第17回
アジフライの“聖地”はカワハギの天国だった ~元寇の海底史跡のある海は魚で溢れている~
イノベーションズアイ編集局 編集アドバイザー 鶴田 東洋彦
”アジフライの聖地“松浦市
唐突な話で恐縮だが「日本で一番アジフライが旨い町」というのをご存じだろうか。「アジはどこにでもいる。全国どこでも、漁港の近くならアジフライは美味しいはずだ」というのは確かに正論に聞こえるが、なんと正解があって、その場所は長崎県の松浦市だそうである。と、某テレビ局の全国の「旨いもの」を探す旅番組でクイズ司会者が強調していた。
まったく個人的な感想を言わせてもらうと、アジの養殖が日本で最も盛んな静岡県の沼津市も候補ではないかとも思うが、確かに松浦市で食べたアジフライはふっくらとして旨かった。アジの水揚げ量は日本一。2019年の4月には自らを“アジフライの聖地・松浦”と宣言、町ぐるみでアジフライ推しである。観光パンフレットにも「アジフライの聖地」と書かれていて、気合の入れ方は只者ではないなと感じた記憶がある。

サバの大群が来襲、水中の鯉のぼり状態に
と前置きが長くなったが、今回は残念ながら松浦でアジを釣って食べるという話ではない。あくまでも雑魚釣りである。ということで向かったのが、市の中心部から少し離れた神崎漁港。車で「鷹島大橋」を渡って海沿いに進んだところにある風光明媚な漁港である。訪れた7月には釣り人も多く、サビキ釣りでアジを狙っている。さすがに“アジの聖地”だけある。
こちらも竿を二本取り出して、一本はサビキ仕掛け。もう一本は足元のテトラ際に落とそうと、7号の針二本付の胴付き仕掛けを用意して波止の隅に釣り座を確保、足元をのぞいてみる。「いるいる」。メジナ(地元ではクロ)の手のひらサイズ、小さなベラ、スズメダイ、それに赤ちゃんのようなメバルまではっきり見える。
さっそくサビキ用に凍らせたオキアミの塊を溶かして撒いてみると、瞬く間にいろいろな魚が集まってきた。中には背中が青いアジのようなさかなも。「これはいける」ということで、サビキ籠にたっぷりとオキアミを盛り込んで、5本を枝バリにしたサビキ仕掛けを落とす。とまもなくブルブルと次々とアタリが。
澄んだ海を除くと、一度に3、4匹はいっぺんに掛かっているのが見える。水中の鯉のぼりのようである。喜び勇んであげてみると、期待していた子アジと思ったら何と小さなサバ。時々、子アジも交じるものの、釣れるのはサバばかり。大げさでなく、またたく間にサバでクーラーボックスがいっぱいになってしまった。

やった!カワハギだ
「もうサバは十分」ということで、いったんサビキ釣りは終了。コンビニの鮭のお握りを咥えながら、さらに足元を目を枯らしてみると、海底に近いあたりを20センチほどの魚が悠々と泳いで、サビキ網から漏れ出たオキアミを突いている。魚のサイズを考えると「胴付き仕掛けの針は小さ目かな」と針を4号に変えて、ゴカイを付けてそっと落とし込んでみる。すると、その魚の黒い影がスーッとゴカイに近づいてきて様子を探ったあとでパクリ。
「カワハギだ!」これは嬉しい。針のサイズを落としたのが正解だったのか、2匹、3匹と続けて釣れる。カワハギは魚類では珍しく、小さなひれを使って後ろに下がれるために、あたりが取りにくく「エサ取りの名人」と言われる。だが、ここでは海の底を見ながら釣れるのだ。ゴカイを細かくちぎって撒き餌代わりにして釣り上げたカワハギが11匹。大満足である。

刺身の肝あえ、煮付けに大満足
ただ、ここで問題が発生。この神崎漁港から、当時の赴任先である博多の自宅までは急いで戻っても、車で2時間以上はかかる。となると帰宅しても、食べるのは翌日になってしまう。そこでカワハギはエラを切って血抜きして海水締めで持ち帰ることに。おかげで翌日の夕餉はカワハギで一人宴会状態になった。大きめのものは刺身、小ぶりなものは煮付けという具合である。


とくに肝あえにした刺身はこれ以上の美味はないほど。煮付けもしっかりした白身でビールが進むこと、この上ない。もともとカワハギは大好物の魚。ではあるが、この日ほどカワハギを堪能したことはない。これからもないと思うが。
ところで、釣れ過ぎた方の子サバはどうしたかと言うと、これも別のクーラーボックスに移して、同じように海水と氷で締めて持ち帰った。こちらの方は、ハラワタをおとして、また別の日に唐揚げで。
まだ、小さいので脂ものってないだろうと誤解されるかもしれないが、唐揚げにすると小さいなりに身もしっかりして旨い魚である。アジで南蛮漬けを、とも期待していたが、子サバの南蛮漬けも行けるのではと思う。
元の軍船を沈めた勇敢な松浦の水軍
ところでこの松浦と言う場所、昔から「倭寇(わこう)」として海賊行為を行った水軍「松浦党」の本拠地だった場所である。この松浦市のある長崎県北部から佐賀県北部にかけての一帯は、入り組んだ海岸線と多くの島々に囲まれ、ここで育った武士たちが船を操る水軍となって松浦党と呼ばれたという。
とくにこの「松浦党」の名前を有名にしているのは、元寇での勇敢な戦いである。元の軍隊は1274年の「文永の役」と1281年の「弘安の役」で対馬を経て、博多湾の沿岸から壱岐、松浦一帯に攻め込んできたが、松浦市あたりは「弘安の役」の最前線のひとつで、松浦党は元軍との激戦で元の軍船を何隻も沈めている。ほんとうに勇猛果敢な武士だったと言われる。
今回、出かけた神崎港沖は元の軍船が集中して沈んだ海域。日本で初めて、海底遺跡として国の史跡「鷹島・神崎遺跡」に指定されている場所で、今でも、海底からは元の軍船の船体の一部や武器、生活用品、農機具までは見つかっているという。「日本は神風が吹いて元の軍隊を追い払った」という、よくいわれる風説を覆す場所でもある。
そんな神崎港だが、今では平和そのもの。真っ青な海を背景に、カモメが飛び交う本当にのどかな風景である。波止に釣竿が並び、家族連れが歓声を上げる風景は、見ているだけでも微笑ましい。
この場所で800年近く前、北条時宗や鎌倉から駆けつけた武士が奮戦、そして海を知り尽くした松浦党の武士たちが元の軍船に斬り込んだ様子は想像もつかない。飛ぶカモメたちを眺めながら、平和の世の有り難さをつくづく実感させられる漁港である。

プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集アドバイザー
鶴田 東洋彦
山梨県甲府市出身。1979年3月立教大学卒業。
産経新聞社編集局経済本部長、編集長、取締役西部代表、常務取締役を歴任。サンケイ総合印刷社長、日本工業新聞(フジサンケイビジネスアイ)社長、産経新聞社コンプライアンス・アドバイザーを経て2024年7月よりイノベーションズアイ編集局編集アドバイザー。立教大学、國學院大學などで「メディア論」「企業の危機管理論」などを講義、講演。現在は主に企業を対象に講演活動を行う。ウイーン国際音楽文化協会理事、山梨県観光大使などを務める。趣味はフライ・フィッシング、音楽鑑賞など。
著書は「天然ガス新時代~機関エネルギーへ浮上~」(にっかん書房)「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)「記者会見の方法」(FCG総合研究所)など多数。
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