中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第153回

10月1日から変わる「同一労働同一賃金」 ―「正社員だから」が通用しなくなる日―

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原京二

 

はじめに:10月1日、パートと正社員をめぐるルールが変わった


想像してみてください。長く働いてくれているパート社員から、ある日こう聞かれたとします。「正社員の方には賞与が出るのに、どうして私には出ないのですか」。あなたは、その理由をきちんと説明できるでしょうか。「パートさんだから」「昔からそういう決まりだから」――もしそれ以上の答えが出てこないとしたら、本コラムはあなたの会社のための記事です。

「同一労働同一賃金」という言葉自体は、耳にしたことがある方が多いと思います。正社員と、パートタイマーや契約社員といった非正規社員との間の、不合理な待遇差を禁止するルールです。実はこのルール、大企業では2020年から、中小企業でも2021年からすでに法律上の義務になっています。つまり、決して新しい話ではありません。ところが実際には、「うちは大丈夫だろう」と、自社の待遇差を一度も点検しないまま今日まで来てしまった会社が少なくないのが現実です。

そして、2026年10月1日。施行から5年の節目を経て、この同一労働同一賃金のルールが初めて大きく見直され、改正が施行されました。パート社員や契約社員を1人でも雇っているすべての会社が対象で、会社の規模による猶予はありません。今日から、パート・有期社員を雇い入れるときや契約を更新するときの書面に、新しい記載が義務づけられます。あわせて、賞与・退職手当・家族手当・住宅手当といった待遇差の「良い・悪い」の判断基準が、国のガイドラインで具体的に示されました。

先に、本コラムの結論をお伝えします。同一労働同一賃金とは「待遇差をなくせ」という制度ではありません。「説明できない待遇差をなくせ」という制度です。そして今日からの改正で、従業員には「説明を求める権利がある」ことを書面で知らせることが義務になりました。だからこそ、経営者が本当にやるべきことは、書式の差し替えだけではなく、その説明の土台になる「社員区分の定義」――正社員と非正規社員の働き方の違い――を明確にすることです。本文で順を追って解説します。



そもそも同一労働同一賃金とは何か ―よくある誤解を解く


■ 「パートの時給を正社員と同じにしろ」という制度ではない

まず、この制度をめぐる最大の誤解を解いておきましょう。「同一労働同一賃金」という名前から、「パートの時給を正社員の給与水準まで引き上げなければならない」「すべての待遇を横並びにしなければならない」と受け取ってしまう経営者の方がいます。これは誤解です。この制度の正式な中身は、パートタイム・有期雇用労働法という法律が定める「不合理な待遇差の禁止」です。禁止されているのは「差」そのものではなく、「不合理な差」、言い換えれば「理由を説明できない差」なのです。

正社員と非正規社員とで、仕事の中身や責任の重さが本当に違うのであれば、その違いに応じて待遇に差があること自体は認められます。問題になるのは、働き方の実態がほとんど同じなのに待遇だけが大きく違う場合や、差の理由を聞かれても答えられない場合です。ここを押さえておくと、この後の話がぐっと理解しやすくなります。


■ 物差しは「仕事の中身・責任・変化の範囲」

では、どんな差が「不合理」とされるのか。法律が用意している物差しは、大きく2つのルールに分かれています。

1つめは、働き方が正社員と同じ場合のルールです。具体的には、①仕事の内容と責任の程度、②配置転換や転勤といった人事異動の範囲、この2つが正社員とまったく同じ非正規社員に対しては、非正規であることを理由に待遇で差別的な取り扱いをすることが禁止されます。「同じ働き方なら同じ扱いを」という、いわば横一線のルールです。

2つめは、働き方に違いがある場合のルールです。仕事の内容や異動の範囲が正社員と違うのであれば、待遇が同じである必要はありません。ただしその場合でも、①仕事の内容と責任、②異動の範囲、③その他の事情という3つの要素に照らして、「バランスを欠いた不合理な差」をつけることは禁止されます。つまり、違いの程度に見合った、釣り合いの取れた待遇にしなさい、というルールです。

もう1つ重要なのは、この判断が「給与総額のざっくり比較」ではなく、待遇の項目ごとに行われることです。基本給は基本給、賞与は賞与、通勤手当は通勤手当、休暇は休暇。それぞれの待遇について「この待遇は何のために支給・付与しているのか」という目的を確認し、その目的がパート・有期社員にも当てはまるかどうかで判断します。たとえば通勤手当は「通勤にかかる費用を補う」ことが目的ですから、通勤している事実は正社員もパートも変わらず、差をつける理由は説明しにくい。一方、役職手当は「管理職としての責任」への対価ですから、その責任を負っていない人に支給しないことは説明がつく。こういう考え方です。


■ 制度の核心は「説明義務」にある

そして、経営者に最も知っておいていただきたいのが、この法律には「説明義務」が組み込まれているという点です。非正規社員から求められた場合、会社は、正社員との待遇差の内容とその理由を説明しなければなりません。この説明義務こそが制度の心臓部です。裁判所に行く前の段階で、まず職場の中で「なぜ差があるのか」を会社に語らせる。説明できなければ、その差は見直しを迫られる。制度はそういう構造になっています。

説明の場面を具体的にイメージしておきましょう。たとえば契約社員から申し出があった場合、会社は「どの正社員と比べるのか」という比較対象(同じ職場の同じ職種の正社員など)を示したうえで、双方の待遇の基準、仕事や責任・異動範囲の違い、そしてその違いが待遇差とどう結びつくのかを説明することになります。口頭での説明も可能ですが、資料を用意してそれを渡しながら説明するほうが望ましいとされています。なお、説明を求めたことを理由に、その従業員を不利益に取り扱うことは禁止されています。「そんなことを聞くやつは更新しない」は、それ自体が法律違反になるということです。

実際の線引きは、裁判の積み重ねで形づくられてきました。2020年秋には最高裁判所が立て続けに判断を示し、ある事案では契約社員への賞与や退職金の不支給が「不合理とまではいえない」とされた一方、別の事案では扶養手当や年末年始勤務手当、病気休暇などの格差が「不合理」と判断され、会社側が敗訴しています。ここから読み取るべきは、「賞与は払わなくていい」「手当は払うべきだ」という単純な結論ではありません。同じ待遇でも、その目的と働き方の実態によって結論が分かれる、つまり個別判断だということです。だからこそ、自社の実態を自社で点検しておく以外に、安心する方法はないのです。



今日から何が変わったのか ―3つの改正点


■ 変わったのは3つ。ただし「新しい義務」は1つ

今回の改正の全体像を整理します。変わったのは次の3つです。第一に、パート・有期社員を雇い入れるときの書面の明示事項が追加されたこと。第二に、待遇差の判断基準を示す「同一労働同一賃金ガイドライン」が改正され、記載が大幅に具体化されたこと。第三に、望ましい雇用管理のあり方を示す指針が改正されたこと。

ここで正直にお伝えしておくと、このうち会社にとっての「新しい法的義務」は、実は第一の書面明示の追加だけです。今回、法律そのものの改正は見送られ、省令とガイドラインの改正で実効性を高めるという形が取られました。「なんだ、その程度か」と思われたでしょうか。しかし、それは早合点です。理由は後述しますが、まず3つの中身を順に見ていきます。


■ 改正① 通知書に「説明を求めることができる」と書く義務

今日以降、パート・有期社員を雇い入れる際には、労働条件通知書などの書面で、「正社員との待遇の違いについて、その内容や理由の説明を求めることができる」ことと、その申し出先の窓口を明示することが義務になりました。注意すべきは、契約社員やパートの「契約更新」も、この雇い入れに含まれるという点です。つまり、半年契約や1年契約を更新している会社では、今日以降の更新のたびに、新しい様式の通知書を使う必要があります。この明示義務に違反した場合には10万円以下の過料という制裁も定められています。金額の大小ではなく、「従業員に説明を求める権利があることを、会社の側から知らせる」ことが法律上の義務になった――この意味の重さを受け止めるべきです。


■ 改正② 賞与・退職手当・家族手当など9項目の判断基準が具体化

2つめが、ガイドラインの改正です。これまでのガイドラインには記載のなかった退職手当・家族手当・住宅手当・無事故手当・福利厚生施設・褒賞(永年勤続表彰など)の6項目が新たに追加され、賞与・病気休職・夏季冬季休暇についても記載が充実しました。合計9項目について、「どういう場合に差が不合理となるか」の考え方が示されたわけです。

いくつか例を挙げます。家族手当については、契約更新を繰り返すなど継続的な勤務が見込まれる非正規社員には、正社員と同一の支給が求められるという考え方が示されました。住宅手当については、転居を伴う転勤の負担を補う手当であれば、規程に「転勤あり」と書いてあるかどうかではなく、実際に転勤命令があるのか、今後の具体的な見込みがあるのかという実態で判断するとされました。また、社員食堂や休憩室、更衣室といった福利厚生施設は、正社員に利用させているなら非正規社員にも利用の機会を与えなければなりません。

賞与についても、業績への貢献に報いるという目的が非正規社員にも当てはまるのであれば、責任や成果、労働時間の違いに応じた支給を検討すべきという整理が示されています。病気休職は、契約期間や更新の見込みを踏まえて一律に対象外としていないかが問われ、夏季・冬季休暇は、正社員と同じ時期に働いているパート・有期社員だけを外していないかが着眼点になります。永年勤続表彰のような褒賞も、同じ年数勤めた人を雇用区分だけを理由に除外することは難しくなります。あわせて注意したいのが、定年後の再雇用社員です。「定年後の再雇用だから」という事情はあくまで考慮要素の1つにすぎず、それだけで待遇差が正当化されるわけではありません。再雇用の嘱託社員についても、待遇ごとに目的に照らした点検が必要です。

これらの多くは、先に触れた最高裁判決の考え方を国のルールとして明文化したものです。ここが経営者にとっての最重要ポイントですが、判断例がここまで具体的になったことで、「正社員とは制度が違うから」「昔からの慣行だから」といった抽象的な説明は、今後ますます通用しなくなります。


■ 改正③ 望ましい雇用管理の指針 ―義務ではないが、指導の物差しになる

3つめが雇用管理指針の改正です。非正規社員の能力や成果を公正に評価して昇給に反映すること、正社員への転換制度の内容や実績を明らかにすること、非正規社員の意見を聴く機会を工夫することなど、「望ましい取り組み」が具体化されました。これらは義務ではなく努力水準です。

ここでフェアに補足します。今回の改正は、罰則で会社を縛るタイプの改正ではありません。過料の対象は書面明示の義務だけで、ガイドラインや指針に強制力はありません。「ならば急がなくてもよいのでは」という見方も、理屈としてはあり得ます。しかし現実には、この改正は3つのルートで会社に効いてきます。1つめは裁判リスク。ガイドラインは裁判所の判断とすでに地続きであり、明文化された基準から外れた待遇差は訴訟で不利になります。2つめは行政の指導。ガイドラインや指針は、労働局が会社に報告を求めたり助言・指導を行ったりする際の物差しになります。そして3つめが、実は一番身近な、従業員の目です。説明を求める権利が書面で全員に知らされる以上、「聞いても答えてもらえない会社」への不信は、静かに、しかし確実に人材流出につながります。罰則がないことと、リスクがないことは、まったく別の話なのです。



具体的に何をすべきか ―通知書の改定と「社員区分の定義」の明確化


■ 最初の一歩は、労働条件通知書の改定

では、経営者は具体的に何をすればよいのか。対応の中心は、はっきりしています。労働条件通知書のひな形を改定することです。今日以降にパート・有期社員を雇い入れる場面、そして契約を更新する場面で使う通知書に、「正社員との待遇の違い(内容・理由)について説明を求めることができる」旨と、その申し出先――部署名・担当者・連絡先――を記載します。厚生労働省が改正後のモデル様式を公開していますので、それを参考に自社のひな形へ一文を加えれば、形式面の対応はできます。なお、今日より前から働いている既存のパート・有期社員に通知書を出し直す義務まではありませんが、説明を求められることと窓口については、全員に周知しておくのが賢明です。


■ 通知書に書くとは、「説明を求められる前提で備える」ということ

ただし、ここで立ち止まって考えていただきたいのです。通知書にこの一文を書くということは、会社が従業員に対して「いつでも説明を求めてください」と宣言することを意味します。書式だけ整えて、いざ聞かれたときに窓口の担当者がしどろもどろになったり、「社長に聞かないと分からない」で止まったりすれば、かえって従業員の不信に火をつけることになります。書式の改定は入口にすぎません。本当の対応は、説明を求められたときに、筋の通った答えを返せる状態をつくっておくことです。


■ だからこそ、「社員区分の定義」を明確にする

では、筋の通った説明はどこから生まれるのか。私は、その土台は社員区分の定義にあると考えています。つまり、自社における「正社員とはどういう働き方をする人か」「パート・契約社員とはどういう働き方をする人か」を、改めて言葉にして定めておくことです。

具体的には、次のような観点で、正社員と非正規社員の働き方の違いを文書で明確にします。転勤の有無――正社員は転居を伴う転勤があり得るのか、非正規社員はないのか。配置転換の範囲――正社員は部署や職種をまたぐ異動の対象か、非正規社員は採用時の業務に限定されるのか。残業の有無――正社員には残業や休日出勤を命じ得るのか、非正規社員は原則として所定時間内か。責任の重さ――クレーム対応の最終責任、部下の指導、売上目標、緊急時の呼び出しなどを、どちらの区分が負うのか。

なぜこれが土台になるのか。待遇差の説明は、突き詰めればすべて「働き方の違い」から導かれるからです。区分の定義が明確であれば、「賞与は、業績への責任を負い、異動や残業にも応じる正社員の貢献に報いるもの。パート社員には代わりに時給と皆勤の手当で処遇している」「住宅手当は、転居転勤があり得る正社員の住居負担を補うもの。転勤のない契約社員には支給していない」というように、待遇ごとの理由が定義から一本の線でつながります。逆に、定義が曖昧なままでは、どんなに言葉を尽くしても、説明は結局「正社員だから」の言い換えにしかなりません。そしてその説明は、今日からの改正で、もう通用しないのです。

実務の進め方としては、次の順番をお勧めします。第一に、待遇の棚卸し。給与や賞与だけでなく、各種手当、休暇、休職、慶弔見舞金、社員食堂や駐車場の利用まで、雇用区分ごとに一覧表に書き出します。第二に、それぞれの待遇について「何のために支給・付与しているのか」という目的を言葉にします。第三に、先ほど定義した働き方の違いとその目的を突き合わせ、差の理由を待遇ごとに一文で書いてみる。ここでスラスラ書ければ問題ありませんし、筆が止まった項目こそが、あなたの会社の要点検リストです。第四に、その結果を記録として残しておく。説明を求められたときの資料になるだけでなく、万一、労働局から報告を求められたり紛争になったりした場合に、会社が誠実に点検してきた証拠にもなります。


■ 定義すると、あぶり出される「実態とのズレ」

ここで、あえて耳の痛い話もしておきます。社員区分の定義を真剣にやると、多くの会社で「規程と実態のズレ」があぶり出されます。就業規則には「正社員は転勤あり」と書いてあるのに、ここ10年、実際に転勤した正社員は1人もいない。正社員とベテランパートが、実際には同じ持ち場で同じ仕事をしている。こうしたズレが見つかったとき、やってはいけないのは、実態に合わない「説明の作文」でごまかすことです。前述のとおり、住宅手当をめぐるガイドラインは規程の文言ではなく実態で判断するとしていますし、裁判所も実態を見ます。ズレが見つかったら、説明を取り繕うのではなく、区分の定義を実態に合わせて引き直すか、待遇のほうを見直すか、どちらかの再設計が必要です。

もう1つ、注意すべき落とし穴があります。「差を説明できないなら、正社員の手当を廃止して差をなくせばよい」という発想です。これは今回の改正の趣旨に沿うものとはいえず、正社員にとっては労働条件の不利益変更となるため、別の紛争リスクを抱え込むことになります。基本は非正規社員側の待遇改善で考えるべきですが、当然、原資には限りがあります。すべてを一度に是正する必要はありません。同じ仕事なのに一律で対象外にしている待遇、規程と実態が食い違っている待遇、すでに従業員から疑問の声が出ている待遇から優先順位をつけ、計画的に進めることが現実的です。この設計は判断の分かれ目が多いので、顧問の社会保険労務士など専門家と一緒に進めることをお勧めします。



おわりに:「説明できる会社」になるための3つのチェック

今日から始まった新しいルールの本質は、突き詰めれば1つです。それは、待遇差そのものではなく、「説明できない待遇差」が会社のリスクになる時代が本格的に始まったということです。通知書の一文は、そのスタートの合図にすぎません。まずは次の3つを確認してください。

チェック1 通知書の改定 今日以降の雇い入れ・契約更新で使う労働条件通知書に、待遇差の説明を求めることができる旨と窓口(部署・担当者・連絡先)を記載したか。

チェック2 区分の定義 正社員と非正規社員の働き方の違い(転勤・配置転換・残業・責任)を、文書で明確に定義できているか。それは実態と合っているか。

チェック3 説明の一文 賞与・手当・休暇など、待遇差のある項目ごとに、その差の理由を区分の定義から一文で言えるか。

パートさんから「なぜ私には賞与がないのですか」と聞かれたとき、胸を張って理由を語れる会社と、目をそらす会社。人手不足の時代に選ばれるのがどちらかは、言うまでもありません。あなたの会社は今日、どちら側にいますか。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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