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コロナ後の世界

第2回

分化を分裂や分断にしないための想像力

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 
新型コロナウイルス禍での緊急事態宣言などに対する世論に変化がみえている。読売新聞が2022年2月初頭に実施した世論調査でも、こうした変化はうかがえる。岸田内閣の支持率等はともかく、コロナ対策に関する部分が興味深い。「政府や自治体が、飲食店の営業など経済活動を制限するべきかどうか」について、制限する」は41%、「制限しない」が51%。「東京都や大阪府に緊急事態宣言を出すべきか」については「出すべきだ」が44%で、「その必要はない」が48%と、回答が大きく二分している。

2020年4月の同社の世論調査では、緊急事態宣言の発出について「遅すぎた」が81%、外出の自粛要請では「不十分だ」が59%だったことを考えると、ここにきて規制強化には反対の人が増えていることがわかる。背景にはワクチンの接種率が高まったことや、現在の感染の中心にある変異株「オミクロン株」が以前のものに比べて“大したことない”と思われ始めていることもあるだろう。「医療関係者や高齢者らに対する3回目のワクチン接種を急ぐべきだ」という声が強い半面で「コロナはもはやただの風邪であり、これ以上経済にダメージを及ぼすような規制はすべきではない」という声の高まりを感じる。

しかし、2022年の2月半ば時点では国内の多くの都道府県に改正特別措置法に基づく「まん延防止等重点措置」、いわゆる“まん防”が適用されている。飲食業や宿泊施設運営などの観光関連産業は依然として厳しい状況ではある。ただ、前述したように世論は分かれ始めている。

UTYテレビ山梨の報道によれば、山梨県笛吹市内の飲食店組合が県に対して「開けるも地獄、閉めるも地獄」と窮状を訴えているという。現地のホテルや旅館は客もまばらだ。コロナ禍以前のように他県からの来訪者は少ない。いっそのこと休業したいが、同県はまん防が適用されていないので、営業時間短縮や感染防止対策の協力金が支給されるわけでもない。かといって、周囲の他県にはまん防が適用されている。観光客の誘致を高らかにアピールすればへんな物議をかもしかねず、大きなリスクだ。山梨県では、ホテルや旅館での感染対策を独自に進め、感染拡大やクラスターの発生などを抑え込んできただけに、理不尽さを感じる事業者も多いと察する。


一方で、ロードサイドにある飲食店や地元の産品を扱う“道の駅”などの物販施設の一部では、週末ともなると県外ナンバーの車がずらりと並ぶ。関東甲信越エリアでまん防が出ていないのは山梨だけ。他県は県民に対して「県境をまたぐ移動の自粛」を要請しているが、規制に反対する人もかつてないほど多くなっている。そうなるのも頷ける。しかし、これは立地条件が奏功した一部のケースに過ぎない。全体としては厳しい。やはり“感染を徹底して防いだことによる苦難”は極めて理不尽だ。


まん防がでていても、うちはやる!

多くの都道府県では、まん防に伴う時短要請が求められている。要請を受け入れれば協力金もでる。が、あえて要請を拒否して営業を続ける、という飲食店もある。そういうところの経営者に聞くと、多くが「客が求めているから」と応える。そういう店では、週末ともなれば時短要請を受け入れた多くの店が閉まる午後9時以降、大勢の客でにぎわう。こうした現象は、テレワークや在宅勤務の定着もあり、都心などより多くの人が住む郊外でみられる。そういうところで聞くと、客も言う。「ただの風邪でいろいろ制限を受けたくない」と。ただ、改正特別措置法に基づく「まん延防止等重点措置」というルールはある。実名公表や過料といった罰則もある。客はともかく、店舗の運営者には「客が求めているから」とはいえリスクが伴う。営業に反対する嫌がらせがある。その嫌がらせに対する強い反発もある。“求めている客”以外の人たちからの信用を失うリスクもある。


ということで、3年目を迎えつつあるコロナ禍の現況についていろいろ触れてきたが、こうした社会の“空気”をヤバいと感じる。考え方が分化している。分断につながりかねないような気もする。分化する考え方の双方には、歩み寄れそうな余地もなさそうだ。


程度こそ変われど新型コロナウイルスとは今後も付き合い続けることになる。現在は特殊な状況下ではあるが、収束してもさまざまな面でコロナ禍前には戻らない、との見方が多い。コロナ禍でわれわれの行動や習慣は変化した。というか、さまざまな自粛を余儀なくされる半面で、この行動が“こうせよ”“こうあるべきだ”とか“そんなことする必要ない”などいう形で議論にさらされてきた。しかも趨勢が変化しているから悩ましい。過渡期とはそういうものかもしれない。コロナ禍がいよいよ収束に向かっている、ということだろうか。どちらかといえばそう思う。そんな時だからこそ、社会や企業、人のいろいろな面がみえる。これまで意識しなかった違いもみえる。いろいろ厳しい中だと、悪いところもたくさんみえる。


パチンコ産業について似たような議論がある。パチンコ店はコロナ禍で緊急事態宣言が東京都に出された当初、大きな物議をかもした。一部の店舗が休業要請を無視して営業を続け、その様子はマスコミも連日大きく報じた。報道も、途中からは「けしからん」という声ばかりを拾うようになり、すっかり悪者になった格好だ。ところが、パチンコ店ではクラスターなどは発生していない。たばこがつきものだったパチンコ店の強力な空調システム、盤面に向かって黙々と楽しむプレースタイルが奏功したと考えられている。ちなみに、改正健康増進法もあり、当時のホールは禁煙となっていた。もちろん、改正特別措置法に基づく緊急事態宣言に違反しているのはよくないが、その言われようや扱いには違和感を感じた。


パチンコ店はそういう憂き目に遭いやすい。真夏の駐車場に止められた社内で熱中症になってもまるでパチンコ店が悪いかのように報じられたりする。そんな非難の中核には、パチンコが嫌いな人たちがいる。かれらの多くはパチンコをしないため、実態がどこまでわかっているかは不明だ。だからこそ、厳しい非難ができる、ということかもしれない。そんなこともあり、パチンコ産業は70年以上の歴史や20万人以上の雇用を抱えるようになったいまでも、その存続を問う議論がされることもある。


パチンコを擁護しているわけではない。プレーヤーでもないので、ファンの気持ちが分かるわけでもないのだが、稚拙な議論からは建設的な解が見つからないと思ってるだけだ。


よりよいもの、よりよいことを求めていく必要がある。そのためには、悪いもの、悪いことを批判する必要があるかもしれない。そのためには、まずよく知る必要がある。そのためには想像力を働かせる必要がある。その上でよく考える必要もある。コロナ禍で、人と人との距離は広がった。コミュニケーションも希薄化している可能性が高い。自分以外の人と話をする中で、自分の意見を確認といったこともしづらい。だからこそ、へんなマスコミの報道に振り回されず、へんな思い込みにとらわれず、いまこそ想像力を働かせよう!



経済ジャーナリスト A


 

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