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コロナ後の世界

第31回

人流戻るもグローバル化の変質は加速

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

さまざまな経済指標や統計数字も新型コロナウイルス禍が終焉し、アフターコロナの段階に入ったことを示している。

報道でも、回復する経済環境を表す際には前年比などとともに“コロナ禍前の2019年”を引き合いに出し、80%まで回復した…というような伝え方が多用されている。実際に人流も回復している。これは多くの人の実感ではないだろうか。

今年のゴールデンウィーク(GW)は、久しぶりに多くの人出があった。動きが鈍かった高齢者についても、GWあたりからは活発になってきた。民間の統計などによれば、高齢者に人気があるバスツアーや団体旅行も回復基調にある。訪日外国人観光客などインバウンド需要も増えてきた。静岡などの地方都市でも、かつてのように外国人観光客を多く見かけるようになった。

これに伴い、影を潜めていた観光公害(オーバーツーリズム)への懸念も再燃してきた。実際に、観光スポットや大規模なショッピングモール、大規模なイベント会場周辺は、かつてのような大渋滞、ごみ問題その他の弊害も戻ってきた。

『人出』に追いつかない『人手』の問題や、コロナ禍を乗り切るためのゼロゼロ融資の返済といったような問題の解決はこれからであり、先行きには心配事も多いが、需要の回復は明るい話題だ。

ただ、ウクライナ戦争で顕在化した国際社会の分断は国内のムードとは違って心配な感じがする。

コロナ禍前、日本が直面する重大課題としてよく『人口減少』『デジタル化』『グローバル化』が挙げられた。コロナ禍が終焉を迎える中で、それらは再び最重要課題として浮上している。しかし、このうちのグローバル化についてはコロナ禍前とは大きく変化したように思う。

というのも、ますます国際社会の“分断”が深まっているのではないか、と思うのだ。

先般開催された広島サミットも、従来からの西側諸国の会合という色合いが強かった。世界第2位の経済大国である中国や経済規模は小さいとはいえウクライナ戦争を仕掛け、かつてはサミットへの参加実績があるロシアなどは蚊帳の外。議論も、比較的仲良しである参加国同士でウクライナをどう支援するのか、拡張する中国にどう対応するのか、といった面が目立った印象だ。これは、G7が世界のリーダーシップを取り、世界の発展を考える場でもなくなり、そうした力や資格もなくなっている、ということだろうと思う。

国や地域の利害は大体において全体の利害、世界の利害とは一致しない。比較的一致しやすいところが塊になると、それら反対する勢力が生まれ、これらとの衝突に発展しないことを祈るばかりだ。

とはいえ、外交とはそういうものでもある。G7のリーダーである米国からして自らの利害丸出しの外交を続けてきた。

2017年に米国第一主義を掲げて当選・就任したトランプ大統領は、前任のオバマ大統領時代に日本を含むアジア諸国との議論を重ねて成立した環太平洋パートナーシップ(TPP)協定からいとも簡単に離脱し、自国最優先の政策を本格化させた。このころからは、多くの先進国も自国優先主義の考え方が力を持つようになり、政策に反映されるケースも見られた。

貿易は不均衡などの問題と一体になっているものではあるが、関税及び貿易に関する世界貿易機関(WTO)が成立した1990年代とは大きく流れが変わった格好だ。これは、各国が貿易による富の流出をいよいよ容認できない状況になった、ということかもしれない。

日本にとっては自由で開かれた国際関係が都合がいい。明治以降の日本が経済は加工貿易を軸に発展してきたこともある。海外に市場を求め、一方で海外に資源や原料、食料をも求めてきた。貿易相手国との間では富を得る側だ。

日本には、国内よりも海外売上のほうが多い企業が多い。国内では人口減少が続いているため、海外に活路を求めようという意識は今後も必要だ。半面で、世界には自国繁栄主義が吹き荒れており、カントリーリスクは特定の国や地域に限定できないような方向に向かっている。コロナ禍は、こうした傾向に拍車をかけたのではないか。

コロナ禍が終焉し、行動制約はなくなった。人流も国際的に戻ってきた。が、海外進出や海外展開にはこれまで以上に注意が必要。そんな感じがする。

   

経済ジャーナリストA


 

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