コロナ後の世界

第8回

DXより前に求められる自らの将来像

イノベーションズアイ編集部 2022年5月17日
 

デジタル化、いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めよう!

というようなことが言われるようになって久しい。思い起こせばいろいろと名前も変わってきたもんだ。インターネットの活用や携帯電話・スマートフォンの普及など、はかばかしく進んだものもある。新型コロナウイルス禍はこうした流れを加速した感がある。たとえばキャッシュレス化であるとか、通信販売やオンライン会議、電子認証なども日常的になってきた。

しかし、なんだか腑に落ちない。というのも、これまでの目立ったデジタル化が基本的に効率化や省力化を実現するためのものだからだ。その理由も理解はできる。日本は世界でもまれにみる人口減少を前にしている。このままの経済規模を維持するにしても、減少する人口は補う必要がある。しかも人間以外の何かで。これがデジタル技術だと考えられているわけである。ほかにいい方法がない、ということもある。

ただ、省力化だけでは広がりがない。DXを推奨する宣伝文句には「デジタル化で省力化し、ここで捻出されたマンパワーを営業や成長分野などの他部署に振り向けることで業容を拡大する」(某社)とある。が、そもそもこれまでのような成長分野も見当たらない。強いて言えばIT産業は伸びている。いまはDX関連の仕事が多いこともある。これは前述のための変化を支える産業であり、一定量のボリュームにもなっているが、何かの代わりになるものを生み出しているという面が大きい。


デジタルを活用して新たな市場を生み出したり、これまでのものをデジタル化することで違った形の市場を創造した例もある。たとえばゲームソフトだ。これはデジタル産業でもあり、日本企業は世界でも有数の実績を持つ。でも、家電メーカーや自動車メーカーのような雇用は創出しないし、経済規模のさほど大きくない。ハードウエアも手掛ける任天堂あたりで売上高が1兆7000億円ぐらいだ。


これに対し、米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などは伸びているし大きい。たとえばグーグルを傘下に持つ米アルファベットの2021年通年の売上高は前年より41%増え2576億3700万ドルとなり初めて2000億ドルを上回った。これは現在の為替レートで換算すると33兆円を超える。米アップルは同様に計算すると売上高が47兆円を超える。この規模の企業は日本にはない。雇用についても、米アップルは15万人以上、米アルファベットもそれより少し少ない程度となっている。米国には、米メタ(旧フェイスブック)や米アマゾンほか、このクラスの企業が多くある。今後社会がより一層デジタル化するとなれば、単純に有利だ。


その点日本は大変だ。そうした企業もほぼない。じゃあどうするんだ!

ITで情報化は進む。情報には言葉も大事である。英語を軸に世界を相手にしてきた米国のIT産業はそうした土壌やインフラの上に成り立っている。パソコンの基本ソフト(OS)も含め、現状では主導権のかけらもない。そこで思うのは、そうした枠組みに対抗しようといろいろ考えるのではなく、それらを使ってどうするかを考えるのが得策ではないか、と。もちろん、コンテンツや便利なサービスを考えるのはいいが、根本的には“自分たちがいまある価値のあるものを認識し、それらをデジタル時代にどう売るのか”である。


食品や衣料品、住宅などは、数が減ったとしてもなくなるわけではない。デジタル化に長けた分だけ他社よりも顧客をより多く得られるケースはあるだろうが、便利さを超える満足があれば消えていくこともない。問題ないわけだ。そういう意味では、最重要課題はデジタル化をどう進めるかではなく、“きたるデジタル時代の自社の姿を妥当に描くこと”ということになる。


確かに、統計などを見る限り日本の生産性は遅れている分野も多い。その改善を否定するつもりは毛頭ないが、それ以上に将来像を描けていない企業の多さが気にかかる。人手や後継者不足、下請け構造、原材料費の高騰など、課題は多いが、こうした大転換期だからこそ“将来像”を考えたい。そのためには、自分たちの持つ価値や自分たちのビジネスがどういう形で成り立っているのかをよく分析する必要もあるだろう。どんな企業にもあるはずだ。営業力や技術、昔からの顧客との付き合い、味、雰囲気…。さまざまな業種業態でそれぞれが何らかの価値を持っている。


自分たちのビジネスを因数分解し、市場における自分たちの本質や価値を突き止めれば、将来像は描きやすくなる。将来像が描ければ、きっと今すべきこと、そのために必要となればDXの形も見えてくると思う。



経済ジャーナリスト A

 
 

プロフィール

イノベーションズアイ編集部

イノベーションズアイ編集部では、経済ジャーナリストや専門家などと連携してさまざまな角度からビジネス情報を発信しています。

同じカテゴリのコラム

キーワードからコラムを検索する