コロナ後の世界

第36回

言行に責任者不在、しかも制御不能のSNS

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

SNSがビジネスに活用されるようになって久しい。いわゆる口コミの電子版といった形で、商品やサービスの宣伝・告知に大きな威力を発揮している。

既存メディアの活用に比べて費用がかからず、ある程度狙った層に対する訴求ができることから、スタートアップ企業や個人事業主には使いやすい。効果はやってみなければわからない面もあり、その点では従来の広告宣伝手法のような予測は難しい。そういう意味では“制御不能”ではある。この制御不能ぶりが多くの課題を社会に突きつけるケースもある。

今年5月。三重県桑名市の多度大社で4年ぶりに行われた「上げ馬神事」がSNS上で物議をかもしている。かもすというか“大炎上”だ。

この神事は、若者が馬に乗って急な坂を駆け上がり頂上にある壁を乗り越える、というもので、乗り越えた馬の数で豊作などを占う。680年以上前の南北朝時代から行われているとされ、三重県の無形民俗文化財でもある。その今年の神事で馬1頭が骨折。殺処分の対応が取られたことなどをきっかけに、「動物虐待ではないか」という声が広がった。

「立派な動物虐待だ」「神事は廃止すべき」

一連の批判はSNSを通じて拡散され、地元である桑名市のアカウントは炎上状態となった。市には6月末までにおよそ1800件、三重県にも7月半ばまでにおよそ3400件の抗議が寄せられたという。

こうなれば、もうただではすまされない。三重県教育委員会は、県文化財保護条例に基づき、馬を威嚇しないよう求める勧告をお盆明けに多度大社に出した。勧告は、SNS上の批判にある通り「動物愛護の精神に従い、馬を威嚇する行為を根絶すること」「人馬共にけがをしないよう徹底した安全管理の下で行うこと」「神事の実施主体を明確にし、文化財としての在り方を改めて検討すること」求めている。これを受け。多度大社は今月末をめどに改善策を示すという。

この一件からは、SNSの計り知れない威力を感じる。「上げ馬神事」はいろいろと改善の余地がある神事で、以前にも三重県の文化財保護審議会が改善を求めた例があるものの、今回はSNSでの炎上という“一撃”で即行政対応が求められる事態へと発展した。

この是非を問わない成り行きには恐怖を感じる。考える猶予もなく、あるファクトから一瞬にして世論を扇動し、対象を押しつぶしていくのだ。

恐怖感の背景には、制御不能であるとともに、責任者も不在だということがある。グーグル会長(発刊当時)のエリック・シュミット氏は、初の著書「第五の権力」の中で、このデジタル時代のSNSのようなものについて「責任者不在」の恐ろしさを指摘している。第1~第4までの権力には責任者がいた。換言すれば、それらには抗議する対象がある。第4の権力とされるマスコミにも責任者がいる。論調や情報の精度はまちまちだが、抗議や訴訟する対象はある程度明確だ。それが、SNS上のムーブメントにはないことが多い。

発信者の問題もある。マスコミでは、これまた程度はまちまちだが、その道のプロが情報を精査したうえで発信している。SNSなどの場合はそれもない。ある意味では、誰もが自由に好きなことを発信できるのだ。

さらに、その発信した情報は「トイレのらくがき」とは違い、確実かつ瞬時に拡散されていく。

こうして発信された情報は、正確で正しいこともあれば、ただのガセネタや噂である場合もある。戦略的なフェイクニュースの場合もある。いずれの場合も、マスコミのように訂正されることは少なく、基本は垂れ流しだ。

一方的に使えるという点では広報宣伝にも有効だが、無軌道に非難を受ける危険性もある。そんなSNSをはじめとするデジタル情報サービスとどう付き合えばいいのか。怯えて逃げ惑う気はないが、これまでにはない細心の注意は必要となる。怖い時代だ。


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