第9回
後継者不在の中小と起業目指す若者つなぐ 伴走型で存在感高めるNYC
イノベーションズアイ編集局 編集局長 松岡健夫
後継ぎ不在に悩む中小企業にとって頼もしい助っ人が存在感を高めている。新たなM&Aの選択肢として「若者の事業承継起業」を提案するNYC(東京都中央区)だ。
中小企業専門の投資会社として2022年3月に創業。すでに17社に出資し、若い後継社長を送り込んだ。中塚庸仁社長は「我々はあくまでも投資会社であり、自ら社長にならない。後継者の選抜・育成がメイン事業であり、自立するまで伴走を続ける」と話す。「後継者がいない」中小企業と「起業したいがゼロから立ち上げるのは難しい」若者をつなぐことで、若い経営者を育てると同時に廃業危機にある優良企業を存続させる。
若者に事業承継型起業促す

東京・渋谷で1月19日、同社とスタートアップ創業・支援に強みを持つOASIS FUND(同渋谷区)が主催する第1回「ロールアップ戦略起業プログラム」の最終発表会が行われた(写真)。
ロールアップ戦略とは同一業界・地域の複数企業を連続承継することで、スケールメリット(規模の経済)とシナジー(相乗)効果を追求するM&Aだ。若者が事業承継型起業家として活躍できるスキームを習得する目的で始めた。
この日に登壇したのは、ロールアップによる業界再編を目指す30人の応募者の中から書類選考を通過した5人・3チーム。
「山梨県エリア×SNSで連続M&A」のタイトルで挑んだのはhabanero(ハバネロ、山梨県都留市)の菅谷岳洋代表取締役。「県内にはこだわりを持つ店舗が多いのに、後継者難で消えるのはもったいない」とタイトルに込めた思いを口にした。
その上で「我々が得意とするSNSと相性が良い事業をロールアップしていく。プラットフォーマーになることで、店舗間の相互送客などによってシナジー効果を発揮できれば、こだわりがある良いものを未来に残すことができる」と訴えた。
審査員から「地元愛は見事。それが地方創生につながる」と高く評価される一方で、「個人事業主が多く、手間がかかりスケールしにくい」といった意見もでた。
得点が高かったのは、M&Aドットコム(横浜市西区)の藤澤専之介代表取締役が発表した「人間の可能性を年齢から解放する」。人手不足に悩む企業をM&Aで譲り受け、シニア労働者を送り込むビジネスモデルを披露。「シニア活用で収益アップの成功事例をつくる」と意気込みを示した。
登壇者は3か月にわたり、NYCとOASISによる週次の1on1 メンタリングによる壁打ちを通じて事業計画を練り上げてきた。「アドバイスを受けて方向が変わったが、今回は新たな指摘を受けた、解像度がまだ低い」と藤澤氏が振り返ったように、最大5000万円の投資機会が用意されていたが、プロの眼鏡にかなう説得力をもつプレゼンテーションはなかった。
メンターの一人として登壇者と伴走してきた中塚氏は「絞りに絞った3チームだったが、物足りない。今後もブラッシュアップしながら後継者になりうる人材に育て上げる」と言い切る。
中小企業の約半分は後継ぎ不在
それくらい事業承継を喫緊の課題とする中小企業は多い。しかも経営者が高齢になるほど深刻だ。にもかかわらず約半分は後継者不在または未定という。菅谷氏は「後継者不在で消えるのはもったいない」と問題提起したが、確かに独自の技術やノウハウを持つ優良企業の廃業は何としても避けたい。日本のものづくりを支えてきたからだ。
親族や従業員が承継を望まないなら第三者に譲る道を探るしかない。その手助けをNYCが担う。
同社は「その仕事を、未来へつなぐ」を使命に掲げ、後継者難を抱える売上高50億円未満の中小企業を対象に、自己資金(銀行から資金調達)による中長期の伴走型投資を手掛ける。
M&Aで主流となっているファンドは投資家からお金を集めて投資するため早期リターンを求められる。これに対しNYCは自己資金なので外部の意見に左右されることなく自由かつ大胆に投資できる。リターンを急ぐ必要もない。中塚氏は「調達資金で事業を譲り受けて、後継社長を送り込み、事業を伸ばして5年後に売却」というシナリオを描く。
「リターンを得る」という事業承継の成否を握るのが後継社長だ。どんなに優れた事業を買収しても、後継社長が機能しなければ徒労に終わりかねない。そんな事態を避けるため、まずは売り手となるオーナー・創業者や経営陣に寄り添い、積み上げてきた理念や技術、将来構想を徹底的に聞き、理想の後継者像を明確化する。
その上で、信頼できる後継者を見つけるため候補者との面談を重ね、経営視点や熱意、現場との相性を総合的に判断して決める。中長期的に株式を保有するため、後継社長を決める時間的制限はなく、最適な人材が見つかるまで根気強く探し続けるという。これまでの投資先17社は製造のほか、建設や教育、サービスなど多岐にわたる。どんな事業でも最適な後継社長を見つけ出せるのは強みだ。
若者を巻き込み「つなぐ投資」実践
しかも、送り込んで任務完了というわけではない。むしろ、ここからが同社の真骨頂といえ、育成して自立できるまで伴走をやめない。会社の文化や価値観を尊重でき、組織に溶け込むコミュニケーション力の有無を見極めてから後継社長として正式に就任することになる。
NYCが「つなぐ」ことで経営が軌道に乗り、将来展望が開ければ社員のモチベーションは向上し、「社員はどうなるのか」と不安だったオーナーも安心して引退できる。
こうした評判を聞きつけ、儲かっている中小企業も含めて月間約100件の相談を受けるという。応えるためには、後継者になりうる若者を探し出して巻き込む必要がある。中塚氏は「中小企業の後継社長になりたい若者は増えている」と手応えを口にする。
同社のビジョンは「27年度までに100件の投資を行い、中小企業経営のイノベーターとなる」。目標達成も現実味を帯びてきた。
プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集局長
松岡 健夫
大分県中津市出身。1982年早稲田大学卒。
同年日本工業新聞社(フジサンケイビジネスアイ、現産経新聞社)入社。自動車や電機、機械といった製造業から金融(銀行、保険、証券)、財務省や国土交通省など官公庁まで幅広く担当。デスク、部長などを経て2011年から産経新聞経済部編集委員として主に中小・ベンチャー企業を幅広く取材。次代の日本経済を担える企業の紹介に注力する。
著書は「ソニー新世紀戦略」(日本実業出版社)、「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)など多数。