企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第18回

「“自走できる人材”を育てるマインドと環境づくり」 〜指示待ち型から“目的を理解し、動ける人材”へ〜

株式会社aubeBiz  酒井 晶子

 

1.その指示、いつまで出し続けますか? “目的”で動くチームへ

「いちいち指示しないと動いてくれない…」 
「もう少し自分で考えて、自主的に動いてくれたいいのに…」

会社のリーダーとして、あるいはチームをまとめる立場として、ふと、こんな風に感じること、ありませんか?
前回のコラムでは「信頼される会社の条件」をテーマに、組織文化とリーダーシップの重要性についてお話ししました。その「信頼」という土台の上に、私たちは何を育てるべきなのでしょうか。

答えは、「自ら考え、動ける“自走できる人材”」です。

かつては、上司が逐一指示を出すマネジメントでも、会社は成長できました。
しかし人手不足が常態化し、働き方が多様化した今、「指示待ち」では変化に追いつけません。
企業の成長は、社員一人ひとりが「会社の目的」を自分ゴトとして捉え、主体的に動けるかどうかにかかっています。
今回のコラムは企業の未来を左右する「自走できる人材」をいかにして育てるか、そのマインドと環境づくりを具体的に考えていきます。

2. なぜ今、“自走人材”が会社の「生存戦略」なのか

かつては「自走できる人材がいたら理想的だよね」という言葉で片付けられていたかもしれません。しかし今や、これは理想論ではなく、生き残るための必須条件です。
人手不足の時代 1人が1人分の仕事をする組織と、1人が1.2〜1.5人分の価値を生み出す組織。
どちらが激しい競争を生き残れるかは明らかです。
AIや仕組みを活用しながら、自ら「もっと良くするには?」と考えられる人材の存在が、企業の競争力を大きく左右します。
変化のスピードへの対応 市場や顧客のニーズが変わるスピードは、年々速まっています。
トップダウンの指示を待っていては、手遅れになる場面も少なくありません。
現場の社員が変化を察知し、自律的に動くことで、組織全体が変化の波を乗りこなすことができます。

テレワークという新しい前提 画面の向こうのメンバーを一日中監視することはできません。
信頼して任せるしかない──この環境下で、自律的に動ける人材がいなければ、テレワークは「管理不行き届き」の温床になり、パフォーマンスを落としかねません。

変化の波が次々と押し寄せる現代。
その波を乗りこなすサーファーのような人材、すなわち「自走できる人材」が多い組織こそが、未来への舵を切ることができるのです。

3. “自走人材”を育てるための3つの視点

では、具体的にどのようにすれば「自走できる人材」を育てられるのでしょうか。私たちは、以下の3つの視点が重要だと考えています。

① マインドセット:「地図」を渡すな、「コンパス」を渡せ

リーダーがやりがちなのが、目的地までのルートを細かく記した「地図」を渡してしまうこと。これでは「言われたことだけをこなす人材」が育ってしまいます。
本当に渡すべきは、「コンパス」です。「我々がどこを目指しているのか」「なぜそこへ向かうのか」──このコンパスさえ共有できていれば、社員は自ら最適なルートを探し出し、道なき道を切り拓く力を発揮します。
「目の前のこのタスクは、あの山頂にたどり着くための一歩なんだ」と理解した瞬間、仕事は「作業」から「ミッション」へと変わるのです。

はじめの一歩
:次回のチームミーティングで「今週のタスクは会社のどの目標に繋がっているか」を言語化し、共有してみましょう。

② ナレッジ:「秘伝のタレ」をオープンにし、挑戦の「滑走路」を整備する

「これは自分しか知らないノウハウだ」――。という属人化は、組織の成長を止める最大の敵です。もしその人が急に休職したら?──職人かたぎの“秘伝のタレ”は、経営者にとっては大きなリスクです。

自走人材を育てるには、誰もが先人の知恵という「巨人の肩」に乗れる環境が必要です。

マニュアル、チェックリスト、動画教材、社内Wiki、Slackのナレッジ共有チャンネル──こうした仕組みが挑戦の滑走路となり、社員が安心して新しい一歩を踏み出せる土台になります。

特に、成功事例だけでなく失敗事例もオープンに共有することは、心理的安全性を高めるための滑走路となります。「失敗しても大丈夫。そこから学べばいい」という空気が、社員の「やってみよう!」という挑戦心を力強く後押しします。

はじめの一歩:チーム内で起きた小さな失敗と、そこから得られた学びを共有する時間を、週に一度10分だけ作ってみましょう。

③ 評価・フィードバック:「結果」だけでなく「挑戦のプロセス」に拍手を

人のマインドと行動は、評価とフィードバックによって大きく左右されます。自走できる人材を育てるには、最終的な「結果」だけでなく、そこに至るまでの「プロセス」や「挑戦する姿勢」も正当に評価する文化が必要です。
ホームランを打った選手だけが称賛されるチームでは、仮にフォアボールで出塁できる場面でもフルスイングで勝負してしまう、もしくは逆に、ホームランを打てないことを恐れて勝負をためらうようになるかもしれません。
バントや振り逃げ、たとえ空振り三振でも、チームのために勇気を持ってバッターボックスに立ったその「挑戦」にこそ、スポットライトを当てるべきです。
定期的な1on1で、「あの時のチャレンジ、すごく良かったよ」とプロセスを承認する。日々のチャットで、「ナイスアイデア!」と小さな貢献を見つけて言葉にする。そうしたフィードバックが次の挑戦を後押しします。

はじめの一歩:「結果には繋がらなかったが良い試み」を見つけて、「ナイスチャレンジ!」と伝えることから始めてみましょう。

4. aubeBizでの実践例

弊社でも、これらの考え方に基づき、自走できる組織づくりを実践しています。

ナレッジ共有: 情報共有ツール「Notion」を「社内Wikipedia」として活用。業務マニュアルから過去のプロジェクトの議事録、成功・失敗事例まで、あらゆる情報を集約しています。これにより、新メンバーでも過去の知見を参考に、自律的に業務を進められる環境を整えています。

挑戦を称賛する文化づくり: 日常的に感謝や賞賛を送り合う「#thanks」チャンネルをSlackに設置。また、週次ミーティングでの「よかったことシェア」などを通じて、ポジティブなフィードバックが自然に循環する仕組みを意識しています。結果だけでなく、良い動きや協力的な姿勢がすぐに認められる文化です。

これらの取り組みの結果、テレワークスタッフが自発的に顧客業務の改善フローを提案し、大幅な効率化を実現した事例も生まれました。一人の主体的な行動が、チーム全体を動かす力になることを実感しています。

5.「自走」とは「放任」ではない

最後に大切なことをお伝えします。「自走できる人材を育てる」ことは、「放任=丸投げ」ではありません。
部下に「コンパスを渡したから、あとは自分で考えて」と丸投げするのは、単なる責任放棄です。彼らは「本当にこの方角で合っているのか」「失敗したら見捨てられるのではないか」という不安の中で、一歩も踏み出せなくなってしまいます。
リーダーの役割は、部下を荒野に放り出すことではなく、安心して挑戦できる「庭」を用意することです。
丁寧に土を耕し(信頼関係の構築)、いつでも相談できる環境(心理的安全性)を整え、彼らの挑戦を温かく見守ること。それが「育成」なのではないでしょうか。
雑草を抜く手間(障害の除去)、水やり(フィードバックとサポート)などの温かな手入れがあってこそ芽は伸び、その先に「成果」という名の果実が実るはずです。


次回は「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
テレワーク導入は、単なる人材不足対策やコスト削減ではありません。企業の社会的価値やブランド力を高める「戦略」としても大きな意味を持ちます。
次回は、地方創生や女性活躍、BCP(事業継続計画)など、社会課題解決と企業成長をつなぐテレワーク活用についてご紹介します。

 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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