第7回
働く女性の服装問題
イノベーションズアイ編集局 広報アドバイザー 長野 香

衣替えの10月になっても東京では夏日が続き、月半ばを過ぎると秋を通り越して冬のような寒さとなった。年々厳しさが増す夏の猛暑や、四季感が薄くなった環境下で、日々の服選びは、多くの働く女性の頭を悩ませる問題の一つではないだろうか。
過酷な自然環境に対応する新素材を使った衣服が開発され、ファッション雑誌で「1ヶ月コーディネート」といった企画が定番化していることもその証左だろう。
「どのような服装をしようと自由」という意見もあるだろうし、男女ともに「スーツ離れ」と言われるように街中でスーツ姿の人を見かけることも減ってきたが、公的な立場にある人物や人前に立つような場面では、あまりに突飛な服装は、人格まで疑われ所属する組織の信頼やイメージ低下につながる場合もある。謝罪会見で、派手な色の服装や高級時計が御法度なことはよく知られていることだろう。
折しも日本に女性首相が誕生し、ニュースなどでその姿を頻繁に目にする今日この頃、広報担当者として学校や企業のトップなどを取材・撮影し、自身もマスメディアの前に立ってきた経験から、働く女性の服装や身だしなみのポイントをいくつか挙げてみたい。
1.清潔感
当たり前のことだと思われるだろうが、何より大事なポイントだ。汚れや綻びが無いことはもちろん、清潔感ある色や柄、長時間着用してもシワになりにくい素材を選ぶことも重要だ。
服装だけでなくメイクや髪にも注意が必要だ。年齢を重ねると肌も髪もハリやツヤを失うため、適切な手入れを怠ると清潔感が損なわれる。「厚塗り」にならずに健康的に見える色、汗や雨(時には涙?)で、思いがけない形相にならないような品質や機能を備えたメイク用品は欠かせない。
2.品格
立場や年齢、場面に相応しい服装と身だしなみを整えることは簡単ではない。自分では良かれと思った色・柄・デザインも、「場違い」「若作り」などの批判を浴びることがある。サイズがぴったり合っていることも大事だ。大き過ぎても小さすぎても、だらしなく、残念な印象になってしまう。
室外での場面も想定しておく必要がある。
世界のトップやそのパートナーが飛行機から降りる時の映像を目にすることがよくあるが、突風で服装が乱れたり、ハイヒールでタラップを踏み外さないか、他人事ながら緊張する。
我々の日常では、車の乗り降りや靴を脱いで座敷に上がる時などの、何気ない所作も品格につながるため、スカートの丈や靴にも注意が必要だ。
3.機能性
紳士服との大きな違いを感じるのが「機能性」だ。
婦人服にはポケットが少ない。紳士用の背広ならいくつもポケット・内ポケットがあり、名刺入れや筆記用具、スマホなどを入れられるのだが、婦人服でそれだけの数のポケットがある服を探すことはかなり難しい。「ポケットがある」と思って購入したジャケットが、ポケットのようなデザインが施されていただけ、ということもある。
婦人服は、元々ドレスから発展し、女性が外出する時はハンドバッグを持つもの、という認識が長く、働く女性の歴史が男性より短いことが婦人服にポケットが少ない理由らしい。
名刺や筆記用具などが無理なく収納できるポケットがあり、悪天候下でもスムーズに動ける素材・デザインの服は理想的だ。もちろん、ポケットの膨らみ過ぎは禁物で、ポケットがない服の場合は服や場面に相応しいバッグを選ぶ必要がある。
以上の3つのポイント自体は男女共通で、これら以外にも多くのポイントがあるだろうし、これらのポイントを押さえた服装は、味気ないと思われるかもしれない。
しかし、どんな状況でも周囲に違和感や不快感を生じさせず、仕事に集中できる服装を選ぶことは社会人の基本であり、女性にはそのための「一手間」がいくつも必要だ。その上で、個性を上手に表現できれば素晴らしく、効果的なセルフブランディングと言えよう。
新首相を「女性だから」といった視点だけで評価したいとは思わないが、日本のリーダーとして政権を運営し成果を導き出すために、どのような戦略で服装を選ぶか、観察・分析することが一つの楽しみとなった。
プロフィール

イノベーションズアイ編集局
広報アドバイザー
長野 香
静岡県沼津市出身。1986年3月立教大学卒業。
立教大学文学部ドイツ文学科資料室、国際センター等を経て2007年6月から立教大学広報課勤務。2013年6月から立教大学広報課長兼立教学院広報室長、2018年6月から立教大学総長室次長を務め、2024年3月退職。
一般社団法人 私立大学連盟での活動のほか、国立・私立大学等で広報業務に関する講演や寄稿、広報業務アドバイス等多数。
2024年5月よりイノベーションズアイ編集局広報アドバイザー。
- 第7回 働く女性の服装問題
- 第6回 日産追浜工場見学記
- 第5回 デザインの可能性
- 第4回 大学入試の舞台作り
- 第3回 ベルリンの壁
- 第2回 旅への願い
- 第1回 不祥事に想うこと
 
                         
									 
									 
									 
									 
									 
									 
									 
									 
									 
									 
									 
									 
                 
                 
                 
                