コロナ後の世界

第18回

物価高対策は“補填”より“賃上げ”

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 
ロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的な原油高や穀物高が続く中で、一人負けのような円安に襲われている。円高に振るもための手立ても事実上ない。日本銀行による為替介入も、米国をはじめとする“相手国”に協調して是正する意志がない以上限定的だ。 新型コロナウイルス禍からの“復興期”だけに、みんな自国のことに一生懸命だ。そもそも、こういうときだけに通貨安のメリットはあまりない。

そこで出てくるのが、政府の進める円安系物価高への対策である。その基本は、上がってしまった上昇分の“補てん”だ。もちろんこれも家計上はたすかる面も多い。しかし長持ちする対策ではない。物価高や円安はいつまで続くのか分からない上、国や自治体には投じるお金もないからだ。それでもなんとか頑張るつもりなのだろう。

金はないので借金(新規の公債発行)することになるのだろうが、このところバンバン積みあがっている借金(赤字公債)をみると、政治家の勇気?には恐怖を感じる。まさに、国の将来をかけた“一手”ではないだろうか。でも、この手にはキリがない。破綻するまで続くかもしれない。危険な麻薬のようだ。それでも、大勢からの反論は少ない。もしかすると大勢はこの危険性をそれほど理解していないのかもしれない。

幸いなのは、金利がほぼ無いことだ。ちなみに、2021年の国と地方の公債(借金)の合計は1200兆円を超えている。国の約1000兆円の借金に対して、収入(税収)は67兆円。それでいて予算(支出)はこのところ毎年100兆円を超える。驚くほどの赤字だ。昨年の国債発行額は前年よりも82.5兆円増えた。今年の予算では、借金の利子と返済額(国債費)は24.3兆円に及ぶ。

とはいえ、なんとかなっている。われわれにはなんら影響もない。これは実は奇跡的だ。というのも、利子がないから済んでいるのだろう。金利が上がれば利子が発生する、というか利子が増える。ちなみに金利が年率7%だったら、借金1000兆円にかかる利子は70兆円となり、収入を超える。

利上げを続ける米国の10年債は年利4%前後だが、これに近い水準だったら40兆円。消費者金融やカードローンなどは、収入の3分の1以上の額を貸し付けることが貸金業法で規制されているが、とうの国の借金具合はそれどころではない。(※実際の国債にはさまざまな種類かあり、金利もすべてが一斉に動くわけではないなど、そのまま前述のようにはなりません)

日銀は金利を上げない。というか、あげられない。だから借金がしやすい。半面で、米国などとの間で広がる金利差は円安の主たる原因でもある。でも、前述のこともあり、円安是正で金利アップはできない。だから打つ手は物価上昇分の補てん、という構図になる。

それにしても、国の借金積み増しは心配だ。日本のような国の場合、こういう赤字財政は構造上の宿命だという面もある。日本のような民主主義国家では、予算と法律は“主権者である国民の代表者(国会議員)”が国会で決める。代表者は選挙で選ばれるが、主権者(われわれ)は自分都合で代表者を選びがちだ。新幹線や高速道路、各種手当、物価高対策とか(=便益)はできるだけ多くほしい反面、税金とか(負担)はできるだけ少ない方向で…などと思ったりする。加えて、便益はより見えやすいものに集中しやすい。だから国防や治安維持、外交といったものはおざなりになる。

日本はフランスや米国のように市民革命を通じて自由や権利を確立したわけではない。フランスなどのような、市民が血を流して絶対君主を打倒した国では、勝ち取った自由や権利を守るために税金を支払い、自由や権利を守るために予算にも気を配る。終戦で突如米国型の民主主義になった日本には、そうした文化がない。

物価高を乗り切るいい方法はないものか。やはりここは賃金アップがいいとは思う。もっと難しいという説はある。それもわかる。そもそも賃金は一様に上がるはずがない。企業のサラリーマンが多い日本の場合、賃金を出すのは企業だ。そして企業はいろいろだ。業績のいいところはまだしも、業績が悪いところはそうもいかない。

ただ、努力の余地がある。もはや仕方ないのだ。うまくいくかどうかはわからないが、賃金が上がるように、賃金を上げるべく、国も企業も個人もがんばりたい。


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