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コロナ後の世界

第10回

求められる本質を読み取るリテラシー

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 
活字離れが叫ばれて久しい。

新型コロナウイルス禍が起きる前までは、本(書籍)の販売は右肩下がりが続いた。電子書籍を加えた書籍全体でも減少傾向は変わりない。人口が減っているわけで、一人当たりの読書量が増えでもしなければ減少も仕方ない。その一人当たりの読書量もどうやら減っている。

そんな中で、コロナ禍が深刻化した2020年の半ばに少し状況が変わった。外出が自粛され自宅などにいる機会が増えたためとみられるが、販売量が増加に転じたのだ。特筆すべきはビジネス書の動向だ。同年の9月以降は前年比2桁増となった月も出ている。

この背景には、在宅勤務などで増えた自由な時間をみずからの学びに充てよう、という意識の高まりがある。リモートワークで人と直接会う機会が減り、コミュニケーションをどうとるかや、今後の組織運営の進め方に悩む人が多いということもある。

コロナ後の世界はこれまでとは違う。だれもがそう思える環境下だけに、先を考える上での“情報”に対するニーズはこれまでになく高まっている。先のことはわからないが、だからといって情報もなにもわからないというのも不安だ。こういう時こそ情報は貴重だ。

そんなこともあり、どんな本が売れているのかをみてみると、これがまた多岐にわたる。ビジネス書というよりもテレワークのためのハウツー本やデジタル化などに関係するものなどがやや多い印象だが、投資や経営に関するものも売れている。

そんな話をとある企業経営者としていたところ、その経営者がこんなことを言う。
「往年の大経営者や著名学者の本を読んでも、昔の情報ばかりなので意味がない」

確かにそういう面はある。しかし、それは読み方の問題ではないか、という反論が咄嗟に浮かんだ。

例えばマネジメントの父ともいわれるドラッカーの本。日本ではビジネスマンにたいへん人気がある。半面で、経営学部などでドラッカーの理論をそのまま学ぶことはない。少なくとも米国では全くない。それは当然といえば当然で、そこに出てくる事例も施策も何もかも古すぎるからだ。

マーケティング論などはもっとそうした傾向が強くなる。マーケティングは第一人者のコトラー氏が活躍した時代から4P(Product=商品戦略、Price=価格戦略、Place=流通戦略、Promotion=販促戦略)を基本としてきた。ただし、コトラーの本も古い。社会情勢や消費スタイルは変化している。いまでは販促戦略もデジタル化しており、このデジタルマーケティングが焦点のひとつでもある。

ホンダ創業者である本田宗一郎氏や京セラ創業者である稲盛和夫氏の本も同様に説明することはできる。

だがしかし、そうなのだろうか。

わたくしこと経済ジャーナリストAは、そうは思っていない。


ホンダ発の意見交換スタイルである“わいがや”や稲盛さんが実践したコミュニケーションスタイル“コンパ経営”、オムロンで実践される“大部屋方式”などは、コロナ禍もあってそのままではやりにくいかもしれない。だからといって、時代が変わったからといって切り捨てるような類のものでもない、と思うのだ。


先達の功績をそのままやり続けるべきだとは思わない。ただ、先達がどういったところに腐心し何のために具体的な施策が考案されたのか、を考えることは重要だと思う。それこそが歴史を学ぶ意義だからだ。理論や具体的な施策は、文明や新たなツールの登場などに影響され時代とともに変化する。いまはその変化がことさら大きい時期だろう。


半面で、多くの人が参加して運営される会社などの場合、構成する人に関する部分はどうだろう。パワハラやセクハラの禁止みたいな話はあるが、みんなで何かをやり遂げよう!ってな話になると普遍的な部分が大きい。


例えがいいかどうかわからないが、恋愛を題材にした本の場合、新しいとか古いとかで選んだり、感動度合いが変わったりするのだろうか?


時代によっては汽車だったり自動車だったり携帯電話があったりと舞台は違うが、本質はそこではないからだ。


近代日本経済の大プロデューサー的存在だった渋沢栄一は、明治初期に未知の人たち(欧米人)と接触するに際し「論語」の教えにある考え方を基本にしていた。それは、論語が2000年以上ともいわれる長きにわたって読み続けられてきた理念の塊だったからだ。論語はだれもがそうだと思える人類共通の考え方だ、と見込んだのだ。


古いからダメ。これはビジネス書や経営者の発言であっても当てはまらない。もしダメだとしたら、それは単にその時点の断面の情報しか論じていないか、そもそもダメな情報なのだ。


情報や理論と理念は違う。一過性の情報に振り回されず、普遍的な理念に触れたい。そのためにも本を含めた多くの情報に触れ、リテラシーを高めたい。そうした読解力などがなければ、価値のある部分は見つけられず、“昔のものはダメ”みたいな低レベルな話に終始することになる。



経済ジャーナリスト A


 

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