企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第46回
AIに代替されない「安心提供力」の磨き方──オンライン時代の人間力
株式会社aubeBiz 酒井晶子
「先生」の言葉より「先輩」の言葉が心に届く、という場面があります。
正確な情報や正論よりも、同じ経験をくぐり抜けてきた人の「大丈夫だよ」という一言や笑顔が、ふと肩の力を抜かせてくれ、安心感をくれる。
私たちaubeBizが、日本各地でテレワーカー養成講座を開いてきた中で、何度も目にしてきた光景です。
AIがどれだけ精度を上げ、最短ルートの正解を提示できるようになったとしても、この「ふっと」緩む感覚はなかなか届けられません。
例えオンラインでも、パソコンの画面越しに「この人なら大丈夫だ」と感じる感覚の正体は何か。
今回は、これからの時代に私たちが磨くべき「安心提供力」について考えてみたいと思います。
「伝わっている」と思っていたのに、なぜ噛み合わないのか
テキストコミュニケーションが主流になった今、業務指示を「正確に伝えること」はツールが補ってくれる時代になりました。
誤字はいい感じに修正され、議事録はAIが要約してくれる。情報の精度という意味では、かつてとは比べものにならないほど整った環境があります。
しかし、「安心して任せられる」という感覚は、正確さとは別の次元にあると私は感じています。
メッセージは送った、返信も来た、タスクも完了した。なのに、なぜかチームがバラバラな感じがする。
誰かに相談するほどでもないけれど、行間になんとなく引っかかりを感じる。
そんなふとした違和感を放置していると、やがてチーム内の信頼がじわじわと脅かされることがあります。
私たちが10年以上フルリモートを実践してきて気づいたのは、「情報は届いているのに、気持ちが届いていない」という現象の危うさです。
経営者やマネージャーが感じる「なんか噛み合わない」という違和感の正体は、情報の不足ではなく、その土台にあるはずの「安心感」の不足なのではないでしょうか。
「伝える力」から「受け取る力」へ──EQが問われる時代
では、安心感を届ける力とは何か。
私たちはそれを長らく、発信力や表現力の問題だと捉えていたかもしれません。
でも、安心提供力の本質は「発信」ではなく「受信」にあると私は信じています。
EQ(Emotional Intelligence Quotient=感情知能指数)という言葉があります。
自分と相手の感情を認識し、それを行動に活かす力のことです。
相手の言葉の裏にある感情や迷いを、テキストの行間や前後の文章から読み取れるかどうか。
「了解です」という一言が、心からの納得なのか、それとも戸惑いを飲み込んだ返信なのか。
aubeBizでは、採用や研修の際、スキルの前に「文章を正しく読解する力」を大切にしています。
それは単なる国語力ではなく、相手が何を不安に思い、何を求めているのかを想像する力です。
気づいたら声をかける。困っていそうなら先回りしてフォローする。こうしたフォロワーシップや応援力は、AIがまだ完全には数値化しきれていない人間固有の感性です。
顔が見えない環境では、むしろ「手触り」がより鮮明に伝わるという逆説があります。
返信の速さ、言葉の選び方、文末に一言添えるかどうか。そうした細部に、その人の誠実さや温度感が滲み出ます。
オンラインは、実は人柄を隠せない場でもあるのかもしれません。
安心を「設計」する──仕組みと文化の両輪
ただ、この安心提供力を特定の「できる人」の資質に頼り切ってしまうと、組織は脆くなります。
「あの人がいるから大丈夫」という状態は、その人が不在になった瞬間に崩れてしまうからです。
大切なのは、安心を「設計」すること。
たとえば、aubeBizではオンボーディングの設計に多くの時間を割いています。
「キャリアサポート」という人事部とメンバーの中間に位置する機関を設け、初日から「誰に聞いたらいいか」が明確になるようにしています。
仕組みとして「何かあれば聞ける」環境を整えることが、安心の土台になるからです。
ただ、仕組みだけでは不十分です。
マニュアルに書いていない「これってどうするんだろう」という小さな迷いを、先輩や同僚が自然に拾い上げる文化。
教え合い、応援し合う関係性。
この両輪があって初めて、人は安心して力を発揮できると感じています。
AIが作業を引き取った先に生まれるもの
前回のコラムで、AIによって生まれた「思考の余白」を関係性に投資する、という話を書きました。
この余白が、安心提供力の土台を作る時間に直結していると、私は実感しています。
議事録の要約、定型メールの下書き、タスクの仕分け。こうした作業をAIが引き取ってくれるおかげで、マネージャーやチームメンバーに「対話」の時間が生まれます。
「最近どう?」と聞ける余裕、相手の返答をじっくり聞ける余白。それだけで、チームの空気はずいぶん変わります。
さらに、作業に疲弊することが減ると、アイデアを語り合える場が生まれます。
そのアイデアが「いいね、やってみよう」と受け取られ応援される経験が積み重なることで、メンバーはより能動的に、自立的に動くようになっていきます。
これは私たちaubeBizが10年以上かけて実感してきたことです。
安心安全でポジティブな場は、誰か一人の頑張りでは生まれません。
これからの時代、AIが整えた土台の上に、人の対話と応援が重なる。
そこから初めて、真に強いチームが生まれるのだと確信しています。
AIが情報を整えた場所で、人の熱量が灯る
AIは情報を整理し、選択肢を示すことが得意です。
ある程度、相手の感情を読み取り、適切な返答の候補を示すことさえできるようになってきました。
しかし、「この人と一緒にやりたい」という感情は、AIには生み出せません。
それは今も、これからも、人にしかできないことだと私は確信しています。
安心提供力の最後の一ピースは、「あなたのことを応援している」が伝わるかどうかです。
言葉にしなければ伝わらないこと、行動で示さなければ届かないこと。
経営者やリーダーとして、相手の可能性を信じ、それを言葉と行動で表していくこと。
AIが作業を引き取り、仕組みが安心の土台を作り、そこに人の対話と熱量が重なる。
このサイクルを回していくことが、これからのチームビルディングの核になるのではないかと考えています。
あなたのチームに「大丈夫」は届いているか
安心提供力は、日々の小さな積み重ねから生まれるものです。
たとえ今、その環境ができていなくても、これからはAIが頼もしい力になってくれます。
AIに任せた作業の分だけ生まれた時間で対話を増やす。
思いを伝え、行動する。それだけで、場の空気は少しずつ変わり始めます。
オンラインこそ、AIの時代だからこそ、安心安全な場の大切さが鍵となるのではないでしょうか。
次回は経営者の右腕としてのAIとリモートチーム──「任せられる体制」は設計から始まる
「安心提供力」を兼ね備えたチームができたとき、経営者は「孤独な決断」から解放されます。AIを使いこなし、外部人材やリモートチームを活用する。経営者が「一人で頑張る」を手放し、チームと共に意思決定の質を最大化していくための、新しい「右腕」の形について考えます。
プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
【著書】
『地域循環が生まれ、関係人口が育まれる ローカル・テレワーク®︎』
「働きたいのに、働けない」という原体験から生まれた本書は、移住・観光に依存しない新しい地域との関わり方を提唱。テレワークを活用して人と仕事をつなぎ直す「ローカル・テレワーク」を、15年以上の実践と下関市でのモデル構築をもとに体系化。自治体・企業・地域リーダーに向けた、再現性ある地域づくりの実務書です。Amazonランキング10部門で1位を獲得。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第51回 「更年期・介護・病気」を隠さなくていい組織──ライフイベントを味方につける
- 第50回 AI活用とリスキリングでシニア人材が活躍できる組織へ──働き続けられる環境をつくる
- 第49回 ウェルビーイングを数字にする──「かも」が生産性を高めるエビデンス
- 第48回 人的資本経営の第一歩は「働く場所の解放」から始まる ──テレワークを福利厚生で終わらせない
- 第47回 経営者の右腕としてのAIとリモートチーム──「任せられる体制」は設計から始まる
- 第46回 AIに代替されない「安心提供力」の磨き方──オンライン時代の人間力
- 第45回 思考の余白をどう使うか ── AIによって生まれた時間を「関係性」に投資する
- 第44回 AI時代のマネジメント ──「管理」を捨て、「信頼」を設計する
- 第43回 マニュアル化はAI活用の鍵──仕組み化がAI活用の最短ルートである理由
- 第42回 「AI×テレワーク」で変わる、これからのBPO──スピードと「想い」の両立
- 第41回 生成AIは「作業」を奪い、「創造」を解き放つ──AI時代の共創パートナーシップ
- 第40回 未来を変える働き方──テレワークが導く「次の社会像」 ~自分らしく豊かに生きるための、新しい「組織」と「個人」のあり方~
- 第39回 持続可能な地域経済圏──テレワークでつくる共創エコシステム ~「外注」から「共創」へ。地域を動かす新しい経済の循環~
- 第38回 企業×地域×学校──共創型キャリア教育モデル ~地元の若者たちに「世界と繋がる選択肢」を届ける~
- 第37回 二拠点生活(デュアルライフ)とテレワーク──移住・関係人口の新しい形
- 第36回 BCPとBPO──災害に強い企業の新常識
- 第35回 働き方とウェルビーイング──幸せが生産性を高める理由
- 第34回 人材流動化の時代に「選ばれている会社」は何をしているのか? 〜給与でも制度でもない、“最後に見られているもの”〜
- 第33回 地域リーダーが拓く未来──ローカル・テレワーク・パートナーの力 〜企業と地域をつなぐ「新しいハブ人材」という選択肢〜
- 第32回 生成AIとBPOの未来──AI時代の“人と組織”の役割とは? 〜AIが当たり前になる時代に、企業やビジネスパーソンは何を強みにするのか〜
- 第31回 “全国採用”の時代──人材不足を突破する採用戦略 〜「求職者が来ない」から「選ばれる会社」へ、発想を切り替える〜
- 第30回 中小企業のDXとテレワーク──小さな一歩からの業務改革 〜属人化をほどき、手の届く範囲から未来志向の仕組みづくりへ〜
- 第29回 観光とワーケーション──“訪れる人”を“関わり続ける人”へ 〜テレワークだからできる、新しい関係人口づくり〜
- 第28回 BPOアワードから見えた未来──“外注”ではなく“共創”が、人材不足を超えていく~受賞社の取り組みが示す、これからのBPO活用の正解~
- 第27回 ダイバーシティとテレワーク──多様性が生むイノベーション 〜“働きづらさ”を“戦力化”へ変える、新時代の仕事づくり〜
- 第26回 自治体の挑戦──テレワーク推進政策の最前線 〜「施策」を現場で回す“仕組み”の作り方〜
- 第25回 教育とテレワーク──地域で育てる次世代キャリア 〜「地元で働きたい」を仕組みにする、教育×テレワーク〜
- 第24回 農業×テレワーク──デジタルで広がる“第六次産業化”の可能性 〜“つくる”と“伝える”をつなぐ、新しい地域のかたち〜
- 第23回 地方と企業をつなぐ“BPOモデル”の進化 ──自走型チームが地域経済を動かす 〜“任せる”から“共に創る”へ。地域BPOが生み出す新しい共創のかたち〜
- 第22回 「地方創生テレワーク」の進化形──自治体×企業×住民で生み出す『ローカル・テレワーク』 〜地域の人・企業・文化が輝く、循環型の“しごと生成エコシステム”〜
- 第21回 自治体・企業・住民でつくる 地方創生テレワーク推進モデル 〜“点”で終わらせない、持続可能な三者連携とは?〜
- 第20回 「“よくわからない”を乗り越える──テレワーク導入Q&A」 〜不安を解消し、最初の一歩を踏み出すために〜
- 第19回 「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」 〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
- 第18回 「“自走できる人材”を育てるマインドと環境づくり」 〜指示待ち型から“目的を理解し、動ける人材”へ〜
- 第17回 「“信頼される会社”の条件──テレワーク時代の組織文化とリーダーシップ」 〜制度や仕組みを超えて“信頼”を築く組織の土台とは〜
- 第16回 生成AIとテレワーク ──中小企業が直面する“AI格差”を乗り越えるには?
- 第15回 「地域×テレワーク」──地方創生ローカル・テレワーク 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
- 第14回 「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜
- 第13回 「“副業・複業人材”を活かす!兼業社会における新しい雇用戦略」 ── 多様なキャリアが交わる“パラレルワーカー”活用の可能性
- 第12回 「“スキマ時間”を活かす働き方──ワークシェアリングという選択肢」
- 第11回 「成功するテレワーク採用」 〜離れていても成果を出す組織づくりのヒント〜
- 第10回 「“全国から採用する時代”へ!採用戦略の発想を切り替えるヒント」 〜テレワークが生み出す“新しい雇用のかたち”〜
- 第9回 「BPOとBCP」―― 有事の際の事業継続に備える新常識
- 第8回 ーDX化の第一歩となる業務改革ー「属人化を防ぐ仕事の仕組み化」
- 第7回 完全テレワークでも離職率5%未満を実現するチームづくりの秘訣 〜組織の土台を支える“仕組み”と“信頼文化”のつくり方〜
- 第6回 成長戦略としてのBPO活用法 〜“外注”にとどまらない、企業の柔軟性と競争力を高める選択肢〜
- 第5回 「テレワークは難しい?」──よくある誤解と“うまくいかない理由”を解きほぐす
- 第4回 地域で働く、地域を支える──「ローカル・テレワーク」という新しい仕組み
- 第3回 地方に眠るチカラを活かす!「地方創生テレワーク」の可能性
- 第2回 眠れる働くチカラ 「働きたいけれど働けない」潜在労働力を社会へ
- 第1回 これからの時代に選ばれる働き方とは? ― 少子高齢化・人材不足を乗り越える組織づくりのヒント
