中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第112回

2026年1月から補助金申請のルールが変わる! 中小企業経営者が知っておくべき新制度のポイント

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

はじめに:補助金申請に大きな変化が起きる


<2026年1月からの重要な制度変更>

前回のコラムで、大阪の税理士逮捕事件を通じて「士業の独占業務」についてお伝えしました。税理士が社労士の独占業務を行ったことで逮捕されたという事件でしたが、実は今、補助金申請の分野でも大きな制度変更が予定されています。

2026年1月から、経済産業省などが所管する補助金について、報酬を得て申請書類を作成する業務が、行政書士の独占業務として明確化されることが決定しました。これまでも法律上は行政書士の業務範囲でしたが、名目を変えた脱法的な代行業務が横行していたため、今回の改正で規制が明確化されました。

重要なのは、すべての補助金支援業務が禁止されるわけではないという点です。経営相談やアドバイス、事業計画のブラッシュアップ、書類の添削などは、引き続き中小企業診断士やコンサルタントも行えます。ただし、有償で申請書類そのものを作成する場合は、行政書士資格が必要になります。


<なぜこの変更が必要になったのか>

近年、補助金制度が拡充され、多くの中小企業が活用するようになりました。それに伴い、申請サポートを提供する事業者も増加しています。しかし残念ながら、その中には十分な知識や経験を持たない無資格者も含まれており、不適切な申請書類の作成や、高額な成功報酬を請求するといったトラブルが増えているのです。

特に問題となっていたのは、「コンサルティング料」「アドバイス料」などの名目で、実質的には申請書類の作成代行を行う脱法的な業務です。こうした行為を明確に禁止し、中小企業を保護するため、今回の法改正が行われました。



1.「助成金」と「補助金」の違いを整理する


制度変更の内容を理解する前に、まず「助成金」と「補助金」の違いを整理しておきましょう。多くの経営者が混同しがちなこの二つの制度ですが、実は性質が大きく異なります。


<助成金とは?(厚生労働省系)>

助成金は、主に厚生労働省が所管する支援制度で、雇用や人材育成に関するものが中心です。代表的なものとしては、キャリアアップ助成金、人材開発支援助成金、両立支援等助成金などがあります。

助成金の最大の特徴は、定められた要件を満たせば、基本的に受給できるという点です。もちろん審査はありますが、予算の範囲内で要件を満たしていれば受給できる可能性が高いため、計画的に活用しやすい制度といえます。

そして重要なのは、この助成金の申請代行は、従来から社会保険労務士(社労士)の独占業務だということです。前回のコラムでお伝えした通り、雇用保険や労働保険に関する手続きは社労士の専門領域であり、助成金もその延長線上にあります。

したがって、もし「助成金申請を代行します」という営業を受けた場合、その方が社労士資格を持っているかを必ず確認してください。無資格者による助成金申請代行は違法行為です。


<補助金とは?(経済産業省系など)>

一方、補助金は主に経済産業省や自治体が所管する支援制度で、設備投資や事業拡大、IT化推進などを目的としています。代表的なものに、事業再構築補助金、ものづくり補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金などがあります。

補助金の特徴は、審査があり、申請すれば必ず受給できるわけではないという点です。多くの企業が応募し、その中から優れた事業計画を持つ企業が採択される競争的な制度です。そのため、事業計画書の質が採択率を大きく左右します。

これまでも、法律上は補助金申請書類の作成は行政書士の業務範囲でしたが、実態として中小企業診断士、経営コンサルタント、会計士など、さまざまな専門家が「コンサルティング」の名目で申請サポートを提供してきました。

2026年1月からは、名目を問わず、報酬を得て申請書類を作成する行為が行政書士の独占業務として明確化されます。


<両者の主な違い>

助成金と補助金の違いを整理すると、以下のようになります。

・所管省庁:助成金は厚生労働省、補助金は経済産業省など

・目的:助成金は雇用・人材育成、補助金は設備投資・事業拡大

・受給の確実性:助成金は要件を満たせば基本的に受給可能、補助金は審査・採択が必要

・申請書類作成の資格要件:助成金は社労士の独占業務(従来から)、補助金は2026年1月から行政書士の独占業務として明確化



2.2026年1月以降、補助金申請はどう変わるのか


<行政書士だけが「申請書類の作成」を代行できる>

2026年1月以降、経済産業省などが所管する補助金について、報酬を得て申請書類を作成する業務は、行政書士の独占業務として明確化されます。

重要な誤解を避けるために強調しますが、コンサルタントや中小企業診断士が一切関われなくなるわけではありません。


引き続き可能な業務:

・補助金制度の内容調査・分析

・企業との面談による経営課題の整理

・市場調査、競合分析、SWOT分析

・事業計画の論理構成や戦略に関する助言

・企業が自分で作成した書類の添削やフィードバック

・経営コンサルティング全般


行政書士の独占業務となるもの:

・申請書類そのものの作成代行

・事業計画書の文章を代わりに書くこと

・申請フォームへの入力代行(ただし後述の仕組みあり)


<Jグランツでの代理申請の仕組み>

現在、多くの補助金申請はJグランツという電子申請システムで行われます。「企業のGビズIDでログインしないと申請できないのに、どうやって代理するのか?」という疑問があるかもしれません。


実は、Jグランツには正式な代理申請機能が用意されています:

・企業がGビズID上で行政書士に委任申請を行う

・行政書士が自分のGビズIDで書類作成作業を行う(企業のIDは使わない)

・作成完了後、企業が自分のGビズIDで内容を確認

・最終的な申請(送信)は必ず企業本人が行う


つまり、行政書士は書類の作成までを担当し、最終的な申請ボタンを押すのは企業自身という仕組みです。これにより、適法かつ安全に代理申請が可能になります。


<経過措置について>

実は、法律の解釈としては以前から申請書類の作成は行政書士の業務範囲でした。今回の改正は「名目を変えた脱法行為を明確に禁止する」ことが主眼です。

ただし、2026年1月という施行日が決まっている以上、経営者としては早めに対応を検討する必要があります。特に、2026年度の補助金申請を予定している場合は、年明けすぐに申請時期が来る可能性もあるため、年内に依頼先を確定しておくことをお勧めします。


<違反した場合のリスク>

もし2026年1月以降も、行政書士資格を持たない者が報酬を得て補助金申請書類の作成を続けた場合、行政書士法違反として1年以下の懲役または100万円以下の罰金の対象となります。

そして重要なのは、依頼した企業側にもリスクがあるということです。無資格者が作成した申請書類は、そもそも受理されない可能性がありますし、仮に受理されても審査の過程で問題が発覚すれば、申請が却下されるだけでなく、企業の信用問題にも発展しかねません。



3.中小企業経営者が今すぐ確認すべきこと


<現在の依頼先の確認>

まず確認すべきことは、現在補助金申請のサポートを依頼している専門家との契約内容です。


確認すべきポイント:

・契約書に「申請書類の作成代行」と明記されているか

・その専門家が行政書士資格を持っているか

・行政書士資格がない場合、実際の作業内容は何か(助言・添削のみか、書類作成まで含むか)


確認方法は簡単です。まず、その方の名刺を見てみましょう。行政書士であれば、名刺に「行政書士」と記載されているはずです。また、各都道府県の行政書士会が運営するウェブサイトで、登録者の検索ができます。

もし現在依頼している方が行政書士資格を持っていない場合でも、すぐに関係を切る必要はありません。その方が「助言・添削」に徹し、企業自身が書類を作成する形に変更すれば、引き続き協力関係を続けられます。あるいは、その方が提携している行政書士を紹介してもらえる可能性もあります。


<依頼先の使い分け>

制度変更を機に、助成金と補助金で依頼先を明確に使い分けることをお勧めします。

・雇用関係の支援を受けたい場合 → 社労士に相談

従業員の教育訓練、非正規社員の正社員化、育児・介護との両立支援など、雇用に関する助成金を活用したい場合は、社労士に相談しましょう。

・設備投資や事業拡大の支援を受けたい場合 → 行政書士に相談

新しい機械設備の導入、IT化の推進、新事業への進出など、設備投資や事業拡大のための補助金を活用したい場合で、申請書類の作成代行を依頼したいときは、行政書士に相談しましょう。


<コンサルタント・診断士との協業体制>

理想的なのは、中小企業診断士やコンサルタントが経営戦略を練り、行政書士が書類作成を担当するという協業体制です。

実際、すでにこうした連携体制を整えている事務所も増えています。

たとえば:

・診断士が事業計画の構想や市場分析を担当

・行政書士が申請書類としての完成度を高める

・企業が最終確認して自ら申請

このような分業により、それぞれの専門性を活かした質の高い申請が可能になります。



4.よくある質問と誤解

制度変更について、経営者の方々からよく寄せられる質問にお答えします。


<今までのコンサルタントはどうなる?>

「長年お世話になっているコンサルタントがいるのですが、その方に依頼できなくなるのでしょうか?」という質問をよくいただきます。

答えは、関係が切れるわけではまったくありません。


コンサルタントが引き続きできること:

・経営戦略の立案支援

・事業計画の構想づくり

・市場分析や競合調査

・企業が作成した書類の添削・フィードバック

・補助金の選定や活用戦略の助言


行政書士に依頼する必要があること:

・申請書類そのものの作成代行


したがって、信頼できるコンサルタントがいる場合は、その方に「2026年1月以降の補助金申請はどのように対応されますか?」と聞いてみてください。適切な対応を考えているコンサルタントであれば、以下のいずれかの方針を示すはずです:

・助言・添削に業務内容を変更し、企業自身が書類作成する形に移行

・提携する行政書士を紹介し、協業体制で対応

・自身が行政書士資格を取得予定


<中小企業診断士には依頼できない?>

中小企業診断士には引き続き依頼できます。ただし、依頼内容が変わります。


診断士に引き続き依頼できること:

・経営分析と事業計画立案の支援

・補助金の選定や戦略的活用の助言

・事業計画書の論理構成や内容面での助言

・企業が自分で作成した書類の添削


診断士には依頼できなくなること:

・申請書類そのものの作成代行(報酬を得る場合)


なお、行政書士資格も併せ持つ中小企業診断士もいますので、そうした方であれば書類作成代行も含めて一貫して依頼できます。


<費用は高くなる?>

適正価格に落ち着く可能性が高いと考えられます。

これまで無資格者が低価格で代行していたケースもありましたが、その中には不適切な申請書類を作成したり、成功報酬として不当に高額な費用を請求したりする業者も含まれていました。

資格制が明確化されることで、料金体系の透明性が高まると期待されています。行政書士は、各都道府県の行政書士会が報酬基準を公開していますし、倫理規定もありますので、不当な高額請求のリスクは低くなります。



5.制度変更を機に見直すべき補助金活用戦略


<自社に合った支援制度の選び方>

制度変更を機に、改めて自社にとって最適な支援制度を見直してみましょう。

・人材育成に課題がある場合は助成金

従業員のスキルアップが必要、非正規社員を正社員化したい、育児・介護と仕事の両立を支援したいといった課題がある場合は、厚生労働省の助成金が適しています。社労士に相談し、自社の状況に合った助成金を選んでもらいましょう。

・設備投資やIT化を進めたい場合は補助金

生産性向上のための設備導入、IT化の推進、新事業への進出といった投資を考えている場合は、経済産業省などの補助金が適しています。【修正】行政書士に相談し(書類作成代行を依頼する場合)、または中小企業診断士やコンサルタントの助言を受けながら(企業自身が書類作成する場合)、事業計画を練り上げて申請準備を進めましょう。


<申請準備の重要性>

補助金申請において最も重要なのは、事業計画の質です。特に競争率の高い補助金では、事業計画書の完成度が採択率を大きく左右します。

2026年1月以降、申請書類の作成代行を依頼する場合は行政書士が担当することになりますが、事業計画の中身は経営者自身が考えなければなりません。行政書士やコンサルタントは、その内容を整理し、審査に通りやすい形に仕上げる役割を担います。

したがって、申請の直前に慌てて準備を始めるのではなく、早めに専門家に相談し、時間をかけて事業計画を練り上げることが成功の鍵となります。



まとめ:制度変更は経営者を守るためのもの


<重要ポイントの再確認>

2026年1月から、補助金申請について報酬を得て申請書類を作成する業務が行政書士の独占業務として明確化されます。一方、従来通り助成金申請は社労士の独占業務です。

ただし、すべての補助金支援業務が禁止されるわけではありません:

・経営相談、助言、添削などは引き続き可能

・企業自身が書類を作成することを前提としたサポートも可能

・書類の「作成代行」のみが制限される

制度変更の背景には、名目を変えた脱法的な代行業務や、無資格者によるトラブルから中小企業を守るという目的があります。前回のコラムでお伝えした大阪の税理士逮捕事件と同様、独占業務の制度は依頼者である私たち経営者を保護するための仕組みなのです。


<今やるべきこと>

2026年1月まで、まだ時間はありますが、早めの準備が大切です。

まず、現在補助金申請のサポートを受けている専門家がいる場合は、契約内容と実際の業務範囲を確認しましょう。「申請書類の作成代行」を依頼している場合は、その方が行政書士資格を持っているかを確認してください。資格がない場合は、以下のいずれかの対応を検討しましょう:

・その方の業務を「助言・添削」に変更し、企業自身が書類作成する

・その方が提携する行政書士を紹介してもらう

・新たに行政書士を探す

次に、今後の補助金・助成金活用を見据えて、信頼できる専門家との関係を築いておくことをお勧めします。補助金申請は一度きりではなく、事業の成長段階に応じて継続的に活用していくものです。長期的なパートナーとして、行政書士や社労士、そして中小企業診断士やコンサルタントとの関係を構築しておくことが、経営の安定につながります。


<前向きに捉える>

制度変更と聞くと、面倒なことが増えると感じるかもしれません。しかし、この変更は中小企業経営者にとってマイナスではなく、むしろプラスに働く可能性が高いのです。

適切な資格を持った専門家に依頼することで、申請書類の質が向上し、採択率が上がります。また、不適切な業者に高額な費用を払うリスクも減ります。さらに、行政書士や社労士、診断士やコンサルタントとの関係を深めることで、補助金・助成金だけでなく、経営全般について相談できるパートナーを得ることができます。

2026年1月の制度変更を、自社の経営基盤を強化する機会として、前向きに捉えていただければと思います。適切な専門家との出会いが、皆さまの事業の成長を加速させることを願っています。

 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。