企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第13回

「“副業・複業人材”を活かす!兼業社会における新しい雇用戦略」 ── 多様なキャリアが交わる“パラレルワーカー”活用の可能性

株式会社aubeBiz  酒井 晶子

 

前回は、「スキマ時間を活かすワークシェアリング」という新しい働き方をご紹介しました。
今回はその延長線上で、地域企業や中小企業が「複数のキャリアを持つ人材」、すなわち副業・複業・復業(リスキリング後の再挑戦)人材をどのように活用していくかに焦点を当てます。

都市部ではすでに「副業OK」「パラレルキャリア」といった働き方が浸透しつつありますが、この流れは地方企業にとっても無視できないものです。「一社専属の正社員」という従来型の雇用観を超え、多様な働き方を受け入れることは、地方企業が人材を確保し、事業を成長させるための重要なカギとなります。


1. 「正社員だけが“人材”ではない」というパラダイムシフト

日本では長い間、「社員とは、朝から晩まで会社に尽くし、一つの会社に人生を捧げる存在」という考え方が浸透し、一社に定年まで所属する、いわゆる「メンバーシップ型」の働き方こそが「正」とされるような企業文化がありました。
転職回数が多いことが不利に働くのではなく、「キャリア」という強みとして捉えられるようになったのは、最近のことだと感じています。
かつては、同じ企業に3年以上在籍しないと良い印象を与えないとされていましたが、昨今の人手不足による求職者優位の市場では、「合わない」と判断すれば、数ヶ月や数日で退職するという話も珍しくありません。
実際、20代などの若い世代と話すと、「転職にほとんど抵抗がない」「嫌な職場や合わない職場はすぐに辞める」という声をよく聞きます。
「自由に職業を選べる」「何度でも挑戦できる」――。
そのような良い時代になったと感じています。一方で、企業側は大切な若手戦力を確保するため、応募時のハードルを下げたり、入社した若手社員が辞めないよう、上司や先輩社員が細心の注意を払ったりしている状況も散見されます。
そして、この傾向は、「一社専属」という考え方が強い企業において、より顕著であるように感じています。
「フルタイム勤務で出社できる若手の正社員」は、少子高齢化と労働人口の減少により、獲得が非常に困難な人材となっています。都心部でさえ、企業間で争奪戦が繰り広げられているのが現状です。
しかし、「テレワーク可」「副業・複業可」という条件を加えるだけで、応募者数は大幅に増加します。
実際に、令和7年5月の有効求人倍率が1.24倍(※1)、新規求人倍率が2.14倍であるのに対し、副業・複業者向けの求人倍率は1倍以下(※2)というデータもあります。
(有効求人倍率とは、企業がハローワークにエントリーする仕事の数(有効求人数)÷働きたい人の数(有効求職者数)で算出し、有効求人倍率が1よりも大きくなれば求人に対して応募が不足した状態で、1より小さい場合は、求人に対して仕事をしたい人の数が多い状態を指します。)

人口減少(生産年齢人口および若年人口の減少)に伴う労働力不足が、劇的に改善することは考え難く、おそらく、かつてのように人材を容易に確保できた時代は戻ってきません。
したがって、人事戦略においては、「一社専属」という従来の考え方から脱却し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用して、テレワークで全国の優秀な副業・複業人材を登用し、生産性の向上を図るべきだと考えます。
さらに、そうした生産性向上によって得られた成果を適切に分配し、どうしても出社や正社員が必要であるポジションにおいて質の高い雇用を生み出すことが、企業の存続と成長戦略に繋がるのではないでしょうか。

副業・複業人材とは、都市部で培ったスキルや経験を活かし、複数の組織・プロジェクトに関わりながら地域企業にも貢献する専門性の高い人材を指します。彼らの多くは豊富な経験や人脈を持ち、都市部の最先端ビジネストレンドに精通しています。
こうした即戦力人材が持つ「外の物差し」と「変化を恐れないマインド」があなたの会社に注ぎ込まれたら──社内に新しい風が吹き、停滞していたプロジェクトが動き出し、社員の心に火を灯すきっかけとなるでしょう。
また、上記のようないわゆる「ハイキャリア人材」だけでなく、子育て中の女性や介護中の方など、スキマ時間を活用して複数の仕事をしている人材の力も非常に魅力的です。
その強みは、職務経歴書には現れない「生活の中で磨かれたスキル」にあります。
育児や介護を通じて培われた高いタイムマネジメント能力、突発的な問題への対応力、そして顧客としてのリアルな共感力で、彼ら・彼女らは、組織にとってまさに「縁の下の力持ち」となり、他の社員がより創造的なコア業務に集中できる環境を生み出してくれるでしょう。

これまで「一社にフルコミットしてもらうべきだ」という常識に縛られていた企業にとって、その常識を一度手放すことが、事業成長の大きな突破口になる可能性があるのです。


2. 副業・複業人材を受け入れるメリットと、よくある“誤解”

とはいえ、新しい関係性の構築には、期待だけでなく不安も伴います。
特に、これまで社員を家族のように大切に思われ、チームワークを大切にされてきた経営者の方にとっては、大きな決断が必要かと思います。
さらにテレワークをこれから導入される場合には、インフラ面でのハードルもあるかもしれません。
ここでは、具体的なメリットと、経営者が直面しやすい心理的な障壁や誤解について整理してみましょう。


【得られるのは「スキル」以上の“財産”】

高い専門性や広いネットワークを持つプロ人材にアクセスできる 正社員採用の市場では決して出会えないレベルの専門家に出会える可能性が広がります。その人を通じて広がるネットワークも大きな魅力です。マーケティングやPR、新規事業、ブランディング、デジタル活用、SNS活用など、“部分的な課題”をスピーディに依頼できる 社内で育成するには時間の掛かるプロフェッショナル領域を「助けてほしい部分だけ」依頼できる。この身軽さが、次の一歩を加速させます。組織に多様な視点が入り「化学反応」が起きる外部人材の知見が手に入るのはもちろん、社内の「当たり前」を揺さぶり刺激をもたらすことで、組織全体の成長や良い“化学反応”が期待できます。


【よくある誤解と実際】

「他の仕事もしているなんて、本気じゃないのでは…」
「短い時間で、ちゃんと成果を出してくれるの?」
「コアメンバーじゃないと、責任感が弱いのでは…」
パラレルワーカーとして活躍される方は、「従業員」ではなく「プロフェッショナル」としての意識を持ち、時間ではなく「ミッション」によって動機付けられるという価値観を持っている方がたくさんいます。
彼らのパフォーマンスを最大限に引き出す鍵は、雇用契約による束縛ではなく、相互のリスペクトと「この事業を共に成功させたい」という共通の夢に基づいた、信頼関係のあるパートナーシップを築くことにあります。
そのため、パラレルワーカーや、副業・複業人材との協働においては、定常的な時間拘束よりも、特定の期間内で明確な目標達成や課題解決といった「成果」に焦点を当てた業務委託契約の形態が最も効果的だと考えます。

3. 地域企業と副業・複業人材の“新しい関係”をつくるには?

では、具体的にどう始めればよいのでしょうか。3つのステップでご紹介します。

ポイント①:課題を切り出す

まずは、経営者のビジョンや現場の課題を明確な言葉にすることから始めます。
「漠然と売上を上げたい」という目標ではなく、「ECサイトの顧客単価を1.5倍にする」「Instagramからの問い合わせを月10件に増やす」といった具体的なミッションに落とし込むことで、専門家に依頼すべき業務範囲が明確になります。

ポイント②:業務委託で関係を始めてみる

課題が明確になったら、まずはその課題について「業務委託契約」から始めるのがお勧めです。プロジェクトごと、あるいはコンサルティングや時間単位など柔軟な形で契約を結び、お互いの相性を確認する期間を設けましょう。

ポイント③:オンラインでの信頼構築の工夫

リモートでの関わりが中心になるため、コミュニケーションの工夫は不可欠です。しかし、これはコロナ禍を経て多くの企業が経験したテレワークの工夫と何ら変わりません。週1回の定例Zoomミーティング日々の進捗を報告するチャットツール(Slack、Chatworkなど)常に最新情報がわかるGoogleドキュメントなどの共有ファイルこうした「可視化・共有・対話」の仕組みを整えることで、物理的な距離は問題なくカバーできます。

4. aubeBiz事例紹介

実際に、多様な人材との連携は地域に新しい価値を生み出しています。

例①:都心で働くWebマーケターがリモートで地方企業の売上向上に貢献

首都圏で活躍するWebマーケティングの専門家が、地方の老舗食品メーカーのEC事業を支援。週1回のリモート会議とデータ分析を通して具体的な改善策を提案・実行をサポートした結果、3ヶ月でECサイト経由の売上が前年比150%を達成しました。

例②:復職を目指す子育て女性が、スキルアップを兼ねて地域NPOの経理支援を開始 

出産を機に一時キャリアを離れた女性が、地域NPO法人の経理業務を週10時間で請け負い、「復業」として再スタートを切りました。彼女は自身の会計スキルを活かし、新しい会計ソフトの導入などを通じて業務効率化に貢献。NPOの組織基盤強化に貢献するとともに、自身も実績と自信を得る、双方にとって実りある関係を築いています。

例③:プロ人材×地域スタッフの“ハイブリッド”で業務が安定・成長 

ある中小企業では、外部のプロフェッショナル人材が事業戦略やマーケティングの全体設計を担い、社内の地域採用スタッフが日々の実務や顧客対応を行う「ハイブリッドチーム」が組織されています。プロの視点から構築された仕組みを地域スタッフが運用することで、業務の安定化だけでなく、地域スタッフ自身のスキルアップにも繋がっています。

5. これからの「雇用」は“共創”へ──副業・複業人材とつくる未来

「人を使う(雇用)」から「一緒に取り組む(共創)」時代へ。外の風を招き入れることは、短期的な課題解決にとどまらず、組織文化を耕し、人の心に変化を起こします。
その風は、短期的な課題を解決するだけでなく、組織全体の文化を耕し、社員一人ひとりの心に変化の種をまき、やがては会社全体をしなやかで強い集合体へとアップデートしてくれる可能性を秘めています。
人材不足で悩む企業や地域こそ、多様な関わり方を受け入れ、多様な才能が多様なまま輝ける「次の時代の“働き方のモデル”」の創出を目指して欲しいと感じています。


【次回予告】「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜
リモート環境でも、人が辞めない、育つ、信頼しあえるチームをどうつくるか? aubeBizの「自律型チーム」の秘訣をご紹介します。


参考データ
※1 厚生労働省2025年6月報道発表資料 一般職業紹介状況(令和7年5月分)について
※2 パーソルキャリア株式会社が提供する副業プラットフォーム「HiPro Direct」における2023年4月1日~2024年2月29日までの登録案件、副業人材のデータより

 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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