微分・積分・思う存分

第7回

持続的成長のカギ握る4代目 受け継いだ創業精神で変革に挑む

イノベーションズアイ編集局  編集局長 松岡健夫

 

「売り家と唐様で書く三代目」。創業者が苦労して築いた財産を、3代目の道楽者が浪費して、ついに家を売りに出してしまうことへの戒めを表す川柳だ。家業は3代で衰退する教訓といえる。しかし、それを乗り越えれば安泰という「三代続けば永代続く」ということわざもある。

確かに、3代目が事業を継ぐころには、初代が生み出したビジネスモデルはすでに破綻、そうでなくても陳腐化している可能性は高い。時代が変わっており、提供している商品・サービスが市場ニーズに合わなくなっているのは想像に難くない。にもかかわらず、甘やかされて育った3代目が現状批判ばかりしていて何の手も打たなければつぶれるのは目に見えている。そうではなく、3代目が旧態依然とした会社に変革を起こして発展に導くリーダーシップの持ち主なら永代への道が開ける。

ということは、第2創業を果たした3代目からバトンを受け継ぐ4代目が実は、企業の持続的成長のカギを握っているのではないだろうか。そんな思いを抱かせる4代目に話を聞く機会が続いた。試行錯誤しながら変革へ挑戦する姿勢が垣間見えた。創業100年の老舗企業を引っ張っていく覚悟が頼もしかった。

「存続と成長、その可能性を模索する時期。創業200年に向けて変化を恐れず挑戦する」。こう言い切ったのは梱包・包装資材を扱う小松原梱包の4代目、小松原由大氏(50)だ。初代の曽祖父、由三郎氏が1913年に薪炭問屋を創業。3代目の父、順二郎氏が59年に梱包資材販売事業を始め、75年に小松原梱包を設立した。エネルギー源が薪や炭からガスや石油に置き換わる変遷期をとらえ事業転換を果たした。まさに3代目が第2創業を起こし、4代目はスムーズな事業承継のもと、経営基盤を強固にしながら、時代の変化に柔軟に対応できる体制づくりに励む。

小松原梱包 小松原由大氏

「社長の息子は社長になる」と躊躇することなく父からバトンを受け継いだのが2013年。父が大切にした「ユーザーファースト(顧客第一)」にこだわり、仕事一筋に「誠実にまじめに」「変化を恐れず挑戦する」精神で統率力も発揮しながら、社内をまとめ成長路線に導く。

苦労もした。03年の入社時の売り上げはピーク時の半分以下に落ち込んでいた。しかし「職人の仕事は属人的で、社内に危機感は皆無。このままではつぶれてしまう。ちゃんとした会社にする」と誓った。仕事を取ってくるため外回りに精を出し、社員とのコミュニケーションは二の次だった。「独りよがりで、数字(業績)を上げることだけを考えた」と当時を振り返る。

その甲斐あって業績は回復したが、会社の体をなしていないという反省から採用と組織化に着手。「必要とされる会社になるため」、稲盛和夫氏が塾長を務めていた盛和塾に入り経営哲学を学ぶとともに、切削琢磨できる経営者仲間と出会った。

試行錯誤しながらも成果を積み上げ、24年12月期は過去最高の業績を残した。得意とする企画力・提案力に磨きをかけ、顧客の「分からない」「面倒くさい」を解決するために企画段階から加わり、迅速に対応するトータルサポート・ワンストップサービスを強化。それにより培った知見・データを活かしコンサルティング事業に進出する考えだ。「リスクより行動。やらないことが最大のリスク」と肝に銘じて創業200年を目指す。

「事業の多角化で強固な経営基盤を築き、独自の障害者支援に取り組む」。こう評価された堀江車輛電装は「24年度しんきん優良企業表彰」で東京新聞賞を受賞した。

同社を率いるのは4代目の堀江泰氏(45)だ。12年の事業承継後、先代から引き継いだ鉄道車両の整備・点検という主力事業を維持・強化ながら、15年に障害者の就労支援事業を開始、16年にはM&A(合併・買収)によりビルメンテナンス事業に進出した。22年には未来創造事業(ユニバーサル野球)を立ち上げた。泰氏は「試行錯誤しながら新事業に挑戦し、シナジーを起こすことで成長できた」と喜ぶ。

堀江車輛電装 堀江泰氏

同社は祖父の武氏が1986年に創業。泰氏は叔父、父と続いた家業を継ぐ4代目だ。世代的には3代目だが、曾祖父の定吉氏は1896年、福島県いわき市で堀江工業を個人経営で立ち上げており、創業精神あふれる堀江家の4代目といえる。DNAであるパイオニア精神とチャレンジ精神をいかんなく発揮し、事業の多角化と障害者支援に乗り出し、見事に開花させたわけだ。

泰氏は高校卒業後、アルバイト生活を経て00年に父、洋氏に懇願して入社。20歳だった。「後を継ぐ覚悟を決めていた」が、父は「現場の仕事が一番、現場の仕事をまず覚えろ」と突き放した。現場で7年働き、常務に就任した。「仕事は見て覚えろ」という職人気質の世界を知ったことが社長就任後に生きた。父も泰氏の成長を知り、事業承継時には安心して経営権や株式を託し、完全に第一線から退いた、

お墨付きを得た4代目は、「ゆるぎない技術、たえまない挑戦」をコーポレートスローガンに掲げ、鉄道車両の安全・安心・品質を支える技術者集団が積み上げた実績と信頼という伝統に固執することなく、発展に向けて新しいことにも果敢に挑む。また既存事業をしっかり守りながら、新しい事業をどんどん立ち上げることで事業領域を拡大する。

一方でベテラン職員と若手の融合、障害者や外国人も一緒に働くダイバーシティ(多様性)にも取り組む。技術者の人材育成、人間力の強化も怠りない。生え抜きの実力社員が育っている手応えから「親族経営へのこだわりは一切ない」と言い切る。

「企業はトップの器以上に大きくならない」といわれる。小松原由大、堀江泰の両氏とも受け継いできた創業精神を余すところなく発揮し、経営基盤を強固にして次代にバトンを渡すための挑戦を続ける。それを可能にする決断力、統率力、そして現状に満足せず、前を向く挑戦力をもつ。まだまだ先だが、事業承継時には、「永代続く」道を開いていける器を持つ後継者を目利きする力が求められる。

 

プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集局長
松岡 健夫

大分県中津市出身。1982年早稲田大学卒。

同年日本工業新聞社(フジサンケイビジネスアイ、現産経新聞社)入社。自動車や電機、機械といった製造業から金融(銀行、保険、証券)、財務省や国土交通省など官公庁まで幅広く担当。デスク、部長などを経て2011年から産経新聞経済部編集委員として主に中小・ベンチャー企業を幅広く取材。次代の日本経済を担える企業の紹介に注力する。

著書は「ソニー新世紀戦略」(日本実業出版社)、「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)など多数。

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