のテレビに群がった記憶がある。
当時のテレビは今の薄型テレビとは全く異なり、ブラウン管テレビといって、高さや幅はさほど大きくないものの奥行きたっぷりの重厚な箱型。多くは木目調のちょっとした家具のようで、リビングルームの主役としてどんと構えていた。その立派なテレビの上部には高価そうな織物のカバーがかけられ、さらに日本人形や花などが置かれるなど、テレビを所有する家庭のステータスを表すような存在でもあった。
だからこそテレビを購入した家の主人は、近隣の子供たちを集め「すごい、すごい」と騒いで欲しかったのだろう。テレビの周りに群れる子供たちの後ろで、ゆったりとロッキングチェアを揺らしながら満足げに微笑む主人の姿が、今も目に焼き付いている。
つまり、昭和世代にとってテレビを含む諸々の家電類は貴重品であるゆえ「壊れるまで使う」が鉄則なのだ(もちろん、個人によって考え方は異なる)。
買い替え構想2年
壊れたので買い替えたのだが、約2年もその決断に至らなかった訳は他にもある。
薄型テレビと言っても、液晶、有機EL、ミニLEDなどの種別があり、それぞれ画質が異なるというのだ。どんな風に画質が異なるのか、売り場で販売員の方が懇切丁寧に説明してくれて現物を見比べるのだが、正直なところ「???」なのだった。
さらにインターネット動画などをテレビで視聴する「スマートテレビ」なるものが登場しており「ゲームはよくやりますか?動画もテレビで視聴できますよ」と言われるのだが、テレビ番組視聴と録画がメインの我が家では、ゲームも動画も想定外の機能であり、多数のボタンが付いたリモコンに恐怖すら覚える始末。昭和世代の典型的な文系人間なのだ。
テレビを一台買うために細かな説明を聞き続け、複数の画面を比較して目も首も痛くなり、画質の好みや視聴コンテンツの優先順位を迫られ、心身ともにヘトヘトになった挙句「今日お買い上げ頂ければ、さらにお値引きします!」のセールストークにかえって警戒心を煽られ、逃げ帰ることいく度・・・多くの皆さんには笑い話かもしれないが、わからないことや決められないことだらけで「人間失格」的な気分を存分に味わったのだった。
決断の時
しかし、これ以上決断を引き延ばすわけには行かない時が訪れた。
散々悩んだ挙句にメーカーとサイズを決め、意を決して家電量販店に赴く。
相変わらず画質では決め手が見つからないまま時が過ぎていく・・・予算としてはこのあたりかと決めかかったところ、何となくその隣の最新モデルと音質を比較してみると「おお!」と思わず唸る差異を認識した。ところが、予算オーバーで再度唸る。
未練がましく予算内のモデルと最新モデルを何度も聴き比べ、価格交渉の結果「10年以上使うだろうから」と、最終的に最新モデルの購入を決意した。
だが、この後も大変だった。自宅での設置、レコーダー等との接続やリモコンの使い方など、目の前には幾重にも連なる壁が立ちはだかっている(ように、我々には思えた)。
たじろいでいると、有料ではあるものの年間契約の家電サポートサービスを紹介された。わからないことは何でも専門家に聞いて助けてもらえる安心感はまさに地獄に仏、即決だった。
何度も量販店に通って感じたのが日本製テレビをほとんど見かけなくなったことだ。選ぶなら「純日本ブランド・日本製を」と思っていたが、陳列されているのは海外勢ばかりで断念。テレビの売り場自体も15年前は1階の出入り口(一等地)に置かれ、「店舗の顔」の位置づけだったが、今はスマートフォンが陣取っている。テレビそのものの盛衰を感じた。
新しいテレビとの生活
いよいよ最新モデルが我が家にやってきた。サポートサービススタッフの方によってテレビの設置やレコーダー、ネット接続といったことに加えて、基本的な操作方法とネット動画の視聴方法などの説明を一通り聞き、わからないことを教えてもらい、これで何とかなりそうだと思うまで2時間あまりの時間を要した。
テレビが三種の神器だったころは街の電気屋さんでテレビを買い、そのお店の人が購入後のサポートをしてくれたが、今は量販店が有料とはいえ、同様のニーズに対応する時代になったわけだ。
サポートスタッフの方に聞くと、それなりに需要があり同じお客様から定期的にご指名を受けることもあると明かしてくれた。
自分たち以外にも同じような人がいることに安堵するとともに、地味でも生活に必要なサービスは色々な形でビジネスになるものだなと、妙に感心してしまった。
さて、新しいテレビを入手した今、AIが好みのネット番組(ネット動画)を選んでくれるので、クラシック音楽や海外旅行映像を視聴する時間が圧倒的に増えた。音質が決め手で購入したとはいえ自分自身でも驚くほどだ。
そしてその分、当然のことながらテレビ番組を見る時間が減った。
総務省の「令和6年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、平日・休日ともにネット利用の平均利用時間が最も長く、次がテレビ利用(リアルタイム)という傾向が継続している、とある。経年データを見ると、テレビ利用時間は加速度的に短縮している。
我が身を顧みて納得せざるを得ない。
昨今では、テレビ番組視聴のための地上波・BS/CS受信機能を備えていない「チューナーレステレビ」という物も発売されており、動画配信コンテンツ視聴に特化されたテレビなのだそうだ。
テレビ(番組)を見ないテレビ・・・まるで謎かけのようだ。
我が家が次のテレビに買い替える時期は10年以上先になるだろうが、その時のテレビ機能はどこまで進化しているのか。期待以上に不安が膨らむ経験となった。
プロフィール

イノベーションズアイ編集局
広報アドバイザー
長野 香
静岡県沼津市出身。1986年3月立教大学卒業。
立教大学文学部ドイツ文学科資料室、国際センター等を経て2007年6月から立教大学広報課勤務。2013年6月から立教大学広報課長兼立教学院広報室長、2018年6月から立教大学総長室次長を務め、2024年3月退職。
一般社団法人 私立大学連盟での活動のほか、国立・私立大学等で広報業務に関する講演や寄稿、広報業務アドバイス等多数。
2024年5月よりイノベーションズアイ編集局広報アドバイザー。
- 第8回 昭和世代のテレビ買い替え奮闘記
- 第7回 働く女性の服装問題
- 第6回 日産追浜工場見学記
- 第5回 デザインの可能性
- 第4回 大学入試の舞台作り
- 第3回 ベルリンの壁
- 第2回 旅への願い
- 第1回 不祥事に想うこと