企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第44回

AI時代のマネジメント ──「管理」を捨て、「信頼」を設計する

株式会社aubeBiz  酒井 晶子

 

私たちaubeBizが10年以上かけて積み上げてきたフルリモート組織の運営ノウハウに、昨今のAI技術が加わったことで、現場では劇的な変化が起きています。
かつては人が手作業で担うしかなかったルーティン業務が、整理されたマニュアルとAIの掛け合わせによって、驚くほどスムーズに回り始めました。
その結果、私たちの手元には今、かつてない「余白の時間」が生まれています。
その静けさが、最初は少し奇妙に感じられ、気がつくと空いた時間にさらに「作業」を詰め込んでしまう──。
私自身も経験がありますが、そんな「埋められない余白」に戸惑う経営者の方は少なくないはずです。
でも、この時間こそAIがもたらしてくれる大きな恩恵だと気づくことで、「次に何をしよう」「このチームとどんな話をしよう」という、前向きな創造の時間として機能し始めるのです。

一方で、組織を持つ経営者の方と話していると、少し違う声も聞こえてきます。
「自分の目の届かないAIというツール内で、会社として正しい方向性での判断ができているのか」 「AI任せにして、思考が止まっていないか」
物理的な距離があるテレワークに、AIツールが加わることで生まれる、人としての「心の距離」や「温度感」のようなものへの不安。これは、2011年にフルリモートで事業を始めた当初、私自身が感じていたことでもあります。

「管理しようとすれば、するほど」という逆説

全国・海外に住むテレワーカーが約100名在籍する組織を10年以上運営してきて、確信していることがあります。 それは、「管理をしようとすればするほど、人は動かなくなる」という逆説です。
進捗確認のメッセージが増えれば増えるほど、人は「確認されるまで待てばいい」という受け身の姿勢になっていきます。
タスクをこまかく管理しようとすればするほど、「何のためにこれをやるのか」という本質から、人の意識は離れていってしまうのではないでしょうか。
これは決してメンバーの怠慢や能力の問題ではありません。
組織の設計と、リーダーのスタンスが生み出している現象です。
AIが24時間、指示通りに完璧な精度で作業をこなす時代が訪れ、この逆説はさらに深まりました。
人間のミスを監視するようなマネジメントに、もはや意味はないと考えます。
AIがルーティンを担保してくれる「現在」において、経営者が問われているのは「どう管理するか」ではなく、「どんな環境を設計するか」ではないでしょうか。

経営者の仕事は「舞台を整えること」に変わった

管理職の役割は、もはや「指示を出すこと」ではありません。
メンバーがAIという翼を広げ、自らの意志で最高のパフォーマンスを発揮できる「舞台(環境)」を整えること。
今まさに、マネジメントの本質はその一点へとシフトしています。
舞台には、いくつかの要素があります。

ひとつは、心理的安全性。
「こんな質問をしたら、最新のAI活用を知らないと思われるのではないか」「ミスをしたら叱責されるのではないか」──こうした恐怖心がある環境では、AIを活用した新しい工夫や提案は生まれません。
経営者が率先して「私もよくわからなかった」「あのとき失敗した」と自己開示することで、自然に醸成されていくものです。

もうひとつは、「なぜ、私たちはこの仕事をするのか」というビジョンの共有。
AIはタスクを完璧にこなしてくれますが、「この仕事が誰の人生にどんな価値を与えるのか」という真の意味までを語ることはできません。
もちろん、AIは「それっぽいこと」を並べるのは得意ですが、リスクを背負って進むべき方向を決めることは、リーダーにしかできないのです。

私たちaubeBizでは、「働きたいのに働けない人をなくしたい」「誰もが自分らしく豊かになれる社会を作りたい」という思いを、何度でも、折に触れて伝え続けています。
数字の報告よりも、テレワーカーの方からいただいた「子どもにおかえりと言えるようになりました」という一言を、チームで分かち合うことを大切にしています。
ビジョンは、繰り返し語られることで初めて、バラバラな場所にいるチームを一つに繋ぐ羅針盤になるのだと感じています。

「信じる」を、精神論ではなく仕組みで裏打ちする

「信頼して任せる」という言葉は、ともすると精神論のように聞こえてしまうかもしれません。
具体的な中身がないまま「信じているから」と委ねてしまうのは、厳しい言い方をすれば、無責任な「丸投げ」と同じになってしまいます。
経営者が迷いなくメンバーに実務を託し、自身の役割に集中するためには、その「信頼」を支える確かな「土台」が必要です。
その土台となるのが、前回(第43回)でもお伝えした「業務の標準化」と「進捗の可視化」です。
最新の状態に更新されたマニュアルがあり、誰がどこまで進めているかがクラウド上で透明化されているからこそ、経営者は安心して「あとは任せた」と実務を委ね、自身の役割に集中することができる。
仕組みのない信頼は、ただの放任です。
仕組みを整えてから、初めて「任せる」が機能する。この順番を、私は大切にしています。
そして興味深いのは、経営者が「あなたをプロとして信頼し、任せている」というサインを出したとき、メンバーの側に化学反応が起きるということです。
自らの裁量で時間を使い、AIを駆使して、想定以上の工夫を提案してくれるようになる。
かつて私がすべてを把握し、細かな指示を出していた頃よりも、メンバーを信じて仕組みに委ねた今のほうが、組織の生産性は圧倒的に高く、何より働く人たちの表情が格段に明るくなりました。

仕組みが「信頼」を担保し、信頼が「自走」を生む。
この循環こそが、AI時代の組織の理想形だと信じています。

応援の連鎖が、AI時代の「真の競争力」になる

AIは、驚くほど多くのことができます。
膨大なデータを処理し、論理的な解決策を提示し、時には温かな励ましのメッセージを生成することさえある。
でも、AIには決してできないことがあります。
それは、相手の人生の背景を想像し、本当の意味で心に寄り添い、仲間の背中を「熱」を持って押し続けることです。
aubeBizには、全国・海外に散らばるメンバーが、お互いの成功を自分のことのように喜び、誰かが困っていれば自然と手を差し伸べる文化があります。
「子どもが熱を出したとき、仲間に助けられた。だから次は私が誰かを助けたい」 こうした感情のインフラが、私たちの組織の真の強みです。
これは効率だけを求めた組織では決して生まれません。
実務のスピードはAIで担保できます。
でも組織を前へ動かす「熱量」を生み出せるのは、人でしかない。
経営者が自ら「応援の筆頭」となり、感謝の言葉を惜しみなく届けること。
その背中を見て、メンバー同士も応援し合うようになる。この応援の連鎖が定着した組織は、外部環境が変わっても、自走し、成長し続ける強さを持つと考えています。

信頼を設計した人から、未知の景色が見えてくる

BPOやAIを活用して業務を仕組み化する真の目的は、コスト削減や時間短縮だけではありません。
経営者が、本来最も情熱を注ぐべき仕事──「人を信じ、仲間と共にワクワクする未来を語ること」に、自分の時間を100%投資するためです。
「管理」という名の執着を手放し、目の前のメンバーを共に未来を創る「パートナー」として見ることができたとき、一人では決して辿り着けなかった未知の景色が見えてくるはずです。
私たちは、テクノロジーによって「働きたくても働けなかった人」が、自分らしいライフスタイルと仕事をあきらめなくていい社会を目指しています。
その一歩は、「どう管理して動かすか」という視点を超え、メンバーが最大限力を発揮できる仕組みを整え、仲間に対して「ありがとう、信頼しています」と伝えることから始まります。
効率化によって生まれた「自由な時間」を使って、未来を語れる組織になる。これこそが、AI時代に私たちが目指す形ではないでしょうか。

次回は思考の余白をどう使うか──AIによって生まれた時間を「関係性」に投資する
管理を手放した経営者の手元に残った余白を、さらに「社員や顧客との深い対話」に投資することで組織のエンゲージメントはどう変わるのか、AI時代だからこそ際立つ「対話の価値」について深掘りします。


 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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