企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第65回

「忙しいのに何も前に進まない」の正体 ──業務の棚卸しをしたら、見えてきたこと

株式会社aubeBiz  酒井晶子

 

「毎日これほど忙しく働いているのに、思うように前に進まない」
 「AIや外部の力を取り入れたいけれど、そもそもどの業務から手を付ければいいのか分からない」

経営者の方から、このようなお声をいただくことがあります。
前回の第64回では、AI活用が進む会社は「まず一業務から」始めてみる、というお話をしました。
では、その「最初の一業務」をどう選べばよいのでしょうか。
この問いに迷ってしまうのは、経営者の情熱ややる気が足りないからではないと思います。
業務の全体像が整理できていないことに、原因があるのではないかと考えています。

今回から(第65〜69回)は、私たちaubeBizが日々の実践で見てきたリアルな気づきをお伝えしていきます。
私たちが目指す棚卸しとは、単に作業の一覧表を作ることではありません。
自社の現在地を知り、業務を一つひとつ紐解いていくプロセスそのものです。

忙しさの正体は、「業務整理ができていないこと」

「忙しい」という感覚は、単に仕事の量だけで決まるものではないと感じています。
何をどういう順番で、どこまで進めているのかが整理されていないと、人は忙しいまま前進している実感を持てなくなります。
しかも、忙しい渦中にいる人ほど、立ち止まって整理する時間を確保するのは難しいものです。
それは、目の前の仕事を止めずに一生懸命走り続けてきた結果ではないでしょうか。
まずはその焦りや葛藤を、一旦そのまま受け止めるところから始めています。

整理されていない業務は、最新のAIであっても、新しく入ったメンバーであっても、あるいは外部のパートナーであっても、滑らかに手渡すことができません。
第64回でお話しした「課題が言葉になっているか」という分かれ目と、まさに同じ土台の話だと考えています。

棚卸しをしたら、見えてきたこと

私たちが10年以上、クライアントの皆さまと一緒に業務を整理してきたなかで、現場のリアルな実感として繰り返し見えてきた「3つの発見」があります。
その前提となる棚卸しの軸は、とてもシンプルです。
日次・月次・年次の頻度ごとに、「どの業務に、どれくらいの時間がかかっているか」「その業務に、どんな課題があるか」を書き出していきます。

発見① 経営者が「大変」と思っている業務と、現場の「大変」はズレていることも

経営者が「きっと大変だろう」と思い描いている業務と、担当者が実際に時間と気力を使っている業務とが、ずれていることがありました。
どちらかが間違っているのではなく、見ている場所が違うだけではないでしょうか。
棚卸しは、経営者の想定と現場の実感の間にある「小さなずれ」を可視化してくれます。
ずれが見えると、どこから整えればよいのかという優先順位も、変わってきます。

発見② 「やらなければ」と思っていたステップが、実は不要だった

「以前、そう指示されたから」と定型業務になっていたステップが、実はフローがとっくに変わっていて、あらためて経営者や上司が確認すると不要な作業だった。そんな場面に出会うことがあります。
指示を出した時点では、必要なプロセスだったはずです。
担当者はその指示を守り続けただけですし、指示を出した側も、時間とともに記憶から遠のいていきます。
誰かの落ち度ではなく、「指示が更新される仕組みがなかったこと」の問題だと私たちは考えています。
棚卸しをして、経営者や上司があらためて確認することで、初めて見えてくることがあります。

発見③ ツールを使えば瞬時にできることを、手入力していた

システムからCSVで書き出して読み込ませれば済む作業を、一件ずつ手で入力していたり、写真を撮ってAIに文字起こしと整理をさせれば短時間で終わるところを、一枚ずつ打ち直していたり。
そうした例もまだまだ少なくありません。
担当者が丁寧に仕事をしているからこそ、手作業のまま続いてしまうこともあるのではないでしょうか。
ただしAIを使う場合は、第62回・第64回でも触れたように、「会社として許可されているツールか」「扱ってよい情報の範囲か」というルールが欠かせない前提となります。

不要なステップが残ってしまうことや、古い手法に頼ってしまうこと。
これらは個人を責めるべき問題ではなく、業務設計そのものをアップデートしていくための貴重なヒントになります。
棚卸しは、人を評価するための作業ではなく、業務の側を見直すための作業だと考えています。

整理の先に、スケジュールとアサインがある

業務の全貌が整理されて見えてくると、ゴールや納期から逆算して、無理のないスケジュールを組めるようになります。
「忙しいのに進まない」状態から、「今週はここまで進める」と言える状態へ。
その手応えは、働く人にとっても小さくない変化だと感じています。
そのうえで、適切なアサイン(役割分担)を考えます。
「誰が担うのか」「AIに任せるのか」「仕組みにしてしまうのか」。
第63回でお話しした「代替」ではなく「組み合わせ」という考え方は、ここにつながってきます。

最初の一業務は、「すでに標準化されている、あるいは手順が明確で、万が一うまくいかなかったときの影響が小さい業務」から選ぶのがよいのではないでしょうか。
一度に多くの業務を任せようとすると、引き継ぐ側も引き継がれる側も負担が大きくなります。
だからこそ、一つずつ手渡していきます。
最初から完璧な手順書は求めません。
一緒に作りながら整えていく、という姿勢で十分だと思っています。

棚卸しは、一度きりにしない──aubeBizの日々の実践

私たちaubeBiz自身も、業務の棚卸しを特別なイベントとしてではなく、日々の習慣として行っています。
クライアントに最善のツールで、最も効率のよい支援をお届けするために、新しいツールや方法へのアンテナを張り、取り入れ、変化させ続けています。
より良いやり方が見つかれば、すぐに社内Wikipediaや共有チャットで共有します。
ただし、AIエージェントなど安全面の確認が必要なものは、管理本部が確認したものを使っています。
マニュアルも、分厚い冊子にするのではなく、すぐに書き換えられるシンプルなものにしています。
変化の速い時代だからこそ、立派な文書よりも、情報共有のスピードと効率化を大切にしたいと考えているからです。

ツールやテクノロジーは、手作業の手間を大きく減らしてくれます。
けれど、「この作業は、本当に今も必要なのだろうか?」と問いかけることができるのは、人にしかできない役割だと信じています。
経営者と現場の担当者が同じ業務を前に言葉を交わすこと。
その対話が、先ほどの発見①や②に出会う入口になります。

今日の小さな一歩

あなたの会社にも、「以前そう言われたから」という理由だけで、続けられている作業があるかもしれません。
まずは「一人分の、一週間の業務」をノートやチャットに書き出してみることから始めてみませんか。
きれいにまとまっていなくても構いません。
そして、それを経営者や上司の方と一緒に、少し離れたところから眺めてみてください。

次回予告(第66回)
誰かが辞めた瞬間に、ピタリと止まってしまう業務がある──それは「その人の問題」ではなく、「設計の問題」だったのかもしれません。次回は、属人化の真因とそこからの抜け出し方について考えます。


 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。

【著書】

『地域循環が生まれ、関係人口が育まれる ローカル・テレワーク®︎』

「働きたいのに、働けない」という原体験から生まれた本書は、移住・観光に依存しない新しい地域との関わり方を提唱。テレワークを活用して人と仕事をつなぎ直す「ローカル・テレワーク」を、15年以上の実践と下関市でのモデル構築をもとに体系化。自治体・企業・地域リーダーに向けた、再現性ある地域づくりの実務書です。Amazonランキング10部門で1位を獲得。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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