企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第57回
地方発・世界へ──デジタルを使えば、マーケットに「境界線」はない
株式会社aubeBiz 酒井晶子
「うちは地方の小さな会社だから、海外や大都市のマーケットなんて関係ない」
経営者の方々とお話しする中で、そうした声を耳にすることが少なくありません。
自社の技術やサービスに誇りを持ちながらも、どこかで「場所の壁」を感じておられる。そんな経営者の方々の声を、私たちは何度も耳にしてきました。
けれども、本当にそうなのでしょうか。
テレワークとデジタルツールが当たり前になった今、仕事をする場所とマーケットのある場所は、必ずしも一致しなくなっています。
地方にいながら都市部の企業とパートナーシップを結ぶ。
日本にいながら世界中のクライアントと取引する。
私たちがaubeBizで10年以上フルリモート組織を運営し、さまざまな企業様と関わってきた経験から言えば、ビジネスの「境界線」を引いているのは地理そのものではなく、多くの場合「自分たちの思い込み」なのではないかと感じています。
「地方だから」という思い込みを外す
「優秀な人材は都市に集まる」「大きな仕事は東京でしか生まれない」──。こうした前提は、インターネットとテレワークが普及する以前の時代の常識です。
実際、海外進出支援への問い合わせを見てみると、10年前はその9割以上が大都市圏からのものだったのに対し、現在では4割以上が東京・大阪以外の地方から寄せられていると聞きます。
この変化は、地方企業にとって世界を視界に入れることが、以前よりもずっと身近な選択肢になりつつあることを物語っているように思います。
第48回で、採用の母数を地理的な制約から解き放つ「場所の解放」についてお話ししましたが、同じ発想はマーケットの捉え方にも当てはまります。
地方にいるという事実そのものが制約なのではなく、「地方にいるから市場は狭い」と決めてかかる自らの姿勢のほうが、可能性を狭めているのかもしれません。
「地方だから」というブレーキをほんの少し緩めてみるだけで、見えてくる景色は大きく変わるのではないでしょうか。
地域課題が、世界のビジネスになる
私たちが実際に目にしてきた、地方発の越境ビジネスの形をふたつご紹介したいと思います。ひとつは、北海道の社員数名規模の小さなメーカーの例です。
地域の水環境課題に向き合う中で開発した製品が、水インフラの整備に悩むアジア諸国のニーズと深く合致し、国際支援機関と連携しながら輸出事業へと発展していきました。
目の前の「地域の課題解決」が、そのまま「世界の課題解決」につながった事例だと感じています。
もうひとつは、九州を拠点とする飲食チェーンの例です。
現地オーナーが主体となるフランチャイズモデルと、メールやオンライン会議を中心としたリモート運営を組み合わせることで、国内の少人数チームのまま世界15カ国以上への展開を実現されました。
このふたつに共通しているのは、「自社の強みや地域の価値を、それを必要としている人のいる場所へ、デジタルを使って届ける」というシンプルな発想です。
大きな組織や潤沢な予算がなくても、「私たちは誰に何を届けられるか」という問いに愚直に向き合うことで、マーケットの境界線は少しずつ消えていくのではないかと感じています。
デジタルが「距離」を価値に変える
地方であることは、決してハンデではなく、むしろある種の差別化やブランドの材料になり得ると考えています。地方の豊かな自然や食、独自の文化、そして丁寧に受け継がれてきた「ものづくり」の精神。
これらに対する関心は、国内の都市部だけでなく海外でも高まりを見せています。
「地方発」であるというストーリー自体が、かけがえのない価値になる時代を迎えているのではないでしょうか。
自社のSNSで、現場の風景やこだわりを英語で少し発信してみる
海外向けECプラットフォームに商品をひとつ登録してみる
ウェブサイトのトップページだけでも多言語に対応させてみる
こうした一つひとつは小さな一歩かもしれませんが、越境への確かな入口になります。
完璧な準備が整うのを待つ必要はありません。
小さな実験を重ねていくことが、大きな可能性を開く鍵になると感じています。
テレワーク人材が「越境」の橋になる
ただ、経営者の方からは「そうは言っても、社内に英語が話せる社員もデジタルに詳しい人材もいない」という生々しいお悩みも伺います。自社のリソースだけで全てを賄おうとすれば、足がすくんでしまうのは当然のことです。
ここで鍵となるのが、テレワーク人材の存在です。
語学力や海外経験、デジタルスキルを持つ人材は、必ずしも自社の近所に住んでいる必要はありません。
第53回でお伝えした「複業人材」の受け入れや、第56回でお伝えした「プロフェッショナル人材」の知見活用と同じように、外部のパートナーとオンラインでチームを組むことができます。
また、地方在住者の中にも、素晴らしいスキルを持ちながら「地元でそれを活かせる場所がなかった」という潜在的な人材がたくさん眠っています。
自社で全てを抱え込むのではなく、信頼できるテレワーク人材と手をつなぎ、越境するための「チーム」をフレキシブルに組んでいく。
テクノロジーと人の力を掛け合わせることで、どんな規模の組織であっても世界と繋がることができると信じています。
自分たちが引いている「境界線」は、どこにあるだろうか
マーケットに境界線がなくなりつつある今、私たちが自分たち自身に無意識に引いている境界線は、一体どこにあるのでしょうか。地方に拠点があることは、もはやハンデではなく、独自のストーリーとブランドを持つ出発点になり得ます。
デジタルというインフラを使い、信頼できる仲間と手を携えれば、どんな場所からでも新しい市場へ向けて踏み出すことができます。
あなたの会社の強みや価値を、今一番必要としている人は、どこにいるでしょうか。
次回はローカルハブの最前線──各地で誕生するパートナーたちの成功事例
今回描いた「地方発・世界へ」という視点を、実際に体現している現場では一体何が起きているのか。
全国各地で地域と企業を繋ぎ、新しい働き方とビジネスを生み出しているローカルハブの具体的な事例からお伝えします。
プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
【著書】
『地域循環が生まれ、関係人口が育まれる ローカル・テレワーク®︎』
「働きたいのに、働けない」という原体験から生まれた本書は、移住・観光に依存しない新しい地域との関わり方を提唱。テレワークを活用して人と仕事をつなぎ直す「ローカル・テレワーク」を、15年以上の実践と下関市でのモデル構築をもとに体系化。自治体・企業・地域リーダーに向けた、再現性ある地域づくりの実務書です。Amazonランキング10部門で1位を獲得。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第59回 10万人の仕事創出は、10万通りの「ありがとう」を創ること
- 第58回 ローカル・ハブの最前線──「ローカル・テレワーク」が生み出す、地域の結節点
- 第57回 地方発・世界へ──デジタルを使えば、マーケットに「境界線」はない
- 第56回 シニアの知恵をテレワークで活用する ──プロ人材の活用と生涯現役を支えるインフラ
- 第55回 ワーケーションを福利厚生で終わらせない──合宿型ワークが生むイノベーション
- 第54回 観光以上、移住未満の「関係人口」が運ぶ、経営のヒント
- 第53回 「複業」が地域企業を強くする──外部人材をチームに招き入れる極意
- 第52回 孤独を防ぐデジタル・オアシス──リモート環境での「帰属意識」の作り方
- 第51回 「更年期・介護・病気」を隠さなくていい組織──ライフイベントを味方につける
- 第50回 AI活用とリスキリングでシニア人材が活躍できる組織へ──働き続けられる環境をつくる
- 第49回 ウェルビーイングを数字にする──「かも」が生産性を高めるエビデンス
- 第48回 人的資本経営の第一歩は「働く場所の解放」から始まる ──テレワークを福利厚生で終わらせない
- 第47回 経営者の右腕としてのAIとリモートチーム──「任せられる体制」は設計から始まる
- 第46回 AIに代替されない「安心提供力」の磨き方──オンライン時代の人間力
- 第45回 思考の余白をどう使うか ── AIによって生まれた時間を「関係性」に投資する
- 第44回 AI時代のマネジメント ──「管理」を捨て、「信頼」を設計する
- 第43回 マニュアル化はAI活用の鍵──仕組み化がAI活用の最短ルートである理由
- 第42回 「AI×テレワーク」で変わる、これからのBPO──スピードと「想い」の両立
- 第41回 生成AIは「作業」を奪い、「創造」を解き放つ──AI時代の共創パートナーシップ
- 第40回 未来を変える働き方──テレワークが導く「次の社会像」 ~自分らしく豊かに生きるための、新しい「組織」と「個人」のあり方~
- 第39回 持続可能な地域経済圏──テレワークでつくる共創エコシステム ~「外注」から「共創」へ。地域を動かす新しい経済の循環~
- 第38回 企業×地域×学校──共創型キャリア教育モデル ~地元の若者たちに「世界と繋がる選択肢」を届ける~
- 第37回 二拠点生活(デュアルライフ)とテレワーク──移住・関係人口の新しい形
- 第36回 BCPとBPO──災害に強い企業の新常識
- 第35回 働き方とウェルビーイング──幸せが生産性を高める理由
- 第34回 人材流動化の時代に「選ばれている会社」は何をしているのか? 〜給与でも制度でもない、“最後に見られているもの”〜
- 第33回 地域リーダーが拓く未来──ローカル・テレワーク・パートナーの力 〜企業と地域をつなぐ「新しいハブ人材」という選択肢〜
- 第32回 生成AIとBPOの未来──AI時代の“人と組織”の役割とは? 〜AIが当たり前になる時代に、企業やビジネスパーソンは何を強みにするのか〜
- 第31回 “全国採用”の時代──人材不足を突破する採用戦略 〜「求職者が来ない」から「選ばれる会社」へ、発想を切り替える〜
- 第30回 中小企業のDXとテレワーク──小さな一歩からの業務改革 〜属人化をほどき、手の届く範囲から未来志向の仕組みづくりへ〜
- 第29回 観光とワーケーション──“訪れる人”を“関わり続ける人”へ 〜テレワークだからできる、新しい関係人口づくり〜
- 第28回 BPOアワードから見えた未来──“外注”ではなく“共創”が、人材不足を超えていく~受賞社の取り組みが示す、これからのBPO活用の正解~
- 第27回 ダイバーシティとテレワーク──多様性が生むイノベーション 〜“働きづらさ”を“戦力化”へ変える、新時代の仕事づくり〜
- 第26回 自治体の挑戦──テレワーク推進政策の最前線 〜「施策」を現場で回す“仕組み”の作り方〜
- 第25回 教育とテレワーク──地域で育てる次世代キャリア 〜「地元で働きたい」を仕組みにする、教育×テレワーク〜
- 第24回 農業×テレワーク──デジタルで広がる“第六次産業化”の可能性 〜“つくる”と“伝える”をつなぐ、新しい地域のかたち〜
- 第23回 地方と企業をつなぐ“BPOモデル”の進化 ──自走型チームが地域経済を動かす 〜“任せる”から“共に創る”へ。地域BPOが生み出す新しい共創のかたち〜
- 第22回 「地方創生テレワーク」の進化形──自治体×企業×住民で生み出す『ローカル・テレワーク』 〜地域の人・企業・文化が輝く、循環型の“しごと生成エコシステム”〜
- 第21回 自治体・企業・住民でつくる 地方創生テレワーク推進モデル 〜“点”で終わらせない、持続可能な三者連携とは?〜
- 第20回 「“よくわからない”を乗り越える──テレワーク導入Q&A」 〜不安を解消し、最初の一歩を踏み出すために〜
- 第19回 「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」 〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
- 第18回 「“自走できる人材”を育てるマインドと環境づくり」 〜指示待ち型から“目的を理解し、動ける人材”へ〜
- 第17回 「“信頼される会社”の条件──テレワーク時代の組織文化とリーダーシップ」 〜制度や仕組みを超えて“信頼”を築く組織の土台とは〜
- 第16回 生成AIとテレワーク ──中小企業が直面する“AI格差”を乗り越えるには?
- 第15回 「地域×テレワーク」──地方創生ローカル・テレワーク 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
- 第14回 「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜
- 第13回 「“副業・複業人材”を活かす!兼業社会における新しい雇用戦略」 ── 多様なキャリアが交わる“パラレルワーカー”活用の可能性
- 第12回 「“スキマ時間”を活かす働き方──ワークシェアリングという選択肢」
- 第11回 「成功するテレワーク採用」 〜離れていても成果を出す組織づくりのヒント〜
- 第10回 「“全国から採用する時代”へ!採用戦略の発想を切り替えるヒント」 〜テレワークが生み出す“新しい雇用のかたち”〜
- 第9回 「BPOとBCP」―― 有事の際の事業継続に備える新常識
- 第8回 ーDX化の第一歩となる業務改革ー「属人化を防ぐ仕事の仕組み化」
- 第7回 完全テレワークでも離職率5%未満を実現するチームづくりの秘訣 〜組織の土台を支える“仕組み”と“信頼文化”のつくり方〜
- 第6回 成長戦略としてのBPO活用法 〜“外注”にとどまらない、企業の柔軟性と競争力を高める選択肢〜
- 第5回 「テレワークは難しい?」──よくある誤解と“うまくいかない理由”を解きほぐす
- 第4回 地域で働く、地域を支える──「ローカル・テレワーク」という新しい仕組み
- 第3回 地方に眠るチカラを活かす!「地方創生テレワーク」の可能性
- 第2回 眠れる働くチカラ 「働きたいけれど働けない」潜在労働力を社会へ
- 第1回 これからの時代に選ばれる働き方とは? ― 少子高齢化・人材不足を乗り越える組織づくりのヒント

