コロナ後の世界

第25回

景気は戻っても、経済は元のカタチには戻らない

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

コロナ禍からの再起動もいよいよ本番といった感じになってきた。経済指標などをみると、コロナ禍の過去3年からは着実に復興しており、今年はコロナ前の2019年比でどうか、というところまできている。

半面でコロナ以外の要因が経済復興の障害として浮上している。円高や資源高、穀物高などだ。これらもコロナで助長され、コロナによる分断などが根底にはある。とはいえ、消費や雇用は回復している。

ただ、懸念している。せっかくの機会なのに、と思うのだ。地方にいるので、特にそうした思いが強い。というのも、地方では、特に中小企業は、デジタル化や将来の人手不足、産業構造の変革といった本質的な取り組みに対する熱意が薄れているように思えるからだ。

サンプル数としては極めて少ない、というか、サンプルにもならないのだが、こんな話を聞いた。

行動制限下で店が開けられず、客も来なかったというある飲食店は、コロナ禍で給付金を得ながらテイクアウトやケータリングをはじめ、地元の大学生と一緒にホームページを立ち上げてクラウドのサービスを使ったネット注文ができる体制も整えた。でも、店が開けられるようになると、調達や仕込み、店舗のオペレーションが忙しくなったので、テイクアウトなどは休止している、と。

こういう話もある。学校で情報処理を学び、ネットを使ったビジネスの創出のための人材として採用されたが、状況が変わったのでいまは営業で客先をまわっている、と。

この2件の話だけで言うのだが、経済指標上の景気は循環しているわけで、いい時や悪い時がある。コロナ禍や東日本大震災、リーマンショックなど、その循環はいろいろな事情で時に大きなものとなることはある。が、必ず循環してきた。 

コロナ禍は大変だった。大きな後退。でも、回復しつつある。しかし、回復しても“元の形”に戻るわけではない。例えば2019年の形にはならない。むしろ、違った形になる。そういう前提で考えるべきなのだ。

地方で、元の形に戻そうという努力が続いている。その努力を否定するものではないが、次の形を考えなくていいのだろうか。そんなことを日々思う。

地方では、雇用についての考え方も不思議だ。雇用が減ることだけに敏感で、雇用の内容や人材についてはおおらかだ。半面で、最大の課題は人がいないこと、である。もちろん、仕事がないところに人は集まらない。外国人が来ないので、労働力も客も足りない、という声も聞く。この背景には、大雑把さがある。

足りないのはなにか、を考えていないのではないか。課題解決しようにも課題があいまいなのだ。

最近、リスキリングとかリカレント教育が注目されている。デジタル化や業態・構造変革を進める際には、あらたな知見や能力。スキルが求められる。それらを実現するための人材側の改革だからだ。

パートやアルバイトで苦しい生活を強いられて来たが、リスキリングでデジタル化の支援などができるようになり、就職して年収は2倍に在宅リモート勤務で通勤もなく時間もできた、といった話も多い。今後、こういうことが求められる。というか、そうすることが社会や企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)ではないかと思う。 

ちょっと卑近な例ばかりだが、単純に雇用を増やすことや従前の形を忠実に復刻することが無意味だとはいわない。地方もいろいろあり、歴史のある街などでは伝統を守ることも必要だ。ただ、それは特殊なケースだろう。 

社会は大きく変わり始めている。仕事における“知”の存在感も増している。デジタル化はあくまでもツール。道具にすぎないのだが、主戦場ではある。デジタルに限らないが、これからの仕事ツールの整備計画を考えたい。もっとも、一番大事なのは“そのツールを使って何をするのか”なのだが…



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