企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第30回
中小企業のDXとテレワーク──小さな一歩からの業務改革 〜属人化をほどき、手の届く範囲から未来志向の仕組みづくりへ〜
株式会社aubeBiz 酒井 晶子
突然ですが、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を聞いて、どんな気分になりますか?
「大事なのはわかるけど、正直、気が重い……」
「横文字ばかりで、何から手をつければいいのか分からない」
「高そうなシステムを売り込まれそうで怖い」
「そもそも現場が忙しすぎて、新しいことを考える余裕がない」
もし、そんなふうに感じているとしたら、それはとても自然な反応だと思います。
「DX」という言葉だけが独り歩きして、なんだかとても大がかりで、難しいもののように感じてしまいますよね。
でも本来なら、DXのスタートはもっと“素朴な一歩”でいいはずです。
例えば、こんなふうに感じることはないでしょうか?
「このままのやり方、そろそろ息苦しいな」
「頑張っているのに、ずっと余裕がないな」
このような「負荷」を解消し、ビジネスを前進させる「エネルギー」へと変換するのがDXの目的です。
そのために、会社を急激に変える必要はありません。
組織が少し楽に呼吸できるようになるための“整理”というスタンスから始めることも有効です。
私たちがこれまで支援してきた中小企業の多くは、「DXを進めよう!」と力んだわけではなく、
「テレワークをきっかけに、結果的にDXが進んでいった」 という道を辿っています。
今日は、 お金も人もかけすぎず、 明日から会社がほんの少し軽くなる。
そんな「中小企業だからこそできるDXの始め方」についてお話しします。
DXが進まない“本当の理由”はテクノロジーではない
なぜ、多くの企業でDXが掛け声倒れになってしまうのでしょうか?
DXが進まない理由を、「ウチにはITに詳しい若手がいないから」と思っていませんか?
私はそうではないと考えています。
DXが進まない本当の原因は、「改善の余白がない組織構造」にあります。
例えるなら、「最新型のお掃除ロボット」を買う前に、やるべきことがあるのと同じです。
想像してみてください。
床に物が散乱したままお掃除ロボットを走らせたら、どうなるでしょうか?
コードに絡まったり、大切なものを吸い込んだりしてしまいますよね。
会社も同じです。
・口頭指示や紙のやり取りが当たり前(=見えないルールが床に散乱)
・業務が個人の記憶や経験に依存している(=家具が固定されて動かせない)
・現場が日々の業務に追われ疲弊し、整理する時間がない
この状態で新しいシステムを入れても、混乱が増えるだけ。
だからこそ、DXの第一歩は、「仕組みを入れること」ではなく、「少し片付けること」なのです。
テレワークは会社を整える「魔法のスイッチ」
「片付けが大事なのは分かるけど、それができないから困っている」 そんな声も聞こえてきそうです。
そこで私たちがおすすめしているのが、「小さくテレワークを試してみる」こと。
これが意外と、いい仕事をしてくれるのです。
テレワークは、便利な働き方であると同時に、組織のクセや詰まりを浮き彫りにする“鏡”でもあります。
1.離れた場所にいるスタッフに仕事を頼もうとすると、「阿吽(あうん)の呼吸」が通じないから、手順を言葉にする。
2.紙やハンコが使えないから、クラウドで共有する。
3.頑張っている姿が見えないから、成果物で判断する。
こうした変化が、否応なく起こります。
コロナ禍で同様の経験をされた企業も多いと思いますが、「テレワークをしよう」と思うと、自然と業務を整理せざるを得なくなります。
つまり、テレワークは単なる働き方ではなく、 散らかった業務を強制的に整理させてくれるスイッチなのです。
私たちが支援してきた企業が 「テレワークを始めたら、気づいたらDXが進んでいた」 とおっしゃるのは、決して偶然ではありません。
まずはここから! お金をかけない「スモールDX」3ステップ
では、具体的に何から始めればいいのでしょうか。
最初から完璧を目指す必要はありません。まずはこの3つから始めてみませんか?
① 「仕事の棚卸し」メモ(業務の見える化)
まずは、「どんな仕事があるか」「誰が抱えているか」を書き出してみます。
「Aさんが休むと、この業務が止まる」という隠れた属人化ポイントが、意外とすぐ見えてきます。
② 仕事を「小分け」にする
書き出した仕事の中から、「30分で終わる作業」「手順が決まっている作業」を探します。
これがいわゆる「業務の切り出し」です。
小さくすれば、社内外を問わず任せられるようになります。
③ 無料のクラウドを使ってみる
いきなり高いシステムは不要です。
・書類置き場(ファイル共有): Google Drive や Dropbox など
・連絡ツール: Chatwork や LINE WORKS など
大切なのは「ツールを入れること」ではなく、情報がサラサラ流れる状態をつくることです。
BPO活用でDXを前に進めるための“余白”を作る
「業務整理が大切なのは分かった。でも、それをやる時間がない」
これは、多くの経営者が抱える正直な本音だと思います。
そこで私たちが提案しているのが、 BPO(外部人材)をDXのエンジンとして使うという考え方です。
ある地方の製造業では、経理担当の方が経理事務と労務管理を兼務し、限界寸前でした。
そこでまず、「請求書作成」と「勤怠チェック」だけを切り出し、私たちにアウトソーシングしていただきました。
すると、社内の担当者様に「時間の余裕(余白)」が生まれ、長年先送りされていた業務改善に着手できたのです。
さらに、外部である私たちが業務を引き受ける過程で、
・マニュアル化
・クラウド化
・業務の標準化
が自然と進み、DXの土台が整っていきました。
BPOサービスを単なる外注と捉えるのではなく、忙しい現場に代わって業務を整理し、「前に進める状態」をつくる共創パートナーとして活用いただいた事例です。
どこから始めればいい?──今日からできる、最初の“一歩”
最後に、今日からできる「最初の一歩」をご提案します。
ぜひ、騙されたと思って試してみてください。
【今日】 自分の仕事を5〜10個、メモに書き出す
【今週】 Googleドライブなどで「共有フォルダ」を作る
【来週】 30分で終わる作業を1つ任せてみる
【来月】 15分の「業務見える化ミーティング」をする
これだけで、組織の風通しは確実に変わります。
おわりに──“完璧より、前進”。DXは小さな習慣づくり
DXとは、決して冷たいデジタル化のことではありません。
属人化をほどき、誰か一人に負荷が偏らないようにすること。
情報がスムーズに流れ、誰もが安心して働ける環境を作ること。
それは、「人」を大切にするための改革でもあります。
完璧を目指さなくていい。少し前に進めばいい。
その小さな一歩が、企業よし、働き手よし、地域よしの「三方よし」につながっていくと信じています。
次回は 「“全国採用”の時代──人材不足を突破する採用戦略」
「地元で求人を出しても、応募が来ない」 そんな悩みを抱える中小企業は少なくありません。
次回は、テレワークを前提に、採用の舞台を“通勤圏”から“全国”へ広げる考え方と、そのために必要な業務設計のポイントを、実例とともにお伝えします。
プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第30回 中小企業のDXとテレワーク──小さな一歩からの業務改革 〜属人化をほどき、手の届く範囲から未来志向の仕組みづくりへ〜
- 第29回 観光とワーケーション──“訪れる人”を“関わり続ける人”へ 〜テレワークだからできる、新しい関係人口づくり〜
- 第28回 BPOアワードから見えた未来──“外注”ではなく“共創”が、人材不足を超えていく~受賞社の取り組みが示す、これからのBPO活用の正解~
- 第27回 ダイバーシティとテレワーク──多様性が生むイノベーション 〜“働きづらさ”を“戦力化”へ変える、新時代の仕事づくり〜
- 第26回 自治体の挑戦──テレワーク推進政策の最前線 〜「施策」を現場で回す“仕組み”の作り方〜
- 第25回 教育とテレワーク──地域で育てる次世代キャリア 〜「地元で働きたい」を仕組みにする、教育×テレワーク〜
- 第24回 農業×テレワーク──デジタルで広がる“第六次産業化”の可能性 〜“つくる”と“伝える”をつなぐ、新しい地域のかたち〜
- 第23回 地方と企業をつなぐ“BPOモデル”の進化 ──自走型チームが地域経済を動かす 〜“任せる”から“共に創る”へ。地域BPOが生み出す新しい共創のかたち〜
- 第22回 「地方創生テレワーク」の進化形──自治体×企業×住民で生み出す『ローカル・テレワーク』 〜地域の人・企業・文化が輝く、循環型の“しごと生成エコシステム”〜
- 第21回 自治体・企業・住民でつくる 地方創生テレワーク推進モデル 〜“点”で終わらせない、持続可能な三者連携とは?〜
- 第20回 「“よくわからない”を乗り越える──テレワーク導入Q&A」 〜不安を解消し、最初の一歩を踏み出すために〜
- 第19回 「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」 〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
- 第18回 「“自走できる人材”を育てるマインドと環境づくり」 〜指示待ち型から“目的を理解し、動ける人材”へ〜
- 第17回 「“信頼される会社”の条件──テレワーク時代の組織文化とリーダーシップ」 〜制度や仕組みを超えて“信頼”を築く組織の土台とは〜
- 第16回 生成AIとテレワーク ──中小企業が直面する“AI格差”を乗り越えるには?
- 第15回 「地域×テレワーク」──地方創生ローカル・テレワーク 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
- 第14回 「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜
- 第13回 「“副業・複業人材”を活かす!兼業社会における新しい雇用戦略」 ── 多様なキャリアが交わる“パラレルワーカー”活用の可能性
- 第12回 「“スキマ時間”を活かす働き方──ワークシェアリングという選択肢」
- 第11回 「成功するテレワーク採用」 〜離れていても成果を出す組織づくりのヒント〜
- 第10回 「“全国から採用する時代”へ!採用戦略の発想を切り替えるヒント」 〜テレワークが生み出す“新しい雇用のかたち”〜
- 第9回 「BPOとBCP」―― 有事の際の事業継続に備える新常識
- 第8回 ーDX化の第一歩となる業務改革ー「属人化を防ぐ仕事の仕組み化」
- 第7回 完全テレワークでも離職率5%未満を実現するチームづくりの秘訣 〜組織の土台を支える“仕組み”と“信頼文化”のつくり方〜
- 第6回 成長戦略としてのBPO活用法 〜“外注”にとどまらない、企業の柔軟性と競争力を高める選択肢〜
- 第5回 「テレワークは難しい?」──よくある誤解と“うまくいかない理由”を解きほぐす
- 第4回 地域で働く、地域を支える──「ローカル・テレワーク」という新しい仕組み
- 第3回 地方に眠るチカラを活かす!「地方創生テレワーク」の可能性
- 第2回 眠れる働くチカラ 「働きたいけれど働けない」潜在労働力を社会へ
- 第1回 これからの時代に選ばれる働き方とは? ― 少子高齢化・人材不足を乗り越える組織づくりのヒント