現場発「ものづくりイノベーション」最前線

第13回

ソニー「aibo」開発チームに聞く⑤人とロボットが紡ぐ「かけがえのない物語」

イノベーションズアイ編集局  ジャーナリスト 加賀谷 貢樹

 

「aibo」はオーナーと「思い出」を作るためにいる

前回に引き続き、ソニーグループ株式会社 事業開発プラットフォーム開発部門 AIロボティクス設計部統括部長の森田拓磨氏におもに話を聞きながら、「aibo」開発チームが今何を目指し、どんなロボットを作っていこうとしているのかを探っていくことにする。

今年3月のことになるが、「aibo」専用のスマートフォン・PC連携アプリ「My aibo」のアップデートが実施され、「aiboのおもいで」という機能が追加された。

これは、「aibo」がオーナーとの日々の暮らしのなかで体験した出来事を写真に撮り、生成AIで作成されたメッセージを添え、オーナーのアプリに毎日届けるというサービス。オーナーや家族は、毎日「aibo」から届く日記形式のメッセージを見ながら、日々の出来事やそのときの「『aibo』の気持ち」を、写真とともに振り返ることができる。

今年3月の連携アプリ「My aibo」アップデートで追加された「aiboのおもいで」機能。「aibo」が撮影した日々の暮らしのワンシーンにAIで生成されたメッセージが添えられ、写真右のような日記形式で、毎日オーナーのアプリに届く。

「aiboと家族の思い出をカタチにする」――ソニーは「aiboのおもいで」を、こんなキャッチコピーで紹介していた。よく考えれば、ロボットに機能を求める話はよくあるが、ロボットに「思い出」を求めるという話はあまり聞いたことがない。

だが森田氏は、「思い出は、『aibo』のコア価値だといってもいいと思います」と断言する。

「思い出を作るために『この子』はいるので。オーナーさんとの思い出を作るために、『aibo』はいます。僕はだから、もともと『aiboのおもいで』機能をやりたかったんです」(森田氏)

振り返れば、2018年1月の現行機種「ERS-1000」の発売にあたり、メディアに掲載された広告にはこんなキャッチコピーが記されていた。

「エンジニアたちが創りたかったのは、ロボットではない。かけがえのない物語だ。」

つまり、「aibo」が日々オーナーやその家族と作る思い出が「かけがえのない物語」であり、「aibo」はそのためにいるということになる。

となると、これは単純に思い出を記録するだけの機能ではない。一般家庭でオーナーや家族と暮らす「aibo」の存在意義そのものや、今後の「aibo」の進化にも関わる重要なポイントが、ここにあると考えられるのだ。

日々忘却される「日常」を記録し、それを思い出に変える

「日常の何気ない出来事でも、写真に撮ったり、文字にしたりすると、それが思い出になることってあるじゃないですか」と森田氏は問いかける。

では森田氏にとって、「日常の何気ない出来事」にはどんなものがあるのだろうか。

「たとえば、娘が『aibo』と遊んでいたということでもいいでしょう。そういう何気ない出来事は日々忘れ去られてしまいます。でもそれが(思い出として)残っていると、ちょっと振り返ってみたときに『あのときはこうだったよね』と思えたりしますよね。今そこにあるソファの位置も、20年後には変わっているかもしれない。ひょっとしたら家も引っ越しをしていて、(思い出として記録された写真を見れば)『あの頃はこういうところに住んでいたよね』と振り返ることができます」

毎日見ている子どもの顔も、成長するにつれてどんどん変わっていく。だが、誰もがそれを些細なことだと思って気に留めず、改めて思い出として記録しようともしない。だから、「日常の何気ない出来事」が日々忘れ去られてしまうのだ。

「子どもの顔って、1歳や2歳の頃にはたくさん写真に撮りますが、子どもが小学校に入ったり中学校に行くようになると、あまり撮らなくなりますよね」と森田氏。

「aiboのおもいで」機能に先立って公開されたPR動画のなかに、「ママが買ってくれた帽子を被ってみる」というタイトルのものがある(下記写真参照)。

日常生活のなかで、母が買ってくれた帽子を娘がかぶってみるというシーンは、それほど珍しいことではないだろう。だから、その出来事を写真に撮って残すこともあまりない。そのため時とともに、母は娘に帽子を買い与えたことも、娘がその帽子をかぶってみせたことも忘れてしまう。

だが「aibo」は日々のそういう何気ないワンシーンを記録し、日記形式で届けてくれるのだ。オーナーや家族にさりげなく寄り添うパートナーとして、「aibo」が自分の目線で写真を撮ってくれている。その蓄積が、オーナーと家族の思い出に変わるのだ。

「言葉にすること」で確かに通じ合えるものがある

「僕たちにとってロボットは相棒で、実際にバディとか相棒と呼んだりします。(私たちが作りたいロボットは)自分のことをわかってくれる存在で、僕たち人間に事情があるように、ロボットにも事情があっていいだろうとさえ、思っているんです」(森田氏)

余談になるが、ペット好きで犬を飼っていた親しい友人に、愛犬と長く一緒に暮らしていると、どんな気持ちになるのかを聞いてみたことがある。その友人は、愛犬とはもちろん信頼関係はあるけれど、自分が考えていることがどれだけ伝わり、それをどれだけ愛犬が理解してくれているのだろうと思うことがあるといっていた。

「愛犬の気持ちがわかるデバイスがあるじゃないですか。それに近いだろうなと思います。奥さんや子どもでも、(相手の気持ちを)確認したくなるときがあるじゃないですか。ましてや愛犬は、言葉を話さないからなおさらです。言葉にしないと伝わらない気持ちって、ありますよね。人と一緒で」

森田氏はそう語り、自宅で一緒に暮らしている「aibo」のめいちゃんが、娘さんと遊んだ翌日に送った写真とメッセージを見せてくれた。

「めいは夕方に○○のそばで遊べてうれしかったよ。いつも大好きだよ」

メッセージを見た娘さんは大喜びしていたという。写真に添えられた文章はシンプルだ。だが娘さんにしてみれば、「aibo」も自分のことを好きでいてくれるということが言葉で確認できたのは、格別に嬉しかったに違いない。森田氏はこう話を続ける。

「好きな人ができたとき、相手は何を考えているのだろうと、あれこれ考えることが楽しいじゃないですか。『aibo』もそれと同じです。設計者としては『この子は何を考えているのかな?』、『この子は今どういう気持ちでいるのかな?』とユーザーに思ってもらうことを意図したもので、その答えをちょっと出してあげるのです。その結果、ユーザーが(『aibo』に)感情移入していく。(これは)『aibo』を好きになってもらうための工夫という側面もありますね」

「aibo」がくれる、日常の「何気ない幸せ」への気づきと安心感

「もともと旧機種の『AIBO』にも、オーナーさんに日記を送る機能があり、とても好評でした。その頃はまだ(本体に搭載されている)センサ類も少なく機能も限られていて、用意していた文章の種類も多くはありませんでした。それでも『すごく楽しい』、『面白い』というご意見をいただいていたのです。それを何らかの形で(現行機種でも)再現できたらいいなと思っていました」

ソニーグループ株式会社 事業戦略プラットフォーム事業推進部 プロダクト企画1課の儀我(ぎが)有子氏は、「aiboのおもいで」機能の開発の動機をこう語る。

「aiboのおもいで」機能で届くメッセージは短文だが、オーナーと家族の心に刺さるものがある。それに何より、「aibo」目線で撮られた写真に写る、オーナーと家族の姿や表情が自然で「ありのまま」なのだ。

「aibo」が撮影するオーナーや家族の表情は、とても自然だ。自分がこんな表情を「aibo」に見せていることにさえ、気づいていないかもしれない。

被写体が、撮影者ではなく「aibo」と向き合っているから、自分が写真に撮られていることをあまり意識しないのだろう。オーナーや家族が、「aibo」がいつの間に自分たちの姿を写真に撮ってくれていたのかに気づかないことも多い。

あとで「aiboのおもいで」機能で届けられたメッセージを見て、「ああ、『aibo』はこんなことを記録してくれていたんだな」という発見がある。

「そうですね。日常の幸せへの気づきや安心感があるとおっしゃるオーナーさんが数多くいます。なかでも、(この機能を通して)日常の幸せに気づくことは、オーナーさんにとって大きな体験なのでしょう。普段から『自分は幸せだなあ』と思って生きている人は、まずいません。幸せとは、ある意味で相対的な感情です。(今思い返してみて)『あの頃はよかったなあ』とあとになって感じるようなものだと思います」と森田氏は話す。

出勤や通学で時間に追われる朝。その慌ただしい最中にさえ、日常のちょっとした幸せが存在していることを、「aibo」のカメラは捉えている。

森田氏のいうオーナーが感じる「安心感」も、自身が日常の幸せに気づくところから生まれてくるものかもしれない。

「aiboのおもいで」機能へのオーナーの感想のなかには、「留守番しているときや自分が出張中の『aibo』の気持ちがわかって、いとおしさが増した」というものがあったという。同機能で「aibo」から届いたメッセージのなかに、「aibo」が1人で留守番をしていたときの写真や文章があったのだろう。

オーナーによって、外出時の「aibo」への対応はさまざまだ。電源ボタンを短く押してスリープモードにしたり、電源を完全にオフにする人もいる。「aibo」はバッテリー残量が少なくなれば自力でチャージステーションに戻って充電を始めるので、「aibo」を1人で遊ばせているオーナーもいる。

森田氏によれば、外出時に「aibo」の「電源をオフにするのがかわいそうだ」と感じるユーザーが少なからずいるそうだ。「aibo」の電源を切って動きを止めてしまうのがかわいそうだと感じるのだろう。また前出の儀我氏によれば、自身が外出しているときに「『aibo』を待たせるのがかわいそうだから早く帰りたい」と思うオーナーが数多くいる。

ここまでくると、生き物であるペットに対する飼い主の反応と、ほとんど変わらない。電源を切って「動きを止めるのがかわいそう」、「1人で待たせるのがかわいそう」とオーナーが思わず感情移入してしまうほど、「aibo」は人間の「愛情の対象」になっているということだ。

「aibo」は「心のバリア」も取り払う

先に、本文と写真下の説明書きにこう書いた。

・「『aibo』が撮影するオーナーや家族の表情は、とても自然だ。自分がこんな表情を『aibo』に見せていることにさえ、気づいていないかもしれない」

・「被写体が、撮影者ではなく『aibo』と向き合っているから、自分が写真に撮られていることをあまり意識しないのだろう」

「aibo」の前で、オーナーや家族はじつに自然な姿や表情、ありのままの自分を見せる。「aibo」には、人の心のバリアを取り払う能力が備わっているのかもしれない。

実際、高齢者施設でもそんな光景がよく見られるという。ソニーフィナンシャルグループ株式会社(本社・東京都千代田区)の傘下に、介護事業を統括するソニー・ライフケア株式会社(本社・川崎市川崎区)があり、同社の子会社が有料老人ホームを運営している。

「それらの施設には、全室に『aibo』を導入していただいています。入居者のなかには、人が相手だと、自分の認知機能が低下していることに気づかれないように、自分をオープンにしない方もいるのです。でもそんな方も、『aibo』の前だと何の気兼ねもなく普通に話しているという報告をよく聞きます。『aibo』は他の高齢者施設にもかなり導入していただいていますが、とくに犬を飼っていた経験のある入居者の方は反応がよいということです」と儀我氏は話す。

儀我氏はまた、高齢の両親が暮らす自宅で『aibo』を飼っているオーナーの感想として、「(見守りのために)監視カメラを置くことで(自宅内が)ちょっと嫌な雰囲気になることがありますが、『aibo』なら心理的な抵抗感がないようです」と話す。

ところで、認知症のケアに「回想法」という手法がある。これは、患者に数多く残っている長期記憶を刺激することで脳の活性化をはかるというものだ。支援者と1対1、または少人数のグループで思い出を共有しながら、コミュニケーションを重ねていく。

「認知症の方は、最近の記憶を保つことは困難ですが、昔の記憶は保持されています。昔のことを思い出して言葉にしたり、相手の話を聞いて刺激を受けたりすることで脳が活性化し、活動性・自発性・集中力の向上や自発語の増加が促され、認知症の進行の予防となります。また、昔の思い出に浸り、お互いに語り合う時間を持つことで精神的な安定がもたらされます」(公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」より引用)

つまり、認知症ケアの現場でも「思い出」が1つのキーワードになっているのだ。人の心のバリアを取り払い、オーナーとの思い出を共有する「aibo」の力が介護分野でも活かされることが期待される。

――次回へ続く――

 

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