企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第58回
ローカル・ハブの最前線──「ローカル・テレワーク」が生み出す、地域の結節点
株式会社aubeBiz 酒井晶子
第57回では、「地方発・世界へ」という視点をお伝えしました。では実際に、その動きを現場で体現している人たちは、どんな場所で、どんな形で活動しているのでしょうか。
私たちaubeBizは、テレワークを単なる「在宅勤務」としてではなく、地域と人と仕事を結びなおす経営戦略として捉え、「ローカル・テレワーク」という概念を提唱してきました。
今年、その実践と思想をまとめた著書『地域循環が生まれ、関係人口が育まれるローカル・テレワーク』をお届けすることができました。
現場での実践を思想としてかたちにしていく中で見えてきたのが、各地でローカル・テレワークの実践を支える「ローカル・ハブ」という存在です。
今回はその最前線から、山口県下関市での実践をお伝えしたいと思います。
「ローカル・テレワーク」という発想
テレワークはこれまで、「効率化のツール」や「福利厚生の一環」として語られることが多かったように思います。
しかし私たちは、それを少し違う角度から捉え直してきました。
場所の制約を外すことで、これまで離れ離れだった人・仕事・地域が新しい形でつながり合う。
テレワークは、経営のインフラそのものになり得るのではないでしょうか。
振り返れば、本連載の第48回でお伝えした「場所の解放」から始まり、第53回「複業人材」、第54回「関係人口」、そして第57回「地方発・世界へ」と続けてきました。
一見異なるテーマを描いてきたように見えますが、これらはすべて「ローカル・テレワーク」という一つの思想で深くつながっています。
創業期、私自身もフルリモートという働き方の手探り感や、離れた場所にいる仲間との関係性に葛藤した時期がありました。
制度というハード面を整えるだけではうまくいかず、試行錯誤の末に行き着いたのが、働く人の手応えややりがいといったソフト面を何より大切にする姿勢です。
この10年以上の実践と試行錯誤を体系的にまとめたのが、今年お届けした一冊でした。
「ローカル・ハブ」とは何か
ローカル・テレワークを地域に根付かせる際、中心的な役割を果たすのが「ローカル・ハブ」と私たちが呼ぶ存在です。
これは単なるコワーキングスペースやサテライトオフィスといった「箱」のことではありません。
地域の中にしっかりと足を着けながら、都市部や外部との温かい資本・人材のつながりを生み出す「人や組織の結節点」を指します。
多くの地域経営者から「仕事はあるのに、任せられる人が見つからない」という声を聞く一方で、地域には「働きたい意欲やスキルがあるのに、条件に合う仕事がない」と悩む方が大勢います。
このミスマッチの間に立ち、双方の思いを翻訳しながらスムーズにつなぎ直すのがローカル・ハブの役割だと考えています。
特別な資格や大きな資本がなくても構いません。
地域と外部の間に立ち、人と仕事をつなぎたいというささやかな意志さえあれば、個人でも、中小企業でも、地域の機関でも、誰もがローカル・ハブになれるのだと感じています。
ガソリンスタンドから始まった、地域の結節点
下関市で「RITMO」を展開する中村石油株式会社の中村史佳さんの実践は、まさにその象徴的な事例です。
ご主人が経営するガソリンスタンドという既存の拠点を前に、「この場所をもっと地域のために有効活用できないか」と考えた中村さん。
下関市の企画への応募を機に、私たちaubeBizとパートナーシップを結び、BPO事業への参入を決断されました。
ガソリンを給油する場所から、地域の仕事と人をつなぐハブへと進化を始めた瞬間です。
印象的な成果の一つに、地域スポーツチームのSNS発信業務の受託があります。
実務を担当したのは、地元に住む在宅ワーカーの方々でした。
丁寧な情報発信によりフォロワー数が着実に伸び、チームの認知度が上がっていく。
「自分たちの仕事が地域の応援につながっている」という実感が、働く人たちの表情を輝かせていきました。
中村さんは「規模を追うのではなく、一つひとつの仕事を丁寧に積み上げることを大切にしている」と語ります。
今では古民家の活用や農業支援など、オンラインとオフラインを行き来しながら、地域に関わる新しい形へと、着実に裾野を広げられています。
ローカル・ハブが生み出す「地域循環」
中村石油さんの歩みを見つめていると、ローカル・ハブがもたらす豊かな循環の構造が見えてきます。
働く個人にとって: 地域に暮らしながら、暮らしに合わせた柔軟な形で仕事と収入、そして生きがいが生まれます。子育て中の方や、介護中の方など、キャリアの断絶に悩んでいた人材が、再び社会とつながり自分の力を発揮できる場となっています。
企業にとって: 「見知らぬ外部に業務を頼むのは不安だ」という葛藤も、地域に根を張る信頼できるパートナー(ハブ)が間に立つことで解消されます。外部人材活用へのハードルが下がり、共創の第一歩を踏み出しやすくなります。
地域にとって: これまで域外へ流出していた仕事やお金が地域内で回り始めます。仕事を通じて地域と関わる「関係人口」が自然な形で育まれていきます。
「地域循環が生まれ、関係人口が育まれる」──新著のタイトルに込めた私たちの願いは、このような小さな現場の積み重ねによって、確かな現実として形づくられているのだと感じています。
あなたの会社も、すでに「結節点」かもしれない
ローカル・ハブは、意識して「作るもの」というより、目の前の課題に向き合う中で自然と「なっていくもの」なのかもしれません。
中村さんがガソリンスタンドという自社の資産を出発点に、地域に必要な機能を足し算していったように、大掛かりな準備は不要です。
自社にある余白を見つめ直し、地域への想いとともに小さな一歩を踏み出すことから、すべては始まります。
あるいは、ご自身が自覚されていないだけで、あなたの会社やあなた自身が、すでに地域にとっての「ローカル・ハブ」として機能し始めているのではないでしょうか。
各地で芽吹いているそうした地域のリーダーたちと、私たちはこれからも手をつなぎ、大きな輪にしていきたいと考えています。
次回は10万人の仕事創出は、10万通りの「ありがとう」を創ること
ローカル・テレワークを通じて各地に広がる小さな仕事の輪が、どのようにして多くの人々の生きがいに繋がり、未来の大きな数字へと紡がれていくのか。その本質を紐解いていきます。
プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
【著書】
『地域循環が生まれ、関係人口が育まれる ローカル・テレワーク®︎』
「働きたいのに、働けない」という原体験から生まれた本書は、移住・観光に依存しない新しい地域との関わり方を提唱。テレワークを活用して人と仕事をつなぎ直す「ローカル・テレワーク」を、15年以上の実践と下関市でのモデル構築をもとに体系化。自治体・企業・地域リーダーに向けた、再現性ある地域づくりの実務書です。Amazonランキング10部門で1位を獲得。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第59回 10万人の仕事創出は、10万通りの「ありがとう」を創ること
- 第58回 ローカル・ハブの最前線──「ローカル・テレワーク」が生み出す、地域の結節点
- 第57回 地方発・世界へ──デジタルを使えば、マーケットに「境界線」はない
- 第56回 シニアの知恵をテレワークで活用する ──プロ人材の活用と生涯現役を支えるインフラ
- 第55回 ワーケーションを福利厚生で終わらせない──合宿型ワークが生むイノベーション
- 第54回 観光以上、移住未満の「関係人口」が運ぶ、経営のヒント
- 第53回 「複業」が地域企業を強くする──外部人材をチームに招き入れる極意
- 第52回 孤独を防ぐデジタル・オアシス──リモート環境での「帰属意識」の作り方
- 第51回 「更年期・介護・病気」を隠さなくていい組織──ライフイベントを味方につける
- 第50回 AI活用とリスキリングでシニア人材が活躍できる組織へ──働き続けられる環境をつくる
- 第49回 ウェルビーイングを数字にする──「かも」が生産性を高めるエビデンス
- 第48回 人的資本経営の第一歩は「働く場所の解放」から始まる ──テレワークを福利厚生で終わらせない
- 第47回 経営者の右腕としてのAIとリモートチーム──「任せられる体制」は設計から始まる
- 第46回 AIに代替されない「安心提供力」の磨き方──オンライン時代の人間力
- 第45回 思考の余白をどう使うか ── AIによって生まれた時間を「関係性」に投資する
- 第44回 AI時代のマネジメント ──「管理」を捨て、「信頼」を設計する
- 第43回 マニュアル化はAI活用の鍵──仕組み化がAI活用の最短ルートである理由
- 第42回 「AI×テレワーク」で変わる、これからのBPO──スピードと「想い」の両立
- 第41回 生成AIは「作業」を奪い、「創造」を解き放つ──AI時代の共創パートナーシップ
- 第40回 未来を変える働き方──テレワークが導く「次の社会像」 ~自分らしく豊かに生きるための、新しい「組織」と「個人」のあり方~
- 第39回 持続可能な地域経済圏──テレワークでつくる共創エコシステム ~「外注」から「共創」へ。地域を動かす新しい経済の循環~
- 第38回 企業×地域×学校──共創型キャリア教育モデル ~地元の若者たちに「世界と繋がる選択肢」を届ける~
- 第37回 二拠点生活(デュアルライフ)とテレワーク──移住・関係人口の新しい形
- 第36回 BCPとBPO──災害に強い企業の新常識
- 第35回 働き方とウェルビーイング──幸せが生産性を高める理由
- 第34回 人材流動化の時代に「選ばれている会社」は何をしているのか? 〜給与でも制度でもない、“最後に見られているもの”〜
- 第33回 地域リーダーが拓く未来──ローカル・テレワーク・パートナーの力 〜企業と地域をつなぐ「新しいハブ人材」という選択肢〜
- 第32回 生成AIとBPOの未来──AI時代の“人と組織”の役割とは? 〜AIが当たり前になる時代に、企業やビジネスパーソンは何を強みにするのか〜
- 第31回 “全国採用”の時代──人材不足を突破する採用戦略 〜「求職者が来ない」から「選ばれる会社」へ、発想を切り替える〜
- 第30回 中小企業のDXとテレワーク──小さな一歩からの業務改革 〜属人化をほどき、手の届く範囲から未来志向の仕組みづくりへ〜
- 第29回 観光とワーケーション──“訪れる人”を“関わり続ける人”へ 〜テレワークだからできる、新しい関係人口づくり〜
- 第28回 BPOアワードから見えた未来──“外注”ではなく“共創”が、人材不足を超えていく~受賞社の取り組みが示す、これからのBPO活用の正解~
- 第27回 ダイバーシティとテレワーク──多様性が生むイノベーション 〜“働きづらさ”を“戦力化”へ変える、新時代の仕事づくり〜
- 第26回 自治体の挑戦──テレワーク推進政策の最前線 〜「施策」を現場で回す“仕組み”の作り方〜
- 第25回 教育とテレワーク──地域で育てる次世代キャリア 〜「地元で働きたい」を仕組みにする、教育×テレワーク〜
- 第24回 農業×テレワーク──デジタルで広がる“第六次産業化”の可能性 〜“つくる”と“伝える”をつなぐ、新しい地域のかたち〜
- 第23回 地方と企業をつなぐ“BPOモデル”の進化 ──自走型チームが地域経済を動かす 〜“任せる”から“共に創る”へ。地域BPOが生み出す新しい共創のかたち〜
- 第22回 「地方創生テレワーク」の進化形──自治体×企業×住民で生み出す『ローカル・テレワーク』 〜地域の人・企業・文化が輝く、循環型の“しごと生成エコシステム”〜
- 第21回 自治体・企業・住民でつくる 地方創生テレワーク推進モデル 〜“点”で終わらせない、持続可能な三者連携とは?〜
- 第20回 「“よくわからない”を乗り越える──テレワーク導入Q&A」 〜不安を解消し、最初の一歩を踏み出すために〜
- 第19回 「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」 〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
- 第18回 「“自走できる人材”を育てるマインドと環境づくり」 〜指示待ち型から“目的を理解し、動ける人材”へ〜
- 第17回 「“信頼される会社”の条件──テレワーク時代の組織文化とリーダーシップ」 〜制度や仕組みを超えて“信頼”を築く組織の土台とは〜
- 第16回 生成AIとテレワーク ──中小企業が直面する“AI格差”を乗り越えるには?
- 第15回 「地域×テレワーク」──地方創生ローカル・テレワーク 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
- 第14回 「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜
- 第13回 「“副業・複業人材”を活かす!兼業社会における新しい雇用戦略」 ── 多様なキャリアが交わる“パラレルワーカー”活用の可能性
- 第12回 「“スキマ時間”を活かす働き方──ワークシェアリングという選択肢」
- 第11回 「成功するテレワーク採用」 〜離れていても成果を出す組織づくりのヒント〜
- 第10回 「“全国から採用する時代”へ!採用戦略の発想を切り替えるヒント」 〜テレワークが生み出す“新しい雇用のかたち”〜
- 第9回 「BPOとBCP」―― 有事の際の事業継続に備える新常識
- 第8回 ーDX化の第一歩となる業務改革ー「属人化を防ぐ仕事の仕組み化」
- 第7回 完全テレワークでも離職率5%未満を実現するチームづくりの秘訣 〜組織の土台を支える“仕組み”と“信頼文化”のつくり方〜
- 第6回 成長戦略としてのBPO活用法 〜“外注”にとどまらない、企業の柔軟性と競争力を高める選択肢〜
- 第5回 「テレワークは難しい?」──よくある誤解と“うまくいかない理由”を解きほぐす
- 第4回 地域で働く、地域を支える──「ローカル・テレワーク」という新しい仕組み
- 第3回 地方に眠るチカラを活かす!「地方創生テレワーク」の可能性
- 第2回 眠れる働くチカラ 「働きたいけれど働けない」潜在労働力を社会へ
- 第1回 これからの時代に選ばれる働き方とは? ― 少子高齢化・人材不足を乗り越える組織づくりのヒント

