企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第24回
農業×テレワーク──デジタルで広がる“第六次産業化”の可能性 〜“つくる”と“伝える”をつなぐ、新しい地域のかたち〜
株式会社aubeBiz 酒井 晶子
1. 農業の現場にある「新しい働き方」の芽
「人手不足」そして「後継者不足」。 これは、もはや日本全国の地域、特に第一次産業の現場において「待ったなし」の深刻な社会課題です。
「一次産業の仕事は、現場にいなければできない。」この“思い込み”が、長らくその働き方を縛り付けてきたのかもしれません。
もちろん、農業で土を耕し作物を育てたり、漁業で船を出し網を入れたりといった基幹業務は、現場でしか行えません。しかし、その周辺業務に目を向けてみるとどうでしょうか。
SNSでの情報発信、ECサイトの運営・顧客対応、販促企画、データ管理──。こうした「バックオフィス業務」は、デジタル技術を活用すれば“場所を問わず”支えることができます。
事実、育児や介護、あるいは自身の体調など、様々な事情で「外で働く」とこが難しい優秀な人材は、「地域の外」にも「地域の中」にも多く存在しています。こうした人材の力を、テレワークという形で活かすこと。 ローカル・テレワークの次なる挑戦は、まさに「地域の基幹産業である一次産業を支えること」にあると、私は考えています。
それは、単に新しい働き方を生み出すだけでなく、地域経済の仕組みそのものを再構築する挑戦でもあります。
2. “第六次産業化”とは何か──テレワークが加速させる融合モデル
「第六次産業化」という言葉をご存知でしょうか。これは、一次産業(農林水産業)が、二次産業(加工)と三次産業(販売・サービス)を一体的に取り組むことで、新しい価値を生み出す経営形態を指します。(1次 × 2次 × 3次 = 6次、という発想です)。
従来は、農家さん自身がジャムを作ったり、直売所やカフェを運営したりと、あくまで「現場中心」の発想で進められてきました。
しかし、デジタルとテレワークが、その常識を変えつつあります。
SNSの運営やオンラインショップの管理であれば、地域の外からでも関わることができます。
“距離を超えた連携”が可能になった今、たとえば「北海道の農家さん」と「東京のWebデザイナー」が、オンライン会議でタッグを組み、新しい商品パッケージを共同開発する。そんな光景が、すでに現実のものとなっています。
「地域の豊かな生産力」と「都市部のデジタルスキル」がオンラインでつながる。 これこそが、新しい地域経済のカタチ=「デジタル第六次産業化」なのです。
さらには、こうした仕事の繋がりをきっかけに、関係人口創出や、Uターン、移住につながれば、地域の事業を地域で回す「ローカル・テレワーク」モデルの創出へと発展します。
3. 事例①:「農家さんの広報部」は、リモートワーカー
この新しい連携は、すでに日本各地で始まっています。
一番身近な例は、InstagramやX(旧Twitter)、LINE公式アカウントなどを使った情報発信です。農家さんから送られてくる畑の写真や動画をもとに、テレワーカーが「中の人」として、日々の収穫風景や生産者の熱い想いを、イキイキと言葉にして発信する。泥付き野菜の写真と一緒に、農家さんのとびきりの笑顔をパシャリ。 それを見た消費者からは、「こんな素敵な人が作っている野菜なら、ぜひ食べたい!」「顔が見えるから安心」と、信頼が寄せられ、どんどんファンが増えていきます。
結果として、SNSで告知したオンライン限定の野菜セットが、即日完売することも珍しくありません。これは、現場で流される「汗」と、テレワーカーが持つ「デジタルの知恵」が組み合わさることで、“つくる農業”が“伝わる農業”へと進化した瞬間です。
テレワーカーは単なるサポートではなく、農家の「広報部」であり、「共にブランドを育てる重要なパートナー」なのです。
4. 事例②:「あなたは作って!」「わたしは売るね!」── 最高の分業チーム
さらに一歩進んだ形が、ECサイトの運営代行です。
地域のBPOチームが、複数の農家さんや漁師さんのECサイト運営を「まるごと」引き受ける事例も出てきました。魅力的な商品写真の撮影、在庫の管理、そしてお客さまからの問い合わせ対応まで、販売に関わるあらゆる業務をオンラインで支えます。これにより、農家さんは一番得意な「最高においしい作物をつくること」に集中でき、テレワーカーは「販売・発信・顧客対応」を担う。“つくる人”と“売る人”が地域の内外でチームを組むことで、事業の持続性が格段に高まります。
この仕組みは農業だけでなく、漁業や林業にも応用可能です。販路が安定すれば、売上が上がるだけでなく、天候などに左右されにくい「経営の持続性」そのものを高めることにつながる、非常に重要な取り組みです。
地域ごとの強みを生かしながら、「共創型の産業構造」へと進化する、そんな時代が少しずつ始まっています。
5. “共創型一次産業”が生み出す3つの効果
① 地域に新しい仕事が生まれる
「冬は畑仕事がない」「漁に出られない時期」などの閑散期でも、ECサイトの運営やSNS発信といったオンラインの仕事があれば、地域の人が年間を通じて仕事を続けられる環境が整います。
② 地域の「ブランド」が育つ
継続的な発信で、「○○町のトマト」「○○漁港の真鯛」といったような指名買いがされるようになり、地域全体のブランド力がアップします。付加価値が上がれば、価格競争からも脱却できます。
③ “外の風”が、地域を元気にする
外部の人が関わることで、新しい発想やノウハウが持ち込まれ、「こんな売り方どう?」「この野菜、都会ではこう食べてますよ!」と、新しいアイデアがどんどん湧いて刺激となり、地域全体の底上げへとつながっていきます。
また、「外の風」は地域外の人だけでなく、「第一次産業従事者ではない地域住民」も当てはまります。
主婦テレワーカーや、SNSネイティブ世代の若者クリエイターの目線が加わることで、これまでにない新たな商品開発や販路拡大へ繋がることも少なくありません。
6. 「私も、リモートで農業チームの一員です!」
これからの農業を支えるのは、農家さんだけではありません。
都市に住むマーケターも、デザインが得意なママも、動画編集が好きな学生さんも。 みんなが「オンライン生産チーム」の仲間として、リモートで地域の力になれる時代です。
そして、その仕事を地域のテレワーカーが担うようになれば、お金もスキルも地域内で循環する「ローカル・テレワーク・エコノミー」が実現します。
「農業(第一次産業)×テレワーク」は、単なる“地方創生”のスローガンではありません。
企業にとっても、ESG経営やCSV戦略の一環として「地域とともに社会を支える仕組み」を実現できる、持続可能な取り組みです。一人ひとりの働き方を変えることが、社会全体の豊かさにつながる。 その実感を、地方から発信していくことにこそ、私は大きな意味を感じています。
7. 未来へ── 地域の生産現場から、働き方の未来がはじまる
地域の一次産業、その生産現場から生まれるイノベーションが、これからの日本の「働き方」を変えていく。そんな未来を想像すると、ワクワクしませんか?
デジタルは「都会のもの」ではありません。それは、“地域を輝かせるための最高の道具”です。
そしてテレワークは、単に便利な働き方ではなく、“地域の価値を伝え、経済をつなぐ力”そのものなのです。「人がいない」と諦める前に、今ある「地域の価値」と、地域内外に眠る「デジタルの力」をどうつなぐか。
その問いに本気で向き合うことが、これからの「地方創生」であり、同時に「働き方改革」の本質です。
いま、地域の畑や漁港から始まっているこの小さな変化が、きっとこれからの日本全体の働き方を変えていく──。
ローカル・テレワークが次に見つめる先。それは、「一次産業を軸にした、新しい地域経済のかたち」を具体的に設計し、実装していくことにあると、私は確信しています。
次回は「教育とテレワーク──地域で育てる次世代キャリア」
学生インターンや若者のリモート実習を通じて、地域内でのキャリア教育の新しい形が生まれています。 デジタルネイティブ世代に「学び」と「実践」の場を提供することで、「地元を出ていかなくても働ける」仕組み作りと、そのための様々な取組みについて解説します。
プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第30回 中小企業のDXとテレワーク──小さな一歩からの業務改革 〜属人化をほどき、手の届く範囲から未来志向の仕組みづくりへ〜
- 第29回 観光とワーケーション──“訪れる人”を“関わり続ける人”へ 〜テレワークだからできる、新しい関係人口づくり〜
- 第28回 BPOアワードから見えた未来──“外注”ではなく“共創”が、人材不足を超えていく~受賞社の取り組みが示す、これからのBPO活用の正解~
- 第27回 ダイバーシティとテレワーク──多様性が生むイノベーション 〜“働きづらさ”を“戦力化”へ変える、新時代の仕事づくり〜
- 第26回 自治体の挑戦──テレワーク推進政策の最前線 〜「施策」を現場で回す“仕組み”の作り方〜
- 第25回 教育とテレワーク──地域で育てる次世代キャリア 〜「地元で働きたい」を仕組みにする、教育×テレワーク〜
- 第24回 農業×テレワーク──デジタルで広がる“第六次産業化”の可能性 〜“つくる”と“伝える”をつなぐ、新しい地域のかたち〜
- 第23回 地方と企業をつなぐ“BPOモデル”の進化 ──自走型チームが地域経済を動かす 〜“任せる”から“共に創る”へ。地域BPOが生み出す新しい共創のかたち〜
- 第22回 「地方創生テレワーク」の進化形──自治体×企業×住民で生み出す『ローカル・テレワーク』 〜地域の人・企業・文化が輝く、循環型の“しごと生成エコシステム”〜
- 第21回 自治体・企業・住民でつくる 地方創生テレワーク推進モデル 〜“点”で終わらせない、持続可能な三者連携とは?〜
- 第20回 「“よくわからない”を乗り越える──テレワーク導入Q&A」 〜不安を解消し、最初の一歩を踏み出すために〜
- 第19回 「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」 〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
- 第18回 「“自走できる人材”を育てるマインドと環境づくり」 〜指示待ち型から“目的を理解し、動ける人材”へ〜
- 第17回 「“信頼される会社”の条件──テレワーク時代の組織文化とリーダーシップ」 〜制度や仕組みを超えて“信頼”を築く組織の土台とは〜
- 第16回 生成AIとテレワーク ──中小企業が直面する“AI格差”を乗り越えるには?
- 第15回 「地域×テレワーク」──地方創生ローカル・テレワーク 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
- 第14回 「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜
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- 第12回 「“スキマ時間”を活かす働き方──ワークシェアリングという選択肢」
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- 第9回 「BPOとBCP」―― 有事の際の事業継続に備える新常識
- 第8回 ーDX化の第一歩となる業務改革ー「属人化を防ぐ仕事の仕組み化」
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- 第5回 「テレワークは難しい?」──よくある誤解と“うまくいかない理由”を解きほぐす
- 第4回 地域で働く、地域を支える──「ローカル・テレワーク」という新しい仕組み
- 第3回 地方に眠るチカラを活かす!「地方創生テレワーク」の可能性
- 第2回 眠れる働くチカラ 「働きたいけれど働けない」潜在労働力を社会へ
- 第1回 これからの時代に選ばれる働き方とは? ― 少子高齢化・人材不足を乗り越える組織づくりのヒント