企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第23回

地方と企業をつなぐ“BPOモデル”の進化 ──自走型チームが地域経済を動かす 〜“任せる”から“共に創る”へ。地域BPOが生み出す新しい共創のかたち〜

株式会社aubeBiz  酒井 晶子

 

1. 「ローカル・テレワーク」の、その先へ

地方創生事業に関わる中で、
「地元で働きたい」
「地方で暮らしながら、やりがいのある仕事をしたい」
「自分の住む地域にもっと元気になってもらいたい」
という声を聞くことが多くあります。
それこそがまさに、本コラムでお伝えしてきた「ローカル・テレワーク」構想の原点となります。

しかし、仕事が「生まれる」だけでは十分ではありません。
次に直面するのが、「その仕事をどうやって“仕組み”として継続させていくのか?」という壁です。
特定の誰かの情熱や自己犠牲に依存した取り組みは、どんなに立派でも長続きしません。だからこそ、地域の中に持続可能な「仕組み」をつくることが必要です。その鍵となるのが、私たちが提唱する「地域BPO(Business Process Outsourcing)」という新しい考え方です。
一般的にBPOというと「業務の外注」を思い浮かべる方も多いと思いますが、私たちの言う“地域BPO”は、単なる委託でもコスト削減策でもありません。それは、地域の中で経済と雇用を回し続けるための「仕組みづくり=エコシステム(生態系)」です。
テレワークが“働く場所を広げた”のに対し、BPOは“地域の経済を広げる”フェーズです。

2. “地域BPO”って、なに?──「外注先」から「仲間」へ

従来のBPOは、都市部の企業がコスト削減のために業務を外部委託する──そんな構図が一般的でした。
しかし、私たちが描く地域BPOは、少し異なる観点と発想が含まれています。
単に“外注する”のではなく、地域の潜在労働力を活かし、企業の人材不足を解決しながら、共に地域を元気にしていく“共創モデル”です。
 このモデルの中では、 「都市企業(仕事の出し手)」×「地域人材(眠れるチカラ)」×「地域企業(チームの受け皿&仕事の出し手)」が、チームとなって価値を共創し、地域と企業の双方を豊かにする3つの機能が備わっています。

外貨を稼ぐ機能:都市企業の業務を地域チームが担い、地域外から収益を生み出す。
内需を循環させる機能:地元企業の業務を地域のテレワーカーが支え、地域の中でお金が回る仕組みを作る。知見を注入する機能:都市部や他地域の副業人材や専門家の知識を取り入れ、地域企業の成長を後押しする。
この3つが回り始めると、地域は“外から支援される存在”ではなく、“自ら経済を動かす主体”へと変わっていきます。そして、この考え方は決して「地方だけの話」ではないと考えています。
 人手不足や働き方の多様化が進む今、この共創型BPOモデルこそが、都市企業を含めた日本全体の新しい働き方のモデルケースになっていくのでは無いでしょうか。

 オフィスに人を集めて働くことが前提だった時代から、“場所を超えてチームを組む時代”へ。
 その未来を、地方から実現・発信していくことにはとても大きな意義があると感じています。
外注ではなく、共創。この意識の転換こそが、地域BPOの出発点であり、“業務の請負”から、“企業と地域が未来を共につくる仕組み”へと進化する鍵だと考えています。

3. “外の力”を借りながら、“自分たちで回す”仕組みづくり

もちろん、こうした「組織を超えた自走型チーム」は一朝一夕には生まれません。
業務の標準化や品質管理など、最初の仕組み化には専門知識やノウハウ、経験値が欠かせません。最初はBPO事業企業や専門家にアドバイザーとして入ってもらうなど、を外部の力をうまく借りることが大切です。
この「助走期間」を設計できるかどうかが、地域BPOの成功を左右します。
 外部の知見を借りて仕組みを整え、やがて自分たちの文化として根付かせることで“自走”する地域BPOチーム体制が実現します。

4. 「外の風」が、地域企業を変える

地域BPOが本当に面白いのは、「外」と「中」の力が混ざり合う瞬間です。特に変化が顕著なのは、地元の中小企業です。
「人手は足りないけれど、新しいことに挑戦したい」 
「ITやDXに興味はあるけれど、何から始めていいか分からない」
そんな悩みを抱える企業が、地域BPOの仕組みを通して“外部のプロ”の力を取り入れることで、業務改善が進みます。たとえば、都市のマーケターが特産品の販促をリモートで支援したり、 ITの専門家が副業で入り、伝票処理をデジタル化したり。 外の風が吹き込むと、地域企業の表情が変わります。そこには、単なる「業務委託」ではなく、“学び合い”があります。
外の知見と地域の現場力が交わることで、新しい価値が生まれる。 私たちはこれを「共育(きょういく)」と呼んでいます。 共に学び、共に育ち、共に地域を良くしていく。 この姿勢こそが、地域BPOを動かす心臓部です。

5. チームの形は「ひとつじゃない」。それがいい。

地域BPOの形は、一つではありません。地域のカラーに合わせて、いろんなスタイルがあります。

① 地域テレワーカー・コミュニティによるチーム受託型
地域のテレワーカーが数人でチームを結成。子育て中の方、介護中の方も、お互いの状況をカバーし合いながら働けますし、お互いの得意・不得意をカバーし合い、チームにノウハウが蓄積されていくのが最大の強みです。

② マッチング受託型 
「デザインなら任せてください」「経理のプロです」といった個々のスキルを活かして仕事を受けます。柔軟性やスピード感が求められる業務に向いており、多様な働き方を実現します。

③ 地域企業×地域外人材「ハイブリッド型」 
地元企業の課題を、外部の副業人材がリモートで支援するスタイル。地域の“現場力”と外部の“知見”が融合し、事業の幅が広がります。どの形にも共通するのは、「仕事のノウハウを地域に残す」という意志です。“受ける”だけでなく、“育てる”、“自走する仕組みとして定着させる”それが、地域BPOの最大の魅力です。

6. “自走型チーム”がもたらす、3つの資産

地域BPOが根付くと、地域には「雇用」以上の資産が残ります。

1. 「ここで働き続けられる」という安心資産
単発の仕事ではなく、継続的な業務(=定期案件)として、「来月も、来年も仕事がある」という継続的な収益が生まれます。それは、地域で暮らす人にとって安定した雇用の受け皿となり、何よりの安心材料になります。

2. 企業との関係が「請負」から「信頼」へ。共創資産
「地域を元気にする」という共通のビジョンを掲げることで、発注元企業との間に深い信頼関係が生まれます。チームとして「一緒に未来を考えるパートナー」へと進化することは、これからの企業と働き手の新しいあり方です。

3. 地域で育つ「頼れるリーダー」が誕生する。人という資産。
 地域メンバーをまとめ、企業とのハブとなる「リーダー」や「マネージャー」が必要不可欠です。この経験を通じて、地域内でマネジメント能力や教育力を持った「頼れるアニキ・アネキ」のようなリーダーが自然と育っていきます。

7. 地域BPOが描く未来──“共創経済”のはじまり

以上のように、地域BPOは単なる業務委託の仕組みではなく、地方在住や育児、介護などで働く機会を失いかけていた人々が、再び社会とつながるための「架け橋」です。外部の力を借りて仕組みをつくり、地域の企業と人がそれを受け継ぎ、 やがて自ら新しい価値を生み出していく。 この循環が続くと、地域には「知識」「収益」「信頼」という無形の資産が積み重なります。

“任せる”から“共に創る”へ。

地域に眠る、まだ眠っているチカラを活用することは、これからさらに人口減少と労働力不足が深刻化する日本にとって大切な要素だと考えています。


次回は 「第一次産業×テレワーク──デジタルで広がる“第六次産業化”の可能性」
畑仕事や漁業の世界でも、「テレワーク」が活躍し始めているのをご存知ですか? 農家さんが愛情込めて育てた野菜を、地域のテレワーカーがSNSで発信したり、ネットショップで販売したり。 人手不足に悩む第一次産業の現場と、デジタルの力が繋がったとき、そこには新しいビジネスの可能性が広がっていました。 次回は、デジタルと人の力が出会う“農業の未来”をテーマに、現場から生まれた成功事例と新しいビジネスモデルを紐解きます。

 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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