コロナ後の世界

第16回

高成長に向けた変革、個々は自分の身を守れ?

イノベーションズアイ編集部 2022年9月20日
 
新型コロナウイルス禍は収束に向かいつつある。日本でも感染者の全数把握を見直すことで、いよいよ経済社会はコロナ後の復興にむけて本格始動する格好だ。

コロナ禍は延べ3年に及んだ。これによる社会の変化は大きい。働き方改革やデジタル化には大きく進展した面もある。ただ、この間にサプライチェーンは大混乱し、半導体や木材をはじめさまざまな物資の供給が減少。ロシアのウクライナ侵攻による原油や小麦などの高騰、それらによる物価高騰やインフレ抑制による諸外国の利上げは歴史的な円安を招いている。日本にとっては厳しい状況だ。

コロナが収束に向かう中で、今後はこうした新たな問題に対処していく必要がある。が、問題はそうしたことにとどまらない。というのも、日本にはコロナ以前から中長期的な問題が山積しており、それらはコロナに気を奪われていたため見えにくくなってはいたが、手つかずの状態で、あるいはより悪化しながら厳然と取り残されているのである。

例えば人口減少。人口減少をどう食い止めるのかを議論するつもりはないが、減少し続けている労働人口下でどう社会や企業を維持していくのかは極めて難しく、しかし、避けては通れない大きな課題だ。働き方改革やデジタル化、デジタルトランスフォーメーション(DX)などは、この労働人口の減少に対処する“切り札”でもある。ただ、これはあくまでも空想上、あるいは数字上の話に過ぎず、実際にこれらを活用して社会を維持するのは容易ではない。

経済産業省が今年5月、「未来人材ビジョン」と題するレポートを発表した。その内容はたいへん衝撃的だったこともあり、内容を知っている人も多いのではないだろうか。

同レポートでは、デジタル化や脱炭素化を受けた特定の能力を持った人材需要に変化が起きると仮定し、2030年と2050年にそれらの人材がどれぐらい求められるかを試算。職種別・産業別の従事者数を推計している。

前提となる労働人口は2020年の約7400万人から30年後である2050年には約5300万人にまで減少する。外国人労働者についても、2030年には約419万人の需要に対して約63万人不足、2040年には約674万人の需要に対して632万人不足すると予想している。その背景として、外国人高度人材を誘致・維持する魅力度ランキングで25位と振るわない状況にあることを示している。日本は外国人から選ばれない国になっているのだ。

経産省はレポートで、デジタル化や脱炭素などグリーン化に資する産業が今後の経済成長を支える上で重要だとみている。それを実現するためのモデルを高成長シナリオと位置づけ、このシナリオ通りに構造改革した場合には2050年には事務従事者の42%、販売従事者の26%が減少すると予想する。一方で、情報処理・通信技術者は20%、開発・製造技術者は11%増加するとみている。このため、事務や販売員を多く雇用する卸売・小売業では労働需要は大きく減少。製造業についても、技術者は増えるが事務や販売員が減ることで、結果としては大幅な減少が見込まれるという。

将来はこういった方法で、減少する労働人口に労働需要をバランスさせよう、ということになる。ところが、同レポートは日本企業にも課題があることも指摘する。「個人と組織の成長の方向性が連動していて互いに貢献し合える関係」という意味を持つ従業員のエンゲージメントでは、米国・カナダが34%、ラテンアメリカや南アジアが24%、東アジアが14%、個人主義的な西ヨーロッパでさえ11%なのに対して日本は5%だった。終身雇用であるにもかかわらず、現在の勤務先で継続して働きたい人は52%。それでいて、転職意向のある人は25%、独立・起業志向のある人は16%に留まる。

この会社にはいたくないが転職や企業もしたくない。そんな感じだろうか。レポートからは、日本のサラリーマンがそうなってしまう事情も読み取れる。例えば転職後の賃金変化などをみると、転職には賃金上のメリットが少ない。


日本企業にも問題はある。4割以上の企業は、「技術革新により必要となるスキル」と「現在の従業員のスキル」との間のギャップを認識しているという。半数近くのITエンジニアが「技術やスキルの陳腐化に不安」を抱えているというデータもある。それでも「企業は人に投資せず、個人も学ばない」というのが実態だという。これが日本企業の競争力低下の一員であり、かつ、前述した海外の高度人材から選ばれない国になっている理由の1つでもある。


そんなこともあり、経産省は旧来の日本型雇用システムからの転換を求めている。向かうは「人を大切にする企業経営」や「労働移動が円滑に行われる社会」だ。と同時に「好きなことに夢中になれる教育への転換」も必要だとしている。


これらは企業や学校が単独でできるものではないし、実際に進めるとなるとある程度の時間も要する。経産省の見立てが完全に正しいということをいうつもりはないが、雇用や教育の形を変えることには異論も少ないのではないだろうか。どうかえるのかを今すぐ、具体的に議論すべきではある。そうしなければ、2030年、2050年の日本はかなり困ったことになっているはずだ。


ただ、この経産省のレポートからは難しさもうかがえる。たとえば、今後大きく減らすことができる事務や販売の従事者が、増える必要のある通信・情報関連の技術者に転職するといったことは、現実的にはほぼ不可能だ。じゃあどうするのか。そうした変化からどう身を守るのかは個々人に委ねられているということだ。



経済ジャーナリストA


 
 

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