京セラの創業者、稲盛和夫名誉会長は、そんなコミュニケーションを多角的に高める仕組みを多数考案した。そのひとつ“コンパ経営”は、本家の京セラのほか、稲盛氏がかつて主宰していた経営塾“盛和塾”の参加企業などでも広く実践されている。
ここでいうコンパは単なる親睦のための飲み会ではない。経営幹部から新入社員まで仕事上の上下関係を忘れて本音で語り合い、お互いをよく知るとともにみんなで進む方向性を合わせていく場となっている。
盛和塾に参加していた企業経営者によれば、このコンパには流儀がある。畳か御座の広間で乾きものをつまみにビールをのむのだという。本家である京セラの関係者に聞くと、実際はそこまで子細な決まりはなく、鍋をつつくことも多かったというが、コンパを続けることで社員同士は打ち解け、本音の議論が繰り広げられるようになる、という点は同じだ。
上司や部下も含め、仕事の仲間と飲みに行く、というのは何とも昭和的だし、現代の若年層は飲酒離れでそもそも飲み会を嫌がりそうではある。
しかし、稲盛氏はこのコンパ経営を2010年に始まった日本航空再建にも投入。自らの経営哲学や企業理念を繰り返し説くとともに、本音の話に耳を傾けた。再建に向け社員が一丸となって早期の再建を果たした背景には、こうした弛みないコミュニケーションの活性化策もあったのだ。
折しもコロナ禍で、こういう取り組みをしようにも容易ではない。テレワークが本格化したころ、オンライン飲み会というのも流行ったりしたが、最近はあまり聞かなくなった。2022年は年明け早々の新型コロナ感染拡大にともない、広範な地域がまん延防止等重点措置の対象となったが、この措置に基づく具体的な要請は、飲食店等の営業時間短縮とアルコール類の提供に関する制限、4人以下といった人数制限が核となっている。まさに、濃密なコミュニケーションをとるな、といわれているような環境。これが2年も続いているのだ。
経済社会は情報化、デジタル化の大波にさらされ、産業革命以来とされる大変革の真っただ中にある。これをコロナ禍が強力に後押しした格好になり、変革のスピードは加速している。次の時代がどうなるのかはわからないが、情報があふれ、多くの産業が知識化していくことにはなりそうだ。
はやく気兼ねなく会食や飲み会ができる日々がこないものか。もちろん、そこに知を持ち寄り、イノベーションを巻き起こしたいからだ。ということにしておこう。まあ、そういう日常があったコロナ前もイノベーションは起きていないような気はするのだが・・・
経済ジャーナリスト A