中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第122回

プルデンシャル生命不祥事が映す成果主義の闇:中小企業が学ぶべき「追い込み営業」からの脱却

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

はじめに:31億円詐取事件が問いかける、あなたの会社の営業体制


2026年1月、プルデンシャル生命保険で発覚した不祥事は、日本の営業組織が抱える構造的問題を白日の下にさらしました。社員・元社員約100人超が顧客約500人から総額31億円を詐取・不適切受領。手口は架空の投資話、金銭借入、無認可業者紹介によるキックバックと多岐にわたり、1991年頃から30年以上も続いていたのです。

会社は社長の引責辞任、第三者委員会設置、被害者への全額補償方針を発表しましたが、新たな被害申告は数十件に上り、金融庁の調査も本格化しています。この事件を「一部の悪質な社員による不祥事」で片付けることは簡単です。しかし、問題の本質はそこにはありません。

私は元生命保険外務員として、プルデンシャルと同様の完全成果主義の会社で働いた経験があります。そこで目の当たりにしたのは、成績優秀者が短期間で数千万円を稼ぐ「天国」と、契約を取れない営業マンが生活崩壊に追い込まれる「地獄」の、極端に分断された世界でした。入社時は「覚悟の上」と理解していても、現実の圧力は想像を超えるものです。

中小企業経営者の皆さんに問います。御社の営業チームは健全に機能していますか?成果報酬を重視するあまり、数字さえ出せば細かい行動を問わない運用になっていませんか?人手不足や業績プレッシャーで、追い込み営業を黙認する空気が生まれていませんか?

本コラムでは、プルデンシャル不祥事の構造分析と私自身の体験を通じて、成果主義が持つ「落とし穴」を徹底解剖します。問題は保険業界だけでなく、不動産・証券・人材派遣など高インセンティブ営業を抱えるあらゆる業界に共通します。制度が人を不正に追い込む前に、経営者の視点で営業体制を見直すきっかけとなれば幸いです。



不祥事の全貌:31億円の裏に潜む報酬制度の歪み

まず、事件の全体像を整理しましょう。被害の中心は架空投資の出資詐取で、「元本保証」「勝率100%」などと謳い、顧客1人から数千万円単位を巻き上げたケースも複数報告されています。社員は保険会社の名刺と事務所を使い、長年の信頼関係を悪用しました。総額は詐取31億円に加え、不適切支出を含めると44億円超とも言われています。

特に悪質だったのは、その手口の巧妙さです。営業マンは顧客に対して「保険とは別の投資案件がある」と持ちかけ、会社の会議室や応接室で契約書を交わしていました。顧客からすれば、信頼する保険担当者が会社の施設で紹介する案件です。疑う理由がありません。中には「社内の特別な投資プログラム」と説明され、プルデンシャルの関連商品だと信じ込んだ被害者もいます。

会社は原因分析で「マイクライアント制度」(1人の営業が顧客を生涯担当)が密室化を招いたと認めていますが、より根本的な問題は報酬制度にあります。プルデンシャルの営業社員はフルコミッション型で、固定給は最低賃金レベル。収入の大部分が新契約の手数料に依存する仕組みです。月間成績が良ければ数百万円、悪ければほぼゼロ(ただし、最低賃金の保障はある)という極端な変動があります。

報酬の変動幅は想像を絶するものです。トップセールスは月収500万円を超える一方、成績不振者は最低賃金ギリギリになることも珍しくありません。この格差は社内ランキングで可視化され、毎月の営業会議で発表されます。上位者は壇上で表彰され、下位者は黙って席に座る。この儀式が、プレッシャーを倍増させます。

会社は公式謝罪で「変動の大きい報酬が不適切行為につながった可能性がある」と認め、今春までにゼロベースで制度見直しを約束しました。人事評価も360度型へ移行し、組織風土改革を掲げています。第三者委員会と補償委員会も設置され、現役社員の被害は全額補償する方針です。

しかし、これらは対症療法に過ぎません。表層を見れば「成果偏重文化」「監督不足」が目立ちますが、勤怠管理(週報の提出)は形式的で、成績さえ出せば夜の会食や投資勧誘は事実上黙認されていました。管理職も「数字を出す人材」として評価され、部下の行動プロセスへの関心は薄かったのです。上司は「結果を出せ」とは言いますが、「どうやって出すか」は問いません。この放任が、不正の温床を作りました。

中小企業経営者の皆さんに伺います。御社のインセンティブ営業も、新規獲得偏重で「継続率」や「顧客満足」を軽視していませんか?短期の数字に縛られるあまり、長期的な信頼を損なうリスクを見落としていませんか?営業マンが「どこで何をしているか」を把握せず、結果だけで評価していませんか?営業会議で成績上位者だけを称賛し、下位者を無視していませんか?プルデンシャルの今日は、御社の明日かもしれません。


元外務員が語る真実:天国組と地獄組が共存する分断社会


私が生命保険外務員として働いた会社も、プルデンシャルと酷似した報酬体系でした。入社時の説明会は華やかで、高収入の夢、自由な働き方、トップセールスの成功談に心を奪われます。「ノルマはないが、成果がすべて。きつい世界です」とリスクも明示され、覚悟を持って飛び込みました。

天国組の実態は、まさに夢の世界です。入社1年で年収数千万円を稼ぐ同期もいました。社長室に呼ばれての称賛、社内表彰、豪華な海外旅行。トップセールスは高級車を乗り回し、皆の憧れの的です。彼らは「やればできる」と語り、会社も彼らを前面に押し出します。研修では「彼らのマインドセットを学べ」と繰り返し教え込まれます。

彼らの成功には、いくつかのパターンがあります。一つは、親族や友人に富裕層が多く、最初から顧客基盤がある「恵まれた環境」型。もう一つは、異業種での人脈を活かせる「転職組」型。さらに、圧倒的な営業力で新規開拓を続ける「天才」型。しかし、これらのパターンに当てはまらない普通の人は、天国組には入れません。

一方、地獄組の私は契約ゼロの月が続き、生活費が底をつきました。家賃、光熱費、家族の食費。貯金が尽きると、消費者金融に手を出さざるを得ません。家族に「今月は厳しい」と言い訳を重ねる日々。妻からは「いつまで続けるの?」と問い詰められ、子どもの前では笑顔を作る。精神的には、上司に弱音を吐けず、同僚の成功話に追い詰められていきます。研修では「マインドセットが足りない」と自己責任論を刷り込まれ、孤立感が増していきました。

地獄組の日常は過酷です。朝7時に家を出て、深夜まで訪問活動。アポイントがないため、飛び込み営業を繰り返します。1日50件訪問しても、話を聞いてくれるのは2〜3件。契約に至るのは数ヶ月に1件あればいい方。交通費は自腹、昼食は立ち食いそば。夜は疲れ果てて帰宅し、家族との会話もままなりません。

不正に至る心理プロセスは段階的です。最初は正攻法で頑張りますが、成果が出ない。次に、顧客に「ちょっとした投資話」を持ちかけて小銭を稼ごうとする。それが成功すると、信頼を悪用してエスカレートしていきます。私の場合、不正の一歩手前で退職しましたが、周囲では「紹介料ビジネス」が横行していました。保険以外の商品を顧客に紹介し、手数料を受け取る。最初は数万円でも、徐々に金額が大きくなり、気づいたときには引き返せなくなります。

管理体制は驚くほど緩いものでした。週報に「顧客訪問10件」と書けばそれで済み、実際に何をしているかは問われません。上司との面談も形式的で、「頑張れ」「気合だ」といった精神論ばかり。具体的な営業スキル指導やメンタルケアはありません。成績が出ている限り、どこで何をしていても会社は何も言わない。むしろ「結果を出す人材」として評価されます。この放置が、不正の温床になっていました。

中小企業経営者の皆さん、御社のトップセールスは本当に「正攻法」だけで稼いでいますか?裏で取引先から借金を集めたり、投資話でキックバックを得たりしていないでしょうか?そして、地獄組の苦しみを想像したことがありますか?彼らは「覚悟の上」で入社したはずなのに、制度そのものが不正を誘導するのです。トップセールスと成績不振者の格差が極端に大きいほど、組織は不健全です。この分断が、組織の健全性を根底から崩壊させます。


構造的欠陥の本質:雇用と業務委託の「いいとこ取り」が生む無法地帯


問題の本質は、「雇用でありながら、労働時間管理をしていない」という矛盾にあります。プルデンシャルの営業社員は、税務上は「個人事業主」として扱われ、事業所得で申告し経費処理が可能です。営業活動の交通費、接待費、携帯電話代などを経費として計上し、確定申告を自分で行います。しかし、労働基準法と社会保険上は「労働者」として扱われ、会社は社会保険料を負担し、労働者としての権利を保障しています。この二面性が制度的なねじれを生み出しています。

会社は指揮命令関係を認めつつ、実態は業務委託に近い運用をしています。労働時間の記録はなく、長時間労働やメンタルヘルス管理は形骸化。成績さえ出せば、夜の接待や副収入獲得は黙認されます。つまり、会社にとって都合のいい部分だけを「雇用」と「委託」から選んでいるのです。雇用なら労働時間管理が必要ですが、それはしない。委託なら指揮命令ができませんが、それはする。この「いいとこ取り」が、無法地帯を作り出しました。

この構造を生んだ背景には、金融庁の規制があります。保険募集人は顧客保護の観点から「雇用形式」が求められ、真の業務委託は認められにくい。保険業法では、募集人の不正行為について保険会社が使用者責任を負うため、雇用関係が前提とされています。結果として「雇用なのに管理せず、成果だけ見て放置する」というグレーゾーンが生まれました。

さらに深刻なのが、縦割り行政の弊害です。金融庁は顧客保護(適合性原則、説明義務)を、厚生労働省は労働者保護(労働時間管理、安全配慮義務)を求めますが、両者を横断する枠組みはありません。企業は「都合のいいグレー」を利用し、責任のすき間を作り出します。金融庁の検査では顧客対応の適切性を問われますが、営業マンの労働実態は問われません。労基署の調査では労働時間管理を問われますが、顧客との関係は問われません。この縦割りが、企業の逃げ道を作っています。

これは保険業界だけの問題ではありません。証券会社の高額報酬営業では、株式や投資信託の販売で同様の問題が起きています。不動産仲介では、投資用マンションの販売で詐欺まがいの手法が横行。人材派遣業界では、違法派遣や偽装請負が後を絶ちません。共通するのは「ハイリスク商品を扱う立場に、追い込まれた営業を置く」構造です。

中小企業でも、不動産仲介や金融商品販売、高額商材の訪問販売で同様のリスクを抱えています。建設業の営業、リフォーム営業、高額な健康食品や浄水器の訪問販売。いずれも高額インセンティブで営業マンを動機づけ、成果だけを求める傾向があります。

御社はどうですか?「正社員なのに業務委託的運用」「数字さえ出せばOKの文化」が根付いていませんか?勤怠管理システムに出退勤を記録させながら、実際の行動を把握していないのではありませんか?営業マンが「今日は直行直帰」と報告し、実際には何をしているか分からない状態が続いていませんか?この管理の空洞化が、不祥事を長期化させる最大の要因です。実態ベースでの責任を明確にしなければ、御社もプルデンシャル化は避けられません。


「覚悟の上」では済まされない:制度が強いる不正への二択


「入社時にリスクを理解したのだから自己責任だ」という声もあります。しかし、この論理は現実を見ていません。入社時の「覚悟」は、数ヶ月・1年間のプレッシャーで簡単に崩壊します。

収入がゼロに近づくと、家賃が払えなくなります。光熱費が滞納されます。家族の食費を削り、子どもの習い事をやめさせ、それでも足りなくなります。貯金が尽きると、クレジットカードのキャッシング、消費者金融、最後には闇金融に手を出す人もいます。この恐怖は、判断力を著しく低下させます。倫理観が麻痺し、「今だけ」「少しだけ」という合理化が始まります。

さらに深刻なのは、家族からのプレッシャーです。妻から「いつまで続けるの?転職したら?」と言われ、親から「騙されているんじゃないか」と心配され、友人からは「まだ保険やってるの?」と哀れみの目で見られる。プライドが傷つき、孤立感が深まります。「このままでは家族を守れない」という焦りが、不正への一歩を踏み出させます。

制度が営業マンに突きつけるのは「不正に手を染めるか、退職して路頭に迷うか」という二択です。中間の選択肢がありません。正攻法で成果が出るまでの生活保障がないため、多くの人が前者を選んでしまいます。これは個人の倫理観の問題ではなく、制度設計の問題なのです。

「退職すればいい」という意見もありますが、それも現実的ではありません。退職すれば収入はゼロになり、転職活動の間の生活費もありません。40代、50代で転職市場での価値は低く、再就職は困難です。数ヶ月の空白期間で、生活は完全に破綻します。結果として、「不正をしてでも今を乗り切る」という選択を迫られます。

顧客や社会への影響も深刻です。保険会社のブランドと信頼を利用して金を巻き上げる行為は、被害者個人の損失にとどまりません。1社の不祥事が業界全体の信用を失墜させ、真面目に働く営業マン全員の評判を傷つけます。プルデンシャル事件後、他の生命保険会社の営業マンも「あなたの会社は大丈夫?」と顧客から疑いの目で見られています。

中小企業なら、影響はさらに直接的です。取引先の社長から借金詐取されたら、その会社との関係は終わりです。地域経済での評判は一夜にして地に落ち、取引先が次々と離れていきます。御社の不正営業マン1人が、10年分の信用を一瞬で破壊するのです。地方の中小企業にとって、地域での信用は何よりも重要な資産です。それを失えば、事業継続は不可能になります。

「覚悟の上」という言葉は、制度設計者の責任逃れに過ぎません。経営者には「稼ぐ人を生む制度」を作る責任があります。プルデンシャルは氷山の一角です。高インセンティブ営業の宿命的課題として、業界全体で向き合うべき問題なのです。「本人が覚悟した」という理由で、制度の欠陥を正当化してはいけません。


中小企業経営者が今日から始める再発防止策


教訓を実務に活かすため、低コストで導入可能な具体策を提示します。大企業のような潤沢な予算がない中小企業でも、工夫次第で実現可能な方法です。


報酬設計の見直し

第一に、最低保障給の導入です。生活保護水準以上の固定給を設定し、フルコミッションの恐怖を緩和します。「成果を出さなければ生活できない」状態を作らないことが、不正防止の第一歩です。具体的には、単身者で月25万円、扶養家族がいる場合は月30万円程度を最低保障とします。これに成果報酬を上乗せする形にすれば、生活の安定と成果へのモチベーションを両立できます。

第二に、評価指標の多様化です。新規契約だけでなく、長期継続率や顧客満足度を報酬に連動させます。具体的には、契約後1年継続で手数料の10%加算、3年継続で20%加算といった仕組みです。アンケート実施や定期フォローを評価項目に加え、短期新規偏重を脱却します。顧客満足度調査を年2回実施し、高評価を得た営業マンにはボーナスを支給します。

第三に、チーム評価の導入です。個人成績だけでなく、部署全体の目標達成度を報酬に反映させます。例えば、報酬の70%を個人成績、30%をチーム成績に連動させます。これにより、個人へのプレッシャーが分散され、相互支援の文化が生まれます。成績優秀者が後輩を指導するインセンティブも生まれ、組織全体の底上げにつながります。


管理体制の強化

成果だけでなくプロセスを評価する仕組みが必要です。360度評価(上司・同僚・部下からの評価)を導入し、数字以外の貢献も可視化します。年2回の評価で「協力姿勢」「顧客対応の丁寧さ」「後輩育成」などを点数化し、昇給や賞与に反映させます。

月次での個別面談を義務化し、収入変動や借入の兆候をチェックします。「最近、生活が苦しくないか」「借金していないか」「家族関係は良好か」と直接聞くことで、イエローゾーンを早期発見できます。面談シートを作成し、収入推移、借入状況、メンタル状態を記録します。

副業や投資勧誘を就業規則で明確に禁止し、違反は懲戒解雇とすることを周知徹底します。曖昧な運用が不正を招くため、ルールは明確にすべきです。入社時の誓約書に「顧客への金銭貸借禁止」「投資商品紹介禁止」「副業禁止」を明記し、署名させます。

行動のモニタリングも重要です。営業日報は形式的な「訪問10件」ではなく、「誰に会い、何を話し、どんな反応だったか」を具体的に記入させます。週1回、上司が日報をチェックし、不自然な記述や空白期間があれば即座にヒアリングします。


組織文化の改革

成績不振者を切り捨てるのではなく、再教育や配置転換の機会を提供します。営業が向かない人材を、内勤や事務職に異動させる柔軟性が組織を守ります。カスタマーサポート、契約管理、データ分析など、営業以外のポジションを用意しておくことが重要です。

退職者への支援パッケージも重要です。職業紹介やセカンドキャリア相談を提供し、「辞めても人生が終わらない」安心感を作ります。これが、追い詰められた社員の不正を防ぎます。

提携する人材紹介会社を確保し、退職時には無料で転職支援を受けられる制度を作ります。

月1回の「全社員ミーティング」で弱音を共有する文化を育てます。「うまくいかない」と言える空気が、孤立を防ぎ、不正の芽を摘みます。成績優秀者だけでなく、苦労している社員にも発言の機会を与え、「失敗から学ぶ」姿勢を称賛します。

メンター制度の導入も効果的です。新人には必ず先輩をメンターとしてつけ、月1回の面談を義務化します。上司には言いにくい悩みも、先輩になら相談できます。メンターには手当を支給し、育成責任を明確にします。


法務・コンプライアンス対策

雇用実態に合わせた労働時間管理が必須です。勤怠管理アプリを導入し、営業マンの行動を可視化します。「どこで何時間働いているか」を把握することが、不正の抑止力になります。GPS機能付きの勤怠アプリなら、訪問先と報告内容の整合性も確認できます。

副収入の申告を義務化し、年1回の申告書提出を求めます。「顧客からの贈答品(5,000円以上)」「副業収入」「金銭貸借」をすべて申告させ、違反が発覚した場合の罰則も明記します。申告書は人事部で保管し、不正の証拠として活用できます。

社会保険労務士と相談し、「成果主義就業規則テンプレート」を作成します。中小企業向けに、法的リスクを最小化した規則を整備することで、訴訟リスクも軽減できます。就業規則には「成果報酬の計算方法」「最低保障給」「禁止行為」「懲戒基準」を明記し、全社員に配布します。

内部通報制度の整備も重要です。社外の第三者機関(弁護士事務所など)に通報窓口を設置し、匿名での通報を可能にします。通報者保護を明文化し、報復人事を禁止します。これにより、不正の早期発見が可能になります。


コスト対効果の現実

「こんな改革にコストをかけられない」という声もあるでしょう。しかし、不祥事1件の損失を考えてください。信用失墜、顧客離れ、訴訟費用、補償金。総額は数億円に達します。プルデンシャルは44億円超の補償を約束していますが、これに加えて信用失墜による売上減少は計り知れません。

一方、改革投資は年間数百万円で済みます。最低保障給の増額は社員1人あたり年間100万円程度、評価システムの導入は初期費用50万円+月額10万円、面談時間の確保は管理職の工数増加のみ。これらは不祥事の損失に比べれば微々たるものです。

実際、不動産会社A社は最低保障給を導入した結果、離職率が30%減少し、継続率が20%向上しました。社員の精神的安定が、顧客への丁寧な対応につながり、業績も改善したのです。初年度の投資は800万円でしたが、2年目には離職による採用コスト削減と売上増加で1,500万円の効果を生み、完全に元が取れました。

人材派遣会社B社は、360度評価とメンター制度を導入し、新人の定着率が50%から80%に向上。採用・育成コストが大幅に削減され、3年間で2,000万円のコスト削減効果を達成しました。


おわりに:経営者の覚悟で「持続可能な成果主義」を構築する


プルデンシャル生命不祥事は、成果主義の限界を映す鏡です。天国組を増やしつつ、地獄組を生まない制度改革が急務です。高インセンティブ営業の未来は、経営者の手にあります。

中小企業経営者の皆さんに問います。今日、御社の営業チームで誰かが「地獄」に追いやられていませんか?数字を出せない社員を切り捨て、新しい人材を使い捨てるサイクルを繰り返していませんか?トップセールスだけを称賛し、苦労している社員を無視していませんか?

「稼ぐ人を生む」という発想から、「持続的に稼げる人を育てる」という発想への転換が必要です。元生命保険外務員として断言します。構造を変えなければ、誰も幸せになりません。営業マンも、顧客も、経営者自身も。不正に手を染めた営業マンは、一生その罪悪感を背負います。被害を受けた顧客は、二度と保険会社を信用しません。経営者は、築き上げた信用を一瞬で失います。

成果主義そのものは悪ではありません。問題は、極端な成果偏重と管理の放棄です。適切な報酬設計、プロセス管理、組織文化の構築があれば、成果主義は強力な武器になります。社員のモチベーションを高め、顧客に最高のサービスを提供し、会社の成長を加速させることができます。

今こそ、業界を超えて健全な成果主義を共に築くときです。プルデンシャルの教訓を他山の石とし、御社の営業体制を見直してください。明日、不祥事の当事者になるのは、他の誰でもありません。今日、行動を起こす経営者だけが、持続可能な組織を作ることができます。

最後に、経営者の皆さんにお願いがあります。今日の夕方、御社の営業部門を訪れて、成績下位の社員と30分話してください。彼らが何に悩み、どんなプレッシャーを感じているか、直接聞いてください。その声が、改革の第一歩です。制度を変える前に、人を知ることから始めましょう。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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