中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第149回

「生成AI研修なら助成金が出る」はもう通用しない ― リスキリング助成金、2つのルール変更と中小企業の対応

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原京二

 

はじめに:「AI研修+助成金」の定番設計が崩れ始めた


「社員に生成AIの研修を受けさせたい。費用は助成金でまかなえるらしい」——ここ数年、多くの中小企業がこの発想で人材育成を進めてきました。実際、国は学び直し(リスキリング)を後押しする姿勢を打ち出しており、研修費用や研修期間中の賃金の一部を国が補助する「人材開発支援助成金」は、その代表的な制度として広く活用されています。

ところが2026年8月3日、厚生労働省がこの助成金の一部について、見過ごせないルール変更を発表しました。対象となったのは、新規事業やデジタル化に伴う学び直しを支援する「事業展開等リスキリング支援コース」です。変更点は大きく2つあります。1つは、DX(デジタル技術による業務変革)やGX(脱炭素への転換)に関する研修のうち、一般的な知識の習得にとどまるものが助成対象から外れたこと。もう1つは、eラーニング(オンライン教材による研修)で助成を受けられる回数が、同じ従業員につき年度内1回までに制限されたことです。

特に注意が必要なのは1つ目です。これまで「生成AIの研修だから」「DXに関する内容だから」と考えて計画していた研修が、内容によっては助成対象外と判定される可能性が出てきました。たとえば、全社員を対象にした「生成AIの基礎講座」や「ChatGPTの使い方研修」は、今回の改定後は助成を受けられない可能性が高くなります。

このコラムでお伝えしたい結論を先に申し上げます。今後の助成金は「研修の名称やテーマ」ではなく「受講者の仕事に直接つながるか」で判断される、ということです。同じ研修でも、誰が受講するかによって助成の可否が分かれる——そんな時代に入りました。本コラムでは、変更点の正確な内容、生成AI研修が対象になる場合とならない場合の分かれ目、そして助成が認められる研修計画の作り方を、順を追って解説します。すでに研修を申し込んでいる企業、計画届を提出済みの企業が確認すべき点にも触れますので、最後までお付き合いください。

何が変わったのか——2つの変更点を正確に押さえる



■ そもそも「事業展開等リスキリング支援コース」とは


まず制度の位置づけを整理します。人材開発支援助成金は、会社が従業員に対して、仕事に関連する専門知識や技能を身につけさせる訓練を計画的に行った場合に、訓練にかかった経費や訓練期間中の賃金の一部を国が助成する制度です。この助成金にはいくつかのコースがあり、今回改定されたのは「事業展開等リスキリング支援コース」です。

このコースは、新しい商品やサービスの開発、新分野への進出、業務のデジタル化、脱炭素への対応など、会社の事業展開に伴って必要になる知識・技能を従業員に習得させる訓練を支援するものです。「新しいことを始めるから、社員に新しいスキルを身につけてもらう」場面を想定した制度、と考えると分かりやすいでしょう。研修費用の全額が自己負担になるか、その一部を国が持ってくれるかは、中小企業にとって研修実施のハードルを大きく左右します。だからこそ、このコースは人材育成に取り組む企業から注目されてきました。ただし従来から、研修を実施すれば必ず助成されるわけではなく、研修内容・受講対象者・実施方法・訓練時間・申請時期などに所定の要件がありました。今回の改定は、この要件のうち「研修内容」と「受講回数」を絞り込むものです。



■ 変更点1:一般知識どまりのDX・GX研修は対象外に


1つ目の変更は、DX化・GX化に関する訓練のうち、次の2つに当てはまるものが助成対象外になったことです。すなわち、「仕事に間接的に必要となる知識・技能を習得させるもの」と、「職業や職務の種類を問わず、働く人に共通して必要となるもの」です。

かみくだいて言えば、「知っておくと役に立つ」レベルの研修や、「どんな職種の人が受けても同じ内容」の研修は対象外になった、ということです。DXの概念やデジタル技術の概要を学ぶ研修、データ活用の考え方を学ぶ研修、脱炭素の基本理念や国際情勢を学ぶ研修などが、対象外の例として厚生労働省の資料に示されています。これらは会社としてDXやGXを進めるうえでの共通知識ではあるものの、受講者の具体的な作業に直接使われる内容ではない、という理由です。



■ 変更点2:eラーニングは年度内1回まで


2つ目の変更は受講回数です。このコースでは従来から、同じ従業員が助成を受けられる訓練は1つの年度につき3回までと決まっていました。今回、その3回のうち、eラーニングによる訓練は1回までに制限されました。たとえば、ある従業員に年度内でeラーニング研修を2回、集合研修を1回受けさせる計画を立てていた場合、2回目のeラーニングは助成対象外となります。なお、対象外となったeラーニングは「助成を受けられる訓練の受講回数」には数えない扱いが示されているため、その後に別の集合研修を実施すれば、それがコース全体の3回目として支給対象になり得ます。回数の数え方一つで受けられる助成が変わるため、計画段階での順序設計が重要です。

見落としやすいのが、複数の実施方法を組み合わせた研修の扱いです。厚生労働省の資料では、前半がeラーニングで後半が集合研修、動画教材の視聴後にオンラインで講師の指導を受ける、といった組み合わせ型の研修も「eラーニングによる訓練」に含むとされています。つまり、一部にでもeラーニングが含まれていれば、回数制限の対象になる可能性があるということです。年間に複数のオンライン研修を予定している会社は、実施方法と受講者の割り振りを見直す必要があります。



■ 適用時期と経過措置——「申込済みだから旧ルール」と自己判断しない


新ルールの適用時期にも注意が必要です。eラーニングの受講回数については、2026年8月3日以降に提出された計画届に基づく訓練の受講のみが回数に算入されます。また、今回の変更には経過措置(切り替え時の救済ルール)が設けられており、計画届の提出日や、研修の契約・申込みを行った日によって取り扱いが変わる場合があります。すでに研修の契約や申込みを済ませている場合は、その日付を証明できる契約書・申込書・発注書などの提出を求められる可能性があります。

ここで避けたいのは、「8月3日より前に申し込んだから旧制度が適用されるはずだ」という自己判断です。経過措置の詳細は支給要領やパンフレットに記載されており、個別の状況によって結論が変わります。判断に迷う場合は、書類を揃えたうえで管轄の労働局に確認するのが確実です。

生成AI研修は「内容と受講者」で対象・対象外が分かれる



■ 対象になる例——営業担当者の「提案書作成」研修


今回の改定で経営者の関心が最も高いのは、「では、うちが計画している生成AI研修は対象になるのか」という点でしょう。結論から言えば、生成AI研修が一律に対象外になったわけではありません。厚生労働省の資料には、対象になる例とならない例の両方が示されています。

対象になる例として示されているのは、「生成AIを活用して、商品提案書の構成案作成、文章生成、修正方法を学ぶ営業担当者向けの訓練」です。この研修が対象になる理由は明快です。営業担当者が実際に行っている「提案書を作る」という業務に直結しており、研修で学んだことをそのまま翌日の仕事に使えるからです。

この考え方を応用すると、たとえば次のような研修は対象になる可能性があります。広報担当者向けの、生成AIによる記事構成作成研修。カスタマーサポート担当者向けの、問い合わせへの回答案作成研修。システム担当者向けの、生成AIを活用したプログラム開発研修。採用担当者向けの、求人原稿作成や応募者対応を効率化する研修。いずれも「誰が」「どの業務で使うか」が具体的です。ただし、実際に対象になるかどうかは、研修内容と事業展開との関係、受講者の職務などを踏まえて個別に判断される点は押さえておいてください。



■ 対象外になる例——「使い方を知る」だけの研修


一方、対象外の例として示されているのが、「生成AIを利用するために、汎用的なプロンプト(AIへの指示文)の作り方を学ぶ訓練」です。特定の業務にどう使うかが決まっておらず、生成AIの一般的な使い方を学ぶだけの研修は、助成対象外となります。

具体的には、「生成AIとは何か」を学ぶ研修、ChatGPTなどの基本操作を学ぶ研修、どんな業務にも使える汎用的な指示文の書き方を学ぶ研修、生成AIを使う際の一般的な注意事項を学ぶ研修、そして職種を限定せず全社員を対象に行う基礎的なAI研修——こうした内容は、対象外となる可能性が高いと考えられます。「学んで終わり」「知って終わり」の研修は助成されず、「業務が変わる」研修だけが助成される。これが今回の改定のメッセージです。

実務上の見極めとして役立つのが、研修会社のカリキュラム(研修の内容表)を取り寄せて、各回のテーマを自社の業務名に置き換えられるか試してみることです。「プロンプトの基礎」「AI活用の心構え」といった項目が並ぶだけで、自社のどの業務にも読み替えられないなら、そのカリキュラムは一般知識型である可能性が高いでしょう。逆に、「提案書の構成案を作る演習」「自社データを使った回答文の修正演習」のように、受講者の仕事の場面がそのまま書かれているカリキュラムなら、職務直結型として説明しやすくなります。既製の研修パッケージをそのまま使うのではなく、研修会社に依頼して演習部分を自社業務に合わせて調整してもらう、という交渉も検討に値します。



■ 最重要ポイント——同じ研修でも「誰が受けるか」で結論が変わる


今回の改定で特に重要なのが、研修の中身だけでなく「誰が受講するか」も判断材料になる点です。厚生労働省の資料には、象徴的な例が示されています。「自社のエネルギー使用量データの収集方法や、CO₂排出量算定ルールに基づく計算手順を学ぶ訓練」です。

この研修を、実際にCO₂排出量の算定業務を担当する従業員が受講する場合は、業務にそのまま組み込まれる実務能力を習得できるため、助成対象になる例とされています。ところが、まったく同じ研修を、人事や営業に従事する従業員が受講した場合は、助成対象外の例とされているのです。研修の内容は一字一句同じでも、受講者の担当業務との結びつきがなければ対象外——これが新しいルールの考え方です。

したがって、次のような判断は避けなければなりません。「有益な研修だから全社員に受けさせよう」「将来役立つかもしれないから受講させよう」「DXに関する内容だから対象になるだろう」。いずれも、これまでの感覚では自然な発想ですが、今回の改定後は通用しません。申請にあたっては、受講者一人ひとりについて、担当業務と研修内容の関係を説明できる状態にしておくことが求められます。



■ 重要な補足——全社リテラシー研修が「無意味」になったわけではない


ここで一つ、公平のために補足します。今回対象外とされた「全社員向けのAI基礎研修」や「DXリテラシー研修」そのものが、無意味だと言っているのではありません。会社全体でAIへの理解度を底上げすることは、現場からの改善提案を生み、AI活用の土壌をつくるうえで有効です。むしろ、基礎的な理解がないまま一部の担当者だけに専門研修を受けさせても、社内に定着しないという失敗はよくあります。

変わったのは「その費用を国が助成するかどうか」であって、「その研修に価値があるかどうか」ではありません。全社的なリテラシー研修は、助成金の枠外で、自社の投資として実施する価値があるかを判断する。助成金を狙う研修は、職務直結型に設計する。この2つを切り分けて考えることが、改定後の現実的な整理です。助成金が取れないからやめる、という判断が常に正しいとは限らない点は、あえて強調しておきます。

助成が取れる研修計画の作り方——「誰が・何を・どの業務で」を書けるか



■ 抽象的な目的と具体的な目的の違い


では、助成対象と認められる研修計画は、どう作ればよいのでしょうか。鍵は、研修の目的をどこまで具体化できるかにあります。次の2つの研修目的を見比べてください。

抽象的な例は、「生成AIの知識を身につけ、業務効率化を図る」。この表現では、どの職務の誰が、どの業務でどう生成AIを使うのかが分かりません。改定後の審査では、対象外と判断されるリスクが高い書き方です。

具体的な例は、「営業担当者が、生成AIを活用して顧客情報をもとに商品提案書の構成案を作成し、文章の修正や提案内容の整理を行えるようにする」。こちらは、受講者(営業担当者)、対象業務(提案書作成)、習得する技能(構成案作成・文章修正)、研修後の活用方法まで明確です。「何を学ぶか」ではなく「どの業務で、どのように活用するか」から逆算して研修を設計する——これが改定後の基本動作になります。



■ 計画届の前に整理しておく6項目


計画届や研修カリキュラムを作成する前に、少なくとも次の6項目を受講者ごとに整理しておくことをお勧めします。第一に、受講者の所属部署と担当業務。第二に、その受講者が現在抱えている業務上の課題。第三に、研修で習得する具体的な知識・技能。第四に、研修後にその技能を活用する業務。第五に、研修によって業務のやり方がどう変わるか。第六に、その研修が自社の事業展開やDX化・GX化とどう関係するか。

記入イメージを一つ挙げます。所属・担当業務は「営業部・法人向け提案営業」。業務上の課題は「提案書の作成に1件あたり半日かかり、訪問件数を圧迫している」。習得する技能は「生成AIによる提案書構成案の作成と文章修正の手順」。活用する業務は「新規顧客向けの商品提案書作成」。業務の変化は「作成時間を半日から2時間程度に短縮し、浮いた時間を顧客訪問に充てる」。事業展開との関係は「新サービスの拡販に伴う提案件数の増加への対応」。ここまで書ければ、審査する側にも研修の必要性が伝わります。

この6項目が埋まらない受講者がいたら、それは「受講させる理由を説明できない」というサインです。研修から外すか、その人の業務に合った別の研修を検討すべきでしょう。逆に、6項目がすらすら埋まる研修計画は、助成の観点だけでなく、研修効果の観点でも筋の良い計画になっているはずです。



■ eラーニング回数の管理——部署ごと管理の落とし穴


変更点2への実務対応も具体的に考えておきましょう。まず確認すべきは、同じ年度内に、同じ従業員が別のeラーニング研修をすでに受講していないか、あるいは受講予定がないかです。ここで落とし穴になりやすいのが、研修を部署ごとに管理している会社です。営業部が申し込んだオンライン研修と、総務部が全社向けに手配したオンライン研修を、同じ従業員が両方受講している——こうしたケースでは、他部署での受講履歴を見落としたまま申請してしまう恐れがあります。研修の受講履歴は、部署単位ではなく会社単位で一元管理することが必要になります。

もう一つの注意点が、「一つの年度」の数え方です。年度は4月1日から翌年3月31日までを指しますが、厚生労働省の改定資料では、年度の判断は「支給申請日を基準とする」と記載されています。研修を受講した日だけで年度を判断すると、認識がずれる可能性があるのです。特に年度末に研修を実施し、支給申請が翌年度にずれ込みそうな場合は要注意です。複数の研修を計画している会社は、計画届の提出日、訓練の開始日と終了日、支給申請の予定日、受講者ごとの過去の利用回数とeラーニング利用回数を一覧表にして管理し、迷ったら事前に管轄の労働局へ確認しておきましょう。



■ 助成金ありきで研修を歪めない


最後に、あえて逆方向の注意も述べておきます。助成の要件に合わせることを優先するあまり、本来必要な研修の形を歪めてしまっては本末転倒です。たとえば、eラーニングの回数制限を避けるためだけに、オンラインで十分な研修を無理に集合形式へ変更すれば、会場費や移動時間という別のコストが発生します。助成額とそのコストを天秤にかければ、助成をあきらめてeラーニングで実施したほうが総額で得なケースも当然あります。

「助成金が取れる研修」と「自社に必要な研修」は、重なることも多いものの、常に一致するわけではありません。まず自社の事業展開に必要な人材育成を描き、そのうえで助成制度に乗せられる部分を乗せる。この順番を守ることが、制度に振り回されないための原則です。



おわりに:問われているのは「学ばせたか」ではなく「業務を変えたか」


今回の改定を一言でまとめれば、国の要求水準が「学ばせること」から「業務を変えること」へ引き上げられた、ということです。国の予算には限りがあり、リスキリング支援が広がるほど、「本当に事業の変革につながる学び」に絞って支援したいという方向性は、今後も強まりこそすれ、緩むことは考えにくいでしょう。DXやGX、生成AIといった言葉を掲げるだけの研修には助成せず、受講者の仕事が具体的に変わる研修に絞って支援する。厳しくなったとも言えますが、見方を変えれば、研修を「受けさせて終わり」にせず、成果につなげる設計を促す改定だとも言えます。研修名ではなく職務との直結性で考える習慣は、助成金の有無にかかわらず、人材育成の精度を確実に高めてくれるはずです。


明日からできる確認事項を、3つに絞ってお示しします。

チェック1 受講者と業務の突合 計画中の研修について、受講者リストと各人の担当業務を並べ、「この人がこの研修を受ける理由」を一人ずつ説明できるか確認する。説明できない受講者がいれば、対象者の見直しを検討する。

チェック2 eラーニング履歴の一元確認 年度内に同じ従業員が複数のオンライン研修を受講していないか、部署をまたいで全社ベースで確認する。組み合わせ型(一部eラーニング)の研修も対象になり得る点に注意する。

チェック3 日付の証憑を保管 研修の契約書・申込書・発注書と計画届の提出日を確認し、経過措置の対象になるかを整理する。判断に迷う場合は自己判断せず、管轄の労働局に確認する。

すでに計画届を提出している企業や、研修を申し込み済みの企業も、無関係ではありません。最新のパンフレットと支給要領を確認し、必要に応じて労働局や社会保険労務士などの専門家に相談してください。貴社の研修計画は、「誰が、何のために、何を習得し、どの業務に活用するのか」に答えられる状態になっているでしょうか。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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