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コロナ後の世界

第6回

雇用の喪失は心配だが、人出不足も心配

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 
2022年3月に発表された有効求人倍率は1.20倍。前月比0.03ポイントの上昇ということで上昇傾向にはあるものの、思ったほどではないという印象だ。もっと上昇するかと想像していた。まん延防止等重点措置の全面解除などで新型コロナウイルス禍の収束期待が高まっているとはいえ、様子見が続いているということだろうか。

まん防解除後に営業を再開した飲食店などからも“客の入りはまだ元には戻っていない”との声を聞くことが多い。規模の小さい飲食店では「まだ顧客が戻らないので、アルバイトはつかわず、時間を短縮して営業している」という話も聞く。まん防開けの週末も、群馬県や山梨県の宿泊施設では「コロナ前のように満室になるようなことはないため、人を増やさず客室を絞って営業している」とのことだった。

もちろん、人気店はこうした時期でも満室になる。が、まだまだ全体としては戻っていないという感じがする。まあ、復興はこれからが本番であり、gotoトラベルやgotoイートのような振興策もまだ再開されていないのだから仕方ないところもある。その割に、高速道路は久々の大渋滞。ガソリン価格は大高騰しているが、外出する人が少なかったというわけでもなさそうだ。 


で、本題に戻るが、本格的な経済復興が始まれば、今よりも人手も必要になるはずだ。ところが、これはしばらく忘れていたが、頭の痛い問題でもある。コロナ禍による廃業等にともなう雇用の喪失も心配だが、人出不足は長期にわたって続いていく。


そもそも、3月の1.20倍という有効求人倍率は決して低い数字ではない。近年ではバブル期の1990年(平均値)に1.43倍をマークするが、バブルが崩壊する1992年に1.00倍となり1993年に1.00倍を割り込んでからは1倍以下の年が続いた。2006~07年ごろに1倍程度にまで浮上するものの、その直後のリーマンショックもあり、再び1倍以下に転じた。ちなみに、この有効求人倍率はそのまま人手不足度合いを示すものでもない。仕事を探している人の数と企業などが募集している人の数の関係を表すもので、1は双方が同数、2だと、1人の就職希望者に対して2社の募集がある、といった格好になる。


ただ、新卒者が含まれず、具体的に仕事を探していない人は対象外となっている。そんな有効求人倍率は、2014年には再び1.00倍を超え、2018年はバブル期のピークを上回る1.62にまで上昇した。この間、日本の実質GDP(国内総生産)には目立った成長はみられず、ひとえに求職者の減少、少子高齢化に伴う労働人口の減少が大きく影響してきた、ということになる。そして今後、この労働人口の減少はますます大きな影響を及ぼすことだろう。


そんなこともあって、早くも今後の人手不足倒産のようなことが心配されている。そこで、IT化やロボットの活用による省人化や外国人労働者の活用、前述の有効求人倍率に含まれない人も多い主婦やシニアの活用を進めよう、ということになっている。そんな議論は、コロナ禍直前までだいぶ盛り上がっていた。


今後の人手不足が深刻なのは中小企業だろう。業種によるばらつきは大きいが、コロナ禍以前から人が足りなかった。IT化やロボット化の遅れも指摘されている。とはいえ、IT化を含めたDX(デジタルトランスフォーメーション)などを進めるにも人材が要る。とにかく、人材は必要だ。そこで“人材”が何を求めているのか。どういうことで就職先を選ぶのか、をみてみた。さまざまなアンケートが行われており、その結果は意外にもまちまちだった。新卒者対象のものは省いたが、年齢や性別その他、属性によってばらつくということなのだろうか。「給料や待遇」「テレワーク」…その一方で「充実したオフィス」を重視する声もある。


そこで、いつものように、あえて無理やり総括してみると、キーワードでいえば「職場の人間関係」「人材育成・キャリアアップ」「やりがい」「向き不向き」といったところが多いと感じた。これをみる限り、昔とそんなに変わっていないようにも思う。ついでに、採用できてもすぐ辞められては仕方ないので離職者の理由についてのアンケートもみると、こちらは「健康を損ねた」「休みが少ない」「やりたい仕事ではなかった」が多かった。これは昔と少し違っている。


ともあれ、この結果をみると長らく言われ続けているミスマッチがいまだに多くあるという気はする。こうした中で、最近は離職率を下げるサービスを展開している企業がある。社内で経営者や従業員同士がお互いに感謝や称賛をし合うような環境を作るサービス、を手掛ける企業に話を聞いたことがあるが、要はお互いに声を掛け合う機会をあえて作ることが必要なのだという。こんなちょっとしたことでも職場の人間関係は改善するらしく、実際に離職率も下がるという。


アンケートからは、多くの離職者が“イヤになって辞めている”実態がうかがえる。コロナ禍ではあるが、指示や要件に留まらない多様なコミュニケーションを確保したい。さもなくば、なかなかお互いのおかれた状況、悩み、果ては体調もわからない。仕事帰りにみんなで酔っ払ってた時代ではないのだ。特に、テレワーク下での新入社員などは要注意だろう。



経済ジャーナリスト A
 

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