コロナ後の世界

第23回

地方への人口分散で個人消費の拡大も

イノベーションズアイ編集部  経済ジャーナリストA

 

モノが売れない。

モノからコトへというが、サービスもそれほどは売れない。GDP(国内総生産)の約半分強を占めるのは個人消費だが、その減少傾向が顕著だ。人口が減少しているわけで仕方ない面もある。が、こうした傾向に拍車をかけている要因もある。

たとえば自動車。当たり前だが、都市部の自動車保有率は低い。この背景には、利便性の良い都会では交通手段としての自動車は不要だという事情もある。都会人にも「自動車を所有したい」「運転を楽しみたい」というニーズはあるが、人やモノが集中している都市部は渋滞もひどく、駐車場を借りるにも大きな費用がかかる。しかし、現下の日本の状況は、東京に代表される都市部に人口が集中している。人口の多くなるエリアに限って自動車が所有しにくいわけで、これではなんだか売れそうにない。そう。一極集中は個人消費減退の一因なのだ。

ソニーとホンダの合弁事業であるソニー・ホンダモビリティは、今月上旬に米ラスベガスで開催された「CES 2023」のソニーブースにEV(電気自動車)の「AFEELA(アフィーラ)」を出展した。オーディオやIT機器など情報・エンターテインメント機能を高めた次世代の自動車で、いわば「運転しない時代のEV」といったものだ。

東京などの大都市では、自動車を所有していても通勤に使うケースは少ない。自動車の多くは普段車庫に止まっている。この、止まっている自動車を普段からもっと有効に活用しよう!という発想を強く打ち出した。これは元来からある“自動車の楽しさ”とは違ったニーズの開拓だ。新たな市場への挑戦。これが一極集中下で消費拡大を実現するアプローチとなりえるのかに注目したい。

一方で、トヨタ自動車は静岡県の裾野市でスマートシティづくりに乗り出している。同社が建設を進めている実験都市「ウーブン・シティ」では、次世代の移動、生活、街にまつわる課題をITで解決し、未来の暮らしとはどういったものかを追求する。これは移動などをある意味では手段と捉え、その先のニーズを探る取り組みでもある。これは分散に道を開く可能性を秘めている。

半面で、国は「デジタルによる地域活性化を進め、さらには地方から国全体へボトムアップの成長を実現する」ことを目的としたデジタル田園都市構想など、東京の一極集中を緩和する施策に取り組んでいる。東京から地方に人口を分散させることができれば、問題となっている地方の疲弊緩和につながるからだ。その要はデジタルトランスフォーメーション(DX)だ。これは、一見すると移動やその道具である自動車をより不要にする施策にみえなくもない。ところがそうでもない。地方への人口の分散には消費拡大も大いに期待できる。

移住したい都道府県のトップに選ばれることが多い静岡県の川勝平太知事は「広いところに住むほうが消費も増え、幸福感も増す」と強調する。地価の安い地方は広い家を持てやすい。広ければモノを置く場所もたくさんある。自動車は生活の足としても必要だが、レジャー用品として所有する場合は大きなメリットとなる。駐車場には困らないし、借りたとしても安価だ。走るところもたくさんある。

そんなことは昔からわかっていたが、いろいろ事情があって現実的ではなかった。が、事情は変わった。社会が大きく変わりつつある。デジタル化が進み、コロナ禍がその活用に拍車をかけた。オンライン会議やオンライン商談は一挙に普及している。職種によってはどこに住んでいても仕事に支障はない環境が実際に整いつつある。

一方で、ひざ詰めの会議や誰かとの面会などのための移動環境は整っている。それらを実現している新幹線網や航空網はコロナ禍で大きな影響を受けたが、人口の分散はこうしたリアルな人的往来の正常化でより重要性を増す。コロナ禍の終焉で、衣食住や働き方、場所や時間に対する自由度は高まっている。そのメリットを生かして地方で暮らすと、都市部との一定量の定期的な往来が生まれる。

ただ、“DXによる時間や場所からの解放”という恩恵が波及するのは国内に限らない。事務の受託のような分野は海外との熾烈な競争にさらされることにもなる。すでに人事部を中国や東南アジアに移したという企業も多い。日本語の壁はあるものの、自らの稼ぐ力を高めていく努力は一面ではより強くなるのだろう。


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