企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第50回
AI活用とリスキリングでシニア人材が活躍できる組織へ──働き続けられる環境をつくる
株式会社aubeBiz 酒井晶子
少子高齢化が進む日本において、シニア人材の活躍は、経営の現場でも社会全体でも、ますます切実なテーマになっています。
自分自身もいつかその立場になるという意味では、誰にとっても他人事ではありません。
「シニア人材をもっと活かしたい」という思いは多くの経営者が持っています。
ただ同時に、「若い頃のようには動けないのでは」「新しいツールの習得が難しいのでは」「キャリアの長い方を、どう迎え入れればいいのか」という戸惑いも、正直なところ付きまとうのではないでしょうか。
実は、大手企業はすでに動いています。
定年後の再雇用、定年年齢の引き上げ、なかには80歳まで就労できる環境を整えている企業も出てきました。
シニア人材の活用は、大企業においてはすでに「実験」ではなく、明確な「戦略」になっていると感じています。
私たちaubeBizが10年以上、フルリモートの組織を運営し、多様な人材の力を仕組みに変えてきた経験から言えば、この流れは大手だけの話ではありません。
テレワークとAI活用という環境を整えれば、中小企業でも今日からシニアの「深み」を経営の力に変えることができると考えています。
大手が気づいた「シニアの価値」──経験と判断力はAIにない強み
なぜ大手企業がそこまで本腰を入れ始めているのか。そこにはCSRや人材不足への危機感だけでなく、彼らが持つ「資源」への明確な再評価があるからだと考えています。
優秀な60代・70代が長年かけて積み重ねてきた業界知識、修羅場をくぐり抜けてきた判断力。
そして何より、時間をかけて育ててきた人脈と信頼関係。
「あの人が言うなら」「あの人の紹介なら」という一言で扉が開く関係性は、どれほど優れたAIにも、どれほど優秀な若手にも、一朝一夕には持てないものです。
データではなく、人と人との間に積み重なってきた信頼の厚みこそが、シニアが組織にもたらす最も替えのきかない資源ではないかと感じています。
若手がスピードを武器にするなら、シニアはこの「深さ」を武器にする。
彼らの持つ強みを、企業の成長設計の中にどう組み込んでいくか。
その視点の転換こそが、次の経営の一手になると私たちは信じています。
AIが「ITが苦手」という壁を外す
シニア人材がデジタルツールに距離を置いてきた大きな理由は、複雑な操作画面や、目まぐるしく変わる技術への戸惑いだったのかもしれません。
「覚えた頃には次のバージョンになっている」という感覚は、確かに人を疲弊させます。
経営者やベテラン社員の方々のそういう本音を、私も多く耳にしてきました。
しかし、AIの進化がその前提を大きく変えつつあると感じています。
いまのAIは、難解なコマンドを覚えなくても、私たちが普段使っている「普通の言葉」で語りかけるだけで的確に動いてくれるからです。
ここに、一つの面白い逆説が生まれます。
AIを最も賢く、効果的に使いこなせるのは、実は操作に慣れた若者ではなく、何を指示すべきかを知っている「判断力と経験値を持つシニア」ではないかということです。
「問いの質」が成果を決めるAIの世界だからこそ、彼らの経験が活きます。
さらに、ここにテレワークというインフラが加わることで、通勤という体力的なハードルも外れていきます。
前々回にお伝えした「場所の解放」と同じ発想です。
働く場所が選べるようになることで、体力の衰えを理由に第一線を退かざるを得なかったシニアの方々が、再び力を発揮できる舞台が生まれると考えています。
リスキリングは「学び直し」ではなく「掛け合わせ」
シニアへのリスキリングというと、「若者と同じカリキュラムを一から学んでもらう」というイメージを抱きがちではないでしょうか。
しかし、それは設計として少しもったいないと感じています。
ゼロからの学び直しではなく、彼らがすでに持っているものに、新しいツールを「掛け合わせる」という設計こそが本質です。
たとえば、長年の営業経験を持つシニアが、AIを使って提案書の骨子やアイデア出しを効率化させたとします。
すると、経験に裏打ちされた「質の高い提案」が、若手以上の「スピード」で生み出されるようになります。
あるいは、業界に深い人脈を持つシニアが、SNSでの発信をAIにサポートしてもらう。
長年の信頼関係に裏打ちされた言葉は、単なる情報の拡散にとどまらず、「紹介したい」「つないでみたい」という行動を周囲に生み出します。
AIが届けられるのはコンテンツですが、人が届けられるのは信頼です。
新人の教育にかかる時間を思えば、すでに仕事の全体像が見えているシニアにAIという「道具」を渡す方が、はるかに早く、かつ大きな価値として増幅されるのではないかと考えています。
「ゼロから学ぶ」ではなく「今持っているものをAIで増幅する」──この設計の違いが、リスキリングの手応えをまるで変えるというのが私たちの実感です。
世代を超えたチームが、組織の免疫力を上げる
シニアと若手が同じチームで手をつなぐとき、組織にはどちらか一方の世代だけでは持てない強い地力が育まれます。
若手は、スピード感やデジタルへの直感的なセンスを持っています。
一方でシニアは、大局的な判断力と経験の深さを持っています。
この二つが交わることは、組織の「免疫力」を上げることにつながるのではないかと思っています。
前回お話しした「かもしれない」という余白の対話が、まさにここで行われます。
シニアが「過去の経験からすると、この状況はこうなるかもしれない」とリスクや予兆を語り、若手が「それなら、AIを使ってこんな形で解決できるかもしれません」と返す。
正解を持ち寄るのではなく、「かも」を持ち寄れるチームは変化に強い。
世代間のギャップは、埋めるべき溝ではなく、新しいアイデアを生み出すための最高の経営資源になると信じています。
長く働き続けられる環境という心理的安全性
大手がすでに気づき、投資を始めているこの潮流に、中小企業が気後れする必要はまったくありません。
むしろ、意思決定の早い中小企業だからこそ、テレワークとAIという環境さえ整えれば、明日からでもシニアの力を経営の推進力に変えられると考えています。
必要なのは、大きな予算ではなく、「シニアの強みを設計に組み込む」という視点の転換かもしれません。
長く働き続けられる環境をつくるということは、単に雇用の期間を延ばすことではありません。
年齢や体力の状態が変わっても、「今の自分の状態で、十分に貢献できる場所がある」という安心感を組織に育むことではないでしょうか。
その安心の土台があるからこそ、人はいくつになっても自分の仕事に手応えを持ち続けられるのではないかと思っています。
年齢や健康状態を「申し訳なさ」の対象にしない組織文化については、次回さらに掘り下げてみたいと思います。
次回は「更年期・介護・病気」を隠さなくていい組織──ライフイベントを味方につける
更年期・介護・病気といったライフイベントを「隠さなくていい組織」について考えます。年齢や健康状態を申し訳なさの対象にするのではなく、それを開示しながら働ける関係性と仕組みをどう設計するか。をお伝えします。
プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
【著書】
『地域循環が生まれ、関係人口が育まれる ローカル・テレワーク®︎』
「働きたいのに、働けない」という原体験から生まれた本書は、移住・観光に依存しない新しい地域との関わり方を提唱。テレワークを活用して人と仕事をつなぎ直す「ローカル・テレワーク」を、15年以上の実践と下関市でのモデル構築をもとに体系化。自治体・企業・地域リーダーに向けた、再現性ある地域づくりの実務書です。Amazonランキング10部門で1位を獲得。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
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