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第7回

【部屋継承】一番弟子を婿養子で伝統維持と改革断行 血縁より持続的発展を優先

イノベーションズアイ編集局  編集局長 松岡健夫

 

相撲部屋には受け継がれてきた四股名がある。それだけ部屋としての歴史と伝統を持っていることになる。部屋の継承がうまくいっている証だ。

継承は従来、師匠(親方)の定年・退職により、同じ部屋で力士の指導に当たる部屋付き親方や、長く苦楽を共にした愛弟子(一番弟子)に引き継がれてきた。ただ、部屋を継承するには「年寄名跡(年寄株)」を取得する必要があり、一番弟子でも空き名跡がなければ親方になれない。幕内通算20場所以上といった実績も求められる。

「家」のように親方中心の共同生活

相撲部屋は、通常の「家」のように運営されている。親方を中心に同じ屋根の下で共同生活を営み、同じ釜の飯を食べる。このため、親方から弟子への継承は理想的だ。親方の経験や相撲道に対する理念を掲げた部屋訓を熟知しているからだ。指導理念を理解し、心技体を鍛える稽古が必要なことも身をもって知っている。寝食を共にするうえでの規律や礼儀も分かっている。ちゃんこの味も守られるので安心して継がせられる。

一方で世代交代は変革を促す。例えば稽古。これまで受け継がれてきたぶつかり稽古や、相撲の基本である四股、鉄砲、すり足の重要性を認識したうえで、科学的トレーニングやケガを防ぐ指導方法を取り入れる。「1日2食・ドカ食い」といわれる食事も見直す必要があると考えるだろうし、閉鎖的な部屋のガバナンスやコンプライアンスの徹底にも手を付けなければならない。令和の時代の親方はやるべきことが多く、何かと大変だ。

継承に当たり、一番弟子が息子なら親(方)冥利に尽きるだろう。叶わなければ一番弟子を娘婿として迎えて後継に据えるのもありだ。実際に、養子縁組を行って婿入りの形で親子関係を築く例も少なくない。伝統的な部屋継承の一つと言える。

大相撲の世界を背負ってきた実力者の優秀なDNAが受け継がれるという期待だ。「部屋持ち親方は娘が生まれると赤飯を焚いて喜ぶ」と俗に言われてきた。実際には横綱・大関になれる才能、強さが受け継がれるわけではない。才能の開花には、先天的なDNA的素質に加え、精神面を含めた稽古環境など後天的要素が大きくかかわるからだ。

3代続けて三役昇進

佐渡ケ嶽部屋は、一番弟子だった現親方(元関脇琴の若)が、先代親方の53代横綱琴櫻の長女と結婚し、婿養子となって部屋を継いだ。その長男、琴櫻は大関の地位にあり、横綱を伺う。後継に名乗りを上げても、物言いをつけるものはいないだろう。

7月場所で小結を務める王鵬が所属する大嶽部屋も娘婿が継いだ。優勝32回、45連勝などの記録を残した昭和の大横綱、45代大鵬が創設した部屋(当初は大鵬部屋)だ。二子山部屋に所属していた元関脇貴闘力が大鵬の三女と結婚し婿入りした。その子供の一人が王鵬というわけだ。

琴櫻、王鵬とも3代続けて三役昇進という大相撲の歴史に残る血筋を築いた。まだ先のことだが、次の代も楽しみだ。

最大の仕事は後継者指名

相撲部屋同様に、企業の創業者・経営者にとって最後にして最大の仕事は後継者指名といっても過言ではない。安心して任せられる後継者を探し出しバトンタッチすることだ。

頭にまず浮かぶのは子供だろう。遠い親戚も候補だ。身内にいなければ社内から探す。それでも見つからなければ社外。事業継続のためにはヘッドハンティングやM&Aも活用する。血縁を超えた後継者選びも頭に入れておかなければならず、婿養子という選択肢も大いにありうる。

日本は企業の90%超、上場企業の約5割が同族経営といわれるほどのオーナー大国だ。創業100年を超す老舗企業は世界で最も多い。その理由の一つが婿養子をもらうという事業承継があったからといわれる。外部の優秀な人材を迎え入れるので、内部の様々なしがらみにとらわれることなく、思い切った改革に着手できる。変化の激しい時代にあって、変えるべきことを変えられるのは大いなる強みだ。

中興の祖は婿養子

実際に婿養子が経営の「中興の祖」となった同族企業は少なくない。「婿養子のときのほうが業績はいい」といわれるほどだ。改革の好機になるからだ。

2~4代が婿養子というのがスズキだ。1909年の創業以来、世襲ではなく、優秀な人材を婿養子として迎え入れ、経営を託してきた。2代目、3代目は創業者の娘と結婚し婿入りした。4代目修氏は2代目の娘婿だ。日本独自の軽自動車を根付かせ、インドなど新興市場を開拓、今や押しも押されもせぬ世界的自動車メーカーに育て上げた。

手堅い経営でも知られる。徹底した現場主義とコスト削減に注力し、1979年発売の軽自動車「アルト」を大ヒットさせた。47万円という破格の低価格が受け入れられたわけだが、コスト削減を議論する中で「それならエンジンを取ったらどうだ」と名言を残した。

こうした修氏の言葉や考え方をまとめた「語録かるた」が6月に発売された。スズキのものづくり哲学「小・少・軽・短・美」や「光と重力はタダだ」などが収められている。「負けると思って相撲を取るやつはいない」もある。

1978年の社長就任時の売上高は約3000億円だが、今では6兆円を超す。「中興の祖」といわれながら「中小企業のおやじ」を自称した。ちなみに現社長の俊宏氏は修氏の長男。血縁として初の社長だ。

家訓を守り、血縁にこだわらず

修氏はかつて「受け継いだときより少しでも成長させて次代に引き継ぐことだけを考えてきた」と語っていた。創業家の期待に応えるという「娘婿の意地」を感じる。

日本は「家」の持続的発展を優先し、血縁に必ずしもこだわらない。経営理念、家訓が守られればいいだけだ。大相撲の世界と同じだ。このため、「日本ならでは」といわれる娘婿に継がせる事業承継が生まれた。とはいえ能力重視であることは確かだ。見誤れば存続の危機を招きかねない。「間違えた」では済まされないのだ。継ぐほうは勿論だが、継がせるほうも短期的利益を追求するのではなく、中長期視点で改革を断行するとの強い覚悟が求められる。

 

プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集局長
松岡 健夫

大分県中津市出身。1982年早稲田大学卒。

同年日本工業新聞社(フジサンケイビジネスアイ、現産経新聞社)入社。自動車や電機、機械といった製造業から金融(銀行、保険、証券)、財務省や国土交通省など官公庁まで幅広く担当。デスク、部長などを経て2011年から産経新聞経済部編集委員として主に中小・ベンチャー企業を幅広く取材。次代の日本経済を担える企業の紹介に注力する。

著書は「ソニー新世紀戦略」(日本実業出版社)、「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)など多数。

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