マーケティング新時代 造り物の終焉

第20回

今求められている「情報活用能力」とは

イノベーションズアイ編集局  マーケティングコンサルタント N

 

現代社会では、扱う情報の量や伝達速度はかつてとは桁違いに発達し、情報の収集や活用が容易に行える反面、大量の情報に埋もれたり、次々に入る新しい情報に振り回されたりすることも多い。効率よく正確な情報を収集し正しく活用することができれば、様々な場面で優位となるのだが、逆にできなければ不利となることも多々ある。情報化社会の現代では、急速に進化する情報インフラに対し、情報を扱う側の能力が求められている。

情報活用能力とは?

情報の収集や分析、正しく活用する能力を「情報活用能力」と言い、情報化社会の現代においては、情報活用能力は重要な能力として位置づけられ、育成や採用による強化などの取り組みを行う企業も増加している。

例として、Webのクリック広告を出稿する場合を考えてみる。どのようなキーワードでどのような説明文を表示させるのが効果的かということを検討するため、キーワードごとの検索状況やクリック率、競合の状況、ターゲット層が求めている説明内容などを調べる。これらの情報を収集し分析して効果的と思われる出稿内容を決めていく。

情報の収集や分析は個人の能力や組織体制による格差があり、かかる時間や取得する内容、分析結果には大きな差がでる。この能力が情報活用能力で、情報活用能力が高ければ成果を上げやすくなるが、低ければ全く効果が出せないことも多い。

このような情報活用能力の差は様々な場面で発生してきており、情報をいち早く入手し適切な対策を行った企業が優位となる一方、何もできずいつの間にか取り残されしまっていることも珍しくない。

デジタルリスク

情報活用能力が重要であるもう一つの理由として、デジタルリスクの問題がある。例えば、飲食店にプライベートで人気俳優が訪れた際に「俳優の○○さんが来店した!」という写真付きのSNS投稿を従業員が勝手に行うとどうなるだろうか?恐らく、瞬く間に不適切投稿を非難する声や情報漏えいの指摘などで溢れかえるのではないかと思う。

他にもChatGPTのようなチャット型AIを利用し、企業情報や個人情報などを含む内容を入力して問い合わせを行った結果、AIがその情報を学習し、他者の質問に対して学習した情報を開示して情報漏えいしてしまったというような事例も出ている。

ITスキルとしてAIやSNSを使いこなすことができても、情報活用能力が低ければリスクを認識することなく問題を起こしてしまう可能性もある。こういったデジタル技術を活用することに伴うリスクは「デジタルリスク」と呼ばれており、デジタルリスクの対策としても情報活用能力は重要となる。

情報活用能力の育成

文科省の学習指導要領では、初等教育や中等教育にも情報活用能力育成についての取り組みが盛り込まれており、2023年7月には「生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」が公表され、小中学生に対し生成AIの利用を含めた指導が求められている。初等中等教育の情報活用能力育成の指導要領としては以下のように記載されている。

・情報を多面的・多角的に吟味し、その価値を見極める
・自らの情報活用を振り返り、評価し改善する
・情報モラルや情報に対する責任について考える
・情報社会に主体的に参画し、その発展に寄与する

情報活用能力は、言語能力や問題発見・解決能力と並び、各教科等の特質を生かし、教科横断的に育成することが求められています。

このように義務教育の段階で既に情報活用についての指導が行われており、食事のマナーを教えられるように、今の子どもたちは情報の扱い方の作法を幼いうちから学んでいる。基本的な情報活用の作法は、今後身についていることが当たり前のようになるということだ。

情報活用能力と聞くと、中高年層の能力が低いという印象を持つ方も多いかと思うが実はそうでもない。中高年層は確かにITリテラシーという意味では低い傾向にあるが、モラルや社会経験があり、知識も豊富なため、しくみや使い方、作法さえ覚えてしまえば強くなることも多い。PC操作などを若手が代替すれば、情報活用能力が高い人材となることも多々ある。

逆にほとんどスマホしか触っていないような若年層は、SNSなどの利用方法は熟知していても、IT知識が浅く、社会経験が乏しいことも多く、今の子どものように情報に対する教育が整備されていない過渡期であったこともあり、課題の対象となることも多いそうだ。

つまり、情報活用能力で一番重要なのは操作方法などの技能面ではなく、取捨選択の判断能力や、いかに有効に活用できるかを考える能力、モラルや知識などであり、つまるところ、昔から必用とされているような対処能力だ。ただ、処理速度が大幅に高速化し、処理量が大幅に増加したため、最新の技術を使いこなす技能が必用となり、そういった新しい環境に伴うルールやリスクの知識を備えておくことが必要になったということだ。

情報活用能力の対策

今後、経営判断や企業戦略、マーケティング活動などには情報活用能力がより重要となってくると思われる。かと言ってそのための人材を揃えるのは容易なことではない。しかし、情報さえ整理できれば、適切な判断ができ適切な対処が行えるベテランの従業員がいるのであれば、迅速に情報を収集し整理できる方法だけを考えれば対策ができるのではないだろうか。その方法として考えられるのは、ベテラン従業員自身が情報収集や分析する技能を体得するか、適切な情報の収集が行える人材と対処能力のあるベテランが協力するという方法だ。

情報収集や分析の技能を若手が、対処をベテランがそれぞれ担い、互いの能力を活かし協力することで情報活用能力を高めることができれば、互いに能力を高めあい、世代間のコミュニケーション活性化にも繋がり、一体感も生まれるのではないだろうか。

情報活用能力の必用性は決して大手企業だけの課題ではない。身近な課題として認識し、対策を行うことで企業自体の活性化にも繋げていくことができるのではないだろうか。

 

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