中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第156回

社員が突然来なくなったら? ―「連絡がつかない」ときの正しい初動と就業規則の"1行"

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原京二

 

はじめに:月曜の朝、社員が来ない


月曜日の朝、いつもなら始業前に席についているはずの社員が出勤してきません。携帯電話に何度かけてもつながらず、メールにも返事がありません。LINEを送っても既読になりません。昼を過ぎても、夕方になっても連絡はないまま、火曜日の朝を迎えてしまいました。

「そんなことは、めったに起きないだろう」と思われるかもしれません。しかし、社員が突然いなくなるという相談は、労務の現場では毎年のように寄せられています。会社の規模や業種を問わず、どの会社でも起こりうることです。そして、いざそうなると、多くの経営者が「何から手をつければいいのか」「いつまで待てばいいのか」「辞めたことにしてよいのか」と迷います。

実は、この場面での対応は、大きく次の二つで決まります。一つは、最初の数日で会社が「どれだけ本気で探し、それを記録に残したか」。もう一つは、就業規則に「行方が分からなくなった社員は退職とする」という1行が入っているかどうかです。この1行があるかないかで、その後の手間も費用も、まさに天と地ほど変わります。

この記事では、社員と連絡がつかなくなったときに会社がとるべき初動から、見つかった場合と見つからなかった場合それぞれの対応、そして平時のうちに整えておきたい備えまでを、順を追ってお伝えします。



1.まず「探す」、そして「記録する」


■ 最初にやるべきは、居場所の確認

社員と連絡がつかなくなったとき、会社が真っ先にやるべきことは、その社員がどこにいるのかを確かめることです。具体的には、次のような方法を同時に進めます。

一つ目は、自宅を訪ねることです。インターホンを鳴らしても応答がなければ、マンションであれば管理人に「最近、姿を見かけましたか」と尋ねてみます。二つ目は、入社時に届け出てもらっている緊急連絡先、多くの場合は親や兄弟に連絡することです。「ご本人と連絡がとれず、会社として心配しています。ご家族からも連絡してみていただけませんか」とお願いします。家族が遠方に住んでいてすぐに駆けつけられない場合は、会社の側がすぐに自宅へ向かうべきです。三つ目は、本人がよく立ち寄っていた場所に心当たりがあれば、そこを当たってみることです。

正直なところ、「自宅まで行くのは面倒だ」「家族に連絡してもらえば十分だろう」と考える会社は少なくありません。しかし、ここで手間を惜しむと、後で困ることになります。その理由は第3章と第4章で詳しく説明します。

動き出すタイミングの目安も持っておきましょう。初日は本人への電話やメッセージを重ね、夕方までに応答がなければ緊急連絡先に連絡する。二日目になっても連絡がつかなければ、自宅を訪ねる。この程度のスピード感が一つの目安です。あわせて、社内で対応の窓口を一人に決めておくことも大切です。上司、総務担当、社長がそれぞれ別々に家族へ電話をかけると、家族を混乱させるうえ、誰が何をしたのかが後で分からなくなってしまいます。

それ以前に、もっと大切な理由もあります。連絡がとれない社員は、病気や事故で自宅で倒れているかもしれません。社員の命と安全を守るという意味でも、早く動くことには大きな意味があります。


■ 「探した事実」を必ず記録に残す

探すのと同じくらい大切なのが、その行動を記録に残すことです。「○月○日○時○分、自宅を訪問。インターホンに応答なし」「同日○時、管理人に確認。ここ数日は姿を見ていないとのこと」「○月○日、緊急連絡先の母親に電話。母親からも連絡がつかないとの回答」というように、日時と行動と結果をできるだけ具体的に書き留めておきます。

自宅を訪ねたときは、外から見える範囲で、郵便受けに郵便物がたまっていないか、電気メーターが動いているかといった様子も確認し、写真に残しておくとよいでしょう。最近はオートロックのマンションが多く、建物の中まで入れないことも珍しくありません。だからこそ、外から確認できたことを一つひとつ記録しておくことに意味があります。


■ 警察への「行方不明者届」という選択肢

本当に行方が分からず、事件や事故に巻き込まれた可能性も否定できない場合は、警察に行方不明者届(いわゆる捜索願)を出すことも考えます。行方不明者届は家族が出すものという印象が強いかもしれませんが、雇い主のように、本人と日常的に深い関わりのある立場の人も届け出ることができます。家族の同意がなくても届け出は可能とされています。実務でもよく使われている方法です。


■ ただし、行き過ぎには注意

一方で、熱心に探すあまり行き過ぎてしまうことには注意が必要です。本人の許可なく部屋の中に入る、近所の人に事情を詳しく話して回る、本人の交友関係を必要以上に調べる、といった行動は、本人のプライバシーを損ない、後で別のトラブルを生む原因になりかねません。「やれることはやる。ただし一線は越えない」という姿勢で、確認と記録に徹することが大切です。



2.見つかった場合の二つの道


懸命に探した結果、社員の行方が分かった場合、その後の対応は大きく二つに分かれます。残念ながら社員が亡くなっていた場合と、無事に見つかった場合です。


■ 亡くなっていた場合の手続き

病気や事故など、原因はさまざまですが、社員が亡くなっていた場合は、死亡した日をもって退職となります。ほとんどの会社の就業規則には「死亡したとき」が退職の理由として書かれていますし、仮に書かれていなくても、雇用契約の当事者の一方がいなくなるのですから、契約は当然に終わります。

ここで経営者に知っておいていただきたいのが、お金の払い方です。亡くなった日までに働いた分の給料(たとえば月の途中で亡くなった場合の日割り分)は、本人の財産として遺族が相続するものです。したがって、法律上の相続人に支払うことになります。

一方、死亡退職金は少し事情が異なります。退職金規程で「死亡退職金は配偶者、次いで子……の順に支払う」というように受け取る人の順番を定めている場合、その退職金は相続財産ではありません。規程で決められた受取人が、会社に対して直接受け取る権利を持つことになります。

つまり、未払いの給料と死亡退職金とでは、誰に払うのかの考え方が違うのです。この違いを知らずに処理すると、遺族の間で「なぜあの人に払ったのか」という争いに会社が巻き込まれるおそれがあります。自社の退職金規程に、死亡したときの受取人の順番がきちんと書かれているか、この機会に確認しておくことをお勧めします。

あわせて、健康保険や厚生年金、雇用保険の資格を失う手続き、会社から貸していた物の返却、遺族への私物の引き渡しなど、事務的な手続きも続きます。突然の知らせに動揺している遺族に対しては、手続きを急かすのではなく、必要な書類や期限を一覧にして丁寧に案内するといった配慮が求められます。


■ 無事に見つかった場合の対応

社員が無事に見つかった場合は、まず「なぜ連絡もせずに休んだのか」を本人から丁寧に聞き取ります。

理由が心の不調、たとえば気分の落ち込みや強いストレスによるものであれば、医師の診察を受けるよう勧めます。そのうえで、必要に応じて就業規則の休職制度を使い、治療に専念してもらうといった対応を検討します。一方、会社への反発や仕事への不満から意図的に出社しなかったということであれば、就業規則に基づいて懲戒処分などのしかるべき対応をとることになります。


■ 「けしからん」と決めつける前に

ここで気をつけたいのは、最初から「無断欠勤とはけしからん」と決めつけてしまうことです。心の不調を抱えた人は、会社に連絡すること自体ができなくなっている場合があります。本人の言い分を聞かずにいきなり厳しい処分をすると、後になって「病気だったのに処分された」と争いになることもあります。まずは事情を聞く。処分を考えるのはその後という順番を守ることが、会社を守ることにもつながります。

なお、連絡なく休んでいた期間は、働いていない以上、原則として給料を支払う必要はありません。ただし、年次有給休暇に振り替えてほしいという申し出があった場合の扱いなど、細かな判断が必要になる場面もあります。また、復帰後は「体調が悪いときは、まず誰に、どの方法で連絡するか」を本人とあらためて確認し、同じことを繰り返さないための約束事を決めておくとよいでしょう。こうした連絡のルールを全社員向けに明文化しておくことも、再発防止に役立ちます。



3.見つからない場合①:「行方不明なら退職」の定めがある会社


■ 就業規則の「退職」の条文を確認する

手を尽くしても社員が見つからなかった場合、まず確認すべきは就業規則の「退職」に関する条文です。そこに、次のような定めがあるかどうかを見てください。

「会社に連絡なく欠勤し、14日を経過しても会社が所在を知ることができないときは、退職とする」

期間は会社によって、2週間であったり1か月であったりとさまざまです。いずれにしても、こうした「行方不明になった社員は退職とする」という定め(以下、行方不明条項と呼びます)があれば、その定めに沿って退職として扱うことができます。

ところが、労務の専門家が数多くの就業規則を見てきた経験では、この条項が入っていない会社が意外と多いのが実情です。古いひな形をそのまま使っている会社や、何年も見直しをしていない会社では、特に注意が必要です。

これから条項を入れる場合、期間は「14日」とする例が多く見られます。これは、2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、会社からの出勤の呼びかけにも応じない場合は、労働基準監督署の認定を受けたうえで解雇予告なしに解雇できる、という行政の基準とも足並みがそろっているためです。また、条項を新しく加えるには、社員の代表の意見を聞いて労働基準監督署に届け出て、社員に周知するという、就業規則を変更するときの通常の手続きが必要です。いざ社員がいなくなってから慌てて書き加えても、その社員には使えないと考えておくべきでしょう。


■ 条項があっても「探す努力」が前提になる

では、行方不明条項さえあれば、2週間たてば自動的に退職扱いにしてよいのでしょうか。実は、そう簡単ではありません。

この種の条項をめぐる裁判では、裁判所は次のような趣旨の判断をしています。この条項は、社員が欠勤を続け、会社が出勤を命じることも解雇を伝えることもできなくなった場合に備えたものである。したがって、この条項を使えるのは、社員の所在が分からず、かつ会社が通常の手段では一切連絡をとれなくなったときに限られる、というものです。

言い換えれば、会社としてできる限り探したにもかかわらず連絡がとれなかった、という事実があって初めて、この条項を使えるということです。自宅にも行かず、家族にも連絡せず、ただ2週間待っただけでは、この条項を使う前提が整っていないと判断されるおそれがあります。

その結果、本人が後になって現れ、「自分は辞めていない」と主張すれば、退職扱いが覆ってしまう可能性があります。第1章で「面倒でも自宅に行き、記録に残す」ことを強調したのは、まさにこのためです。


■ 退職扱いにしたら、経緯を社内記録として残す

探す努力を尽くしても見つからず、行方不明条項に基づいて退職扱いにする場合は、その経緯を社内の記録としてまとめておきます。「○月○日に自宅を訪問したが不在」「○月○日に家族に連絡したが、家族も所在を知らないとのこと」「以上の経緯から、就業規則第○条を適用し、○年○月○日付で退職とした」というように、一連の流れを一つの書類にまとめておくのです。

この記録が役に立つのは、何年も後になって本人が現れたときです。そのころには当時の担当者が退職していて、「なぜこの人は退職扱いになっているのか」が誰にも分からない、という事態は十分に起こりえます。


■ 残された私物の扱いにも注意

行方不明になった社員の私物が会社に残っていることもあります。借り上げ社宅に住んでいた場合は、部屋に家財道具がそのまま残されていることもあるでしょう。

社宅を家主に返すためには部屋を空けなければなりませんが、本人の持ち物を会社の判断で処分してしまうと、後で損害賠償を求められるおそれがあります。私物は一つひとつ写真に撮って一覧表を作り、家族に引き渡すか、引き取り手がいなければ会社でしばらく保管します。家族に渡すときは、受け取ったことを確認する受領書に署名をもらっておきましょう。「形見のあの品があるはずだ」「大事な物がなくなっている」といった後日の行き違いを防ぐためです。



4.見つからない場合②:定めがない会社の"落とし穴"


■ 解雇しようにも、通知が届かない

では、就業規則に行方不明条項がない会社では、どうなるのでしょうか。

連絡もなく2週間以上欠勤が続いているのですから、懲戒解雇や普通解雇の理由としては十分だろう、と考えるのが自然です。ここに大きな落とし穴があります。

解雇は、会社から本人への「意思表示」であり、本人に届いて初めて効力が生じます。行方不明の社員の自宅に解雇通知を郵送しても、本人がそこにいないことが分かっている以上、届いたことにはなりません。つまり、解雇しようとしても解雇が成立しないのです。


■ その間も、社会保険料はかかり続ける

解雇が成立しなければ、雇用は続いていることになります。社員は出社していないので給料は発生しませんが、社会保険(健康保険と厚生年金)の加入は続きます。そのため、会社負担分の保険料に加え、本来は給料から差し引くはずの本人負担分まで、会社がいったん立て替えて納めなければなりません。

立て替えた本人負担分は、本人が戻ってこなければ回収のしようがありません。仮に戻ってきたとしても、回収は簡単ではないでしょう。行方不明の状態が長引くほど、会社の負担は膨らんでいきます。


■ 正式な手段は、裁判所を通じた手続き

こうした場合に使える正式な手段が、民法に定められた「公示による意思表示」という制度です。これは、相手の居場所がどうしても分からないとき、裁判所の手続きを通じて「解雇の通知が届いたもの」とみなしてもらう仕組みです。

具体的には、本人が最後に住んでいた住所地を担当する簡易裁判所に申し立てを行います。裁判所の掲示場に掲示され、官報などに掲載された日から2週間がたつと、解雇の通知が本人に届いたものとみなされます。

ただし、この制度にも注意点があります。会社が本人の居場所を探す努力を怠っていた場合は、通知が届いたものとはみなされません。そのため申し立ての際には、いつ、どこを、どのように探したのかを裁判所に説明する必要があり、自宅の様子を写した写真や家族とのやりとりの記録が、その裏付けとして求められます。ここでも、第1章の「探した記録」が生きてくるのです。逆に言えば、記録がなければ、改めて調べ直すところから始めなければならず、時間も費用もさらにかさむことになります。

さらに、解雇には原則として30日前の予告か、それに代わる30日分以上の手当(解雇予告手当)が必要です。行方不明の社員に予告手当を払うのは現実的ではありませんから、先ほど触れた労働基準監督署の認定(2週間以上の無断欠勤で、出勤の呼びかけにも応じない場合)を受けておくことも検討することになります。ここでも、会社が本人に出勤を呼びかけた記録が判断材料になります。

また、手続きには手間と費用がかかります。弁護士に依頼すれば、費用は一般的に数十万円程度(20万〜30万円前後が一つの目安)かかると考えておいたほうがよいでしょう。


■ 親に退職届を書いてもらうのは「無効」

費用も手間もかかるとなると、つい「家族と話し合って、穏便に済ませられないか」と考えたくなります。実際、親御さんの方から「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。退職届は私が代わりに書きます」と申し出てくださることも珍しくありません。

お気持ちはありがたいのですが、退職届や退職の合意書は、本人が自分で出すものです。本人から頼まれてもいない親や兄弟が代わりに書いても、法律上は無効です。本人がそのまま戻ってこなければ問題は表に出ませんが、何年か後にひょっこり戻ってきて「辞めた覚えはない」と言われれば、会社は反論の根拠を持っていないことになります。

もちろん、家族とのやりとりで実際には何事もなく終わることのほうが多いのも事実です。それでも、「まれに起きるリスク」があることを理解したうえで、どちらを選ぶかを会社として判断していただく必要があります。


■ 有期契約なら「期間満了」という道もある

なお、行方不明になった社員が1年契約などの期間の定めのある契約で働いていた場合は、別の道もあります。ある会社では、行方不明条項がなく困っていたところ、その社員が1年契約で、残りの契約期間が3か月ほどでした。そこで、3か月分の社会保険料はやむを得ないものとして負担し、契約期間の満了をもって退職としたことで、裁判所の手続きをとらずに済んだそうです。もっとも、これは残りの期間が短かったからこそ成り立った方法であり、どんな場合にも使えるわけではありません。

結局のところ、こうした苦労の多くは、就業規則に行方不明条項を1行入れておくだけで避けられたものなのです。



おわりに:平時の「1行」が、有事の会社を守る


社員が突然いなくなるという出来事は、会社にとって決して頻繁に起きることではありません。しかし、いざ起きたときに慌てないための備えは、どれも平時にしかできないことばかりです。そしてこの問題は、就業規則がいかに大切かを教えてくれる典型的な例でもあります。

最後に、明日からできる4つのチェックを挙げておきます。


チェック1 行方不明条項 就業規則の「退職」の条文に、「連絡なく欠勤し、所在が分からないまま一定期間が過ぎたときは退職とする」という定めが入っているか。

チェック2 緊急連絡先 全社員の緊急連絡先(家族の電話番号・住所)が、最新の情報に更新されているか。

チェック3 初動の手順 連絡がとれない社員が出たときに、誰が・いつ・何をして・どう記録するかを決めてあるか。

チェック4 死亡退職金の受取人 退職金規程に、社員が亡くなったときの受取人の順番が定められているか。


特にチェック1は、自社の就業規則を開けば、数分で確認できます。もし見当たらない、あるいは書いてあっても内容が適切か分からないという場合は、顧問の社会保険労務士に「ウチの規則は大丈夫か」と一度相談してみてください。起きてから慌てるか、起きる前に1行を整えておくか。その差は、決して小さくありません。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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