企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第45回

思考の余白をどう使うか ── AIによって生まれた時間を「関係性」に投資する

株式会社aubeBiz  酒井 晶子

 

AIの進化や業務の仕組み化が進み、これまで時間を奪い続けてきたルーティンワークが自動的に回り始めたとき、私たちの手元にはかつてない「余白」が生まれます。
忙しい日々の中で手が空いた感動と喜び。

ところが多くの人は、そのせっかくの「余白」を前にして、すぐに別のタスクで埋めようとしてしまう傾向があります。
「せっかく時間ができたのだから」「何かしていなければ」という焦り。そしてその衝動こそが、実は組織の成長を妨げているのかもしれないと考えています。

「忙しさ」を手放せない、その本音

「余白=サボり」という感覚は、どこから来るのでしょう。
経営者に限らず、日本の職場に長く根づいた「動いていること=仕事をしている証拠」という刷り込みは、かなり根が深いと感じています。
自分が忙しく立ち働いている姿こそが責任を果たしている証拠であり、安心の拠り所だと感じてしまいがちです。
常に動いていなければいけない、隙を見せてはいけない。そういう緊張感の中で長年やってきた方ほど、余白を「埋めなければいけない空白」と感じてしまうのではないでしょうか。

私自身もそうでした。2011年にaubeBizをフルリモートで立ち上げた当初、育児と仕事を両立させるために必死で仕組みを整え、ようやく自分の時間ができたとき、真っ先に感じたのは喜びではなく、不安でした。
隙間があれば次の仕事を入れる。会議が終わればすぐ資料作成。そうしていないと、自分が怠けているような気がしてならなかったのです。
ところがあるとき気づいたのです。
最も忙しかった時期の私は、メンバーのことがほとんど「見えていなかった」のだと。

タスクに追われている経営者は、目の前の「処理」に集中するあまり、チームの変化や顧客の微妙なニュアンスを受け取り損ねることがあります。
余白を埋めようとする経営者ほど、「未来を描く」という経営者本来の役割を後回しにしているのではないでしょうか。私たちaubeBizの10年以上の実践を振り返ると、確かにそう感じています。

「余白」は消費するものではなく、投資するもの

では、余白をどう使えばいいか。
私が辿り着いた答えは、「作業から思考と対話へ」というシフトです。
経営者にしかできない仕事とは何か、と問われたら、私は迷わずこう答えます。
「未来を描くこと」と「人と深く向き合うこと」。
事務作業やデータ分析、定型的な報告書の作成といった業務は、今やAIや外部のBPOサービスが速く正確にこなしてくれます。AIが得意とするのは「過去のデータ」の処理です。

一方で、まだこの世に存在しない「未来の景色」を描き、そこに熱を込めることは、人間にしかできないと感じています。
AIが処理してくれた時間を、また別の「処理」で埋めてしまったら、もったいない。
その時間こそ、関係性に投資するために使える、経営者だけが持てる贅沢な資源なのではないでしょうか。
余白とは「何もしていない時間」ではなく、「目に見えない価値を育てる時間」だと感じています。

「対話」が組織の見えない資産になる

1on1や雑談の時間は、多くの組織では後回しにされがちです。
「そんな時間があったら仕事を進めた方がいい」という声も、正直なところよく聞きます。
でも私たちの実践では、定期的な対話の時間が、最も投資対効果の高い行動のひとつだったと感じています。

私たちは、フルリモートという顔の見えない環境だからこそ、あえて効率の対極にあるような「対話」を大切してきました。定期的なオンライン交流会や年2回の個別面談、仕事には直接関係のない雑談の場を設けるなど。
一見すると生産性を下げるように見えるかもしれませんが、対話や雑談を通して得られる親近感や安心感は、自由な発送や提案へ繋がります。
「ここは自分の居場所だ」と感じられる場所だからこそのイノベーションや能動的な動き。メンバーのそういう変化を何度も目の当たりにしてきました。

「管理のための面談」と「関係性のための対話」は、似て非なるものです。
前者は経営者が情報を得るための場、後者はメンバーが安心して本音を話せる場。
管理を目的とした対話には「監視」の影がつきまとい、相手を萎縮させます。
純粋に相手を理解し、応援するための対話に時間を使う。この微差が、離職率の低下やメンバーからの能動的な提案という形で、確かな資産として蓄積されていくのだと考えています。

顧客との関係性も、余白から生まれる

余白を使った関係性への投資は、社内にとどまりません。顧客との関係においても、同じことが言えると私は思っています。
これまでのビジネスはともすれば「受注・納品・完了」という機能的な取引の繰り返しでした。
しかし、AIが機能的な部分の多くを代替していく中、顧客が本当に求めているのは単なる「作業の完了」ではなく、「自分たちの未来を共に考えてくれる伴走者」ではないでしょうか。

私たちが提供する BPOサービスでも、最も喜ばれるのは指示された作業をこなすこと以上に、顧客のゴールを理解し、SNS等の発信を通してその世界観も理解した上で行われる先回りの提案です。
こうした「手触り感のあるサポート」は、時間的な余白がなければ生まれません。

aubeBizが大切にしてきた「信頼で手をつなぐ」経営とは、効率化によって生まれた時間を、さらに深い信頼を築くための時間に充てるという、ポジティブな循環の上に成り立っています。
AIが効率化してくれた時間が、実は顧客との深い関係性を育てる土台になる。そう気づいたとき、テクノロジーの意味が変わって見えました。

組織の本当の資産は、人と人の「間」にある

どんなに優れた商材を持っていても、AIを使いこなしていても、人が離れていく組織は成長しません。
逆に、仮に一つの商材やサービスが売れなくなっても、素晴らしいメンバーがいてくれれば、何度でも新たな価値を生み出すことができると考えています。
組織の本当の資産は、貸借対照表には載りません。
それは「人と人の間」にある信頼や、目指すべき未来への共感、そして互いを思いやる文化そのものです。
AIやテクノロジーは、私たちがその「本当の資産」に向き合うための「自由」をプレゼントしてくれました。

手元にわずかな余白が生まれたとき、それをまた別の「作業」で埋めてしまうのではなく、誰かとの対話に使ってみる。
家族、会社の仲間、顧客、そして自分自身との対話。もちろん、明日のための休息やリフレッシュに使うことで自分が心身ともにご機嫌でいることも、良好な関係性の構築に、とても有効だと思います。

AIが与えてくれる余白を「未来へつながる豊かな時間」にできるか──。
私自身を含め、これからの組織経営者に求められる大切な問いかけだと感じています。


次回はAIに代替されない「安心提供力」の磨き方──オンライン時代の人間力
AIがどれだけ賢くなっても、画面越しに「この人なら大丈夫だ」と心から思える感覚までを代替することはできません。顔の見えないフルリモートの環境で、私たちが10年以上磨き続けてきた「安心」という名の付加価値について。そしてスキルや効率のその先にある、デジタル時代だからこそ輝く「人間力」の正体をお話しします。効率化によって生まれた余白を、いかにして「信頼」へと変えていくのか。その核心に触れていきます。

 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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