企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第54回

観光以上、移住未満の「関係人口」が運ぶ、経営のヒント

株式会社aubeBiz  酒井晶子

 

「仕事で関わるうちに、いつの間にかその地域のファンになっていた」

この体験を、私たちaubeBizのメンバーや、地域での仕事に関わる皆さんから、何度も聞いてきました。
観光客として通り過ぎるわけでもなく、かといって移住を決めるわけでもない。
でも、ふとした瞬間にその土地のことが気になって、また足を運んでしまう。
誰かの顔が浮かんで、「あの人は元気かな」と思い、会いに行く。

この「関係人口」という立ち位置が、実は経営者にとって見逃せないヒントを持っているのではないか、と感じています。
第53回で描いた「複業」という入口が、どんな広がりを見せるのか。
仕事を起点に、人と地域と経営がどう結びついていくのかを、私たちが現場で目にしてきたことや経験から考えてみたいと思います。

「関係人口」が、なぜ経営につながるのか

「関係人口」という言葉を耳にすると、自治体の地方創生や政策の用語であって、「自社の経営にはあまり関係がない」と感じる方も多いかもしれません。
実際、私たちも最初はそう捉えていました。
日々の資金繰りや目の前の人材不足に直面している経営者の方からすれば、少し距離のある言葉に聞こえるのも無理のないことです。
しかし、関係人口の本質を突き詰めていくと、それは「長く続く関係性」に行き着きます。
こう捉え直してみると、これは経営における「顧客とのつながり」「外部人材とのパートナーシップ」「地域コミュニティとの信頼関係」のすべてに通底しているのではないかと感じています。

「一度限りの取引で終わり」にするのか、「またこの会社と関わりたい」と思わせる関係を企業側が意図的に設計できるのか。
この違いは偶然生まれるものではなく、これからの時代における企業の生存戦略そのものではないかと考えています。

仕事が「もう一つの居場所」を生む

前回お話しした複業人材との接続の中に、この問いへのヒントがあります。
最初は「業務上のやり取り」から始まった関係が、仕事を通じてその地域や企業と深く出会うことで、気づけば土地そのものへの愛着へと変わっていく。
そんな光景を、私たちは何度も目にしてきました。
私たちaubeBizのメンバーやパートナーも、プロジェクトをきっかけに各地を訪れるなかで、「タスクが終わっても、あの人に会いにまた行きたい」「あの地域のために、自分ができることでまた力になりたい」という感覚を自然に芽生えさせています。
仕事で関わった地域が、いつの間にかその人にとっての「第二のふるさと」のような存在になっていたと語る人もいます。
これは決して偶然の産物ではありません。
観光では出会えない距離感で、その土地の人や暮らしに触れられる。
仕事という実体のある接点があり、そこで誰かの役に立ったという手応えがあったからこそ、関係が深く根を張るのではないかと考えています。

関係人口を「設計」する経営という発想

私たちは10年以上にわたり、テレワークや地方人材の活用を実践するなかで、こうした関係性は企業の手で「設計」できるものだと感じてきました。
自社だけで人材を抱え込み、囲い込もうとするのではなく、外部人材や複業人材、地域の人たちと緩やかに長く続く関係を意図的に育んでいく。
そうすることで、将来の採用候補者のプールが自然と広がり、口コミによるブランドが育ち、地域との信頼関係も同時に積み上がっていく。
そんな構造があるように感じています。

新著『ローカル・テレワーク』の中でも触れさせていただきましたが、これからの時代は「人材を奪い合う」のではなく、「関係性を広げてシェアする」発想への転換が求められているのではないでしょうか。
自社だけの利益を囲い込む壁を少し低くして、外の人たちが関われる「余白」をつくる。
その小さな設計の変更が、結果として会社を強くしていくのだと信じています。

採用も、関係人口の発想へ

「採用できない」「採用してもすぐ辞めてしまう」という声を、経営者の方々から本当によく耳にします。
背景には、働くことへの価値観の変化があります。
転職回数が不利になる時代はすでに終わり、むしろ多様な経験が個人の価値を高める時代になりました。
最初から「3年だけ」と決めて入社する若い人材も珍しくないと聞きます。

会社側の本音は「優秀な人材に長く貢献してほしい」。
でも、今の優秀な人材の本音は「会社のために働く」のではなく「自分が成長できる環境で働きたい」「社会の役に立つ仕事がしたい」というものです。
この価値観のズレに気づかないまま、条件だけを良くして引き止めようとしても、根本的な解決にはなりません。
では、どうすればいいのか。
一つの答えが、採用にも「関係人口」的な発想を持ち込むことではないかと考えています。

まずフルタイムの正社員として確保しようとするのではなく、複業人材として関わってもらいながら会社のことを知ってもらう。
「この会社なら成長できそうだ」「この人たちと一緒に仕事がしたい」という実感を、仕事を通じて育ててもらう。
成長のために一度外に出てしまっても、また戻ってこられる風土を作る。
確保できない労働力は、外部人材を活用して固定費を変動費に変える。
「最初から長期雇用を前提にしない採用」という発想は、一見リスクに見えるかもしれません。
でも、関係人口的な関わりの中で育った信頼関係は、条件だけで集めた人材より、はるかに長く深く続くことを、私たちは現場で実感しています。

「緩く広い関係」が組織の免疫力を上げる

社外に多様な関係人口を育んでいる組織は、市場の変化や人材不足に対して、より柔軟に対応できるように思います。
「この分野で困ったときは、あの人に声をかけてみよう」「あの地域のパートナーなら、知恵を貸してくれるかもしれない」。
こうしたネットワークの厚みこそが、経営を支える目に見えないセーフティネットになっていくのではないでしょうか。
第52回で、デジタルを活用して働く人の心に安心感をつくる「デジタル・オアシス」というお話をしました。
帰属意識や安心感というものは、社内という閉じられた空間だけで育てるものではありません。
社外の関係人口とのつながりの中にも、同じように広げて育てていくことができるのだと感じています。

「関係性の余白」が、経営を変えていく

「関係人口」という言葉を、政策や地方創生の文脈から一度解き放って、これからの「経営の言葉」として捉え直してみるのはいかがでしょうか。
あなたの会社には今、「また関わりたい」と思ってくれている社外の人がいますか。
そしてあなた自身は、どこかの地域の「関係人口」になっていますか。

日々の経営に、ほんの少しの「関係性の余白」を設計することから、新しい一歩が始まるのかもしれません。

次回はワーケーションを福利厚生で終わらせない──合宿型ワークが生むイノベーション
関係人口がリアルに生まれる実践的な入口として、「合宿型ワーク」という場の力を次回で描きます。
場所を変えて一緒に働くことで、チームに何が起きるのか。
ワーケーションを「社員旅行の進化版」で終わらせない、経営戦略としての活用法についてお届けします。


 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。

【著書】

地域循環が生まれ、関係人口が育まれる ローカル・テレワーク®︎

「働きたいのに、働けない」という原体験から生まれた本書は、移住・観光に依存しない新しい地域との関わり方を提唱。テレワークを活用して人と仕事をつなぎ直す「ローカル・テレワーク」を、15年以上の実践と下関市でのモデル構築をもとに体系化。自治体・企業・地域リーダーに向けた、再現性ある地域づくりの実務書です。Amazonランキング10部門で1位を獲得。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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