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コロナ後の世界

第40回

とにかくなんとかすべきは人手不足

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

新型コロナウイルス渦からの回復基調が鮮明になってきた。筆者が住む静岡市も人流が大幅に回復し、週末などは市中も大勢の人でにぎわう。東京方面に帰省しようにも新幹線が思うように予約できないほど。感覚的にはもう元通りだ。

これは統計数字にも表れている。10月2日の日銀短観でも、回復基調は明確だ。ただ、コロナ禍を経て再び、しかも、エスカレートする形で人手不足が深刻化している。コロナ禍で実施したさまざまな支援、特に、ゼロゼロ融資の返済などものしかかる。手放しでは喜べない。

ゼロゼロ融資などは、審査よりも支援を急ぐことが優先されたためか、今後は焦げ付きも問題となる。返済は始まったばかりだが、現時点でも2000億円近くが回収不能に陥っている。この額は今後ますます増えるとみられ、とりあえずのところ1兆円強まで膨らむことが確実視されている。ちなみに貸した総額は19兆円。さてどうなることやら。

折しも、中国経済の失速も鮮明だ。中国は、いまや日本もはじめ世界経済に大きな影響を及ぼす。前述の日銀短観では大企業(全国の全産業)の業況DI予測(9月の調査時点に対する12月の予測)がマイナスに転じている。これは中国経済の減速を織り込んだものだ。他にもウクライナ戦争や中東情勢などがあり、資源高が世界経済を減速させかねない。これが景気減速につながるようだと、けっこう大変だ。

先行きが心配される中ではあるが、本題に戻ると最も深刻なのは人手不足である。

人手不足は全国的な課題だが、こちら静岡では地域や業種によっては最大クラスの深刻さだ。前述の日銀短観でも静岡の飲食・観光業などでは人手不足による取りこぼし、機会損失が発生している実情が表れている。静岡の個人消費の動向にも“旅館・ホテルの宿泊者数”について「人手不足等の影響を受けつつも…」というくだりがでてくる。集客努力以前に、この人手不足を解決しないかぎり業績アップは見込めないのではないか。それぐらい人手不足なのだ。


追加的な課題もある。たとえば外国人技能実習生制度の行方だ。

技能実習生は、日本で技能の習得に励んでいる、ということになっている。もちろんそういう面はある。が、実態は貴重な労働力である。日本の人手不足を補っているのだ。この技能実習制度が来年にも事実上廃止される。

静岡県はカツオの水揚げが日本一。そんな静岡でも屈指の大漁港である焼津の水産業は、東南アジアから多くの技能実習生を受け入れてきた。佃煮や缶詰の製造は、実習生なしには成り立たないほどだ。


実習生を呼ぶには200万円とか300万円といった費用がかかるものの、背に腹はかえられない。一度呼べば、ルール上は特別な事情がない限り3年間の実習を施す。一定の条件をクリアすればさらに2年延長される。この5年間は"事実上の労働力"が得られることになる。

しかし、制度が来年にも事実上廃止されると、労働力を招いても自由に“転職”されかねない。最低賃金の高い大都会に外国人労働力までもが流失しかねないのだ。それでも外国人を呼ぶのか。焼津の水産業者に問うと「そんなリスクはおかせない」と口をそろえる。これは大変だ。どうするのか。

焼津で加工団地を運営する協同組合は「人が採れなければ廃業するところもでてくるだろう」と頭を抱える。もはや、需要喚起や集客力強化どころではない。

11月になって、国土交通省はリニア中央新幹線後開業後に東海道新幹線がどれぐらい静岡県内の駅に停まるようになるかを試算した結果を公表した。本来は夏に出るはずの試算だったから、だいぶ遅れたもんだ。

それによると、東海道新幹線の「のぞみ」利用者がリニア新幹線に移ることで「ひかり」と「こだま」が増発でき、静岡県内の駅に停車する本数が3割程度増加する、という。その経済効果は10年間で1600億円におよぶ、とも。いまは1時間あたり3本程度しか止まらないから、3割増なら1時間当たり1~2本増えるのだろうか。いずれにせよ、利便が向上することのメリットは大きい。

とはいえ、コロナ禍で大きく停滞した業種がメリットを享受できるとは限らない。接客を要する業種はソーシャルディスタンスの時代を乗り切ったものの、接客する人手がなくなりつつある。旅館も、バスやタクシー会社もみんな人手不足。さあどうするのか。 

ただ、リニア工事は大難航している。難航というか、静岡県は県内の工事着工を認めていない。

2027年の開業はとうてい無理だが、このままの状態が続けば2030年だってあやしい。静岡県は若者の県外流出が激しい。静岡市は政令指定都市の中でも人口減少や若者の流出がトップクラスだ。今後は技能実習生の流失も懸念される。人手をどう確保するのか。代替する手段はあるのか。中期的には、人手の確保が最大かつ最重要課題ではないのか、と思う。


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