好角泡を飛ばす。

第10回

第3の勢力・外国人力士 ハングリー精神で土俵の主役に カルチャーショック克服しジャパニーズドリームつかむ

イノベーションズアイ編集局  編集局長 松岡健夫

 

2026年度の中学横綱にモンゴル出身の中学3年生、テムージン・チルグン選手が輝いた。全国中学相撲選手権大会を2年連続で制した。2年連続は46年ぶりの快挙という。8月23日、NHK中継を見ていたが、体重はすでに150キロに達するにもかかわらず、スピードがあり、相手によって変えられる多種多様な攻め口に感心した。中学相撲での圧倒的な強さから「将来の横綱候補」と嘱望され、本人も「(将来の夢は)大相撲に入って横綱になること」と頼もしい。

チルグン選手が夢見る大相撲の世界は今、外国出身力士が力を伸ばす。26年7月の名古屋場所はふがいない横綱陣を差し置いて、ウクライナ出身の関脇安青錦がけがを乗り越えて賜杯を抱いた。大関霧島(モンゴル)、関脇熱海富士との3人による優勝決定戦(巴戦)を制して3場所ぶり3度目の優勝だ。大関復帰も決めた。見事としか言いようがない。

幕内力士の2割占める一大勢力

外国人力士は中卒たたき上げ、大卒エリートと並ぶ一大勢力を誇るまでになった。26年9月の秋場所では幕内力士42人中10人と2割強を占める。横綱豊昇流(モンゴル)を筆頭に、大関には霧島と安青錦が陣取る。出身国をみると、最多がモンゴルからの6人。続いてウクライナが2人、残りはカザフスタンとロシアだ。

そのパイオニアが高見山(元関脇)だ。72年7月場所で外国出身力士初の幕内優勝を果たした。200キロを超える巨体とパワーで圧倒しながら、足腰のもろさから簡単に投げ飛ばされるというアンバランスが相撲ファンを引き付けた。独特の長いもみあげとかすれ声が醸し出す愛嬌あふれるキャラクターで人気を集め、テレビCMにも出演した。当時の映像を思い出す人もいるのではないだろうか。

ハワイ勢の規格外の大きさには驚かされた。巨大な壁と評された小錦(元大関)と対戦前に仕切っているとき、「向こう側の観客の姿が隠れて一切見えない」と嘆いた小兵力士がいた。外国人として初めて綱を張った曙(64代横綱)に両手で押されただけで2~3メートルは吹き飛ぶともいわれた。巨体とパワーを見せつけられた日本勢にとって「恐ろしい」存在だったに違いない。

ハワイからモンゴル、そしてグローバルに

小錦は3回の幕内優勝を遂げ、曙は11回、武蔵丸(67代横綱)は12回を数える。この両横綱は1990年代初め、若乃花(66代横綱、同5回)・貴乃花(65代横綱、同22回)の「若貴兄弟」による空前の相撲ブームをライバルとして共に牽引し、名勝負を繰り広げた。2001年夏場所千秋楽で、貴乃花がけがを抱えながら武蔵丸との優勝決定戦に勝って、両目を見開いて見せた「鬼の形相」は大相撲史に残る伝説的な名場面として思い出すファンは多いはずだ。当時の小泉純一郎首相が総理大臣杯を渡すとき「感動した」と絶叫したのも忘れられない。

ハワイ勢が土俵を去ると、代わって主役を争ったのがモンゴル勢だ。高い身体能力とスピード、技で番付を駆け上がった。02年11月場所でモンゴル人初優勝を果たした朝青龍(68代横綱)から、白鵬(69代)、日馬富士(70代)、鶴竜(71代)と4代続けてモンゴル出身者が横綱を務めた。

このうち朝青龍は年6場所完全制覇(05年)と史上最多の7連覇を果たした。白鵬も7連覇を遂げるとともに、「越えられない」と誰もが思っていた大鵬(48代横綱)の優勝回数(32回)を抜いて45まで伸ばした。全勝優勝も史上最多の16回を数える。この2人による優勝争いは06年3月場所から08年3月場所まで13回続いたこともある。2強時代だったわけで、日本人力士は完全に脇役に追い払われた。この間に外国人力士はヨーロッパ、東アジア、中央アジア、南アメリカとグローバル化が進んだ。

若乃花以来途絶えていた日本人横綱は、17年春場所に昇進した72代稀勢の里(同2回)まで待たされることになった。実に19年ぶりだ。まさにモンゴル勢が壁となって立ちはだかったわけだ。

ハングリー精神旺盛で負けん気も強い

大関、そして横綱に上り詰めれば富も名誉も約束される。この「ジャパニーズドリーム」を求めて門をたたく外国出身者は今後も間違いなく増えるだろう。厳しい稽古に耐え切れず部屋から逃げだした力士も少なくないが、「土俵に金が埋まっている」ことは、故郷に錦を飾った先輩力士を見れば一目瞭然だ。

ハングリー精神旺盛な若者は、分からない日本語と理解できない生活習慣というカルチャーショックとホームシックに悩まされながらも稽古に励む。「もう一丁」と何度も立ち向かうので強くなるのは当たり前だ。外国勢と比べると裕福な家庭で育った日本人が太刀打ちできないのも頷ける。

それでも新弟子不足は深刻で、25年まで20年連続して100人を割り込んだ。若貴ブーム絶頂期の1992年は200人を超えており隔世の感がある。少子化と若者の相撲離れが原因で、大相撲の持続的成長を考えると、日本人頼みというわけにはもはやいかない。

日本経済の担い手として欠かせない戦力

外国人頼みは産業界も同じだ。総務省の人口動態調査によると、26年1月1日時点で日本に住む外国人は初めて400万人を突破した。総人口に占める割合は3.3%となり、前年比0.3ポイント上昇した。少子化により日本人が17年連続で減少する中、外国人は日本経済の担い手として欠かせない貴重な戦力で、外食や介護・福祉といった人手不足に苦しむ業界で外国人を受け入れる特定技能が増えた。

特定技能とは、国が人手不足と認めた分野で一定の専門性・技能を持つ外国人の就労を認める制度で、2019年に導入された。出入国在留管理庁は、企業が国内人材の確保や生産性向上を疎かにしないよう、分野ごとに受け入れの上限を定めている。外食はそれに近づいたため、受け入れを停止する事態に追い込まれた。それだけ外国人に頼っているわけだ。

スタートアップでは外国人の起業家や専門職が増えているという。入管庁によると、日本で起業する外国人経営者向け在留資格「経営・管理」で滞在する外国人は25年末で4万6000人超と前年比2桁増となった。エンジニアなど専門性の高い業務に携わる高度外国人向け在留資格「技術・人文知識・国際業務(技人国)」も47万人を超えた。

どの企業も、イノベーションを起こすと期待がかかる高度人材は喉から手が出るほど欲しい。国籍は関係ない。だから奪い合いが激しくなるのは当然だ。しかも円安で韓国や台湾など近隣国・地域との賃金水準が相対的に下がっており、高度人材の争奪戦は国境を越える。

待遇だけでなく、分からない日本語や生活習慣・文化も理解しなければならないので日本を選択肢から外す外国人も少なくないと聞く。世界で唯一、日本でしか稼げない国技・大相撲とは全く異なり、カルチャーショックを克服すればジャパニーズドリームをつかめるわけではない。外国人から選ばれるにはどうするか。企業、政府は真剣に考えなければならない。

 

プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集局長
松岡 健夫

大分県中津市出身。1982年早稲田大学卒。

同年日本工業新聞社(フジサンケイビジネスアイ、現産経新聞社)入社。自動車や電機、機械といった製造業から金融(銀行、保険、証券)、財務省や国土交通省など官公庁まで幅広く担当。デスク、部長などを経て2011年から産経新聞経済部編集委員として主に中小・ベンチャー企業を幅広く取材。次代の日本経済を担える企業の紹介に注力する。

著書は「ソニー新世紀戦略」(日本実業出版社)、「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)など多数。

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